社説

2010年12月21日

「専守」空洞化の恐れないか

 新たな「防衛計画の大綱」は、防衛力の役割を日本に対する小規模侵略対処に限定した「基盤的防衛力構想」から完全に脱却、自衛隊にテロやミサイル攻撃など多様な事態への即応だけでなく、アジア太平洋やグローバルな安全保障秩序形成のためダイナミックな活動を担わせる「動的防衛力」の考えを打ち出した。

 同時に、海洋進出が顕著な中国の軍事的台頭をにらみ、南西諸島に自衛隊部隊を配備するなど島嶼(とうしょ)防衛強化に踏みだす方針を示した。

■「4度目」で姿を消す■

 基盤的防衛力は、日本が「力の空白」となり、この地域での不安定要因とならないよう必要最小限の防衛力を保有する考え方である。周辺国の脅威に対応して防衛力増強を図る「脅威対抗」とは一線を画す抑制的な防衛構想だ。

 これに対し動的防衛力は、日本防衛から軸足を移し、アジア太平洋地域や国際社会での安全保障環境構築に米国などと協力して重点的に取り組むことで、日本の平和を守ることを目指している。

 さまざまな事態・脅威に日米が共同で対処し、日本が国連平和維持活動(PKO)をはじめとする国際平和協力を進める中で、専守防衛が空洞化していく恐れはないだろうか。

 ミサイル防衛(MD)の在り方や、新大綱が言及した「PKO参加5原則の見直し」などが、憲法が禁じる集団的自衛権の解釈変更につながる可能性も心配だ。

 防衛大綱の策定は4度目。基盤的防衛力構想は2度目まで採用され、3度目では「有効な部分を継承」とされ、今回姿を消した。

■中国対策のため配備■

 新大綱は中国の軍事動向について初めて「地域・国際社会の懸念事項」と指摘、北朝鮮に関しても「地域の安全保障における喫緊かつ重大な不安定要因」と記述し、警戒感を募らせている。

 特に中国の国防費増と軍事力の近代化、日本周辺海域における海洋活動の活発化を挙げ、これまで空白だった南西諸島への自衛隊配備の狙いが「中国対策」にあることを示している。

 尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を見るまでもなく、中国の横暴な活動が目に余るのは確かだ。だが、自衛隊を送り込んで緊張を高めるより、海上保安庁の警戒能力を高めつつ、日中間で海洋での偶発的な接触・衝突を回避するための海上危機管理の取り決めを優先すべきではないか。

 新大綱は首相の諮問機関「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」報告の内容を大幅に取り入れた。新大綱からは、平和憲法を掲げ、国際社会では「特殊視」される日本が「普通の国家」へと変貌する道筋がうかがえる。

 抑制した防衛力を備え、外交を重視して周辺の脅威のレベルを引き下げる努力で平和と安全を守る日本らしい外交・安保政策の青写真は描けないものか。


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