手作り甲冑を着て乾杯 寄居の戦国居酒屋
| 手作りの甲冑を着て盛り上がる戦国祭の参加者たち＝寄居町立原の居酒屋「ひこべえ」 |
日本百名城の一つの鉢形城がある寄居町で「戦国居酒屋」が人気を呼んでいる。普段は店主が甲冑（かっちゅう）姿。時折、店内で開催する「戦国祭」では、常連客らが手作りの甲冑を着て酒を酌み交わす。町の歴史に思いをはせながら、目指すは〝戦国タウン〟寄居だ。
この居酒屋は寄居町立原にある「ひこべえ」。２００４年に鉢形城公園の近くにオープンした。店主の長男で料理長を務めている松崎成幸さん（３９）が、２年半前から手作り甲冑を着て客をもてなしている。先祖代々この地に住んでいて、「子どものころ、庭で手裏剣を掘り出したことがある」とか。城跡に構えている店として「何かできないか」と思ったという。
鉢形城は、戦国時代の〝関東の覇者〟北条氏が北関東支配の拠点とした城で、北条氏邦が城主を務めた。豊臣秀吉の小田原征伐では、１０倍以上の兵力差がある豊臣の大軍の攻撃を１カ月余りしのいだものの、氏邦は城兵の生命と引き換えに開城を決意。歴史の表舞台から姿を消した。
松崎さんは戦国史の本を読みあさるうちに、氏邦に心をひかれていった。「氏邦は平和主義者なのに、戦わせたら北条一。面白いですよ。こんなにはまるとは思わなかった」
甲冑の作り方は「寄居北條まつり」で武者行列や模擬合戦を行っている鉢形城三鱗（みつうろこ）会のメンバーから教えてもらった。仕事が終わったあとに製作に取り組み、半年がかりで完成。甲冑姿で店に出るようになると、ともに甲冑作りに取り組んだ寄居町商工会青年部の仲間たちと盛り上がった。「みんなで甲冑を着て酒を飲もう」。今年８月に「戦国祭」を開いた。
今月の２０日に開いた第２回戦国祭には、町内外から歴史好きの１３人が参加。年齢は２０代から５０代。常連客が中心だが、ツイッターで知って駆け付けた熊谷市の酒のディスカウント店経営の吉澤啓介さん（２８）は「うちの業界も〝戦国時代〟なので」。それぞれ手製の甲冑や、松崎さんが作った甲冑を身に付け、ガチャガチャと音を鳴らしながら乾杯をする。
夫婦で参加した木材業の町田昌之さん（４２）と美井子さん（４２）は、仲良く夜なべをして作った甲冑で〝出陣〟。「甲冑はかっこいいですよね。子どもではできない〝大人買い〟みたいなもの」と昌之さん。
解体業の滝沢忍さん（４０）も「自分たちが住んでいる町にこんなすごい城があったのに、あまり知られていない。もっとアピールできないか」。普段から町のなかを甲冑を着た人が歩いている。そんな〝戦国タウン〟を夢見る。
話が尽きない宴を横目に、松崎さんは「氏邦は命がけで寄居を守ろうとした。負けたほうの歴史は葬り去られてしまうが、その栄誉をたたえることが先祖たちの供養につながる」と話していた。