【コラム】道路上の無法者たち

 今年1年を振り返ると、国家としては衝撃的で多事多難な年だったが、個人的には大きな事故もなく過ごせたことに感謝している。このささやかな平穏がこの上なく大切に思えるようになったのは、2008年に恐ろしい交通事故に巻き込まれそうになってからだ。

 特派員としてフランス・パリに駐在していたとき、最後の休暇でドイツへ家族旅行に出掛けた。最高速度が時速130キロに制限されているパリの高速道路を抜け、速度制限がないことで有名な、ドイツのアウトバーンに入った。時速180キロ以上でビュンビュン飛ばす車を見て、後部座席に乗っていた子どもたちは、生まれて初めて経験するスピードの世界に興奮し始めた。子どもたちを落ち着かせて安全に運転しようと、最も遅い右側の安全車線に移ったが、それが災いのもとだった。

 前方に、アウトバーンに進入してくる1台の車が見えた。韓国の高速道路と異なり、本線に合流するための10~20メートルの加速車線はない。わたしは、進入してくる車を考慮し、スピードを落とし始めた。ところが、そこに別の車がのろのろと進入してくるではないか。追突しそうな距離で割り込んできたため、家族はみな驚いて「あーっ」と悲鳴を上げた。

 その車を避けようと、ハンドルを切って隣の車線に移ろうとした瞬間、家族を乗せた車はアウトバーンを横切り、大きな円を描いて360度スピンし始めた。映画やドラマで見たあらゆる交通事故が、頭をよぎった。後ろからトラックが来たら一家全滅、普通車との衝突でも重傷は免れない状況だった。「特派員として最後の休暇が、人生最後の休暇になってしまうとは…」

 その瞬間、信じられない光景が目に飛び込んできた。ものすごいスピードで走っていた車が皆、わたしたちの車を見て一斉に止まったのだ。それは、十分な車間距離があったからこそ可能なことだった。わたしたちの車は2回転した後、中央分離帯から10センチほどのところで奇跡的に止まった。深呼吸をして運転を再開し、次の休憩所に到着した瞬間、恐怖が一気に押し寄せ、手がぶるぶる震えた。

 この経験をしてから、交通事故を見る目が変わった。今年7月に12人の犠牲者を出した仁川大橋のバス転落事故でも、残された家族の悲しみは決してひとごとには思えなかった。車間距離を考えずに突然割り込むモラルのないドライバーを見ると、2年前のことを思い出して怒りがこみ上げる。一方で、車間距離が守られていたおかげで大惨事を免れたドイツの出来事を思うと、アウトバーンのドライバーたちには、今でも感謝の気持ちでいっぱいだ。

 自動車は文明の利器ではあるが、モラルの低いドライバーが多ければ、恐ろしい凶器に急変する。昨年、韓国の交通事故による死者は5838人。10-20年前に比べれば減少したが、自動車1万台当たりの死者数(2.8人)は、依然として経済協力開発機構(OECD)加盟国平均(1.4人)の2倍だ。今年の死者も、11月までですでに5000人を超えている。警察が処理した交通事故だけで20万件、警察に通報されなかった事故を含めれば、80万件を超えるというのが専門家の推測だ。道路の上には、今なお無法者が多すぎる。

 現政権は発足当時、「交通事故による死傷者を毎年10%ずつ減らし、OECD平均以下の水準にする」と約束した。今は忘れられているようだが、安全な社会を築くために、政府が新年に重点的に取り組むべき政策課題だ。

姜京希(カン・ギョンヒ)経済部次長待遇

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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