社会
絶滅のニホンオオカミ復活へ 神戸・理研が挑戦
クローン作製に使うマウスの毛皮を手にする若山照彦チームリーダー=神戸市中央区港島南町2(撮影・内田世紀) |
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市中央区)の若山照彦チームリーダー(43)が、世界で初めて凍結保存されていたマウスの死骸からクローンを作った技術を生かし、約100年前に絶滅したニホンオオカミのはく製からクローンを誕生させることを目指している。準備段階として、はく製のように乾燥させたマウスの毛皮から細胞の核を取り出す実験を進め、実現へ一歩ずつ近づいている。
若山リーダーは2008年、16年間凍結保存されていたマウスの死骸の脳細胞からクローンを作ることに成功。凍結死骸からは世界初となり、体細胞が死んでも核の遺伝情報が残っていれば、絶滅種を復活させられる可能性を示した。
その第1号として、国内3体を含め世界に6体のはく製が現存するニホンオオカミの復活を目標に設定。ニホンオオカミはかつて本州以南の山中に広く分布していたが、1905年の奈良県での捕獲が最後の確認例とされる。絶滅の原因は害獣としての駆除や開発による餌の減少、感染症などが考えられている。
若山リーダーは2009年から、マウスの毛皮を乾燥させた上で細胞の核を取り出し、別のマウスの卵子に組み込んで細胞の復活を試行。既に毛皮のマウスと同じ遺伝情報を持つクローン胚はできたが、細胞の損傷が大きいとみられ、胎児にまでは成長していないという。今後はクローン胚から、さまざまな細胞に分化できる胚性幹細胞(ES細胞)を作り、これを使った実験も進める方針。
一方、絶滅種の復活には、その動物と近い種で、卵子や代理母などの役割を担う別の動物が必要。既に異種間の核移植技術の確立のため、凍結したラット(マウスとは別種のネズミ類)の細胞の核を取り出し、マウスの卵子へ移植、ラットの遺伝情報を持つ細胞を作ることにも成功した。
マウスで毛皮からのクローンが実現すれば、ニホンオオカミに近い種のイヌの卵子に移植したい考え。将来的には、はく製が残る忠犬ハチ公や、ロシアの永久凍土から発掘されたマンモスの復活も視野に入れている。ただ、絶滅種を人工的に復活させることには異論もある。
若山リーダーは「絶滅種は寒さに強いなどの特有の能力を持っていた。細胞を復活させることで、その原因遺伝子を解明し保存すれば、人間にも役立てられる可能性がある」としている。
(金井恒幸)
クローン技術 ある個体と同じ遺伝情報を持った動物を作るための手法。核を取り除いた卵子に、遺伝情報を含む体細胞の核を注入する。1996年、哺乳類で初となるクローン羊のドリーが英国で誕生。97年には米ハワイ大で研究していた若山照彦氏らがマウスで成功した。ヒトのクローン研究は倫理面のほか技術的な問題もあり、日本など各国で規制されている。
日本オオカミ協会会長の丸山直樹・東京農工大名誉教授の話 ニホンオオカミが復活すれば、シカやイノシシ、サルなど、全国で農林業被害の原因となっている動物の数の抑制が期待できる。米国では国立公園でオオカミが放たれ、シカの減少に効果があった。人に危害を加えたという報告も出ていない。国内では猟師の数も減っているため、オオカミのような生態系での捕食者を復活させ、それぞれの動物の適正な数を維持する仕組みを作ることが重要だ。
(2011/01/01 06:30)
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