耳かき店員殺害:裁判員に精神的疲労…判決は無期を選択

2010年11月1日 23時42分 更新:11月2日 1時36分

 裁判員裁判で初めて死刑が求刑された耳かきエステ店員ら2人殺害事件で、1日の東京地裁判決は無期懲役を選択した。一般市民が極刑適用を判断することは、その負担の大きさから裁判員制度開始後も議論の的になっている。今回の裁判で市民が初めて死刑の選択に向き合い、今後も死刑求刑が予想される事件の裁判が相次ぐことから、判決や裁判員の動向は制度に影響を与える可能性がある。

 裁判員制度の導入を提言した政府の司法制度改革審議会でも、裁判員が死刑を選択することに異論が出ていた。委員を務めた元広島高裁長官の藤田耕三弁護士は「重大事件の審理は心理的負担が大きい。国民に身近な比較的軽微な事件から始めるべきだと主張した」と振り返る。

 しかし、重大事件の方が社会的関心が高く制度導入のインパクトがあるという考え方が大勢を占めた。具体的な制度設計をした司法制度改革推進本部の検討会の議論も同様で、最終的に制度は、死刑があり得る事件も対象にすることになった。

 検討会委員だった一人は「裁判員制度は国の権力行使をチェックする制度」と市民による死刑選択の必要性を強調したうえで、死刑制度に関する情報公開が不可欠と指摘する。

 裁判員制度は昨年5月に始まったが、本格的に死刑適用が議論される事件の審理は、公判準備に時間をかけたため、制度開始後1年半を経て始まった。今回は死刑を回避したが、それでも裁判員は異口同音に精神的な疲労を漏らした。今後、実際に死刑選択の場面が来れば、裁判員の心のケアが深刻な課題になる可能性がある。

 裁判員裁判の控訴審の在り方について09年3月に報告書をまとめた最高裁司法研修所は、通常の事件では裁判員裁判の判断を尊重すべきだと指摘したが、死刑か無期懲役かが問題になった際には「なお慎重な検討を要する」と結論を先送りにしている。

 日本弁護士連合会で死刑制度を議論している弁護士は「死刑選択は裁判員6人と裁判官3人の全員一致を必要とすべきだ」と提言する。冤罪(えんざい)の危険性を低くし、裁判員の心理的負担を軽減させられるとの主張だ。実際に米国では、死刑判決に市民から選ばれた陪審員の全員一致を必要としている州もある。

 ほぼ順調に運営されてきた裁判員制度だが、死刑選択によって生じる現象が、開始3年後の見直し論議に反映される公算は大きい。【北村和巳】

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