経済

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聞きたい:対中投資の先駆「東亜キャピタル」津上俊哉社長

 ◇互恵的な関係づくりを

 経済面で中国への依存を強める日本だが、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を契機とした緊張関係は残る。経済産業省で通商政策などを担当した後、対中投資ファンドの先駆けとなった「東亜キャピタル」を設立した津上俊哉社長に日中経済関係の展望を聞いた。【聞き手・山本明彦】

 --中国の一方的ともいえる振る舞いに日本経済が翻弄(ほんろう)される「チャイナリスク」の懸念が高まりました。

 ◆尖閣事件は、日本人が受けたショックと対照的に、一般の中国人の関心は低く、対中ビジネスへの影響も限定的だ。05年の反日デモでも、日本企業が一時的に中国進出を手控えるなどの動きが出たが、半年後には元に戻った。今回も似た展開が予想される。ただ、レアアースの輸出停滞は中国自ら「安定供給」への信頼を傷付けてしまった。問題を政治利用したツケといえる。

 --日本企業は中国とどう向き合えばいいのでしょうか。

 ◆日本の産業界はよく「中国頼み」を口にするが、一方的な依存関係は長続きしない。日本も中国に貢献していることをもっとアピールして、互恵的な経済関係づくりを心がけるべきだ。食品の安全性が問題になっている中国では、日本製粉ミルクなどに切実な需要がある。中国の消費者に「安全と安心」を提供する貢献をアピールしてよい。

 --日本企業が中国で成功するにはどうすればいいですか。

 ◆事業の成否を決するのは現地化だが、現地の人を管理職に登用するだけでは足りない。日本の職場は、言わなくても分かる「暗黙知」で仕事を進めているが、海外では通用しない。会社として何を重視し、目標は何かについて、現地社員は日本で想像する以上に知らされずにいる。離職率が高い理由もそこにある。社員に企業の理念と目標を浸透させる作業がもっと必要だ。

 --日中関係はどうなりますか。

 ◆中国の変容が激しい分、両国民の心理の調整が追いつかない。中国には大国としての責任や品位が求められるが、「まだまだ(成長途上)」という意識が強い。日本では中国の「出世」を認めたくない気持ちが残る一方、隣の大国から圧迫されるという心理も肥大化している。リスクを怖がって日本に引きこもるのもいけない。内需低迷という日本の現実を直視し、中国の台頭を受け入れる気構えが必要だ。

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 ■人物略歴

 ◇つがみ・としや

 東大法卒。80年旧通商産業省(現経済産業省)入省。在中国日本大使館参事官、経済産業研究所上席研究員を経て、04年に退職し、東亜キャピタルを設立。技術面などで日本と関係の深い中国企業などを対象に100億円を投資している。53歳。

毎日新聞 2010年12月16日 東京朝刊

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