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映像流出で海保処分 政府の責任も見逃せぬ '10/12/23

 政府はこれで一件落着としたいのかもしれない。沖縄県・尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突の映像流出事件である。

 警視庁がきのう、流出への関与を認めた神戸海上保安部の海上保安官を国家公務員法(守秘義務)違反の疑いで書類送検した。

 これを受けて海上保安庁は本人を停職12カ月とした。鈴木久泰長官を減給1カ月とするなど幹部や関係職員らも処分した。所管する馬淵澄夫国土交通相も給与の一部を返上するという。

 海上保安官は乗務する巡視艇の共用パソコンから衝突映像を取り出して、動画サイトに投稿した容疑が持たれている。「国民に海上での出来事を知ってもらい、判断してほしかった」と動機を説明している。

 職務上知ることができた秘密を漏らしてはならないとする法に照らせば、行動自体が問題とみなされたのは当然だろう。

 ただ、この衝突映像が「秘密として保護に値する」ものかどうかは、専門家の間でも意見が分かれている。

 中国漁船による衝突事件は周知の事実だからである。流出する前、映像の一部は国会議員に公開されていた。全ての映像の公開を求める国民の声も強かった。

 警視庁が当初予想された逮捕を見送ったのは、こうした事情を考慮したからだろう。

 本人は処分決定後に辞職。刑事処分としては起訴猶予となる公算が大きいという。

 それなりにけじめをつけ、映像流出事件の幕を引きたいという政府の思惑がうかがえる。

 政府は捜査への影響や外交上の配慮を理由に、映像の公開を拒み続けてきた。一方で、逮捕した中国人船長を那覇地検が処分保留のまま釈放した。そうした判断に至った政府としての責任はあいまいにしたままである。

 そもそも、現場の様子を克明に再現した映像をいち早く国民に公開しておけば、流出問題は起きなかったはずだ。中国漁船の乱暴な振る舞いを明らかにすれば、中国側の一方的な主張を退け、日本の立場を国際社会に正確に伝えることもできただろう。

 気掛かりなのは、事件をきっかけに情報統制を強めようとする動きが出ていることだ。

 仙谷由人官房長官は「守秘義務違反の罰則が軽い。秘密保全に関する法制の在り方を検討したい」として有識者会議を設置した。来春をめどに対策をまとめる方針のようだ。警察からとみられる公安情報の流出も影響していよう。

 もちろん映像流出につながった海保の情報管理体制は見直す必要がある。逮捕などの権限がある機関として、捜査情報などはより厳正に管理しなければならない。急激に広がったネット社会への対策が求められることも確かだ。

 しかし罰則を強化するばかりでは国民の知る権利を損なう。本末転倒ではないか。情報公開の原則を守ることこそ、事件からくみ取るべき最大の教訓だろう。




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