漫画版「プリキュア」シリーズの上北ふたごインタビュー

──おふたりの経歴を教えていただけますか？　アニメーターやデザイナーのご出身だとネットなどで読んだことがあるのですが……。

上北　東京の短大に在学中、たまたまヤッターマンの再放送を見たらハマってしまって、タツノコプロに「入れてほしい」と押しかけたんです。

──すごい行動力ですね。そのままタツノコプロへ？

上北　「うちは今募集はしていませんが、笹川（ひろし）監督の事務所に空きがあるから」と、紹介してくださったんです。入って動画の勉強を始めたんですケド、すぐに挫折しました。動画は、根気、緻密さ、センスなどがすごく必要とされる作業です。私たちには、それが足りなかったので、上達しませんでした。笹川監督から指導を受けて、ヤットデタマン以降のタイムボカンシリーズや、いろいろなアニメのサブキャラクターのデザインを経験させていただきました。

──もとはアニメのお仕事がメインだったんですね。なぜ漫画を描くように？

上北　家庭の事情で実家（高知県）に戻ることになったんです。絵の仕事の守備範囲を広げていくことが私たちの希望だったので、地方にいても描ける漫画というジャンルに魅力を感じまして、投稿や持ち込みをして、就職活動をつづけました。

──実家に戻ってからも今までの仕事は続けていたんですか？

上北　はい、ありがたいことにキャラデザインや版権物のお仕事を続けることができました。今はネットも発達して、ロスタイムもなくやりとりが出来るようになりました。すごくネットの恩恵を受けています。

──上北さんは小さいころからよく絵を描いていました？

上北　母が絵が好きだった影響で描き始めたのか3、4歳ころの写真を見ると、壁にたくさんの落書きがあります。夏休みの絵の宿題は、母に頼ったことも……。動物園で豹のスケッチを描いてもらったんですケド、先生が見たらバレバレな「大人の絵」でした（笑）。

──子供のときはどんな遊びをしていたんでしょう？　漫画やテレビなどはよく見ていましたか？

上北　漫画やテレビは、小学生まではよく見ていました。娯楽があまり無かったので、小学時代から人形作りにも熱中していました。セサミストリートのマペット、仮面ライダーやショッカーの怪人、戦闘員などをフェルトで作ったり、年三回くらいある積雪時に、スキージャンプ人形を車のフロントウインドーから滑らせて遊んだりもしていました。

──仮面ライダーの絵も描いたりしてました？

上北　カッコイイ絵は描けなかったのでチビキャラっぽく描いていました。人形も同様に頭でっかちで……。中、高生になると海外バンドに次々とハマるようになり、KISSのビジュアルには特に魅かれて、ぬいぐるみや粘土細工を繰り返し作ったものです。絵も継続して描いていました。

──夫婦や、友だちどうしがコンビの漫画家はたくさんいますが、双子で漫画家というのはあまり聞いたことがありませんでした。ふたりで良かったこと、悪かったことを教えてください。

上北　良くも悪くも、嗜好や行動が似ていますので、思考の幅が限定されてしまいます。体型も生活リズムも同じなので、お腹がすくのは同時ですね（笑）。好きになるものやハマるものが似かよっていますので、感性や感受性の広がりが無いというワケです。外部の刺激をミックスできるように、なにかワクワクできるコトは無いかと、アンテナを張っているつもりでいます。

──最近あったワクワクは？

上北　ワクワクときめいたのは、なんといっても「アバター」です。これは、アンテナなくても引っかかりますね。（ジェームズ）キャメロン監督作品は大好きですケド、これほどハマったのは初めてです。地球から約4.4光年に位置する神秘の惑星パンドラには、あこがれが詰まっています。美しい自然、それを愛し崇拝し共存するナヴィ族。この素朴でエコで凛とした生き方をしている地球外生物には、いい意味で驚かされました。そして、運命の人との純愛を育むロマンチックで情熱的な恋愛観にも、すごく共感できたんです。

──すごい迫力が。DVDやブルーレイも買ったんですか？

上北　はい！　観れば観るほど面白くて、全然飽きません。先日「特別編」も鑑賞して、最後には思わず拍手してしまいました。もうすぐ発売になるスペシャルエディションのブルーレイも楽しみです。様々な要素、凝った設定が、シンプルにひとつの物語にまとめ上げられていて素晴らしいと思います。

──映像がすごいと聞いたことがあるので、ブルーレイで見たいですね。アニメを見ることはあるんですか？

上北　高知県はアニメの放送が少ないので、最近のアニメはあまりわかりませんが「新・三銃士」や「やさいのようせい」を見ています。人形ぽいものが好みのようですね。プリキュアの放送も、ぜひ始まって欲しいと切望しています。

──あ、高知ではプリキュアは放送していないんですか……。上北さんが見ることができないなんてすごく残念です。絵や漫画を描く上で、参考にしていたり、影響を受けている人を教えてください。

上北　影響を受けたのは、タツノコアニメやアメコミ、鳥山明先生です。近年では、マイク・ミニョーラと上田バロンさん。江口寿史先生は、ずっと好きです。

──おお！　おふたりの自画像は鳥山明風だなあとは思っていました。仕事時の作業分担はどのように行っているのでしょうか。作画とお話で完全に分けているのでしょうか。

上北　適当にゴチャまぜにしてやっています（笑）。「ロスト・チルドレン」という映画に双子が出てくるんですケド、料理をしているシーンで、どれがどっちの手なのか、味覚すら共有して、完全に融合している二人がすごく面白いんです。そんな風に作業できたらいいな〜と思っています。究極の理想型ですね。

──作業も相当早くなりそうですね。漫画を1話描きあげるのに大体どれくらいの時間がかかるのでしょう？

上北　「なかよし」原稿の締め切りが月の半ばで、プロットから納品までを10日くらいで仕上げています。作画は5日くらいです。それと平行していろんな仕事をさせてもらっています。

──平行している仕事とは、例えばどのような？

上北　タツノコプロ関連の仕事が一番多くて、版権物と企画用やタイアップ用のキャラデザインなどです。あとは「クロスワードDay」誌などのカットも20年近く続けて描かせてもらっています。各方面のお仕事をやらせていただいて、毎回とても勉強になります。

──どういった経緯で「プリキュア」シリーズの漫画版を担当することになったのでしょう。

上北　もともと「なかよし」で「よばれてとびでて!アクビちゃん」のコミカライズを担当していて、連載が終了する頃に「新しく始まるアニメのコミカライズを描いてみませんか」と言われたんです。スケジュールが空いている人がほかにいなかったんだと思います。すごくラッキーなタイミングで、素敵な作品にめぐり合わせてもらったと感謝しています。

──一番最初に「プリキュア」を見たときのことは覚えていますか？

上北　もちろん！　なかよし編集部で「ふたりはプリキュア」第1話のビデオ見せてもらったんです。そのときに初めて、動いているなぎさとほのかを見ました。まだ色も付いていない状態だったんですケド。鷲尾（天プロデューサー）さんや西澤萠黄（ABCプロデューサー）さんからお聞きしたんですが、放送ギリギリになってやっと完成して、納品するときも万が一に備えて陸路と空路のふた手に分かれていかれたそうです。それがこんな大人気シリーズになるとは！　生みの苦しみを経てますから、その喜びは、ほんとうに大きいと思います。

──10年20年といつまでも続いていって欲しいですよね。アニメを見てから「あそこはこう描けばよかった」や「こういう構想が浮かんだ」というシーンはありますか？

上北　完成したアニメを見ると、私たちがイメージしていたキャラと印象が違っている場合があります。特にひかり、満、薫、かれんはすごく可愛らしかったです。声や所作で、生き生きとした立体的な魅力がでるんだなと、アニメの素晴らしさを体感しますね。漫画は月刊ですし、ページ数も多くありませんので、アニメで描かれるエピソードを、より凝縮したものに変換しています。例えば「ふたりはプリキュアSplashStar」のときの、咲と舞、満と薫がひまわりを育てるエピソードは、みんなで生命を育てたという体験を通して、テーマである「生命と滅び」を考えるキッカケとなるように描きました。

──「SplashStar」の漫画はストーリーをなぞっていく展開だったので、漫画オリジナルのエピソードでアニメで説明されなかった部分を補完している感じがして、楽しいです。

上北　咲と舞の誕生日と血液型は決まっていた（日向咲：8月7日生、O型。美翔舞：11月20日生、AB型。）ので、血液型や星座の相性を調べてみたんです。そしたら、みごとに正反対の二人だというのがわかり、この設定を考えた方はスゴイな〜と感激しました！ この組み合わせだと、蠍座AB型の方（舞）がサッと身をひいてしまうので、ケンカにはならないというような記述が本にありました。……で、増刊号の40ページでは二人のすれ違いと心が繋がるまでを描いてみたんです。

──血液型や星座を参考にお話を作っているとは思わなかったです。漫画がアニメに影響を与えた設定などはありますか？

上北　漫画からアニメにフィードバックされるものは無いと思います。ただ一つだけ「Yes！プリキュア5」の時にかれんの乗馬シーンを描いたら、それを鷲尾さんと脚本の成田（良美）さんが気に入ってくださり「アニメでも出していいですか」と言ってもらいました。すごくうれしかったです。アニメの方が原作なのに、こんなお言葉をかけてくださるとは、びっくりしました。

──かれんさんの乗馬設定は元から存在していたんじゃないんですか。キュアアクアと（敵キャラの）ハデーニャの騎馬戦も漫画があったからこそ見ることができたんですねえ。漫画版「プリキュア」は、シリーズごとに絵柄が変わっているのが特徴だと思います。描き分けているのでしょうか。

上北　アニメの騎馬シーンは、すごくカッコよかったですよね!　「プリキュア5」のときは、シナリオを読んでみて恋愛感情の描写が多いように感じたので、これまでよりも繊細に少女漫画風のテイストを加えてみたらどうかなと考えました。「フレッシュプリキュア！」はまつ毛やマスカラがうんと濃くて、女の子が好む可愛い目元だったので、目ヂカラが出るように作画に気をつけました。アニメはシリーズが新しくなるたびに絵柄が一新して、みんな可愛らしいので、とても勉強になります。各プリキュアの絵柄を、黒一色で描いた時にもキラキラと可愛く見えるようにと、毎回試行錯誤しています。

──作業はデジタルで行っているんですか？

上北　はい、二人ですべての作業をしているので、とにかく作業効率を上げたくて1年目の「ふたりはプリキュア」の最終回から漫画原稿も思いきってデジタル入稿に移行しました。最初はトーンの貼り忘れが多く、印刷所の方が貼ってフォローしてくださっていたそうです。

──そんなことまでしてくれるんですね（笑）。

上北　編集部の担当さんが印刷所に何度も問い合わせをしてくれたり、印刷所の方もノウハウを丁寧に教えてくださったおかげで、なんとか軌道に乗せることができました。

──最初は失敗も多かった。アナログに戻したいとは思いませんでした？

上北　ベタ塗りやトーン貼り、トーン管理なども楽になりましたし、締め切りギリギリまで作業できますから、デジタルを否定する理由は何もありません。私たちは、もうアナログには戻れないです。「フレッシュ」の途中からは、効率アップのために背景の3Dデータも作成しました。ラブの家外観や各部屋、ラビリンス洋館のエントランス、不幸のゲージ、占いルーム、ドーナツカフェなど、いろいろ作ったんですケド、使用する機会は思ったより少なかったです。

──おお！　もしよろしければ見せていただいてもよろしいでしょうか？

上北　はい。もう使用する機会も無いと思いますので、お披露目できれば浮かばれますね。（左の2点です）

──ありがとうございます！　新しいシリーズに突入するときの漫画制作について教えて下さい。東映アニメーションから資料はどのくらい届くのでしょうか。

上北　まず企画書をいただいて、全体を把握します。新シリーズスタートが2月なので、年末くらいにはキャラクター、美術設定集と5話くらいまでのシナリオ決定稿をいただいて、漫画版の構想を考えるんです。1月上旬に第1話の原稿を仕上げて、以降は、5話分くらいずつ送られてくるシナリオ決定稿を読んで、毎回の漫画を作っています。「フレッシュ」の時から、年間構成表もいただけるようになりました。シナリオだけでわからない場合は、絵コンテを送っていただくこともあります。

──最初に構想していたストーリーとつじつまが合わずに困った、というようなことはありましたか？

上北　疑問点はそのつど質問していますが、シナリオ決定稿後でも演出などで臨機応変に変更するようなので、完成したアニメを見て修正する箇所もでてきます。以下は、私たちの早合点によるミスなんですケド、「プリキュア5」でりんちゃんとナッツ（人間態）がいい感じになるお話のネームをチェックしてもらったら「ナッツはこまちと気持ちが近づくので変えてください」とNGになりました。「プリキュア5」の漫画は日常メインでしたし、のぞみとココの恋愛をフィーチャーしていましたので、りんちゃんとナッツも、ぜひ恋心の発展ができれば……と思っていたんです。

──おおー！　そんな構想が……！　みんなで夏祭りに行く回がそんな感じでしたよね。りんちゃんとナッツがふたりきりで花火を見る話の。

上北　そうです。花火大会を二人で過ごすうちに、恋の花火も上がってしまった……という感じにしたかったんです。りんちゃんが「このドキドキは何……!?」と、戸惑いつつナッツに魅かれている自分に気がつくというラストを考えていましたケド……。

──残念ながらNGに。

上北　はい。すぐにシナリオが送られてきまして、たしかに、こまちとナッツがいいムードになっていたので驚きました！　締め切りが迫っていましたので、とりあえず最後だけ変更して誤摩化しましたが、川を飛び越えるなどの象徴的シーンの意味が無くなってしまって、残念でしたね。

──りんちゃん大好きなのであの話はお気に入りです。ボーイッシュなイメージが強いキャラなんですけど、あの回は本当に女の子をしていて。

上北　りんちゃんは、情熱的で乙女な部分が可愛いですね、私たちも大好きです。シナリオではナッツの人間態は便宜上「夏」と書かれていましたので、夏木りんと夏……、なんかお似合いカップルだなと、ずっと勝手に思い込んでいたんです。

──アニメでも最初の方に、ナッツは好みのタイプ？　という会話がありましたよね。

──他にもアニメと違う設定だから泣く泣く変えてしまったシーンはありますか？

上北　この一件以降、事前の問い合わせを習慣にしました。「Yes！プリキュア5GoGo！」を最後に、日常メインのオリジナルストーリーは少なくなったので、設定を大きく踏み外すことは無かったと思っていますケド……。

──アニメに忠実でいつも楽しく読んでいます。でも、たまにはりんちゃんとナッツの話みたいなのも読んでみたかったです。プリキュアの漫画を描く上で気を付けていることや、ここは絶対にゆずれないというこだわりを教えてください。

上北　東映さんからお借りして描かせていただいている大切なキャラクターと物語ですので、読者のみなさんに悪印象を与えないような漫画にするコトを第一に心がけています。それと、あくまでも普通の女の子の物語であるというのを忘れずに、中学生らしい等身大の喜怒哀楽の感情を持っているようにと、気をつけています。「漫画はアニメと違って、色も音も動きも無いので、描写は派手にオーバーに表現しないと伝わらない」と編集部の担当さんから言われたのも留意点です。

──各シリーズを描く上でのこだわりはありますか？

上北　シリーズごとのこだわりは、あまり考えていません。でも、各シリーズで共通して描きたいのは、絆とひたむきな想いです。

──全ての「プリキュア」シリーズに共通していることですね。子どもたちの反応や生の声を聞く機会はなかなかないと思います。どのようにして読者の声を取り入れているのでしょう。

上北　高知県ではプリキュアが放送されていないにもかかわらず、ビデオレンタルや映画を見てプリキュアを好きになる子が大勢います。映画館には、私たちが想像する以上に親子連れの小さな女の子が、観に来ていますので「こんな小さな子向けなんだ」と、いつも驚かされます。

──子どもたちが映画館でプリキュアを応援しているのを見るために劇場に行ったりもします。みんな真剣に見ていますよね。

上北　子どもたちがどんなシーンで歓声を上げるかなど様子を観察したり、編集部に寄せられるお手紙から反応を伺ったりしています。知り合いの親御さんとお話する際には、親御さん自身もプリキュアの衣装の可愛らしさなどにゾッコンのご様子で、家族ぐるみで愛されているプリキュア像が伝わってきます。

上北さんと加藤のメールは毎日のように往復し、今までまったく謎だった創作の秘密がつぎつぎと明らかになっていった。そのたびに、どんな質問にもていねいに答えてくれる上北さんの「プリキュア愛」に感激。そしてある日、描き下ろしの「ハートキャッチプリキュア！」（ページ上）が届いて!!!!!　傍からみていて、終始憎たらしいくらいな幸せっぷりで進行したメールインタビュー、後編はもっと深く深くなります。お楽しみに！

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