第14回

最終回

漫画版「プリキュア」シリーズの上北ふたごインタビュー 後編

アニメの咲、舞(「ふたりはプリキュア SplashStar」)といっしょに悪に立ち向かうように描いていた

構成/加藤レイズナ

漫画画像はすべて 漫画/上北ふたご 原作/東堂いづみ ©上北ふたご/講談社

題字/masi. 企画編集/アライユキコ

「プリキュア5」のイラストを描きおろしてもらいました! ツリーには5シリーズの敵キャラが大集合。このクリスマスパーティ、混ざりたい!(画像はすべてクリックで拡大します)

漫画家になった理由、なぜプリキュアを描くようになったのか、上北さんについて聞いた前編とは趣向を変えて、漫画の中身に斬り込む後編。お話を聞いていくたびに、上北さんのプリキュア愛を感じた。愛してくれるに違いないし、俺も上北さんの描いたプリキュアをずっと見ていきたい。ボツ案や恋愛について、まだまだ終わらないプリキュア話。ここで終わるのはもったいないので、今回を中編にして、次回の後編をお楽しみに、と言いたいくらいだ。前編以上に気合を入れたインタビュー後編。気合を入れて読むこと、けってーい!

上北ふたご(かみきた・ふたご)PROFILE

8月11日生まれ。しし座のB型。高知県出身。漫画家。名前の通りふたごで活動している。タツノコプロのキャラクター、サブキャラターデザインをてがける。アニメ関係の仕事のほか「なかよし」で「よばれてとびでて! アクビちゃん」04年から「プリキュア」シリーズ全作品のコミカライズを「なかよし」で連載。現在はシリーズ最新作「ハートキャッチプリキュア!」を大好評連載中。趣味はビデオ鑑賞と食玩漁り。おへそを出しているプリキュアがいたら、漫画内で何かしらのツッコミがはいることで有名。




キュアブラックのおへそは私たちには衝撃的


加藤レイズナ(かとう・れいずな)PROFILE

1987年生まれ。フリーライター。「実況野郎B-TEAM」 でインタビューの面白さに目覚め、日経ビズカレッジにて「ゆとり世代、業界の大先輩に教えを請う」 を連載中。「エキサイトレビュー」 レギュラーライター。「SQUARE ENIX」「アルティメットゲーマーズ」 ではゲーム実況プレイヤーとしても活動。「プリキュア」がいる二次元に行く方法を模索する毎日。

レイズナブログ
http://blog.livedoor.jp/reireizuna/

ツイッター
レイズナ (kato_reizuna) on Twitter
http://twitter.com/kato_reizuna


2010.11.15インタビュー前編アップへの反響ツイートより

lanoru @kato_reizuna どうしておへそにこだわりがあるのか質問お願いします。
10:56 PM Oct 20th

@afromiya かれんさんの乗馬エピソードってふたご先生発祥なんだね。プリ5だと絶望仮面回以外のエピソードだとハデーニャとの馬上戦闘の回が大好きなのですが、ふたご先生が描かなかったらあの回は生まれなかったのかもしれないのか〜 興味深い〜!!
1:07 AM Nov 15th

@mame31 @kato_reizuna さっそく読ませていただきました!ふたご先生のお仕事場の写真等、貴重なものが見れて大興奮です。ふたご先生のコミカライズは私がプリキュアに本格的に嵌まるきっかけのひとつでもあり、もっともっとスポットが当たって欲しいなと願うばかりです。後半楽しみにしています
1:28 AM Nov 15th

@ikoma_ru @kato_reizuna 改めて拝読させて頂きました。上北先生の知られざる逸話が読めて、本当に嬉しい限りです。こういったインタビューで先生のプリキュアへの愛が判り、また、かれんさんの逸話のように相互に影響を与えることもあるというのは嬉しかったです。後編も期待してます!
1:42 AM Nov 15th

@afromiya ふたご先生アバターのことを「様々な要素、凝った設定が、シンプルにひとつの物語にまとめ上げられていて素晴らしい」って言ってるけど、漫画版プリキュアこそ様々な要素、凝った設定が、短いページにぎゅって濃縮してまとめられてて素晴らしいよ!

@djbztsfch 漫画版プリキュアのアニメを漫画に落としこむテクニックを、2次創作で盗ませてもらっています。
2:20 AM Nov 15th

@teioteiteio 【レイズナさんのインタビュー】相変わらずいい記事です。私が印象に残っているのは「勉強になる」という言葉の多さ。先生の上手さの秘訣はこれだな…
8:27 AM Nov 15th

@purittu55723946 @kato_reizuna 遅ればせながら、ふたご先生インタビュー読ませていただきました!チャーリー(馬)の産みの親はふたご先生だったんですねー。ある日描き下ろしイラストが届くとか…、うらやましいと思った!!!w #omanma_kuitai


おへそが出ているプリキュアがいると出る反応!

おへそが出ているプリキュアがいると出る反応! うららはキュアドリームのおへそがお気に入り?(「なかよし」掲載「Yes!プリキュア5GoGo!」08〜09年より)


「ハートキャッチプリキュア!」ではキュアサンシャインがおへそ担当

「ハートキャッチプリキュア!」ではキュアサンシャインがおへそ担当。キュアブロッサムもしっかり反応!(「なかよし」掲載「ハートキャッチプリキュア!」10年〜より)


変身して名乗ったあとの第一声が「なんじゃこりゃあ!?」なキュアドリーム

変身して名乗ったあとの第一声が「なんじゃこりゃあ!?」なキュアドリーム。敵キャラのギリンマも思わずひっくり返る。(「なかよし」掲載「Yes!プリキュア5」07〜08年より)


「フレッシュプリキュア!」の最終回にはモブとして「ふたりはプリキュアSplashStar」の咲と舞が!

「フレッシュプリキュア!」の最終回にはモブとして「ふたりはプリキュアSplashStar」の咲と舞が! 他には「プリキュア5」の夏祭り回などに出ているぞ。(『ハートキャッチプリキュア!&フレッシュプリキュア おはなしブック!』10年より)


──「ふたりはプリキュア MaxHeart」のコミックスのときに、キュアブラックのおへそが隠れてしまって残念と書いてあったり、「Yes!プリキュア5GoGo!」になってキュアドリームのおへそが隠れてしまったときは、うららに「おへそがなくなってしまいました」と言わせていたりして、おへそがすごい好きなイメージがあります(笑)。

上北 特に女の子のおへそに固執しているというワケではありませんが、キュアブラックのおへそは私たちには衝撃的でした。キャラクターデザインの稲上(晃)さんの可愛らしい絵とも相まって、健康的な色香がとても好印象! 大好きだったんです。おへそで気になっているコトと言えば、外人男性のおへその位置がものすごく上にある点です。見るたび、胃のへんがこそばゆくなってしまいます(笑)。

──描いていて楽しいところは、やはりおへそでしょうか?

上北 おへそも含めた全身画ですね(笑)。ポーズ・表情・構図などで、プリキュアのカッコよさ可愛さ躍動感を表現できたらと、気合いが入ります。

──上北さんの中で、カッコいいプリキュア、可愛いプリキュアをそれぞれをベスト3で教えてください。……難しいでしょうか?

上北 各ベスト1は不動ですケド、あとは順位を付けづらいですね。あえて挙げてみるなら……、カッコいいプリキュアは、1.キュアブラック、2.キュアアクア、3.キュアピーチです。可愛いプリキュアだと、1.キュアイーグレット、2.キュアホワイト、3.キュアドリームです。

──ありがとうございます。カッコいい1位は僕もブラックですね。モブキャラクターに過去シリーズのキャラクターが大勢描きこまれているのを見るとすごく嬉しくなります。どのシリーズもキャラクターも好きだとは思います。その中でも特に気に入っているシリーズやキャラクターを教えてください。

上北 モブシーンは燃えます! 歴代キャラをまぎれ込ませられるチャンスですから。特に思い入れのあるシリーズは「ふたりはプリキュアSplashStar」です。連載も最多の毎月16ページありましたし、増刊号でも描かせていただけたので、アニメ本編と連動してエピソードを積み上げていきました。アニメの咲、舞と、いっしょに悪に立ち向かっていったような一体感を、私たちは感じていたと思います。キャラで好きなのは……、あれこれと思いをはせていると、結局全員になってしまいそうですね。いじり易いという意味では、生真面目で一見融通の利かなさそうなキャラほど面白くて好きです。

──やっぱり、ほのか、かれん、せつなあたりでしょうか?

上北 そうですね。意外な反応やギャップで魅力が出せると思います。凛とした人の可愛い一面とか、生真面目ゆえの暴走とか……。



毎回ギュウ詰めになってしまい、追うのが大変


あまり磨きすぎると歯ぐきから血がでるよ!

あまり磨きすぎると歯ぐきから血がでるよ!(『ハートキャッチプリキュア!&フレッシュプリキュア おはなしブック!』10年より)


洗脳され、戦いあうキュアブラックとキュアホワイト

洗脳され、戦いあうキュアブラックとキュアホワイト。本格的な戦闘シーンが描かれたのは今作が始めて!?(『映画 ふたりはプリキュアMaxHeart2〜雪空のともだち〜』05年より)


「GoGo」になり、アニメでは恋愛話が少なくなってきたけど、漫画版はのぞみとココの物語がメインだ

「GoGo」になり、アニメでは恋愛話が少なくなってきたけど、漫画版はのぞみとココの物語がメインだ。(「なかよし」掲載「Yes!プリキュア5」07〜08年より)


──せつなが真顔で歯を磨いているシーンとかすごく好きです。「MaxHeart」や「Yes!プリキュア5」では日常の話を中心とした描き方、「SplashStar」や「フレッシュプリキュア!」では原作を基準として、ストーリーを追っていくタイプの描き方をされていました。描き方を変えているのはなぜですか?

上北 東映さんや編集部から、こう描くようにと強制されることはなく、けっこう自由に描かせていただいています。スタート時点では、シナリオも5話くらいしかもらっていませんので、とりあえず本編に沿ったものを描き、あとは様子見で、ページ数との兼ね合いで構成を決めます。でも、当初計画したものを軌道修正することの方が多いです。

──今までのシリーズだと例えば?

上北 なぎほの時代(「ふたりはプリキュア」「ふたりはプリキュア MaxHeart」)は、4ページ枠で始まりました(第1話は7P)。当時の編集長から「変身無しで日常を描くのはどうでしょうか」とアイデアをいただいて、日常ものになったんです。その後、『映画 ふたりはプリキュア マックスハート2〜雪空のともだち〜(KC)』(参考/映画サイト)を見て、「こういう絆を描けたら、変身付きもいいね」と気に入ってくださり、「SplashStar」は、増ページで変身、戦闘を含めた内容になったんです。

──「プリキュア5」からはまた日常話がメインになりました。

上北 「プリキュア5」「プリキュア5GoGo!」はプリキュアが大増員したので、アニメの流れを追うのは断念し、日常メインに戻しました。のぞみとココの恋愛模様を描くのが楽しかったです。「フレッシュ」は、ラブ、美希、祈里の三人が初変身した後は、日常話で進めようと決めてスタートしました。イース(せつな)が四人目として加わるというのは聞いていたものの、お披露目程度の説明で済まそうと思っていたんですが、その後いただいたシナリオを読んでいるうちに、せつな加入もちゃんと描きたいと思い、そのまま本編に沿った変身、戦闘付きの内容になりました。

──「フレッシュ」も現在連載中の「ハートキャッチプリキュア!」もストーリーメインですね。

上北 「ハートキャッチ」も途中2名の追加(キュアサンシャイン、キュアムーンライト)が決まっていましたので、おおよそアニメに準じた展開でいった方がいいと判断しました。でも、毎回ギュウ詰めになってしまい、追うのが大変です。



日常の中で彼女達の触れ合いを描くのが楽しい


デュエットのタイミングが合わないふたりの息が合う用に、お守りにお互いの息を吹き込む漫画オリジナルシーン

デュエットのタイミングが合わないふたりの息が合う用に、お守りにお互いの息を吹き込む漫画オリジナルシーン。(『ふたりはプリキュアSplashStar チクタク危機一髪!』06年より)


なぎさに避けられていると思い、実験もミスばかりのほのか

なぎさに避けられていると思い、実験もミスばかりのほのか。実はほのかのサプライズパーティの準備中だったのだ。(「なかよし」掲載「ふたりはプリキュア」04〜05年より)


4人で育てたひまわりが咲き、喜ぶ咲と舞

4人で育てたひまわりが咲き、喜ぶ咲と舞。しかし、満と薫はダークフォールの戦士だったことが判明して……。(『ふたりはプリキュアSplashStar 1巻』06年より)


始めて完璧に踊れた4人

始めて完璧に踊れた4人。クローバーの完成だ。(『ハートキャッチプリキュア!&フレッシュプリキュア おはなしブック!』10年より)


──戦闘シーンと日常シーン、どちらが描いていて楽しいでしょうか?

上北 反論を恐れずに言わせてもらうと、戦闘シーンを好き、楽しいと感じる女の子は少数派なのでは……? と思っています。私たちも、やはり日常の中で彼女達の触れ合いを描くのが楽しいです。ただ、現在の編集長から「漫画を初めて買う小さな女の子に『自分の知っているプリキュアがなかよしに載っている! カッコイイ!』と喜んでもらえるような漫画になるように」と言われてからは、できるだけ変身後にページを割くよう心がけています。なので必然的に戦闘も付属しますね。

──僕も日常話メインのほうが好きです。「プリキュア5」の漫画がお気に入りです。

上北 それと、少しでも絵が入れられるように、申し訳ないですけどタイトルやコメント欄をできるだけ小さくしてもらって、絵のスペースを確保しています。

──そういえば、漫画版はあまりタイトルが目につかない位置にありますね。「SplashStar」を最後に、映画の描きおろしコミックスが出なくなりました。「プリキュア5」以降の映画コミックスを描くご予定はなかったのでしょうか?

上北 私たちもとても残念に思っているところですが『映画 ふたりはプリキュア Splash Star チクタク危機一髪!(KC)』(参考/映画サイト)を最後に、ご依頼が来なくなりました。描き下ろしコミックスは、普段の連載よりページが多いので、スケジュールはキツくても、描きがいがあります。特に「チクタク」は、上映時間が短かったせいでアニメシナリオの分量が前作までより少なかった分、漫画版ではエピソードもたくさん追加してじっくり描くことができました。

──いろいろなお話が追加されていて、映画とは違った楽しみ方ができますね。

上北 温厚な舞がキレるに至った心理、カラオケ大会に出場するコトになったいきさつ、犬と猿の着ぐるみになった理由、準備のシーン、お守り、サーロインとのやりとりなど、編集部の担当さんとアイデアを出し合ったのが楽しかったです。現在、描き下ろしは無くなりましたが、フレッシュ以降の連載分がムック本にまとめて載せてもらえるようになり、すごくうれしく思っています。

──「プリキュア5」以降の映画を描きおろすとして、オリジナルエピソードとして入れたいアイデアはありますか?

上北 仕事としてお受けしていないものは、1プリキュアファンとして純粋に楽しんでいますので、エピソードの具体的なアイデアが浮かびません。もし入れるとすれば、日常シーンでの等身大の女の子らしいやりとりでしょうか。

──今まで描いてきたお話のなかで気に入っているエピソードはなんでしょうか? 僕は「プリキュア5」のみんながパジャマパーティをしているお話がお気に入りです。

上北 ありがとうございます。なぎほの時代は、ほのかのバースデイサプライズパーティと、ケンカ話。「SplashStar」は、4人でひまわりを育てたエピソード。「プリキュア5」は、わりと毎回気に入っています。5人の個性が楽しく、オリジナルの日常エピソードを考えるのが面白かったです。パジャマパーティも5人のユニークさと親密さを出せたら……と考えました。「フレッシュ」は、3(人)から4(人)への数の変化を強調した3話と、4人でダンスする9話。「ハートキャッチ」は、クモジャキーの土佐弁口調を、ネイティブのくせに間違っては恥だぞと、かえって緊張しますが楽しんでいます。こころの花と花言葉は、漫画版は独自なものを出してかまわないと言われていますので、花のことをいろいろ調べたりするのも楽しみのひとつです。



鞭と言えば……


うららのCM撮影のためにバンドを結成したプリキュア部!

うららのCM撮影のためにバンドを結成したプリキュア部! この5人のバンド活動、見てみたい!(「なかよし」掲載「Yes!プリキュア5」07〜08年より)


かれんさん大活躍のリンボーダンス

かれんさん大活躍のリンボーダンス。なぜリンボー? と思ってたけど、上北さんがハマっていたんですね。(「なかよし」掲載「Yes!プリキュア5」07〜08年より)


メガパフェ早食いバトルに出場する5人

メガパフェ早食いバトルに出場する5人アニメではこまちさん以外、みんなよく食べる設定。みんなのチームワークで完食だ!(「なかよし」掲載「Yes!プリキュア5」07〜08年より)


かれんさんとイースには鞭がよく似合う!?

かれんさんとイースには鞭がよく似合う!? (「なかよし」掲載「Yes!プリキュア5」07〜08年より)


なぎさと藤Pの話が多い「ふたりはプリキュア」

なぎさと藤Pの話が多い「ふたりはプリキュア」。コミックスはストーリーがメインで、日常話の収録が少ないのが残念だ。(「なかよし」掲載「ふたりはプリキュア」04〜05年より)


──キャラクターに、自分が好きな食べ物を食べさせるなど、趣味や今ハマっているものを作中に登場させたりはしますか?

上北 「プリキュア5」では、かれん、じいや、ココ、ナッツに乗馬をさせたり、5人にバンド、リンボーダンス、ビーチバレー等をさせてみました。

──5人で大食い大会に出場していましたが。

上北 はい。メガパフェは挑戦してみたいな〜と思っていましたので、代わりに5人に完食してもらったんです。「フレッシュ」では、陶酔するくらい美味しくて大好きな特濃牛乳をウエスターに飲んでもらいました。

──結構食べ物関係が多いですね。

上北 アニメでは、タコカフェ、学食、ナッツハウス、ドーナツカフェ、家族との食事……と、みんなで食べているシーンが多く、彼女たちの親しさ具合が伝わってきます。食事シーンというのは、さりげないながら、とても重要なんだな〜と、気づかされました。実際の人間関係でも、なにかにつけ「食」が橋渡しになりますよね。あと、まどか(こまちの姉)はハーレー(鉄馬)乗りなのがカッコよく、逆に影響されまして、本をたくさん買い込んだり、すれ違うバイクに目がいくようになったり……。

──まどかさん登場シーンで、バイクをものすごく細かく描き込んでいたので驚きました。

上北 かれんの乗馬用の鞭に対してのぞみが「わぉ! かれんさんムチが似合う!」というセリフはNGになり「りりしい!」に変更になったんです。

──なんと! のぞみは「ますます中学生に見えない」とかも言っていましたね。

上北 増刊号で描いた馬場馬術競技の正装だと、より大人っぽくなりますので(笑)。鞭と言えば……。20話のシナリオをもらったときに、イースがサウラーとウエスターに鞭を振るうシーンがあったので楽しみにしていたのですが、アニメではカットになったようで残念でなりません! あと、キャラが着ているTシャツにメッセージを紛れ込ませるのは、1年目7話からの密かな恒例になっています。ラブとせつなのTシャツにも対になるような文字を入れていたんですが、ラブのシャツの「LOVE FOR MOMENT」が枠外に切れてしまいましたね。

──モブキャラもそうですけど、そういう細かいお遊びを探すのも楽しみです。このキャラにはこういうことをやらせてみたい、など思っていることはありますか?

上北 満と薫、かれん、ナッツ、せつなはいじり易いキャラだったので、いろいろな体験をさせてみたかったと思っています。恋愛話もやってみたかったですね。

──漫画版では「ふたりはプリキュア」の藤Pとなぎさの恋愛話が多かったですね。他のキャラクターの恋愛話も見てみたいです。

上北 なぎさと藤Pは、漫画版一年目のメインでした。アニメではカップルらしきものがいろいろ誕生しますケド、進展はありませんね。のぞみとココは、その後どうなっちゃったのかも、ちょっと気になっていますし、ラブと大輔の場合も大輔視点しかなかったので、ラブの気持ちがよく分からずじまいで……モヤモヤしました。

──お気に入りのカップルはいますか?

上北 お気に入りは、イース(パッション)とウエスター。イースには、どっしりと大きい愚直な男が合っていると思います。アニメの「ゴミ箱」でのやりとりは、ぜひ漫画でも描いてみたかった名シーンのひとつです。



涙で声が詰まってしまって


『ふたりはプリキュア』

『ふたりはプリキュア』
「プリキュア」初のコミカライズ作品。コミックスに収録されているのはストーリー部分のみで、なぎさたちの日常を描いたショートストーリーは後半に4本だけ収録されている。続編の「ふたりはプリキュアMaxHeart」もコミックスにはなっていないので、いつか未収録分と合わせて読んでみたい


『映画ふたりはプリキュアMaxHeart』

『映画ふたりはプリキュアMaxHeart』
「映画 ふたりはプリキュアMaxHeart」の描き下ろしコミックス。巻末には「なかよし」連載時のエピソードを1本収録。なぎさとほのかの「かえるぴょこぴょこ」シーンは可愛くておすすめ。


『映画 ふたりはプリキュアMaxHeart2 雪空のともだち』

『映画 ふたりはプリキュアMaxHeart2 雪空のともだち』
「映画 ふたりはプリキュアMaxHeart2 雪空のともだち」をまるごと描き下した1冊。手をつなぐことでキュアブラックとキュアホワイトが意識を取り戻す場面は、プリキュアにおける「手をつなぐ」ことの大切さがよくわかる。


花壇を作るために毎朝石を運んでいたせつな

花壇を作るために毎朝石を運んでいたせつな。1ページ目からこれだったので何事かと思いました。(『ハートキャッチプリキュア!&フレッシュプリキュア おはなしブック!』10年より)


──番外編として、恋愛話も見たかったです。「フレッシュ」はほぼストーリー一直線でしたからね。物語をつくるときに、神話や宗教などからモチーフをもってくることはありますか? 「フレッシュ」の第8話で、せつなが延々と石を積んでいるところは賽の河原やシーシュポスの岩などを連想しました。

上北 賽の河原やシーシュポスの岩は知りませんでしたが、いろんなものからモチーフを借りるのは好きです。「5GoGo」最終回に「胡蝶の夢」を入れてみたりとか……。せつなの花壇作りは、お百度参りのつもりで描いたんです。キュアパッションとしてラビリンスと戦うコトとは別に、生身の自分自身としての贖罪行動です。なにか痛みを伴う過酷な労働を自分に課して願掛けをするコトが、せつなの自罰行為であると同時に、みんなの幸せを守っていくというポジティブな意志の象徴になるように、クローバーの群生地を頑丈な石で囲う花壇作りをさせてみました。

──「これできょうもすこしだけ自分をゆるせる気がする」と言いながら石を運ぶシーンから始まったので、これはただごとじゃないな、と思いましたよ。せつなの手はボロボロでしたし。

上北 それまで人々を不幸にしてきた手を無意識に罰し、傷つくことでどこかホッとしているせつな。皆が彼女にどのように接しているかも、手を象徴的に使って表現しました。 ラブの母に手当をしてもらうのが、せつなの無自覚で唯一の甘えの表現なんです。こういう形でしか甘えを出せないほど、自分を責めつづけてきたというワケなんですが、ページが足りず、そのあたりの心情はカットしました。次号で、せつなもミユキさんからダンスを習うお話にしようと思っていましたので、ラブたちのミユキさんへの真摯な気持ちを示すためにも、謝罪のシーンを加えました。

──ミユキさんがキュアパッションじゃなかったという間違いを償うために、タルトも全身の毛を剃っていましたね(笑)。『フレッシュプリキュア! おはなしブック まるごとキュアパッション』の描きおろしに、キュアパッションではなくイースが載っていました。せつな(イース)には特別な思い入れがあるのでしょうか。

上北 キュアパッションも好きですし、なんといっても元のイースが印象的で魅力的なキャラだと思っています。デザインの魅力と設定の妙。フレッシュのテーマである「幸せ」を背負っている、ある意味主人公なので、すごく魅かれました。イースが寿命を宣告されパッションとして生まれ変わるのは、愛に飢え孤独で荒んだ生き方をしている人でも、だれか一人でも自分を理解し求めてくれる愛(ラブ)の存在があれば、人生はリセット、再生できる、幸せに向かえるというコトの象徴的なエピソードだと認識しています。もちろん、命はリセットできるものではありませんので、生き返り・生まれ変わりを描くのは、注意が必要だと思います。

──8話最後のコマでひとつだけ目立っているクローバーを見て、ここからプリキュアは4人になるし、せつなの人生もスタートするんだなと思ってウルッと来ました。

上北 せつなのためにラブのお父さんが机を手作りしたエピソードは、シナリオを読んで号泣してしまって、梅澤(淳稔)プロデューサーとの電話打ち合わせでも、そのシーンを思い浮かべただけで、涙で声が詰まってしまって、若干引かれてしまったのではないかと……。



健全な色っぽさは大切な要素


アニメ、漫画両方で水着シーンがあった美希

アニメ、漫画両方で水着シーンがあった美希。「プリキュアで水着!?」とびっくり。(『フレッシュプリキュア! おはなしブック! まるごとキュアパッション!』09年より)


『ふたりはプリキュアスSplashStar1巻』

『ふたりはプリキュアスSplashStar1巻』
アニメのストーリーをなぞっているけど、これでもかというくらい咲と舞の仲の良さを描いている。キュアブルームの指をフーフーするキュアイーグレットが可愛いんだ。満と薫が消えてしまったところで1巻が終わってしまっている。2巻発売を待ち望んでいる人も多い。


『映画ふたりはプリキュアスSplashStar チクタク危機一髪!!』

『映画ふたりはプリキュアスSplashStar チクタク危機一髪!!』
映画版のコミカライズ作品。映画は「デジモンセイバーズ」と同時上映で上映時間が短かったため、本編では説明されなかったオリジナルエピソードが数多く描かれている。お守りのシーンがお気に入り。


──漫画版「5GoGo」最終話で「超めいっぱい」「夢見るため生まれた」やフレッシュ最終話で「今日を一番輝く日にするために」など、作品の主題歌の歌詞から引用していることが多いですよね。

上北 プリキュアの楽曲は、名曲ぞろいですよね。歌詞も、簡潔なフレーズの中に奥深くキャラ描写のすぐれた表現がたくさんあり、おおいに参考になりますし、大好きです。

──作業中によく聞いたり、お気に入りの曲はありますか?

上北 初代と「SplashStar」のボーカル集は、特によく聴いていましたね。着メロもたくさんダウンロードしました。五條(真由美)さんのパワフルなボーカルには、たくさん元気をもらいましたし、「SplashStar」や「プリキュア5」のOPを初めて視聴した時はワクワクと大興奮しました。「フレッシュ」以降はEDのダンスCGと共に楽曲を楽しんでいます。咲、舞の歌声は、可愛らしさ、けなげさ、ひたむきさがより伝わってきて、今聴いても自然にウルッとなります。「フレッシュ」の後期ED(「H@ppy Together!!!」)も、せつなの物語とリンクして思い出され、グッときます。

──「SplashStar」は敵キャラのキャラソンもあったりとバラエティ豊かでしたね。敵キャラアルバムとかも欲しいです。上北さんの描くプリキュア漫画は子どもたちと同じくらい大人のファンも多いと思います。大人のプリキュアファンのことを意識されたことはありますか?

上北 子供向け、大人向けを意識するというよりも、結局、私たち自身が楽しいと感じられるものを描いているように思います。子供が読んでも大人が読んでも楽しめる、ダブルミーンズのお話が描けるようになるのが私たちの理想です。

──漫画で描かれている、女の子同士にしかありえない強い友情に感動します。それはアニメの「プリキュア」でも大きなテーマのひとつになっていますが、上北さんは「少女同士の友情」をどう描きたいと思われていますか?

上北 プリキュアでは、カッコイイ男の子との恋愛模様が、あまり描かれません。その代償ではないのですが、彼女たちの友情は唯一無二なので濃いものになります。女の子が読みたいのは「私は運命の人と出会えるの!? 私は幸せになれるの!? トキメキはあるの!?」という不安や期待に応えてくれるような、わくわくドキドキの物語だと思います。女の子同士であろうと、お互いを尊敬し合い、慈しみ合い、必要とし合うような、強い感情がわき起こるような関係を描けたら、感動を生むのではないでしょうか。

──なぎさやほのかの水着姿や、プールサイドでの美希と弟の和希のシーンなど、不意打ちのように少女のエロスが描かれていて、印象的です。これもまたマンガ版「プリキュア」の大きな魅力だと思います。

上北 エロスを表現している自覚は全然ありませんケド、どんなものでも健全な色っぽさは大切な要素だと私たちは思います。ただし、意味のない露出やローアングルとか、気持ち悪い表現にはならないように気をつけたいです。また、女の子が蔑まれたり、弄ばれたり、暴力の犠牲になるような表現は極力避けたいと思っています。



たとえスパッツを履いていても


ギターや車のミニフィギュアに囲まれているかれんさんがポイント

ギターや車のミニフィギュアに囲まれているかれんさんがポイント。左にはイースとキュアパッション。


モニタに写っているのは「ふたりはプリキュア SplashStar」

モニタに写っているのは「ふたりはプリキュア SplashStar」。食玩漁りが趣味なので、細かいおもちゃもいっぱい。


ギターに寄りかかる猫ちゃん

ギターに寄りかかる猫ちゃん。漫画内にオリジナルの猫キャラが登場するのもそう遠くない!?


──以前、プロデューサーの鷲尾(天)さんにインタビューしたときに、アニメ版では、子ども向けを意識して、そうした要素を極力出さない様にしていると聞きました。そのような「ルール」について、アニメ側から要請されることはあるのでしょうか。

上北 はっきりとしたルールが有るのかは知りませんし、事前に要請されるコトもありません。ネームチェックの際に、たまに注意を受ける程度です。なぎほの時代に海水浴のお話を描いた時に「胸の谷間を描かないように。胸を強調しないように」と言われて初めてその方針を知りました。キャラ設定画を改めて見返してみると、胸はペッタンコだったので、以降準じるようにしました。

──そこで初めて知らされたんですね。

上北 はい。「SplashStar」のコミックスの表紙をチェックしていただいた際には、稲上さんから「たとえスパッツを履いていても、ブルームのスカートの中は隠れるようにしてください」と言われて、ハッとしました。私たちは女性ですので、まったく無意識に描いていた部分ではありますが、幼女向けアニメであろうと、性的で好奇な視線に対するガード、配慮の必要性があることに驚くと同時に、キャラクターを大切に守る正しい姿勢に感動しました。鷲尾さんから注意された「外見に関する表現と、食べ物を粗末に扱っているように見える表現は避けてください」というのも印象に残っています。

──好き嫌いをしている絵は極力作らない、ともおっしゃっていましたね。上北さんの描く、漫画版「プリキュアオールスターズ」を見てみたいです。やはりキャラクターが多すぎて大変でしょうか?

上北 一枚描くだけでも、すごい時間がかかってしまいますので、時間の余裕がタップリある時に描いてみたいですね。大好きなプリキュアたちが一堂に会する漫画! 華やかでにぎやかになりそう! 実写と違ってアニメで「オールスターズ」をやるのは、想像以上に大変な作業だと思います。いまやプリキュアは大所帯なので、アニメスタッフのみなさんの労力は計り知れないものがあるでしょうし、あれだけ絵柄や頭身の違うキャラを、一場面に違和感無く入れる技術は超スゴイです!

──「ふたりはプリキュア」 から「ハートキャッチプリキュア!」まででプリキュアは19人もいますからね。

上北 加藤さんは、プリキュアの大ファンでいらっしゃいますし、漫画版までよく見てくださっていて感激しました。インタビュー連載に取り上げてくださったwebマガジン幻冬舎編集部のみなさまに、感謝いたします。最後に……、幸運にもプリキュアのコミカライズを担当させていただき、はや7年目になります。多くの方々のアドバイスやお力添えのおかげで、なんとか描いてこられました。励みになるようなお言葉やうれしい経験にも恵まれ、漫画の仕事も続けていく勇気をもらいました。感謝の気持ちでいっぱいです。この場をお借りして、厚く御礼を申し上げます。スタッフのみなさま、編集部、印刷所のみなさま、そして読者のみなさま、ほんとうにありがとうございます!!



ご愛読ありがとうございました


『ハートキャッチプリキュア! おはなしブック! まるごとキュアサンシャイン!』

『ハートキャッチプリキュア! おはなしブック! まるごとキュアサンシャイン!』で使われたイラストに加筆・着色をして送ってもらいました!


ひとつの作品がどれほどていねいに扱われ、丹念に愛を注いで描かれているのか。メールインタビューの進行とともに、上北さんの情熱に打たれる思い。原作にはないプリキュアたちの日常のエピソードは漫画版の大きな魅力。なにより本人たちが楽しんで描いているんですね。あの生き生きとしたキャラクターづくりは、なるほどこういうことだったかと、いちいち腑に落ちて、ますます質問が膨らんで……。そして、クリスマスプレゼント(ページ上)。「心臓が90回止まった」(加藤)という華麗な画をじっくりごらんください。なんと贅沢な最終回となりました。上北ふたごさん、本当にありがとう。

「おまえの目玉は節穴か」はこれで最終回です。長い間のご愛読、ありがとうございました。来年から企画をパワーアップして「おまえの目玉は節穴か2」(仮)を新たにスタートする予定です。お楽しみに!


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