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遅すぎた感はあるが、これを政権立て直しの第一歩とするしかあるまい。暮れも押し詰まったきのう、民主党が役員会を開き、1月の通常国会が始まる前に、衆院政治倫理審査会で小沢一[記事全文]
イラクで3月の総選挙から9カ月を経て、すべての主要勢力が参加する挙国一致内閣が発足した。イラク戦争から7年半、独裁体制が崩壊し、民族と宗派の対立や暴力が噴き出した国で、[記事全文]
遅すぎた感はあるが、これを政権立て直しの第一歩とするしかあるまい。
暮れも押し詰まったきのう、民主党が役員会を開き、1月の通常国会が始まる前に、衆院政治倫理審査会で小沢一郎元代表に出席を求める議決をする方針を決めた。
小沢氏の元秘書ら3人が政治資金規正法違反容疑で逮捕されたのは、今年1月のことだ。小沢氏が国会での説明を拒み続けたこともあり、この1年、国会論戦は政治とカネをめぐる不毛な対立を脱することができなかった。
民主党の議決方針は、党として最低限のけじめといえる。
とはいえ議決には強制力はない。小沢氏は出席を拒む姿勢を崩していない。「国会の決定があれば従う」と言った約束を小沢氏は果たすべきだ。
それでも応じないなら、菅直人首相と民主党執行部は、出席を強制できる証人喚問を実現しなければならない。
一方、菅政権から連立参加を打診されたたちあがれ日本は、「支持者の理解が得られない」と、拒否する方針を決めた。財政再建を重視する考えこそ共通だが、理念も政策もおよそ異なる両党の連立にはもともと無理がある。当然の反応だろう。
この間の菅首相の定見のなさには、驚きを禁じ得ない。
護憲の社民党との連携を模索したかと思うと、今度は「自主憲法制定」を掲げるたちあがれ日本への連立打診。理念・政策の軸はどこにあるのか。
民主、国民新の与党は、衆院で再可決できる3分の2の議席を持たない。ねじれ国会の下では、予算執行に欠かせない関連法案などの成立は難しい。政権が直面する状況は確かに深刻だが、なりふり構わぬ数合わせに走ればかえって民意が離れるだけである。
古くさい国対政治から、徹底した議論を通じ、政策課題ごとに合意形成を図る「熟議の国会」へ。そんな志を、菅首相はもう忘れてしまったのか。
社会保障制度改革でも、消費増税を含む税制改革でも、国民的な合意を目指すなら、野党第1党の自民党との話し合い抜きには前に進めない。
中間選挙で敗北した米国のオバマ政権は、ブッシュ減税の延長に応じることで共和党の協力を引き出し、米ロの新戦略兵器削減条約の批准承認を成し遂げた。
日本の民主党も、自民党が提案している財政健全化責任法案を丸のみするくらいの大胆な発想で、与野党の政策協議に道を開いてはどうか。
来年で政権交代は3年目を迎える。内政・外交とも、日本の政治に時間を空費している余裕はない。来るべき国会を、与野党がともに日本の将来を真剣に探る機会にしなければいけない。
そのための土俵を整える重い責任を、菅首相には自覚してもらいたい。
イラクで3月の総選挙から9カ月を経て、すべての主要勢力が参加する挙国一致内閣が発足した。
イラク戦争から7年半、独裁体制が崩壊し、民族と宗派の対立や暴力が噴き出した国で、やっと強権ではなく、民主主義に基づいて国家統合を実現する足場ができたと評価したい。
特に旧フセイン政権を支えたイスラム教スンニ派勢力が、初めてシーア派が主導する政権に、ほぼ対等の立場で参画する意味は大きい。
スンニ派は米国の対テロ戦争の標的となり、政治舞台では影が薄かった。ところが選挙でアラウィ元首相が率いる会派が、スンニ派票をまとめ、議会の最大会派になった。
首相のマリキ氏は一度はたもとを分かったシーア派宗教勢力と統一会派を復活させて、政権継続を果たした。
挙国一致内閣は、マリキ、アラウィ両氏の激しい多数派工作が、全政治勢力を巻き込んだ結果ともいえる。
アラウィ氏自身も政権入りし、外交と安全保障を扱う国家戦略評議会の議長に就任することになった。
しかし、新政権の前途の多難さは、国防、内務、安全保障の3閣僚が決まっていないことに端的に表れている。
イラクの未来を開くためには「挙国一致」を成功させるしかない。国造りの基本となる治安の改善という重要課題も、イラク人自身が民族や宗派を超えて力を合わせるしか道はない。
今年8月末に米軍戦闘部隊が撤退した後も、シーア派やキリスト教徒を狙ったテロは続いている。イラク治安部隊の訓練や復興支援のために現在5万人いる米軍は、来年末には撤退する。
この2年ほどで治安が劇的に改善したのは、スンニ派部族勢力が米軍と協力して、国際テロ組織アルカイダと対決したためである。しかし、シーア派にはスンニ派勢力への不信感が強い。
両派が挙国一致内閣を組むことで、差し迫った課題に日々、関わることになる。治安面での宗派を超えた連携が生まれることを期待したい。
新政権ではマリキ首相とシーア派勢力にはイランが影響力を持ち、米国やアラブ諸国がアラウィ氏を支える構図が続くだろう。そんなイラクを分裂させないためには、国際社会が協力して支援態勢を組むことが必要だ。
日本は戦後のイラクの未曽有の混乱に責任なしとはいえない。米国のイラク戦争を支持し、戦後、自衛隊を派遣して、米英の占領を支援した。
イラクは推定原油埋蔵量で世界第3位の産油国であり、かつサウジアラビア、イラン、トルコ、シリアなど中東主要国と国境を接する場所にある。
イラクの安定は、この地域の安定に欠かせない。それを側面から支えるために、日本は社会開発や経済開発で支援する姿勢を見せるべきである。