PJ: 田中 大也
同性愛も過去の名作も規制対象 東京都健全育成条例改正案に見る脅威と「軽視」
2010年11月24日 07:48 JST
【PJニュース 2010年11月24日】都健全育成条例「改正」案の公開以来、情報が浸透しつつあるネット上では、激しい怒りと批判が渦巻いている。「曖昧さが無くなった」と喜んでいる声などほとんどない。実際、「被害があまりに広範に及びかねない」ことを懸念して反対していた側面も強いところに、「キッチリ確実に、広い層に大打撃を与えますんで」と明言したかのような条例案を出されてしまえば、肯定的な評価など得られようはずもない。
その一方で、時間が経過したことで、条例案のさらなる問題点も指摘されることになった。
■同性愛描写も規制対象に
近親愛的描写、表現のように、名指しでターゲットにされているわけではないが、「BL」、「百合」などと総称される、同性愛描写のある作品も男女問わず規制の対象になり得る。基準が、「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為」であるだけに、同性間であっても、暴行や痴漢、対象者が未成年者だった、野外だった等々、無数の法律、条例に絡んだ行為の描写や表現は規制対象となる。「性交類似行為」も含まれているために、男女間の直接的な交接でなくとも対象になり得るし、行為者が近親関係にあったとすれば、その分規制に晒される危険は強まっていくだろう。
また、「著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為」を規制対象にできるとする条文もあり、「社会規範」をタテに、全てのシチュエーションが「平等」に規制の対象にされるだけではなく、同性愛に限ったことではないが、特定の性的描写、表現をピンポイントで排除するということも可能になってしまっている。そうした意味で、今回の規制案は、選定者の差別、迫害的思想を「満足」させるものにすらなっていると言えるかも知れない。
■過去の名作が「18禁」や「発禁」に!?
前にも述べたが、無数に存在する「刑罰法規」に触れる性行為や、近親愛指向のある作品など、それこそ莫大な数にのぼる。大ヒットした「僕は妹に恋をする」が「近親系」なのはもちろんだが、「ゴルゴ13」でも、極めて積極的に売春女性との関係を描いているし、「あずみ」でも、「バガボンド」でも、売春の描写等々は存在している。
今回の規制は、これらの国民的ヒット作品が「18禁」になってしまう危険性を示してもいる。条文には附則という形で、「条例が施行される前に発売された図書類については、従来の『不健全図書』基準を適用する」旨が記されている。これだけを見ると、新基準規制の対象から逃れたようにも見えるのだが、「刑罰法規」云々での規制を示す新基準は「18禁」にするかどうかを定める条文の規定にも存在しており、そこに関しては、過去の作品には適用されない規定は存在していない。つまり、大ヒットした漫画が「18禁」という規制の枠に入る、過去の少年・少女漫画が「18禁」になってしまうという脅威すら迫っていると言えるのだ。
また、連載が続いている作品であれば、当然、新刊は新たな基準で規制の対象になるし、再刊等でも選定基準に入りかねないことから、大ヒット作品が、さらに厳しい、指定の回数等によっては、実質的な「発禁」にすらなり得るとされている規制対象である「不健全図書」に選ばれてしまうという指摘もなされている。
この条例案は成人向けのみならず、一般作品への深刻な脅威になっているとも言える。
「非実在青少年」の文言は削除したものの、「社会規範」というような形で、曖昧さを維持したこの条例案には、完全に漫画やアニメやゲームといったジャンルを迫害する意思を見て取ることができる。過去の大ヒット作品であってさえ、遡及的に「18禁」の枠に押し込める、さらに厳しい規制もあり得るという条文からも、規制対象のジャンルを「軽視」する考えは明らかだと言える。また、ここで述べた以外にも、様々な変更点があるにも関わらず、現在に至るまで市民への公開を避け、議員への公開を避け、ほとんど議論の時間が無い中で案を通そうとする都の姿勢は「市民、議会、議員」全てを「軽視」していると批判されてもやむを得ないだろう。【了】
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