きょうのコラム「時鐘」 2011年1月1日

 ウサギの置物や彫り物のコレクションで知られた文豪・泉鏡花は卯(う)年ではなく酉(とり)年生まれだった。ウサギ好きになったのは「向い干支(えと)」信仰を母に習ったからという

時計の文字盤に例えると、自分の干支が12時なら、反対側の6時にあたる干支を大事にする考え方だ。酉年の向こう干支は卯になるというわけ。その鏡花に「八万六千四百回」(明治28年)という変わった一作がある

時計の振り子が、果てしのない仕事に飽きて休んでしまった。長針、短針、歯車やゼンマイも困り果てる。文字盤が「どんな大仕事も一刻一秒の積み重ねだよ」と説得して、振り子は納得。時計はコチコチと再び動き出すという子ども向けの作品だ

2011年、平成23年、卯年の時計が動き出した。躍動感のある年になるとの楽観的な観測もあるが、一踏ん張りが必要だ。元気の油が切れた振り子のように勝手に休んだり、故障したりでは、この長い低迷期から脱出できない

政治、経済、教育、農林水産、そしてマスコミも、疲れた隣人がいたら励ましあい、油が切れたらネジを巻き、みんなが足並みそろえ、踏ん張る年にしたい。