政府は新たな「防衛計画の大綱(防衛大綱)」を策定し、17日、閣議決定した。大綱の改定は6年ぶりで、民主党政権になってからは初めてだ。
防衛大綱とは、長期的な防衛力の整備、運用に関する基本方針である。大綱に基づいて自衛隊の部隊規模、戦車や戦闘機など装備品の大枠を示す。新大綱は今後約10年の防衛政策を方向づけている。
今回の大綱で注目されるのは、中国の軍事動向を「地域・国際社会の懸念事項」と明記したことだ。東・南シナ海での軍事演習や国防費の増大を念頭に「周辺海域において活動を活発化させている」と指摘し、「軍事や安全保障に関する透明性の不足」も不安材料としている。
前大綱では「動向に注目していく必要がある」と記述しており、新大綱で中国への警戒感を一層強めたといえる。
こうした地域情勢の認識を踏まえて、新大綱では部隊配置や運用の考え方を大きく変えた。自衛隊の部隊を全国に満遍なく配置する「基盤的防衛力構想」を改め、機動力や即応性を重視する「動的防衛力」という概念を導入した。
冷戦時代の「大規模侵攻に備え、持ち場を守る」という発想を脱して、テロやミサイル攻撃などの多様な事態に対し、持ち場以外からも駆けつけ、弾力的に対応する態勢づくりを目指す。
具体的には、北海道に分厚く配備している隊員や戦車を大幅に削減する一方で、鹿児島県や沖縄県の南西諸島の防衛態勢を充実させる。自衛隊の空白地帯になっている南西地域の離島に、陸上自衛隊の沿岸監視部隊を配置する。また、潜水艦を現在の16隻から22隻態勢に増やし、イージス艦も増強する。
こうした措置は、中国の動向を強く意識した「中国シフト」といえる。
新大綱の中国に対する構えは、米国が2月に公表した「4年ごとの国防戦略見直し(QDR)」と歩調を合わせている。民主党政権は当初、米国依存からの脱却を掲げアジア重視を打ち出すなど、独自の安全保障政策を模索したが、発足1年余を経たいま、自民党政権同様に日米同盟強化の道を進んでいるようだ。
中国は空母開発など海軍力を増強し、尖閣諸島沖の漁船衝突事件や南沙・西沙諸島の領有権問題で、日本や周辺国に強硬姿勢を示している。南西地域の防衛力を高める大綱の方針は、こんな地域情勢への現実的対応としては理解できる。
ただ懸念されるのは、こちらが「守り」を固めたつもりでも、それが相手側を警戒させ、さらなる軍事力増強を誘発しないかという点だ。双方が「相手に対抗」の旗印で軍備増強を続ければ、不測の事態が起きるリスクはかえって高まる。特に海上での偶発的な衝突が心配だ。
必要な防衛体制を整えながらも、双方の外交・防衛当局が恒常的に対話を重ね、軍事的な緊張を回避するバランスが必要だ。相互不信がエスカレートすることが、最も危険である。
=2010/12/18付 西日本新聞朝刊=