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2010年12月31日(金)付

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年越し支援―行政は柔軟な対応を

一昨年、昨年と東京都内で開設された「年越し派遣村」が、この冬は設けられていない。企業から突然、解雇を言い渡されるなどして仕事も住まいも失った人たちに、初めはボランティア[記事全文]

ベラルーシ―世界を危うくする独裁だ

欧州とロシアの境に位置する旧ソ連国のベラルーシが揺れている。強権的な手法でこの国を16年間も支配し、「欧州最後の独裁者」といわれるルカシェンコ氏が大統領選で4選を果たし[記事全文]

年越し支援―行政は柔軟な対応を

 一昨年、昨年と東京都内で開設された「年越し派遣村」が、この冬は設けられていない。

 企業から突然、解雇を言い渡されるなどして仕事も住まいも失った人たちに、初めはボランティア団体や労組が、昨年は政府や東京都が主体で宿泊場所や食事を提供してきた。

 今は、年末年始の対応でなく年間を通じた支援体制を整備するという方針だ。雇い止めにあった人やホームレスの人たちはこの冬、昨年末より2割以上減った。政府や自治体の雇用対策が効果を上げている面はある。

 だが、問題が解決したわけではない。有効求人倍率などには改善の兆しが見える一方で、1年以上仕事がない長期失業者は増えている。企業は新規の投資や雇用に慎重だ。

 雇用収縮のしわ寄せが、学卒採用はじめ若い人たちに偏りがちな状況も続いている。

 自治体の取り組みも、なお不十分だ。元派遣村村長で内閣府参与の湯浅誠さんによると、支援について「ホームレスが来るならやらない」と明言する首長もいるという。生活保護申請が増えると自治体の財政が圧迫される、との警戒感が背景にある。

 支援の方法に工夫が問われる面もある。昨年の年越し支援には全国で約8億円を要した。東京都の「官製派遣村」だけで1億8千万円。1人2万円の就職活動費を渡したところ、無断外泊が相次ぐといった問題も起きた。納税者の不信がぬぐえなければ、支援は成り立たない。

 それでも、支援なしでは年を越すのが難しい人々はいる。仕事も住まいも失う人に対して、行政には柔軟な対応を求めたい。

 派遣村は、立ちすくむ人たちの存在を「見える化」する役目を果たした。再就職に向けた課題がその人の置かれた状況によって異なることも明確になった。それらを今後にどう生かすかも大切なことだ。

 肝心なのは、「働きたくても働けない」という状況を長引かせない手だての強化だろう。失業が長引く人の中には多重債務に苦しんだり、うつ状態に陥ったりする例が少なくない。「合併症」が増えるほど、復帰の見通しも立ちにくい。こうした人々には息の長い対策が必要となる。

 政府は、雇用保険と生活保護の間をつなぐ第2の社会的安全網として「求職者支援制度」を作る。失業者が職業訓練を受ける間、生活費を給付する仕組みだ。より効果が上がる制度になるよう、年明けの国会で大いに議論してほしい。困窮して自律的な生活が営めない人をマンツーマンで支えるサービスも、さらに充実を望みたい。

 「派遣村」は、その課題を社会が通年で共有してこそ意義がある。

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ベラルーシ―世界を危うくする独裁だ

 欧州とロシアの境に位置する旧ソ連国のベラルーシが揺れている。

 強権的な手法でこの国を16年間も支配し、「欧州最後の独裁者」といわれるルカシェンコ氏が大統領選で4選を果たした。だが、選挙後に不正を訴えた元野党候補らのデモを排除し、報道陣を含む700人近くを拘束した。

 米国が排除を非難するなど国際社会の強い批判にもかかわらず、その後、元候補7人が最長で15年の自由剥奪(はくだつ)刑となる暴動組織の罪で起訴された。多くの人々の拘束も続き、野党勢力と政権との緊張が高まっている。

 それでなくてもベラルーシは欧州、そして世界の不安定要因になってきた。価格をめぐる紛争でロシアがベラルーシへの天然ガスや石油を止める。そのつど、ベラルーシ経由のパイプラインでロシアから資源を買う欧州諸国が、深刻な供給不安に陥ってきた。

 この国にはソ連の核兵器が配備されていた。すでに撤去されたが、核兵器への転用が可能な約200キロの高濃縮ウランが残っている。米国と今月、財政支援などの見返りに2012年までに除去する合意ができた。今回の事態で実施が滞れば、密売などによる核拡散にもつながりかねない。

 イランのような紛争絡みの国と武器の闇取引をしている、との疑惑も米議会などで絶えず指摘されてきた。

 こうした問題を抱えるベラルーシの現体制の支えはロシアだった。

 欧米との重要な緩衝国となるベラルーシを自陣営にとどめたい。そのために政治や経済、安全保障で統合を進める見返りに、石油や天然ガスを安値で供給するなど優遇してきた。これでルカシェンコ氏は、生活用品や医療、教育を安く抑える旧ソ連型の福祉国家を維持し、支持の基盤としている。

 しかし、思うように統合が進まないことに不満なロシアはここ数年、優遇措置の見直しに乗り出している。そこでベラルーシの外交は欧米に接近してロシアと両てんびんにかけ、双方から支援を引き出す動きも見せていた。けれども政治の強権が変わらない以上、欧米も関係強化には踏み切れず、行き詰まりの色を濃くしている。

 非効率な国営企業が多い旧ソ連型の経済も、世界金融危機で大きな打撃を受けた。いまの孤立が続けば、早晩立ちゆかなくなるのは明白である。この国には民主化を進め、世界と良好な関係を築く以外に道はないのだ。

 国際社会も、息長く改革の推進を働きかけたい。とくにロシアは、自分の利益で対応を変えるような政策を改め、建設的な関与に徹すべきだ。

 ベラルーシは隣国ウクライナにあるチェルノブイリ原発事故で大きな被害を受けた。被爆国として長年支援してきた日本は関係が良好だ。安定のために積極的な役割を果たしたい。

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