政局LIVEアナリティクス 上久保誠人
【第65回(最終回)】 2010年12月28日
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上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授]

再び敢えて問う、実は国民こそ政治家から「信頼」されていないのではないか

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 国民が基本的な勉強もせず、民主党に政権担当能力がないと感情的に決めつけるのは困ったものだというのが、ある政治家の嘆きだ。

「知る権利」拡大が
民主主義社会を破壊させる

 最後に、尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件を撮影したビデオ映像がインターネットの動画投稿サイト「YouTube(ユーチューブ)」に流出した問題やインターネットで機密文書の暴露を受け付けるサイトであるウィキリークスが、米国務省の外交電文の公開(暴露)を開始した件を考えたい。いわゆる「知る権利」は「民主主義」を構成する最重要の要素の1つであるが、90年代半ばのインターネットの急速な普及から、爆発的にその権利拡大要求が拡大した。2010年は、その究極的な形が出現したといえる。

 しかし、国民の「知る権利」拡大の要求が、最終的に我々の社会にもたらすものは何だろうか。例えば、「知る権利」拡大要求の事例の1つに、警察の捜査協力の報償費開示があった。しかし、誰に情報提供の報償費が渡ったのが明らかになると、報償費をもらった人が、日々の生活において多大なる損害を被る事がありえるために、捜査協力に情報提供を拒否する人が多くなることが危惧される。

 この権利を要求する側は、情報公開の成果を民主主義の勝利と誇るだろう。反面、情報を失う警察は、犯罪を予防するために静かに動くことができなくなり、街中に銃を持った大量の警官を立たせることになる。警官が街に立てば、犯罪が起きないとは限らない。情報に基づいて、事前に動けないのだから、国民の目の前でいきなり銃撃戦という事態もあり得るだろう。

 ウィキリークスの登場に象徴される、国民の「知る権利」拡大要求の究極的な高まりは、民主主義を完成させない。むしろ、国民の生命と安全を守るための情報を政治が確保できなくなる。その結果、政治は国民を全く信頼できなくなり、国民を厳重に管理しようとする社会が到来する。

 国民が便宜供与や利益誘導、そして権利拡大を無責任に求め続ければ、政治家の「信頼」を失う。そして、政治家に信頼されない国民の行動は、究極的に民主主義社会を破壊してしまうだろうと警告を発して、連載を終了としたい。

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上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授]

1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。博士論文タイトルはBureaucratic Behaviour and Policy Change: Reforming the Role of Japan’s Ministry of Finance。

 


政局LIVEアナリティクス 上久保誠人

「大物政治家に話を聞いた」「消息通に話を聞いた」といった大手マスコミ政治部の取材手法とは異なり、一般に公開された情報のみを用いて、気鋭の研究者が国内・国際政局を分析する。

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