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【ボクシング】亀田祭り。要は面白いか面白くないかの問題だ。

スポルティーバ 12月27日(月)15時40分配信

 さいたまスーパーアリーナで『亀田祭り』と銘打たれて開催されたイベントは、順当に3兄弟が勝利を収めて終わった。三男・和毅(ともき)はタイ国ランカーを4度倒して3回KO勝ち。次男・大毅は11勝(5KO)3敗の挑戦者に辛くも判定勝ちでWBA世界フライ級V2。長男・興毅は峠を過ぎた元王者からダウンを奪って判定勝ちし、WBA世界バンタム級王座を獲得。日本初の3階級制覇を成し遂げた。

 24歳の興毅が25戦24勝(15KO)1敗。21歳の大毅、21戦19勝(11KO)2敗。19歳の和毅は17戦全勝(12KO)と、いまだ負けを知らない。3兄弟の勝率は95パーセント超。みごとな数字である。

 しかし、まだ檜舞台に上がっていない和毅はともかく、興毅と大毅は様々な点で何度目かの曲がり角に立たされているといえる。

 この日、主催者は観客数を1万1000人と発表したが、実数は6000人から7000人といったところ。1万5000設けた席の半数以上が空いているという状態だった。初めて3人が揃って同じリングに上がり、しかもダブル世界戦。興毅にいたっては日本初の記録がかかった試合だった。500円席を4000枚も用意したにもかかわらず、である。

「お客さんもいっぱいおったし、その期待に応えなアカンと思った」と興毅は話したが、プロモーション社長の立場としては、複雑な胸中だったのではないだろうか。

 今年3月、WBA世界フライ級王者だった興毅が暫定王者ポンサクレック・クラティンデーンジム(タイ)と統一戦を行なったときも、1万人収容の会場(有明コロシアム)にわずか2000人前後という寂しさだった。

 テレビの視聴率も同様だ。内藤戦は43パーセント超、ポンサクレック戦は22パーセント超、今回が14パーセント弱。裏番組の内容によって視聴率は左右されるとはいえ、極端な右肩下がりである。

 厳しい見方をするならば、これが亀田兄弟の現状ということになるのだろう。

 感情論を抜きに考えた場合、その理由の多くは彼らの試合内容に求めなければなるまい。注目度の高さに試合の質がついていっていないのである。要は試合が面白いか面白くないかという、ボクシングの本質的な問題だ。

 興毅の試合はテクニカルではあるがエキサイティングではなく、ベストを尽くしているにもかかわらずスリルを欠く傾向がある。今回の大毅にいたっては見せ場らしい見せ場は9ラウンドに1度あっただけである。興毅も最終回にダウンを奪って恰好をつけたかたちだが、それ以外は見る者を釘付けにするようなシーンを作り出すことはできなかった。

 辛抱強くカウンターを狙うのも策のひとつには違いないが、多くの観客、視聴者は選手ほど辛抱強く待つことはしない。見る側がボクシングに求めるものは、自分たちの日常とは異なる非日常、つまりリスクを恐れずに貪欲に勝ちに行く姿である。そのことを再確認する必要があるだろう。

 興毅5試合、大毅5試合、計10度の世界戦はすべて判定勝負。もちろんKOはない。売り出しのころから彼らは「亀田とKOはセット」と言って世間の耳目を集めたが、今では「亀田と判定がセットやな」と自虐的なコメントを発しているほどだ。奪ったダウンも今回が初めてとあっては、ボクシングの醍醐味、面白さを十分に伝えきれているとはいえまい。KO至上とは言わないが、やはり有言不実行ではKOを期待するファンとの乖離(かいり)は深まる一方といえよう。

 同じ日本の世界王者として比較対照とされる長谷川穂積(真正)が一時は5連続KO防衛、西岡利晃(帝拳)がV4まですべてKO、内山高志(ワタナベ)も世界戦3連続KOをマーク。技巧派として鳴らす粟生隆寛(帝拳)も世界戦4戦でKO勝ちはないものの計3度のダウンを奪っている。

 ファン離れを食い止めるには、興毅が対戦相手のムニョスを倒した12ラウンドのような戦いを全般にわたって展開することが最善の策といえよう。そのためには、とにかく群を抜く強さを身につけるしかあるまい。シンプルだが最も難しいことでもある。

 3階級制覇という目に見える栄冠は手に入れた。これからは幅広い層から認知され、リスペクトされる存在をも同時に目指してほしい。そうした“名誉”という形のない勲章を得ることはベルト獲得よりも困難を極めるはずだ。

「バンタム級のビッグネームのなかに入って、一気に抜いて行けるようにサムライ魂で頑張る。一生懸命に練習して強くなりたい」

 兄弟を牽引する興毅の決意に期待したい。

原 功●文 text by Hara Isao

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最終更新:12月27日(月)15時40分

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