和歌山

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支局長からの手紙:平和と健康を祈り /和歌山

 この欄も今年最後に。すてきな話を多くの方から聞かせてもらえた1年でした。書き切れなかったうち、二つの講演をご紹介します。

 「がんを知る全国フォーラムin和歌山」では、東大付属病院准教授、中川恵一さんの話が、ノートをびっしり埋めました。本紙で毎週「がんから死生をみつめる」を連載している中川さんは、「家系によるがん発生は5%だけ」「男性のがん死亡は女性の1・5倍。生活態度が悪いからでしょう」「たばこは、隣の人もがんになる。吸う人は『自業自得』とうそぶくが、道連れを作っているんです」など、笑いを誘いながらも説得力のある言葉で会場に迫りました。

 医療側についても「抗がん剤は、米国のように専門内科医が処方すべきなのに、日本では手術をした外科医が抗がん剤まで扱うことが多い」などと、問題点を指摘。「セカンドオピニオンを求める人を怒鳴りつけるような医者には、猛省を促すべきだ」とボルテージを上げました。がん防止策としては「どんなに心掛けても避けられず、3分の1が運」としながらも、「野菜中心の食事で酒はほどほど、運動と睡眠を十分に」。

 このフォーラムは医聖、華岡青洲の生誕250年を記念して開かれました。全身麻酔による乳がん摘出手術に世界で初めて成功しています。中川さんは、日本のがん治療で激痛緩和が不十分な状況を示して、「『治』と『癒』を同時に進めるのが医療の理想であり、青洲が先駆者だった」と、改めて称賛しました。

       ◇

 アフガニスタンで医療、かんがい事業などに携わるNGO「ペシャワール会」(電話092・731・2372、アドレスpeshawar@kkh.biglobe.ne.jp)現地代表の中村哲さんの講演は、「目からうろこ」となりました。「私は、イデオロギーや評論家を信じない。『国際』というものにだまされるな。『この患者が、現地でどう幸せに暮らせるか』だけが大事なんです」との言葉は、現地で活動している人だからこその重みを持ちます。

 私たちには、「タリバン=悪」という図式が刷り込まれていますが、「タリバン政権になって治安が安定し、診療活動をやりやすくなった。それまでは強盗被害に備え、銃などを各診療所に配備していた」と証言。逆に米軍については「『ピンポイント攻撃でテロ組織のみを制圧している』というが、犠牲者の多くは、逃げ遅れる年寄り、子ども、女性たち。ペシャワール会を誤って機銃掃射した米軍に抗議したら、『我々は、怪しいと思ったらまず攻撃し、その後で様子を見る』と釈明した」。かといって、どちらかを敵視している訳ではなく、「アフガンの人は、(アルカイダの)ビンラディンでも、(米国元大統領の)ブッシュでも、求められればかくまうだろう」と解説しました。

 医師として、農業普及者として、まるで戦士のように過酷な活動をする中村さんですが、講演は激することなく淡々と。小柄な好々爺(こうこうや)といった感じです。「現地で活動する者が立派なのではない。例えば家族を介護していてこの講演会に来られなくても、募金を寄せてくれている“無数の英雄”が、海外の活動を支えてくれているんです」という言葉に感動しました。

 世界の人々が安らげる平和な新年を迎えられますように。【和歌山支局長・嶋谷泰典】

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 スポーツニッポン新聞は1月1日から、旧制和歌山中(現桐蔭高)出身でプロ野球の大毎、阪急、近鉄で監督を務めた西本幸雄さんの野球人生をたどる連載「我が道」を掲載。桐蔭高の後輩にあたる内田雅也編集委員が執筆します。

毎日新聞 2010年12月27日 地方版

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