第6回

後編

「プリキュア」シリーズの大塚隆史監督インタビュー

中途半端なブランドになったり、
ファンに媚びるような作りになったら、終わるべき

構成・文/加藤レイズナ 撮影/市村岬

題字/masi. 企画編集/アライユキコ

「DX2」立て看板の前で記念に一枚
東映アニメーション入り口にある「DX2」立て看板の前で記念に一枚。宝物にします(左が大塚監督)

大塚さん演出回のアクションが凄いのはなぜなのか? 今後、「プリキュアオールスターズ」から卒業生は出るのか? そして、ずっと聞いてみたかった質問、変身しないプリキュアたちの日常話がメインのOVAを出すとするなら? プリキュアのマニアックトークに突入した後編! 俺の勢いはまだまだ止まらない!

PROFILE


大塚隆史(おおつか・たかし)

1981生2月23日生まれ。大阪出身。東映アニメーションにて、演出助手として「ふたりはプリキュア」に関わる。「ふたりはプリキュアMaxHeart」から演出家として作品に参加するようになる。テレビシリーズの演出担当とは別に「映画プリキュアオールスターズDX」「映画プリキュアオールスターズDX2」の監督を務めている。苺関係の食べ物が大好き。



加藤レイズナ(かとう・れいずな)

1987年生まれ。フリーライター。「実況野郎B-TEAM」でインタビューの面白さに目覚め、日経ビズカレッジにて「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」を連載中。「SQUARE ENIX」「アルティメットゲーマーズ」ではゲーム実況プレイヤーとしても活動。「プリキュア」の熱狂的なファン。

レイズナブログ
http://blog.livedoor.jp/reireizuna/

http://twitter.com/kato_reizuna

[本文中の * をクリックすると註釈に飛びます]


2話が一番重要だと思ってやらせてもらった


プリキュアトーク

インタビューということを忘れて純粋にプリキュアトークを楽しんでいる俺。


「いやーそれよりゲキドラーゴでしょう」

「ピーサードとかギリンマも出して欲しかったです」「いやーそれよりゲキドラーゴでしょう」


「考えたこともなかった」と言われた質問も

大塚さんに「考えたこともなかった」と言われた質問もいくつかあり、してやったりでした。


――大塚さんは「Yes!プリキュア5」シリーズでは、うららの話を多く担当していたのが印象に残っています。演出を担当する回というのはどうやって決まるのですか?

大塚 ウチの会社では基本的にローテーションです。

――この話は自分がやりたい!って立候補することはできるんですか。

大塚 そうですね、叶うかどうかは別として立候補はできると思います。僕は「ふたりはプリキュア Splash Star」が大好きだったんですけど、2話と最終回のひとつ前である48話は絶対にやらせてくださいと言っていたんです。

――なぜ2話なんでしょう?。

大塚 大抵の場合、1話は監督が演出して、キャラクターデザインの人が作画監督を担当するので、面白くないはずがないんです。視聴者の目が厳しくなるのは2話以降で、「で、どうなのよ、今回のシリーズは?」となってくる。当時の製作担当とも「1話で全力出し切って2話以降面白くないような作品にはしたくないよね」って話をしていて、だから2話は重要だと思ってやらせてもらったんです。

――1話は始まりだから興味ある人は絶対見ますし、2話は重要なんですね。

大塚 「プリキュア5」のうららの話をすると、新番組スタッフミーティングがあって、そこでキャラクターデザインの川村敏江 * さんのキャラクター表を初めて見たんですけど、そこで「これは5人それぞれに特徴があって、絶対面白い作品になるぞと。」って確信しまして〜……

──そのなかでうららが一番きたと。

大塚 まあそうですかね(笑)。それと「プリキュア5」では自分のもう一つの野望が叶うぞ! って思いまして。

──野望? それはどのような?

大塚 今までの作品では、「プリキュアに変身する回」は当然監督が演出を担当するんですよ。

──監督が1話を担当するからですか。

大塚 そうです。でも「プリキュア5」に関しては5話かけてひとりずつ変身していく構成だったんですよ。1話は主役のキュアドリームしか変身しない。そうすると監督が担当するのはドリームだけで、他のキャラクターはやれないんです。2話のキュアルージュの変身は2話担当の人、3話のキュアレモネードの変身は3話を担当した人が手がけるんです。となったらこれはもうチャンスだと思うじゃないですか!

──チャンス、なるほど。

大塚 変身回はやっぱ気になるし、「セーラームーン」でもセーラー戦士たちの初変身回はいまだに覚えているんですよ。だからこの人気になるだろう「プリキュア5」と言う作品のうららの変身回は僕がやるぞ! と。

──確かに初変身の回は印象深いですよね。

大塚 それで、うららが初変身する3話 * をやらせてくださいって話をしたんですよ。でも「スプラッシュスター」の48話(最終回前) * をやっているから演出のローテーションが中3本になってしまって……。

──「スプラッシュスター」の最終話があって「プリキュア5」の1話と2話だから、本当にすぐですね。

大塚 だから「お前には無理だ」って製作担当に怒られたんですけど、そこをなんとか食い下がったらやらせてくれたんですよ。

──結構どの回を担当するかって選べるもんなんですか。

大塚 うーん。我々の仕事は歩合制でお金を貰っていますから、担当回を選び出すと他の演出さんの迷惑にもなるので、選べるのかといったらそれはなかなか難しいんですけど、この回をやりたいと言うことだけはできますよね(笑)。それで担当させてもらえるかどうかは、運も絡んでくるわけです。でも言うだけならタダなので、僕は結構言うタイプなんです(笑)。

──やらせてもらえないときのほうが多いんですか?

大塚 「プリキュア5」では、製作担当が「じゃあお前はもうずっとうらら回な!」と言って調整してくれました。叶わなかった回もありますが、感謝です(笑)。



自分の主義主張を全力で相手にぶつける


前編の反響の一部をツイッターから。大塚監督の熱い語りに、熱いツイート続々!〜1

tatsuki_mgn うおおおすごく面白かったし・・・すごくためになった!アニメ制作興味あるから!!時間ができたらまたASDXのDVDみよっと 絵コンテの表紙可愛い
posted at 2:32

ikoma_ru 加藤レイズナさんがプリキュアシリーズ大塚監督にされたインタビューの記事が掲載されました! 非常に読み応えのあるインタビューです。個人的には、創作活動に携わる方に読んで頂きたいな、と思いました。
posted at 2:35

afromiya プリ5 34話 白馬の騎士かれんの所で詰まって何度も読んでるなう。
posted at 2:35

ikoma_ru それにしても大塚監督、僕より年下なのか……頑張らねば。
posted at 2:37

misakienjyu 絵コンテ表紙のちびキャラの可愛さときたら…!
posted at 2:47

anacondymyhoney うららは大塚さんだったのか…!
posted at 2:50

r_lord @kato_reizuna待ってました!受け手側では窺い知れない興味深いお話が沢山で楽しく読ませて頂きました。我々の質問を矢継ぎ早に(予想)ぶつけた(と思われる)後編も楽しみです!
posted at 2:53

tok6 監督の性格がキャラクターに投影されて、「うららは僕自身」と語る監督もかっこいいです
posted at 3:01

cureponkichi 大塚さんインタビュー前編読了なう。大ッ好きなGoGo!4話の制作秘話が覗けて感無量!DX1の絵コンテ見ながら「ああああ!」でボロ泣きなうw
posted at 3:03

magmaxashi 大塚監督の「うららに自己投影」ってお話すごくよく分かる。プリ5第3話で3人目のプリキュアっていうイレギュラーポジションに飛び込むうららの決意にドップリ感情移入して、先輩プリキュアに憧れる立場で仲間意識というか持ちキャラにしたい!って気持ちになってたのでした。
posted at 3:04

afromiya 「大切なことは自分が一度魅かれたその職業の何に魅力を感じたのか」これは職業だけじゃなく何にでも言えることですよね。今までちゃんと分析して活かしてこなかった自分が悔しい!
posted at 3:16

cco19xx @kato_reizunaお疲れ様です。インタビュー読ませて頂きました。5GOGOの#18は自分も好きな話で、屋上でのうららとシロップのやり取りにおける女児アニメの範疇を超えた細かい心理描写を見て唸ったのを覚えています。この話が監督自身も入魂の回だったというのが興味深かったです
posted at 3:28

magmaxashi ASDXを作り上げる事はキャラクターに投影された監督さんたちとの対話でもあったんだなあ。DX2での復活敵の人選もここらへんがポイントなのかな…
posted at 3:32



──大塚さん演出の回は戦闘シーンに気合が入っているのが特徴的だと思っています。

大塚 ありがとうございます。厳密にはそのシーンだけに特別に力を入れているのかと言うとそうでもないんですけど。

──そうなんですか?

大塚 「プリキュア」という作品は基本的に毎回シナリオ上で「今回の問題提起」があって、その問題を戦闘を介して解決していくという流れになっていますよね。

──そうですね、あまり意味のない戦闘はない気がします。

大塚 物語上で例えば、面倒くさがり屋の敵キャラ、ガマオが「面倒くさい、頑張らなくていい」って言ってきても、キュアドリームは「そうじゃない!頑張らなきゃ駄目なんだよ」みたいな事を言うとする。そのドリームの主張の説得材料となるものをAパートからBパート始めくらいの中で表現して、戦闘シーンでプリキュアが自分の意見を相手にぶつけるんです。なので、それを力のない弱々しい戦闘のパンチで言っても効果がないんですよ。だからテンションを盛り上げて、全力で否定したり、全力で肯定するということをアクションを介して示しているんです。

──つまり戦闘自体はそれほど重要じゃないんですか?

大塚 大切なのは戦いで相手をやっつけることではなくて、自分の主義主張を全力で相手にぶつけることなんです。そういった表現が動きで現れた結果、プリキュアの場合は激しい戦闘になるんだと思います。

──戦闘に入るまでの積み重ねがあるからこそ、作っている方も気合が入るわけなんですね。

大塚 戦闘だけポンと見せられても、ああよく動いているね、カッコイイね、で終わっちゃうんです。戦いに行くまでの布石がある、だから戦っているときに力強いパンチをすることで爽快感が出るんだと思います。

──よく動いている戦闘シーンだけ切り貼りして見せられても、動きすごい! だけで終わっちゃいますもんね。

大塚 問題はそこのシーンにどうやって至ったかが大切なわけです。戦闘シーンも勿論頑張るけど、なぜプリキュアが怒っているのか、をしっかり描写する必要があって、そのシーンが成功したら結果的に戦闘シーンがかっこよく見えるんです。

──なるほど! 勉強になります。話は変わりますが、「映画プリキュアオールスターズDX2 希望の光☆レインボージュエルを守れ!」では歴代プリキュアが17人も勢ぞろいしていて日常、戦闘シーンでの個性の出し方が大変だったと思います。

大塚 そうですよ、もう……大変でしたよ(笑)。「DX2」の話ももう少ししましょうか。「DX2」は「DX1」とは明確に「物語構成」を変えています。「DX1」の単純な強化バージョンにはしたくなかったので。

──見ている方が飽きてしまうからですか?

大塚 それもありますし、比較もされるじゃないですか。仮に「DX1」が100点だとして、「DX2」も同じ100点をとっても見劣りしちゃうんです。150点くらいとらないと抜かせないんですよ。

──同じことをやったとしても、前の方がインパクトはありますね。

大塚 「DX2」の製作が決定したのが「DX1」が終わってから約5ヵ月後なんですけど、監督の立場的な話になりますが、もし仮に「DX1」が終わってから10年後とかに「DX2」をやるんだったら、僕自身監督としていろいろな技を覚えていたり、考え方が変わっているでしょうから違う切り口でいけるかもしれないんですけど、ホント最近やったばかりじゃないですか。おまけに同じ題材を与えられて映画を作れって言われているわけです(笑)。
5ヵ月しか経ってないのに、僕自身前作を超えられるわけがないと思いました。それくらい本気で挑んで作ったんです。

──インターバルを全然とっていないわけですからね、他の技を覚える暇がない。

大塚 もし仮に「DX2」を同一路線で作って、150点を取ったら取ったで「DX1」はしょぼかったねって言われるじゃないですか。「DX1」も自分にとっては大好きな子どもなんで、それはそれで複雑なんですよ。難しいです(笑)。

──なんというか、クリエイターの苦悩って感じです。

大塚 でもきっと「DX1」と同じようなものが期待されているんだろうとも思いました。方向性を大きく変えずに、違うものを作れないか。「DX1」で出来なかったことや反省材料を入れられないか。と考えたのが「DX2」だったんです。



キャラクター一人ひとりに役割を持たせたい


どんな質問にも快く答えてくれる大塚さん

どんな質問にも快く答えてくれる大塚さん。むしろ大塚さんの方が喋りたかったという内容もあったのかもしれない。


「DX2」のEDがダンスなのは鷲尾さんの提案。CGを使用するのにも積極的だったそうです。

「DX2」のEDがダンスなのは鷲尾さんの提案。CGを使用するのにも積極的だったそうです。


「そうなんですよ、気づいたら勝手に入れられていたんです(笑)」

「そういえば大塚さんは『DX2』本編にも出演していますよね」「そうなんですよ、気づいたら勝手に入れられていたんです(笑)」



大塚 「DX2」では「DX1」であまり活躍させられなかったキャラを活躍させたいという思いもありました。例えばシャイニールミナス * とか。

──確かに「DX1」はルミナスはあまり活躍していないです。

大塚 小動物を守る役割に徹していたんですけど、活躍と言えばバリアを張ったくらいなんですよ。

──バリアを持つキャラが多いので大変だったんじゃないかと思いました。

大塚 多いんですよ!(笑)。被っていますよね。キュアブルームやキュアイーグレット、ルミナスもミント * もバリア持ちです。

──ミルキィローズも「ちょ〜短編 プリキュアオールスターズ GoGoドリームライブ!」でバリアを張っていたじゃないですか。あー、またバリアを使うキャラが増えたぞー! って思ってみていました(笑)。

大塚 そうですね。でも僕はただ無作為にキャラクターを出すのはしたくないんです。キャラクター一人ひとりにしっかり役割を持たせて登場させたいと思っています。役割が見つからない場合はプリキュアもモブキャラも出せません。「DX1」の時に出さなかった「満と薫」というキャラクターもそれにあたるんです。

──最後に少し出ていましたが物語には絡んでいませんでした。

大塚 満と薫を登場させると意味が出てきちゃうし、無下に出すことの方が無礼だと思っているんです。それくらい好きなキャラクターですから。

──「DX2」では念願の登場となったわけですね。満と薫は「スプラッシュスター」の中でも人気が高いですから、出て嬉しかったって人が多かったですよ。僕もウルっときてしまいました。

大塚 今回は「みのりを守るという役割」を持たせることが出来たので出すことが出来ました。そういった意味で今回残念だったのが、フラッピ、チョッピ * です。特にチョッピ。

──フラッピは結構台詞があった気がしますが、チョッピは確かに目立ってないです。

大塚 メップル&ミップル * と役割が被っているので、今回あまり出すことができなかったんですよ。それは反省点です。

──同じ、主人公たちを導くタイプの妖精ですからね、ココやナッツはそれよりも上の大人役って感じがしますし。

大塚 それでチョッピ役の松来未祐 * さんにも怒られたんですよ(笑)。

──そうだったんですか! 出番のことでですか?

大塚 「DX1」のときはミラクルライトを振るときに妖精全員が喋っていたじゃないですか。

──全員で「プリキュアに力をー!!」って言っていましたね。

大塚 言わせたかったんですよ、本当は。でも、「DX2」ではキャラクターがバラバラに離れていたので、いくつかに限定しました。だから松来さんに「私も、プリキュアに力を、って言いたかった」的な事を言われてしまって。ごめんなさいって。

──プリキュアが変身したあとにキャリーの中に収納されるタイプの妖精は喋ってなかったですね。

大塚 キュアアクア役の前田愛 * さんにも「私、『なにっ』しか言ってないんですけど」って、言われちゃいまして。「次頑張ります」って言ったら、「なんですか次って」って(笑)。

──ははは、アクアは必殺技と変身の名乗り意外で台詞が思い出せないです。

大塚 「プリキュア5」で僕が演出の回はキュアミントが不遇だって鷲尾さんや声優さんもよく言っていたんですよ。だから「そんなことないぞ!」って今回はミントを喋らせようと思ったらアクアが喋らなかったっていう。

──戦闘ではすごい活躍しているんですけど、喋らなかっったという。

大塚 そこです。声優さんのファンの方には申し訳ないんですけど、監督的に「喋らせる事だけがそのキャラクターを活躍させる事ではない」と考えているので、アクアには今回映画の中で重要な役割を担ってもらって、そこで活躍してもらおうと。それは今回はアクアに関しては能動的なアクションだったわけです。モエルンバの火の玉を消してつぼみとえりかを守ったり、そのあともみんなが突破するきっかけを作ったりと。映画を見終わってふと思い出した時にアクアの存在感が出ていたら狙い通りです。キュアミント役の永野愛さんも前田さんも巧い方なので、出番が少なかった事はむしろ僕が一番悔しいんです。

──なるほど。そういえば今回はルミナスがハーティエルアンクションで敵の足止めをして、ブロッサムとマリンの危機を救ったりしていて、バリア以外で活躍したなあって印象がありました。

大塚 そうですね。ルミナスは敵を封じられるんですよ。これは他のプリキュアにはできないことなので、物語の流れの上で「ここだ!」ってところが見つかったときは嬉しかったです。



ああ、出したかった……


大塚さんの仕事机

大塚さんの仕事机。棚の上にあるキュアレモネードのフィギュアは鷲尾さんにもらったそうです。


大塚さんの仕事風景

仕事風景。ここからいくつものエピソードが生まれている。そう考えるだけでありがたい気持ちになってくる。



──ところで、「DX2」で過去シリーズの敵キャラがたくさん出ていますが、あれはどうやってチョイスしていったんですか?

大塚 う〜ん、あまり話したくないですけど……。簡単に話すと、まず全員出したかったところから始まります。でも尺とかストーリーの流れから全員は出せないことがわかってきます。肝心のプリキュアの出る時間が減ると本末転倒ですし。

──プリキュアより敵キャラが多かったら見てる子はガッカリするかもしれないですしね。

大塚 それから、テレビシリーズを全部見ていないと楽しめないような表現は極力避けています。あくまでお客さんは3〜6才の女の子なんですよ。敵幹部は「強そう」とか「怖い」とか、「今までに出てきた敵らしいぞ」と感じてもらえればよい程度の役割で出しています。あとは知っている人が見れば嬉しい、と言うところですね。そんな中で、選定の基準のひとつに、「何かしらの面白さ」が欲しかったんです。戦い方、属性、キャラ、なんでも。例えばキントレスキーは超パワーがありますし、あいつは黄色で目立つじゃないですか、彩り的にもメンバーに入れたいですし、モエルンバとミズ・シタターレも炎と水という属性があります。ドロドロン * のような力技系はウラガノス * がいたので入れられなかったんですよ。

──目立った属性や個性が大事だったんですか。「プリキュア5」シリーズの敵のアラクネアやムカーディアは?

大塚 アラクネアは蜘蛛としての造形美、あと男性キャラの敵が多かったので女性だからというのもありました。ムカーディアは、監督補として絵コンテ・演出を手伝ってくれた松本理恵 * さんの推しが強くて参加が決定したんですけど、ムカーディアは手品が得意なキャラなので、それで色々出来るかなと思ったんですよ。

──超能力で遊園地の乗り物を浮かせて攻撃していましたね。

大塚 戦わせ方のバリエーションが広がるのでありがたかったです。

──次の質問ですが、敵の大ボス、ボトムにレインボージュエルソリューションを撃つシーンがあるじゃないですか?

大塚 はい、最後の最後ですね。

──映画 「ふたりはプリキュア SplashStar~チクタク危機一髪~」 * の最後のビームを撃つシーンに似ていますが意識したんでしょうか?

大塚 う〜ん、その手の質問もあまり答えたくないなぁ(笑)。

──それは企業秘密ということですか?

大塚 いや、そんな大それたものではないです。これは僕の考え方ですが、作品というのはお客さんが受け取るものなので、そこで好きに考えてもらって好きに想像して好きに解釈してもらえたならそれが一番いいんですよ。それが作品の持っている「魔法」なわけなんですけど、そういう質問に答えてしまうと、魔法が消えてしまうかもしれませんので。

大量の原画

何度打ちのめされも「絶対に諦めない」と希望を捨てないキュアブロッサムとキュアマリン。プリキュア魂を受け継いでいると確信したシーンだった。「映画 プリキュアオールスターズDX2希望の光☆レインボージュエルを守れ!」DVD/ブルーレイ 7月21日発売
© 2010 映画プリキュアオールスターズ2製作委員会

──知りたいけどそれは秘密というわけですね。僕は「DX2」は「スプラッシュスター」推しなのかなと思ったこともあったんです。ラストにかかる音楽もスプラッシュスターのものでしたし。

大塚 なるほど(笑)。でも僕は特定のシリーズやキャラクターを僕個人の好みで推したりはしません。僕は作品の監督であってファンではないので。だから今回は監督として作品の意図があって「ハートキャッチ」を前に出した物語構成にしています。ブロッサムとマリン(写真左)が「プリキュアオールスターズ」の仲間入りをするという成長物語の方向性です。その結果、歴代のキャラは出番が少ない傾向でしたが、その代わりに「圧倒的な存在感」をその限られた短い尺の中で出すぞ! と思って作りました。



僕がやるうちは全員出します


前編の反響の一部をツイッターから。大塚監督の熱い語りに、熱いツイート続々!〜2

hanama555 大塚さんの例えって焼き肉とかカレーとか面白い。
posted at 3:39

a_ammm 食べ物での例えの多用は逆に大塚さんがうららから受けた影響なのかな
posted at 3:54

a_ammm DXの作監に青山さんを置いたのは他でも無い大塚さん。 作品外で、お互いの、皆の一挙手一投足が手に取るように理解されているさまは、作品内のプリキュア達にも通ずるものを感じるなぁ
posted at 4:07

a_ammm 右から左まで、上から下までが一体となってこそ出来る作り方だよなぁ その信頼関係に至るまでは、語られることの無い、地道な努力、積み重ねがあったに違いないよ
posted at 4:16

itadakimasumi 大塚監督インタビュー、「なぎさやほのかの性格が、監督の西尾大介さんに似ている」というのはオールナイトのときに本名さんゆかなさんが同じようなこと言ってたなぁ〜。「絶対に諦めない!」とか、西尾さんの生き方そのままなんだなと思いましたもん。
posted at 10:22

kohkichi 「うららが僕自身」という言葉に感銘を受けました。演出とは自分を曝け出していく仕事…というあたり、関西出身の大塚監督らしい、ある種の芸人根性が見えた
posted at 11:36

genppy 幻冬舎のWebマガジン「お前の目玉は節穴か」第5回はプリキュアシリーズの大塚隆史監督へのインタビュー。制作スタッフの生の声はなかなか聞くことができないため、非常に興味深かった。大塚さんの人となりが伝わってきた。
posted at 12:50

Kuchitama 世の就活生よ,コレを見よ『大体の人は、将来なりたい職業がころころ変わるじゃないですか?それは当然なんですけど、大切なことは自分が一度魅かれたその職業の何に魅力を感じたのかを自分で分析すること』> 大塚隆史監督インタビュー
posted at 13:12

JUKEINI やはり熱意のある御方だと再認識した。また同時に、冷めた(覚めた/醒めた)視点もお持ちなのだと。正直で、素直で、かつ清濁併せ呑むような強い気持ち。この姿勢がそのまま作品に出ていると思う。
posted at 18:14

JUKEINI だから、DX2のOPクレジットで「鷲尾天」の漢字三文字が出た瞬間涙が出た。そこでもう帰ってもいいくらい。 (ついでにいうと、あのインタビューがDX2の内容に何かしら影響を与えた部分があるのではないかとすら思った) いい記事をありがとう。
posted at 22:16


──今後もオールスターズを続けるとしたら、出番の少ないキャラクターはどうしても出てきてしまうと思います。

大塚 そうですよね。20人とか超えると一クラスの女子の数よりも多くなりますから(笑)。

──そうなった場合、無理に全シリーズを出さずに「新シリーズと一つ前のシリーズだけを出す」というのも考えられますよね。

大塚 「DX2」のプロットを考えるときにそのアイデアは出たんですけど、「僕がやるうちは全員出しますよ」って答えました。

──俺の目の黒いうちは卒業生は許さないと。

大塚 そうですね。だってオールスターズって聞いてまず期待することは、全員出ることじゃないですか。それなのに出ないキャラがいたり、最後の方だけちょろっと映っているとか、僕がちびっ子だったらそういうのは見たくないんですよ。たとえ尺が減ったとしても全員出したいんです。

──ですよね! それを聞いて安心しました。

大塚 だってそうじゃないと面白くないじゃないですか。でも全員出すのを前提でオールスターズ映画を作ろうとした場合、監督を出来る人って限られてしまうのも問題です。

──どういう事ですか?

大塚 僕は過去のシリーズで演出をやってきたおかげで、キャラの性格が僕の中で17人と16匹分あるんです。このキャラは何を言うんだろう、どんな行動をするんだろうっていうのが。それを常にテレビシリーズで考えていた人じゃないとなかなかできないんじゃないかと思います。

──今まで作品に関わってきた人じゃないと出来ない?

大塚 まぁ変な話、適当に作るなら誰が監督をやっても映画は出来ます。でもきっとそうして作られた映画は、見に来た人が違和感を感じると思うんです。普段は絶対言わない台詞を言ったり、やらない行動を取ったりしてしまうだろうと言うことです。キャラをちゃんと理解して、そこから許容範囲内でオールスターズ仕様に膨らませたり、いつものキャラと違う行動を取らせたり、などができるのはすべての作品に関わってきた人間だけだと思います。

──これからシリーズが続いていくと、どんどん監督を出来る人が少なくなりますよね。プリキュアに卒業生が出るのはどこか寂しいです。次の質問ですが、DXシリーズの作画監督に青山充さんを起用したのは、大塚さんたってのお願いだったそうですが、なぜ青山さんにお願いしたのでしょうか? プリキュアの映画といえば爲我井克美 * さんが作画監督のイメージがあるのですが。

大塚 爲我井さんは「DX1」の時すでに映画「Yes!プリキュア5GoGo! お菓子の国のハッピーバースデイ♪」の制作に入っていたので、物理的に不可能でしたし、僕なりに色々考えた結果、オールスターズの作画監督は青山さんにお願いしたいと思いました。

──決定的な事はなんだったんでしょうか?

大塚 そうですね。仕事量もそうですが、一番は青山さんのお人柄です。

──青山さんの人柄で選んだってことですか?

大塚 はい。僕の考え方ですが、絵には人柄が出ます。女児向けのプリキュアには青山さんがいい! って思いました。

──すごい謙虚な方だと聞いています。

大塚 その謙虚さが素敵なんですよ。あと、一番プリキュアを描いているのが青山さんなんです。

──数週に一度は青山さんの作画監督回がありますしね。

大塚 青山さんの絵が一番テレビで露出しているんですよ。

──子どもが一番多く見ている絵なんですね。

大塚 そうです。僕が昔見たアニメ映画で、劇場版仕様で作画がめちゃくちゃ気合入っていてカゲとか2段になったりして凄いのがあったんですが、子供心に「なんか絵が変だな」って思っていて、肝心の映画に集中できなかった事がありまして(笑)。つまりテレビの絵が見たいんですよ。そういった意味でも青山さんなんです。プリキュアを一番多く描いているのは青山さんですから(笑)。絵もめちゃくちゃ動かしてくれますからね。

──映画は動いていた方が楽しいと言っていましたね。

大塚 はい。だから青山さんが「もう勘弁してくれ〜」って言うまでお願いし続けます!(笑)



変身して戦うからこそプリキュア


原画を見せてもらい興奮する俺

インタビューが終わり今度は原画を見せてもらい興奮する俺。


大量の原画

ダンボールから大量の原画を出してもらう。パラパラ漫画の要領で動きは作られているのだが、大塚さん自らパラパラしてくれて、それだけで感動しました。



──ははは、僕のイメージだと青山さんはずっと作り続けてくれる感じがします。大塚さんは、プリキュアが変身しないで、一切戦わない日常の話を作りたいと思ったことはありますか? 学校に行って友だちとお喋りするだけという「プリキュアの一日」みたいな話で。

大塚 うーん……あるかないかというより、考えたことがなかったです。

──作りたくはないってことですか?

大塚 いや、考えたくもないって事じゃなくて、考えたことすらなかったんですよ。変身して戦うからこそプリキュアだと思いますので。

──例えばそういう話をOVAで作ってくれと言われた場合はどうします?

大塚 うーん……。それは、やると思います。変身すること以外にも面白いことがあるかもしれませんし、今までにない事を考えてやるのって好きなんで。

──おお、なんか意外でした。絶対にやらないって言われるんじゃないかとドキドキしていました(笑)。

大塚 でもOVAとかやって欲しいなぁとは思いますよ。「プリキュアオールスターズ」のおかげもあってか過去のシリーズが認知されなおしている部分もあるじゃないですか。

──そのおかげか再放送とかも増えてきました。

大塚 ね。OVAがどうとかじゃなくても、過去シリーズの新作は作ってみたいです。あ、でもまかり間違ってもオールスターズのテレビシリーズはやりたくないなあ(笑)。

──やっぱり大変ってのが一番ですか?。

大塚 大変ですし、もはや話をどうしてもいいかも解らないです(笑)。それに、やっぱりオールスターズはお祭りだから映画として成り立っていると思うんですよ。

──僕も「DX2」を聞いて、またやるの? って思ったんです。見たいんですけど、あまり乱発して欲しくないという矛盾があって。

大塚 もうちょっと食べたいってところが丁度いいんですよ。

──まさにその通りでした。今年でプリキュアも七年目に突入して「ハートキャッチ」の人気もあって、今までにない大人のファンが多く作品を見るようになったりと、色々と節目なのではないかと思っていますが、大塚さんはこの先、プリキュアという作品はどのように変化していくと思いますか?

大塚 最初から七年を見越していたわけではなくて、スタッフが一話一話、模索して本気で作ってきて、今に至っていると思うんです。決め事に拘る必要もないし、幼稚園児がプリキュアになってもいいし、男の子がプリキュアでもいいと思っていますし、そこはどうなってもいいとは思っているんですよ。

──それは鷲尾さんも同じことを言っていました。中学生女子であるということはさほど重要じゃないんですね。

大塚 スタッフが一生懸命考えて作っていく作品であって欲しいと思います。中途半端なブランドになったり、ファンに媚びるような作りになったら、作品自体が終わるべきだと思います。

──ファンに媚びるというのは、主に大人のファンにですか?

大塚 僕は大人のファンに向けてプリキュアを作っているつもりは一切ないんです。それに、媚びだした瞬間、大人のファンにも見向きされなくなると思います。小さい子に向けて一生懸命に作っているから、見てくれていると思うんですよ。

──確かに大人で見ている人は、子供向けアニメだから好きになっているという部分が大きいと思います。他のアニメは見ないけどプリキュアだけは見るって知り合いも何人かいますし、僕もそうです。

大塚 昔にこだわることはないと思います。時が経つって事はどんどん形が変わるってことですから。でも外見は変化するだろうけど、その中にある作り手の熱い気持ちだけは変わって欲しくないなぁ、っていうか、今まさに僕らがその作っていく立場なんですけどね(笑)。そして僕みたいなペーペーが偉そうにそんな事を言える立場じゃないんですけど……。

──僕が一番変わって欲しくないと思っているのがそこですね。大人のファン向けに作るようになったらガッカリしちゃうと思います。この度はインタビューさせていただき、ありがとうございました。

大塚 はい。どうもありがとうございました。これからもプリキュアの応援をよろしくお願い致します!あ、「DX2」のレンタルが7/9から始まっています!7/21からBD&DVDも発売しますので、興味もたれた方は是非一度ご覧になって下さい〜。せっかくなのでこの場を借りて宣伝します!(笑)。



次号予告


「映画プリキュアオールスターズDX2 希望の光☆レインボージュエルを守れ!」
前作から3人増えた17人のプリキュアが大集合。舞台は妖精たちが作った遊園地「フェアリーパーク」プリキュアたちはこの遊園地で遊ぶために待ち合わせを していた。歴代テレビシリーズのサブキャラクターや敵キャラクターも多く登場していて嬉しかったです。「映画 プリキュアオールスターズDX2希望の光☆レインボージュエルを守れ!」DVD/ブルーレイ 7月21日発売
©2010 映画プリキュアオールスターズ2製作委員会



次回、8/1更新分は、マンガ編集者を志望して修行中の梶本竜太が、新鋭マンガ家ルーツを直撃! この3月までwebマガジン幻冬舎「実況野郎B-TEAM」で4コママンガ「するめいか」を連載、大人気を博したルーツ。その後「コミックバーズ」でも連載は続き、来る8/24、幻冬舎コミックスから単行本として発売されるというじゃないか! B-TEAM出身の大井正太郎、加藤レイズナ、田島太陽までインタビュー現場のルーツ家に駆けつけ、未だかつてない荒々しい取材に!?


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