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2010年12月30日(木)付

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警官の暴言―任意調べも権利の徹底を

「お前、なめんなよ。殴るぞ」「人生むちゃくちゃにしたるわ」ICレコーダーに録音された罵声。これが警察官の取り調べだと聞かされれば、驚くほかはない。[記事全文]

女性活躍小国―能力を生かせる社会に

女性の力が発揮されにくい。こうした社会のありようを変えてゆくことができなければ、日本はますます行き詰まるのではあるまいか。男女平等度を示す世界ランキングから、毎年浮かぶ[記事全文]

警官の暴言―任意調べも権利の徹底を

 「お前、なめんなよ。殴るぞ」「人生むちゃくちゃにしたるわ」

 ICレコーダーに録音された罵声。これが警察官の取り調べだと聞かされれば、驚くほかはない。

 そんな暴言を浴びせて自白を迫った大阪府警の警官を、取り調べを受けた男性が大阪地検特捜部に告訴した。

 検察はこの警官について、公判を開かずに罰金刑とする略式命令を求めて略式起訴にした。これに対し、大阪簡裁は「略式起訴は相当でない」と正式裁判を開くことを決めた。

 男性が告訴したのは特別公務員暴行陵虐などの容疑だが、これには法定刑に罰金刑がない。検察は罰金刑のある脅迫罪で略式起訴した。

 そこまでして裁判を避けるのは、密室で自白を強いる捜査手法が公開の場で裁かれるのを嫌ったためではないか。男性の弁護人はそう指摘した。

 身内をかばうような検察の姿勢に裁判所も納得しなかった。略式命令を求める検察の請求を簡裁が認めないのは異例だが、妥当な判断と評価したい。

 裁判員裁判が定着する一方、検察の不祥事が相次いでいることもあり、検察の判断をそのまま追認しがちだった裁判所の意識も変わりつつあるようにみえる。今回もそんな例だろう。

 検察は公判で警官の犯罪を立証するために力を尽くすべきだ。手を抜くようなことがあってはならない。

 この男性は、面識のない女性が落とした財布を着服した容疑で、警官に任意同行を求められた。捜査車両で「お前が犯人と分かっとるんや」と言われた。黙秘権を告知されることもなく、警察の取調室で「手出さへんと思ったら大間違いやぞ」と大声で怒鳴られ、パイプいすを蹴られた。

 客観証拠の乏しい中で、強引な取り調べで自白を強いる。冤罪(えんざい)をうむ構図そのものだ。真犯人が別にいた氷見事件、再審無罪となった足利事件などの教訓は根づいていない。

 こうした取り調べが白日の下となったのは男性がレコーダーを持っていたからだ。でなければ男性の言い分を証明することは困難であったろう。

 「虚偽の自白」を防ぐには、取り調べの様子を一部始終、録画録音する完全可視化がやはり必要だ。

 しかし、いま検討されている可視化は逮捕後であって、今回のような任意捜査は対象になっていない。任意の段階でも、希望すれば録画が可能となる制度を考えてはどうか。

 刑事訴訟法では、任意の取り調べに応じる義務はなく、調べ中でも帰宅できるとされている。だが実際には捜査官の求めを断るのは容易ではない。

 強引な取り調べは任意の段階から始まる。調べを受ける側の権利を捜査官がきちんと伝えるというルールを任意であっても徹底させるべきだ。

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女性活躍小国―能力を生かせる社会に

 女性の力が発揮されにくい。こうした社会のありようを変えてゆくことができなければ、日本はますます行き詰まるのではあるまいか。

 男女平等度を示す世界ランキングから、毎年浮かぶ課題である。国会議員や企業の管理職数、賃金の男女比率にもとづく「世界男女格差指数(GGGI)」で日本は今年、134カ国のうち94位だった。世界の有識者が集まるダボス会議の主催団体「世界経済フォーラム」の調査だ。

 同様に国連の「女性活躍度指数(GEM)」は昨年、109カ国・地域中57位だった。今年国連が設けた「男女不平等指数(GII)」では138カ国中よい方から12位。妊産婦死亡率などを重視したことで浮上した。

 新指標の順位に胸をなで下ろす人もいるかもしれない。だが、健康や寿命では評価が高い日本女性の活躍度が見劣りする事実は、社会の重大な欠陥を浮き彫りにしている。

 欧米では1980年代、グローバル化を背景に、男性が主に支える製造業が人件費の低い国へと出ていく「空洞化」が進行。サービス産業を発展させるために女性の力を生かすことが政策課題となった。

 とくに女性が外で働ける条件づくりが急務とされ、企業の意思決定部門や議会で女性を増やす取り組みが進んだ。世帯主の男性が大量に失業したオランダでは、生計のため女性たちが働き始め、保育所不足で短時間しか働けない人のために「パートの均等待遇」が導入された。

 フランスで導入された週35時間労働制も、育児と仕事を両立できる働き方への要望が推進力になった。

 「女性の活躍へ向けた国際競争」の広がりで、政治への女性参加を重視する動きは強まり、候補者の一定比率を女性に割り当てる「クオータ制」を採用する国は100カ国を超す。

 11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で女性の活躍を成長に生かすこともテーマとなった背景には、こうしたうねりがあった。日本も経済の再生に女性の力をもっと生かせる仕組みへの改革を国民全体で進めていくべき時を迎えた。

 保育や介護への支援の不備、長すぎる労働時間、女性が働くことを手控えさせる税・年金制度など、女性の活躍を阻む仕組みが私たちの社会には張り巡らされている。

 まずはクオータ制などで議会の女性比率を高め、これらの仕組みを総点検するところから始めてはどうか。

 「道の駅」などを通じて消費者が好む農産物の開発に力を発揮したのは、農家の女性たちだった。国際スポーツ大会での活躍ぶりなどを見るにつけても、日本女性のすばらしい力を生かさない手はないと考えさせられる。

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