社説

2010年12月25日

まず情報保全体制手直しを

 尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突の映像流出事件で警視庁は、国家公務員法の守秘義務違反の疑いで神戸海上保安部の海上保安官を書類送検した。

 一方、海上保安庁は保安官を停職処分とするとともに、捜査過程で明らかになった海保内のずさんな映像管理の責任を問い、保安庁長官を減給とするなど幹部ら20人以上の処分を発表した。

 馬淵澄夫国土交通相も自ら給与の一部を返上するという。保安官は辞職した。東京地検は海保の処分も踏まえ、最終的に年明けにも保安官の刑事処分を決めるが、起訴猶予となる公算が大きい。

■内部チェックが甘い■

 事件のさなか、仙谷由人官房長官は「知る権利や行政情報の公開、報道の自由にも、一定の制約があり得るのではないか」と、守秘義務違反の罰則強化に言及。政府は有識者会議を設置して現在、情報管理システムと法整備の具体的な検討を進めており、来春をめどに対策を取りまとめる。

 警視庁公安部が作成したとみられる国際テロ捜査文書の流出もあった。確かに、ネット時代に追いついていないといわれる情報管理システムの整備は急務だ。

 だが罰則強化は必要だろうか。外交文書公開や情報公開法改正など民主党政権が打ち出した政策に逆行することにもなりかねない。

 いまや誰もが発信者となって大量の情報をネットに流すことができる。しかも、その情報はコピーが繰り返され、削除が追いつかないほどの勢いで拡散する。そうした時代にあって、日本の官庁の情報管理は外部からの侵入などには目配りするものの、内部チェックが甘いといわれてきた。

■“身体検査”の導入も■

 政府も手をこまねいてきたわけではない。重要情報の漏えいを防ぐ目的で「カウンターインテリジェンス推進会議」が2007年、国の安全や利益にかかわる秘密を「特別管理秘密」と規定。各省庁が秘密指定を行い、適格性を確認できた職員だけに扱わせるなどの基本方針を打ち出した。

 さらにセキュリティー体制の整備、情報の格付けや保存方法などの統一基準が示され、技術の進歩もにらみながら昨年まで3回にわたり改訂されている。だが今回の事件で、政府の方針や基準が海保内で徹底されていなかったことが明らかになった。海保側が当初、説明していた「映像の厳重管理」などなかった。

 情報保全の方針を徹底したり、それに必要な知識と技能を習得させたりと、やるべきことは山ほどある。国家公務員ばかりでなく、政治家も含め秘密に携わる関係者について、外国からの脅迫や誘惑にさらされていないかなど“身体検査”を行うセキュリティー・クリアランス制度の導入も検討課題になるだろう。

 こうした情報保全体制の手直しをきちんと行いさえすれば、罰則強化の出番はないはずだ。


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