北九州市に本拠を置く指定暴力団工藤会が、小倉南区上貫(かみぬき)3丁目の住宅地に事務所を開設してから10カ月。事務所前の貫(ぬき)小学校の通学路で、福岡県警小倉南署生活安全課長の小川貢司(こうじ)さん(59)が約9カ月にわたり、出勤前のボランティアで朝の立ち番を続けている。年内は終業式で終わったが、3学期が始まれば再開する。「事務所撤去が実現するまで、子どもたちの安全を見守り続けたい」と笑顔で話す。
小川さんは月-金曜の午前7時半から8時半まで事務所前に立ち、児童を迂回(うかい)路に誘導する。
「おはようございます」と大きな声で声を掛け、体調が悪そうな児童を見つけると、「どうしたの。風邪でもひいた?」と、子どもの目線に合わせて、かがみこんで話し掛ける。4年生の男子は「雨の日でも立っていてくれるので、とても安心です」と話す。
「立ち番を始めた頃はこんな雰囲気ではなかった」と小川さん。事務所が開設された3月、撤去運動に当たっていた暴追運動リーダー宅への発砲事件が起きた。通学路は、警備の警官や報道陣で物々しい雰囲気に包まれた。児童は緊張してうつむき加減で登校していたという。
4月から立ち番を始めた。毎朝声掛けを続け、今では全校児童が小川さんの顔を覚えた。自分からあいさつする子も増えてきた。立ち番では夏場は蚊に悩まされ、今は吹きすさぶ寒風が59歳の体にこたえる。
署への出勤は午前9時の始業時間ぎりぎりになる。このため、同僚に負担をかけていないか心苦しく感じるという。
地元の貫校区自治連合会副会長の丹村(にむら)賢一さん(63)は「早い時間から毎朝欠かさず、街頭に立ってくれている。大変ありがたい」。貫小の学校関係者は「非番の日も含めて、暑い日も寒い日も子どもたちを見守ってくれて頭が下がる。おかげで、子どもたちが親しみを込めてあいさつができるようになった」と感謝する。
2学期の終業式があった24日、小川さんは下校時間にも立ち番をした。1人の児童から「いつもありがとう」と声を掛けられ、照れくさそうだった。定年まであと1年。「暴力団から市民を守る」。警察官として使命感を貫いていくつもりだ。
=2010/12/28付 西日本新聞夕刊=