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予算削減で「安全・安心が不安」と国交省 道路の維持・管理の水準低下、除雪量減らす…

開通時期が遅れる可能性が出ている圏央道の建設現場
開通時期が遅れる可能性が出ている圏央道の建設現場

 ◇公共事業

 厳しい財政状況の中で、民主党政権の下で公共事業の削減圧力が続いている。新規事業の凍結や廃止ばかりでなく、既存の道路や河川などの管理維持経費の切り詰めも強いられている。このままでは「コンクリートも崩れる」と国民生活の安全・安心が脅かされるとの懸念が、国土交通省や地方自治体の関係者から出始めている。

 民主党は昨年の衆院選マニュフェストで公共事業費を13年度までの4年間に、09年度当初予算(7・1兆円)に比べ1・3兆円(18・3%)削減するとしていた。政権交代直後の鳩山由紀夫内閣で、前原誠司前国土交通相は10年度予算だけで目標の18・3%削減を達成し、公共事業を5・8兆円(農水省分も含む)まで切り詰めた。

 08年のリーマン・ショック後に、自民党の麻生太郎内閣は09年度予算で、当初予算の7・1兆円に加えて、2・3兆という大幅な補正予算を組み公共事業予算は総額9・4兆円に上った。これに比べるとマイナス38・3%削減するという大幅なカットだった。自民党末期の政権が作った補正予算の効果で、この夏まで食いつないで来た地方の建設業者の倒産が、8月から増加に転じているという深刻な現状がある。

 民主党政権は今年度の補正予算で、公共事業費を農水省分も含めて約6000億円程度積み戻しているが、削減額1・3兆円の半分以下で、国交省のある幹部は「新たに事業へ回す政策的支出はゼロで、継続事業への支出や国民生活に直結する公共施設などの保守・管理の予算を見直して削らざるを得ない状況」と話す。

 菅直人政権は発足直後の6月22日に閣議決定した「中期財政フレーム」で「歳出の大枠71兆円を堅持する」と閣議決定し、その後の概算要求のルールでは、政策的経費について全省庁に対して原則として一律10%程度の削減を求めていた。一方で地方交付税(約17・5兆円)と今年度1・3兆円の自然増がある社会保障費(約28・5兆円)は減らさないとしていることから、公共事業費などを含む政策的経費などの支出(約24・4兆円)の中心をなす公共事業費の大幅な切り詰めが求められている。

 個々の公共事業はどうだろうか。治水事業では200年に1度の大洪水に備え、首都圏や近畿圏の6河川で計872キロを整備するスーパー堤防事業について、政府の行政刷新会議の事業仕分け作業で、全計画の完成までに400年かかり、事業費は12兆円に膨らむとして「廃止」とされた。前原前国交相が「中止」とした八ツ場ダム(群馬県)は、馬淵澄夫国交相が「中止は白紙に戻して再検討」と軌道修正したが、建設か事業廃止かは不透明なままだ。

 港湾事業では、海運の国際競争力の低下が叫ばれている中で、民主党の成長戦略にのった「国際コンテナ戦略港湾整備」の事業費を前年度比2・5倍の約700億円を要求しているが、これまで継続的に行われてきた重要港湾103港の整備は、43港に絞り込んで重点投資されることになった。

 また道路事業は、整備を「3年間に開通する区間を重点整備」するとされ、13年開通分までは予算が付けられているが、14年以降開通分の建設にはほとんど予算が付けられていない。時期が公表されてきた「圏央道」などの開通が遅れることになる。

 影響が深刻なのは、国道の維持・管理水準の低下だ。昨年11月の事業仕分け第1弾で「全国で統一基準を作り予算を10~20%削れ」と指摘された国道の維持・管理作業をみると、中身はお寒い限りだ。前年度比約1割削減し、今年度は2089億円の予算が計上された。路面の異常や落下物を発見するために行っている国道の巡回は、1日1回行っていたのを2日に1回に減らした。地域のタクシー協会などと通報の協定を結ぶ対策をとってきたが、国交省への苦情電話は今年4月~9月に9779件あり前年の1・6倍に急増している。

 また、年間1~3回行われてきた除草作業は年間1回になったほか、歩道の清掃は落ち葉対策を除き行われていない。標識の表示を妨げる樹木の剪定作業も減らされている状況だ。

 除雪作業は、さらに影響が深刻だ。「5センチから10センチの降雪量で(除雪を)実施する」という基準は同じだが、凍結防止剤の散布量を統一し1平方メートル当たり20グラムと決めた。車両通行部分だけに散布幅を狭めたり、間欠散布にする方法に切り替えている。さらに路肩まで行っていた除雪をやめ、道路に除雪した雪を一部残すことで排雪量を減らした。使用する除雪車と排雪に使うトラックの台数を減らして除雪コストを下げている。このほか高架橋の照明の減灯や防雪施設を夏にも道路から撤去しないなどの節約の試みも始めている。

 今年は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけて、広い海域で海面水温が平年に比べて低くなる「ラニーニャ現象」が発生しており、この現象が発生すると日本では猛暑や渇水、寒冬になる傾向があるとされる。1973年に発生した時は北陸や東北地方が大雪に見舞われた記録があるだけに、同省は豪雪を警戒している。自治体も担当する地方道の除雪の予算をどうするか苦慮しているのが実態だ。国民生活に直結する安心・安全に関する施策予算まで一律削減とはいかないようだ。

2010年12月24日

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