サイエンス

文字サイズ変更

総合病院:アジア初「輸出」 カンボジアで上場目指す

北原脳神経外科病院が建設計画を進める総合病院のイメージ図
北原脳神経外科病院が建設計画を進める総合病院のイメージ図

 脳神経外科で国内有数の北原脳神経外科病院(東京都八王子市)が来年早々、カンボジアに進出することが明らかになった。救命救急センターや医科大学を併設する大規模総合病院とする計画。入院設備を持つ総合病院のアジア進出は国内初という。経済産業省も原発などインフラ輸出と並ぶ官民プロジェクトとして支援する方針で、医療ビジネスの戦略的“輸出”につなげる考えだ。【清水憲司、和田憲二】

 北原脳神経外科病院は、来年2月をめどに首都プノンペンに救命救急センターを開設。在留邦人に加え、富裕層が増え始めた現地の市民にも医療を提供し、医療技術の向上も図る。民間から出資を募る株式会社病院とし、7年かけて医科大学を併設する大規模総合病院(1000床規模)とし、東南アジア各国から患者を呼び込む計画。将来的には現地で株式上場を目指す。

 病院には日本製の高度医療機器を導入。「医療・環境技術を東南アジアに輸出する」(北原茂実理事長)狙いだ。ドイツに押され気味の医療機器輸出を後押しするため、経産省も支援の具体策を検討している。

 これまでも、岡山県の医療機関が中国・上海などに医院を開設した例はある。しかし、国内の人口減少や診療報酬の頭打ちで病院経営は厳しさを増している。国内有数の都内の別の総合病院グループも海外進出の検討に着手するなど、典型的な内需産業だった病院が海外展開を本格化させている。

 ◇ASEANにらみ

 医師不足が深刻なカンボジアは、日本の医師免許で診療行為が可能だ。また、東南アジア諸国連合(ASEAN)は15年に域内の医療サービスを相互開放する方向で、カンボジアに拠点を置くことで、域内への展開も容易になる。

 都内の医療移転コンサルタント会社「インターナショナル・デザイン・ジャパン」によると、海外進出相談は最近半年で前年同期比3倍のペースとなり、1日40件に上ることもある。「税収減で医療財政が維持できるのか、医師が不安を強めている」(川崎勝久代表)ことが背景にある。カンボジアに進出する都内の歯科医は「不況で病院への行き控えは深刻。医師が安定収入を得られる時代は終わった」と語る。来春、中国・広州の病院で日本人患者向けで24時間体制の通訳サービスを始める薬局・医薬品卸の佐野薬品グループ(秋田市)も「人口が減る国内から海外に目を転じないといけない」(堀川勤常務)と話す。

 ◇国内空洞化懸念も

 ただ、アジアの経済成長などで世界的に医療の需要が増えるとみられ、国境を超えた「医師の奪い合い」も始まっている。日本の医療制度や市場縮小に見切りをつけ、海外へ進出する医師や病院が増えれば、国内の「医療空洞化」を招く事態も懸念される。

毎日新聞 2010年12月14日 2時30分(最終更新 12月14日 2時40分)

PR情報

サイエンス アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド