数年以上前のある地球の大西洋連邦のグランガレン公園。
最初は公園を占領して堂々と砂場や顔見知りの作業員のおじさんが丹精込めた花畑を破壊し、少年より年下の子供に暴力を振いタバコを吸いはじめた姿を見て、アズラエル少年は自身の良心と正義感にかられ。
勇敢さと無謀さで多数の相手に向かっていく。
素手でしかも相手は自分より年上、そして何よりも相手は身体能力が勝るコーディネーターである点を含めても勝てる見込みはない。
だが“相手が例え強くても紳士を目指すのならば、弱き者の為に戦うのが男である”
曾祖父の言葉がアズラエルを動かした。
だがやはり力量の差は激しかった。
倒れたアズラエルの体を抑えつけ、髪を掴みながら顎を上げさせ、男は手にしていたタバコを押し付けようとニヤつきがなら赤く燃えるタバコがアズラエルの目玉に迫る。
「貴様は強くないだよ!ナチュラル」
アズラエルは必死に動かしてもがくが、数人の太い腕が手や足を抑えられ、口にはタオルの塊が押し付けられていた。
「目玉を潰したら、新品のバッドの素振りの変わりをさせてもらうかな」
「そいつは面白いぜ」
「ナチュラルの癖に生意気何だよ」
「スコップもあるし、どっかに埋めるかな」
キャハハハと笑うDQC達はゆっくりと眼球に燃えたタバコが近づく。
少年は絶対的な遺伝子と数の差に屈した。
“僕は勝つんだ・・・そぉさいつだってぇ・・・なのに何で。”
「才能もない凡人が!」
「本気で喧嘩したらナチュラルが俺達にかなうワケ・・」
そうコーディネーターの少年の一人が言い終えない内に強烈な音と共に掴んでいた手を離した。
その瞬間に目の前にいた一人を蹴り飛ばして金髪の少年は立ち上がった。
「たった一人にリンチとは良い趣味じゃねえな。」
“何だよ!”
“ふざけんな”
“いきなり何しやがる”
「ふっ、俺が誰だか知りたいって顔してるから教えてやるよ!!俺の名はフレデリック!!弱い者イジメが大嫌いだ。そして喧嘩大好きでね。まあ、とりあえずてめえらをボコらせてもらうぜ」
片手を木刀に添えながら一人、金髪の少年をイジメる少年らに向かっていく。
「牙突!」
そう叫んだ素早い突きがいじめっ子の一人を吹き飛ばした。
「やはり星砕の木刀は最高だな」
“野郎ぶち殺す”
「この阿呆が!!」
立ち上がるとアズラエルは拳を構えて、眼球にタバコを押し付けようとした相手を側にあるバッドで殴ろうかと思ったが、一瞬だが何かが脳裏に浮かぶ。
アズラエルはバッドではなく、自らの拳で相手を一発殴りつけた。
アズラエルが二人をかろうじて殴り倒せたが、少年はチェーンやバッドやナイフ片手の相手に長年握り慣れている“木刀星砕”で残りの連中を倒した。
「何で目玉を焼き潰そうとした相手を何故バッドでぶん殴らなかったんだ」
「一瞬だが脳裏に家族の姿が見えたんだ。何と無くバッドで殴る気持ちにはならなくなったんだよ」
「でも凄いな、あの強いコーディネーターの奴らをぶっ飛ばしたし」
「コーディだのナチュだの関係ないさ。遺伝子に胡座をかく奴は身体が幾ら強くても、心が弱い。だがそれでも奴らに勝てないと思っているから勝てない。人間、心に一本硬いものがあれば強くなるさ」
「僕にも何か硬い物が出来るかな?」
「自分の気持ち次第さ」
差し出された手を握った金髪の少年の中にこの時、一本の硬い信念が生まれる。
更に数年後
夜の運動場
「やっぱり素振り1000回とランニングはキツイ・・」
汗だくで金髪の青年は地面に倒れながらハアハアと荒い息と汗でクタクタになっていた。
「まだまだだな。頭が良くても身体の鍛えがまったく足りないぜ。」
「それよりどうするんだフレデリック、学校に出た後は?」
「祖父は剣術家だったが、親と同じ軍人にでもなるかな、ムルタは家を次ぐのか?」
「そうか・・僕は親父の跡継ぎでもなるかな」
「お互いに頑張ろうな」
ムルタ青年とフレデリック青年は互いに握手を交わした。
フレデリック青年は士官学校を高い成績で卒業(士官学校の塀を乗り越えての夜遊び。有害図書委員会なる組織を士官学校内に作り上げる。成績は首席に匹敵するが性格と行動が災いして教官の受けが悪く首席を逃した。)
艦隊勤務、プラントやオーブでの駐在武官などを経験し数年で大尉となる。
そして一方のムルタ青年は様々な挫折と栄光を経験しつつ、アズラエル財団の理事となり、更に数年後には裏社会を牛耳るロゴスの若い幹部の一員となる。
最初の行動は第81独立機動軍・・通称ファントムペインの創設である。
ロゴスには私兵がいたが、正規軍に劣る練度と粗悪な装備しかなく。
私兵の勢いを越える事は無かった。
ムルタ・アズラエルは自身のロゴスでのコネを最大に利用して高い練度と一般部隊以上の装備を持った見ずからの直属部隊を創設する。
当初はジブリールの横槍で極めて反コーディネーター思想のある将校で固めるハズだった。
反コーディネーターの部隊ではなく。
人種と思想に問われない部隊として創設された。
この事は鷹派のジブリールに強く突っ込まれたが。
“反コーディネーター?何それワロタ。ロゴスは利益追求なのに何その反コーディネーター排斥とか、反コーディネーター思想が許されるのは小学生まで~キャハハハ・・プギャア”
と書いた手紙をジブリールに送り付けた事からジブリールとは敵対関係となる。
そしてアズラエルは更なる新たな行動を開始した。
大西洋連邦
工業都市デトロイト
アズラエル財団本部ビル
真ん中辺りの階層で情報より送られてきた資料にアズラエルは目を通していると一枚の資料に目が止まった。
それは宇宙で使用する人型作業用重機・・通称モビルスーツ。
側近のサザーランド中佐を含む上級将校はこの重機には感心を持つ者は少なく。
プラントが重機の延長として使用する事や開発する事に興味は薄かった。
しかしこれを見た白いスーツの男に激震が走る。
“これは将来新たな兵器となる”
そう何か商売人の直感がオデコから何か稲妻を発する閃きが生まれる。
すぐに側近のウィリアム・サザーランド中佐に連絡を行った。
「サザーランド君、例のモビルスーツを購入出来ないかな?」
「モビルスーツですか、重機としてならば特に問題はありませんが、アズラエル様。あれをどうするおつもりですかな?」
「まあ重機としても我が会社にこれから必要ですが、このメカに成長性を感じましてね。これを兵器転用出来ないかを研究する機関の創設を行うよ。」
「了解しました。」
この決断が歴史を変える事となる。
モビルスーツの研究の一方で現有兵器のMAの強化案が提出される。
第一線で使用している型式番号MAW-01ミストラルと呼ばれる作業用ポットから戦闘を意識した型式番号TS-MA2メビウスを開発し試験的に自身の直属隊に配備しデータを収集を行わせた。
「戦車や戦艦並みの重装甲、戦闘機並みの機動性と空戦能力、接近戦での戦闘能力を持った理想の機動兵器MAメビウス・・まあ作業用ポットの毛の生えたミストラルよりは高いですが。」
ミストラルもメビウスにもコストの関係から脱出機能は無かった。
「サザーランド君、どうかな技術部に脱出機能の追加を検討してもらえないかな?」
「可能ですが、コストが重む可能性もあります」
「パイロットを一から作り上げる期間と予算を考えれば脱出機能は非常に安いです。」
「解りました。技術部にそう命令を出します。」
「頼みますよ。ある程度の予算はこちらに出す余裕がある事も伝えて下さい」
倉庫に置いてある型式番号TS-MA2mod.00メビウスゼロの資料が目に入った。
大西洋連邦
月面
プトレマイオス基地
紺色にカラーリングに塗装されたファントムペイン隊仕様のメビウスが標的を次々と撃墜していく。
新型のリニアキャノン
有線ミサイル
大型の対艦ミサイルを標的に当てていく。
「各機、隊列行動を絶対に取れ。喧嘩は一人よりも大勢で更にコンビネーションで行くんだ。」
メビウス隊の戦隊長のファルブルケ大尉は連日に渡る猛特訓で部下を行っていた。
大西洋連邦の優位性は新型のメビウスだけでなく集団戦を得意としている所。
そして常にレーダーのみに頼らぬ状況に慣れさせる事もある。
「フラガ中尉の隊は後方よりメビウス小隊を援護せよ。」
「へいへい、了解」
そう言いながらフラガ中尉はトリガーを引いた。
元々は倉庫で埃を被っていたメビウスゼロを取り出し。
一部改修を加えてから機体の特性を生かす為に大西洋連邦内にいた空間把握能力の高いパイロットを人選。
ムウ・ラ・フラガ中尉を含む15名近くの人員でメビウスゼロ隊として編成された。
訓練後
「うちの大将さんは毎日毎日訓練訓練と大変だぜ。」
フラガ中尉はシャワーを浴びた後の身体をゴキゴキならしながら士官食堂でレーションをほうばった。
メニューはビタミン入り緑色のゼリーとトマトとレタスのサラダ
イオン水の入った栄養ドリンク
パンとビスケットが数枚
グルテンを固めた肉モドキにハンバーグ風な味付けをした物
小さい肉や野菜の入ったシチュー。
カルシウムやビタミン等の五代栄養素が全て入り、栄養は重視はしているが、
何故か月基地の食事のメニューは不思議な事に艦艇に詰まれたレーションより、お世辞にもあまり美味しくなく。隊員からは難民か猫くらいしか食べない料理と称している。
それでも隊員は疲れているので味を特に気にする者は皆無だった。
「おっ、夜の撃墜王のフラガ中尉のボヤキがまた始まりました。」
ポケットから懸賞付きのクロスワードパズルを取り出して書き始めた。
「夜に一人でクロスワードパズルばかりやっているエルンスト中尉じゃないか。たまにはベッドを狭くする努力をしないのかい?」
「今のベッドの広さで十分さ」
「相変わらず面白みがない男だな」
苦い笑いを浮かべるフラガにエルンストはやれやれと同じように笑い返した。
「面白みさにはフラガさんには敵いませんよ」
ムウ・ラ・フラガ中尉とプトレマイオス基地に編成される前からのコンビであるエルンスト・ファイン中尉はフラガ中尉同様にパイロットとしての腕も高く、ツッコミ役である。
「毎日毎日の訓練は仕方ないって言いにきただけさ」
「分かっているよ。訓練で流す大量の汗で、戦場で流す血が減るって話だろう」
「まあそういゆう事。それに疲れた方が飯も美味い・・猫跨ぎみたいな料理でもな」
「さて、今日は今日で一夜のお相手でも探すかな」
「だから夜の撃墜王って言われるんだよ」
ハハハと笑う二人はプトレマイオス最強のコンビである。
まだまだ会戦には遠いある日の出来事である。