| 『つばさの丘の姫王』 2011年お正月ショートストーリー by 六花梨花 |
| ウィングフィールドにも新年がやってきた。 0時きっかりの町をあげての年明けのお祝いとは別に、ヴィヴィアンの館では、料理長ティーズの手による元旦のごちそうが振る舞われている。 |
| 「1の重は、和風で取り揃えました。2の重は洋風。3の重は中の国料理となっております」 |
| 「これが、おせちっ…! 俺、初めて見ました!」 |
| 「今年もきばったな」 |
| 「はい、勿論…っていうか、艶やかなお祝い料理を作るのって、燃えるね! こう、凝りに凝って、うっはーみたいな!」 |
| 「ドMが」 |
| 「褒め言葉、ありがとう」 |
| 「じゃあ、いっただっきまーす!」 |
| 「そうじゃないだろう。明けましておめでとう、だろう」 |
| 「あ、そうだった。明けましておめでとうございます!」 |
| 「おめでとうございます!」 |
| 「おめでとうございます」 |
| 「おめでとうございます。今年もよろしくしてさしあげますよ」 |
| 「うむ、おめでとう」 |
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「はい、おめでとー。 さあさあ、どんどん食ってくれよー。 まだまだ、あるからなー」 |
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「それじゃあ、いっただっきまーす! 俺、ローストビーフ!」 |
| 「この世界の肉はすべからくオレ様のものとすべしー!」 |
| 「待て待て、肉は平等に」 |
| 「そう言いながら、全部取ろうとしないっ」 |
| 全員が肉に集中している間に、エドリックは静かにフォアグラのテリーヌ、オマール海老、魚のエスカベッシュなどを取る。 |
| 「この出汁巻き卵って、美味しい! 甘い! 濃厚! 初めて食べましたーっ」 |
| 「隠し味も色々と凝ったからねー。さあ、どんどん食べなさい。その間に俺はこれをっと……」 |
| ティーズはバーベキューセットと炭を用意し始めた。 |
| 「何をしておる。酒」 |
| 「酒はあっちの手際よく自分の食べたいものをゲットしている眼鏡美人に言って下さい、お爺ちゃん。俺は今、忙しいのっ」 |
| 「ちっ。眼鏡、酒ーー!」 |
| 「正月くらい忙しくないよう作るのが、おせちではないのですか」 |
| 「ごちそうを振る舞う機会を生かさずしてコックとは言えないじゃないか。はははんはんはーん」 |
| ティーズは炭をおこし、金網の上に白く丸いものを並べだした。 |
| 「ヴィヴィアン様、あれは…?」 |
| 「餅だ。お前が時々食べている、おにぎりの親戚のようなものだ」 |
| 「おおーっ…! そんなのがあるんだー」 |
| ティーズはころころと器用に餅を焼いていく。 |
| 「あ…香ばしくって、良い匂い!」 |
| 焼き上がった餅を、お椀の中に入れていく。 |
| 「まずは、お雑煮。鶏肉と豆腐を浮かべた、すまし汁でどうぞ。ネギは好みで」 |
| 「ネギ、多めにしてくれ」 |
| 「ネギ抜きで」 |
| 「よくわからないけど、なんでも多めでー!」 |
| 「ははは、待て待て。餅は逃げないぞー。雑煮の次は、色々とトッピングにこったのを食べて貰おう。スタンダードに醤油と砂糖。きなこに、小豆、黒・蜜☆。醤油とバターと海苔ってのも合うんだぜー。それと、バジルソースに、ボロネーゼソース。カレーもいいぞー」 |
| ティーズはたんたんたんっと机にソースを並べていく。 |
| 「ふん」 |
| ダウスは焼き上がっている餅をひとつ取ろうとした。 |
| 「だめーーーー!!!」 |
|
――ぺちん。 ティーズはダウスの手を叩いて止めた。 |
| 「何をするんじゃーーー!!」 |
| 「喉に詰まって死んじゃうでしょっ!」 |
| 「そんな危険なものを食わせるなー!」 |
| 「では、ちょろぎを食え。ピンク色でかわいいぞ」 |
| 「腹にたまらんわ!」 |
| 「死ねばいいのに」 |
| 「なんか言ったか、クソガキ」 |
| 「いいえ、なーんにも、クソ爺」 |
| 「ふんっっ」 |
| ダウスは和風の重を小脇に抱え、日本酒の一升瓶を掴むと、姿を消した。 |
| 「ああっ、ドロボー!」 |
| 「無限図書館で、一人酒か」 |
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「こんなこともあろうかと、予備のお重を用意しておきました。 ま、余り物を詰めたとも言うけど」 |
| 「それでは、私は……」 |
| 「数の子と海老、黒豆いただきますっ!」 |
| 「栗の甘露煮と百合根は、私のものだ」 |
| 「蓮根は譲りませんよ」 |
| 「ごまめ、にんじん、高野豆腐、お肉ーー!!」 |
| エドリックが取る前に、和風お重の中は空になってしまった。 |
| 「…………」 |
| エドリックの眉間に薄く皺が入る。 |
| 「しかたないな。エドリック、あーんしろ。はい、ちょろぎ」 |
| 「そっ…そんな、恐れ多い…ですが、何故、ちょろぎ…」 |
| 「ちょろぎは可愛いからだ。はい、あーん」 |
| 「ずるい! ヴィヴィアン、オレもー!」 |
| 「そのっ…エドリックさんが食べられないのでしたら、俺が代わりに!」 |
| 「ふん」 |
| ペチュニアはヴィヴィアンが箸でつまんでいたちょろぎを、ぱくっと食べた。 |
| 「あ……」 |
| 「ああんっ」 |
| 「あうっ…」 |
| 「ふん」 |
| ペチュニアの口からは、しょりしょりと良い音がしている。 |
| 「ははは。ペチュニアは可愛いなぁ」 |
| 「はいはい、揉めない、揉めない。揉んでいいのはおっぱいだけ。またまだあるぞー。食え、食えー」 |
|
ティーズによるお正月ごちそうの宴は3日続いた。 それが終わったあと、ベルトの穴の位置や、コルセットの締め具合を調節する者、朝から夕日の巨人が現れるまでランニングをする白狼の姿を、ウィングフィールドで見ることが出来たという…… |
| 「めでたし、めでたし?」 |
| 「はっはは。あまりめでたくないな」 |
| 【おしまい】 |
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