「……羨ましいな。」
ボンゴレ雲の守護者である雲雀恭弥。
彼は今ミルフィオーレファミリーのアジトに潜入し幻騎士との戦闘中だった。
(なんだ、あの目は!)
幻騎士はリングを無くした恭弥のトンファーを切り裂き、すでに打つ手は無いと思われるのに笑っていられることがわからなかった。
一気に決着をつけようと炎を全開にし恭弥に突撃していく。
(あとは、任せたよ。)
炎を纏った剣が恭弥を貫き、大きな火柱となって燃え上がる。
その瞬間裏球針体は崩れ、幻騎士は勝利を確信した。
だが、煙が晴れてそこに現れたのは
「君、誰?僕の眠りを妨げると、どうなるか知ってるかい?」
ボンゴレリングの所持者である十年前の雲雀恭弥だった。
(羨ましいな。)
その頃十年後の恭弥は何も無い空間を漂っていた。
(強力なリングに強力な敵。戦える十年前の僕が羨ましいよ。)
戦闘凶と自他共に認める恭弥が白い装置に入っていく間に思っていたことは、強者と戦える過去の自分への想いだった。
(まぁ、僕はしばらく眠らせてもらうとしようかな。)
そう思うと恭弥は目を閉じ、徐々に意識を失っていく。
そして白い装置に入っていく直前、緑色の鏡のような物に飲み込まれた。
プロローグ 浮雲と使い魔
「ミ、ミスターコルベール!!」
トリステイン魔法学院。
その日そこでは、使い魔召喚の儀式が行われていた。
魔法の成功確立ゼロの落ちこぼれ、ルイズの番となり召喚の呪文を唱えると、そこに現れたのは傷だらけで倒れた一人の青年、ボンゴレ雲の守護者たる雲雀恭弥だった。
「ミス・ヴァリエール!すぐに契約の儀式を!その後水のメイジは治癒を施してください!!」
「は、はい!」
本当なら召喚のやり直しをしたかったルイズだが、コルベールの対応につい頷いてしまいそれも出来なくなった。
(うぅ、なんでこんな平民が私の使い魔なのよ……)
そう思いながらも契約の呪文を唱え、恭弥に口づけをする。
契約が完了しルーンが刻まれたことを確認すると、すぐさま水のメイジを呼び応急処置を開始する。
(いったいこの傷はなんだ……からだのいたるところに切り傷。もしかすると盗賊にでも襲われたか?)
だとしたら命を救ったルイズに簡単に従い、いい使い魔になってくれるかもしれないと思っていた。
だが、
「うっ、ん……」
応急処置が終わったところで恭弥は目を覚ます。
「気がつきましたかね?」
コルベールは青年に話しかけ青年の安否を確認する。
「ここは?」
「ここはトリステイン魔法学院。君は彼女にここへ召喚されたんだよ。」
「召喚?」
何を言ってるか青年にはわからない。
だが、ただ一つわかったことがある。
「ずいぶん余計なことをしてくれたね。」
それは。
「スケジュールに狂いが出たらどうしてくれるの?」
そういうと恭弥は拳を構える。
「な!?」
あれだけ傷だらけで、なおかつ応急処置したばかりで体力も回復しきってないはずの恭弥が立ち上がり、それだけでなく戦いを挑むような体勢を取ることに驚くコルベール。
「ちょ、ちょっとあんた!」
あきらかに敵意を出す恭弥に向かって、ルイズは声を荒げ叫ぶ。
「ミス・ヴァリエール!君は「あんた一体何してるのよ!助けてやったっていうのにそんな態度取るなんて無礼じゃない!!」
コルベールの制止も聞かずルイズは恭弥に文句をつけ始める。
「助けてくれなんて言った覚えは無いよ。それに、僕はこうなることも予測して戦っていたんだからね。」
「な、何よ!余計なお世話だって言いたいの!?」
「そう言ってるのがわからないの?君、馬鹿じゃないの?」
「ムキーーーーー!!」
そう言った口論をしていると徐々に周囲が笑い始めた。
「やっぱりゼロのルイズだな。」
「平民を呼び出したにも関わらずそれを制御も出来ないなんて。」
周囲は笑い始めるが恭弥だけはなにやら目つきを変えた。
先ほどまでの馬鹿にしたような笑顔から一転、獲物を見つけた嬉しさを含めた笑みに。
「君たち、僕の前で群れるなんていい度胸だね。よっぽど咬み殺されたいらしいね。」
周囲には笑い声で恭弥の声は聞こえてないようだがルイズにだけは聞こえており、腕を掴み静止しようとする。
「あ、あんた、今何しようとしたのよ!」
「何って、群れてる小動物を咬み殺そうとしたんだけど。」
恭弥が異常な目をしていることから危険を感じ取ったのか、ルイズはそのまま恭弥を引っ張っていく。
だが、恭弥はその手を振り払いルイズの首を掴み笑いかける。
「ワォ、僕を引っ張って連れて行こう何ていい度胸だね。決めたよ、君から咬み殺す。」
「あ、あんた聞きたいこととかいろいろあるんじゃないの!?それに答えてあげるんだから来なさいよ!それに私もあんたに聞きたいこととかあるんだから、ここじゃ答えられないこともあるんじゃないの?訳ありみたいだし」
恭弥はこのままじゃどう転んでもこのままじゃ答えないと思ったのか首から手を離す。
「まぁ、それならいいかな?ただし、気に食わないことがあったら噛み殺すから。」
ルイズはとりあえず安心し、恭弥はそのまま歩き出す。
だが、恭弥は数歩歩いた後に足を止める。
「何してるの?君が先に行かないなら部屋という部屋を壊して場所を突き止めるけど?」
「ま、待ちなさいよ!!」
ルイズは恭弥の前を歩き部屋の前へと案内する。
そのまま自分の部屋へと入れると恭弥をその場に立たせ、自分はベッドに腰掛ける。
「まずはあんたの名前は?」
「ここは何処なの?こんなところ見たこと無いんだけど。」
青年はルイズの質問に答えるどころか逆に質問してくる。
「…あんた一体何者なの?」
「僕は並森にあるミルフィオーレファミリーの基地にいたはずなんだけど、何でこんな所にいるの?」
「……大体さっき自分が何をしようとしたのかわかってるの?」
「そもそも召喚って何?僕はそんなのに応じた覚えは無いよ。」
「だーーーーー!!」
一向に質問に答えず逆に質問してくる青年に苛立ったルイズはついに叫んだ。
「あんた一体何様なのよ!貴族に対してそんな無礼な平民初めて見たわよ!!」
「君の質問に答える義理は無いよ。けど、このままじゃ一向に僕も情報を得られないから打開策を用意してあげる。」
「……何よ。」
「僕の質問に一つ答えたら君の質問に一つ答えてあげる。どう?これで公平だと思うけど?」
恭弥は椅子に座り頬杖をつくと足を組み笑みを浮かべる。
「いいわ。それで手を打ってあげる。」
ルイズは恭弥の策略に見事引っかかった。
「じゃあまず僕から一つ目の質問をするよ。ここは何処で召喚されたって言ってたけど、何で僕が呼ばれたの?」
「ここはトリステイン魔法学院。何でって言われても知らないわよ!私だってあんたみたいな平民の使い魔じゃなくてグリフォンとかドラゴンみたいなカッコいい使い魔のほうが良かったわよ!」
何気に二つ質問されていたがルイズは気付かずに答える。
「答えになってないね。これは君からの質問は却下だ。」
「名前くらい教えなさいよ!!」
「言ったはずだよ、答えになってない答え方をされたのに答える義理は無い。使い魔って言ってたけど、それは何なの?」
「……使い魔って言うのは主人に忠誠を尽くし、主人の目となり足となる、秘薬の材料なんかを取ってくる、主人を守るっていうのが仕事よ。」
これ以上言っても無駄だと思ったのか、ルイズは質問に答える。
「ワォ、この僕を下僕として使おうなんていい度胸だね。まぁ、答えを貰ったから一つ目の質問には答えようかな。僕は雲雀恭弥。」
「ヒバリキョーヤ?変な名前の平民ね。何者なの?」
「まずはこっちの質問に答えてもらわないとね。っていうか、使い魔って御伽噺でよくある魔法使いの僕だったはずだけど、そんなの信じる君は本当に馬鹿だね。」
「な!馬鹿とは何よ!!私はこれでも由緒正しいヴァリエール家の三女で、あんたみたいな平民は足元にも及ばないほどのメイジなんだからね!!」
「………」
「何よ!その可哀想な者を見る目は!!」
恭弥はこの時、ルイズの頭がいかれてると思い同情の眼差しで見ていた。
「じゃあそのメイジの力を見せてみなよ。そうしたら信じてあげるから。」
恭弥の妥協案でルイズは気まずそうな表情になる。
「どうしたの?やっぱりメイジなんて名ばかりのただの新興宗教なわけ?」
「そ、そんなわけないじゃない!!いいわよ、見せてあげるわよ!!」
そう言うとルイズは杖を構え恭弥の横にあるランプを指した。
(お願い、成功して!)
ルイズは息を整え呪文を唱えた。
「レビテーション!」
そして魔法を発動すると大爆発を起こし、恭弥はその反動で吹き飛ばされた。
「……また失敗。どうしていつもこうなのよ~……」
ルイズが嘆いていると壁にめり込まされた恭弥は立ち上がる。
「……いい度胸だね。」
そしてその目は、完全に怒りを含めた目だった。
「え?……え?」
「僕を吹き飛ばしておいて謝りもしないなんて、本当にいい度胸だよ。これは、咬み殺してほしいって事だよね?」
「ちょっ!どうしてそうなるのよ!!」
「君の意見は聞いてないよ。」
恭弥はそう言うとルイズに殴りかかろうと構えを取るが、
(何、これ。攻撃をする気が無くなっていく?)
ルーンが主人を攻撃はさせないと影響力を発し、徐々に恭弥は大人しくなっていく。
「あ、あんた!今私に攻撃しようとしたでしょ!まぁ本来なら貴族に手を上げようとした平民は死罪になるんだけど、寛大な私は謝れば許して「気に食わないね」あげ……え?」
ルイズの言葉を遮るように言葉を発した恭弥からは、何処と無く黒いオーラのようなものが発せられてるように見える。
「ねぇ、ヒバリさん?」
あまりの怖さに敬語になりながら恭弥に話しかけるルイズ。
「この僕を縛り付けようなんて気に食わないね。ますます君を、噛み殺したくなってきたよ。」
「な、何でそうなるのよ!!」
その後、恭弥の猛攻を受けたルイズは一撃で昏倒しそのまま床に眠らされ、ある程度気の晴れた恭弥はルイズのベッドで眠りに突いた。