【ソウル神屋由紀子】韓国政府は29日、家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)が国内で急速に広がっている事態を受けて、家畜疾病危機警報を「警戒」から最高レベルの「深刻」に引き上げた。口蹄疫発生で深刻警報を出したのは今回が初めてで、韓国政府は中央災難安全対策本部(本部長・孟亨奎(メンヒョンギュ)行政安全相)を設置した。
韓国の口蹄疫は、11月29日に慶尚北道安東市の養豚農家で発生が確認されて以来、北部の京畿道や江原道、中部の忠清北道にも感染が拡大。関係機関は12月29日朝までに牛や豚など計約48万頭を殺処分した。
韓国の危機警報制度は2006年に設けられ、「深刻」は行政単位の「道」を基準に、3道以上で発生した場合に適用される。
孟行政安全相は「口蹄疫は同時多発的に発生しており、早期終息に向け政府を挙げて努力する」との談話を発表した。農林水産食品省によると、今後は家畜や関連業者の車両の移動を各道内に限定するほか、口蹄疫が発生していない地域でも農家や幹線道路での消毒を強化する方針。
韓国で家畜伝染病「口蹄疫」が猛威をふるっている問題で、農林水産省は、出入国者が増える年末から来年2月まで、国内の主な空港と港で口蹄疫ウイルス侵入防止への周知活動や防疫対策の重点実施を始めた。今年、宮崎県で発生した口蹄疫問題の検証で、発生国からの旅行者への取り組みが「不十分」と指摘されたばかり。同省は水際対策に力を入れ、理解と協力を呼び掛けている。
年末年始の出国ラッシュが始まった今月27日、成田空港の出国ロビーで同省動物検疫所の職員らが、ティッシュを配ったり、キャラクターの着ぐるみをかぶったりして、防疫対策をPRした。海外旅行する人に、口蹄疫に関心を持ってもらうためだ。
空港内には「STOP!韓国で口蹄疫が発生」「靴底消毒実施中」などと書いたポスターや掲示板が目立つ。到着便の機内では、同省の要請で、日本語、英語、中国語、韓国語で防疫に協力を呼び掛けるアナウンスも始まった。空港ではアジアからの到着便を中心に、肉製品の違法持ち込みがないか検査探知犬を使って調べたり、機内食の残りが適切に処理されているか検査したりして、できる限りの措置を講じているという。
同省は「九州は畜産が盛んな上に、アジアに近く、人的交流も多いので周知を徹底したい」(動物衛生課)と韓国との国際線や国際航路が就航する九州の空港や港を重視。福岡空港の国際線ターミナルでは27日に動物検疫所の職員が靴底消毒の徹底や持ち込みが禁止されている肉製品について注意を呼び掛けた。各施設にはマットを設置し靴底消毒を徹底。長崎県対馬市の厳原港では大みそかに、福岡市の博多港では来年2月1-3日に、PR活動を展開する。
宮崎県で広がった口蹄疫ウイルスは、アジア地域から人やモノを介して侵入した可能性が高いとされる。正月休みを海外で過ごす日本人や、韓国などの口蹄疫発生国が旧正月を迎える2月にかけて人の出入りが増えるため、同省はウイルスの国内持ち込みを警戒する。
新たな取り組みとして、荷物の中にあるゴルフ靴など底に土が付いた靴を検疫カウンターで消毒したり、海外で農場に立ち寄った人に1週間は農場に入らないよう呼び掛けたりしている。ただ、海外で農場に立ち入った人に申告を求めるわけでもない。同省国際衛生対策室の山本実室長は「法律に基づいた措置ではないだけに、粘り強く理解を求めていきたい」と話すが、防疫対策を徹底できるかは不透明だ。
=2010/12/30付 西日本新聞朝刊=