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[22391] 【ポケモン】氷の鎧を脱がせないで【ブラック&ホワイト】
Name: アウウ◆09594bf1 ID:f6242140
Date: 2010/12/27 23:55
一匹だけポケモンが擬人化します。苦手な人は注意してね!
ポケットモンスターブラック・ホワイトのネタバレを含みます、でんどういりしてない人は注意してね!







カゴメタウン――夜になると人もポケモンも、生物たちが姿を消す、どこか懐かしさを感じさせる小さな町。
その町の裏には、ジャイアントホールと呼ばれる場所がある。
その昔、空から“何か”が降ってきた時にできた大きな穴。そこには空から降ってきた怪物が住み、近づくものは人もポケモンも食べてしまうという。
それだけならば少し怖いだけの昔から伝わる御伽噺だが、それだけではなかった。
本当に怪物は存在し、ジャイアントホールが出来た時からそこに住まっているのだから――。



夜になれば人が消えるが、昼間は至って普通の町。それこそトレーナーたちにとってはポケモンセンターに寄るためだけの、つまらない町だが。
しかし昼間とはいえ、ジャイアントホールに近付く住民はいない。
いない――――はずだった。

数年前に越してきたグレイという少女がいる。
女の子らしからぬ名前だが、本人は気に入っているようで誇らしげな彼女の名乗りを聞いた人間も多い。
元々この町に住んでいたわけではないが、数年も居着けば町の常識は少女の常識となり、彼女もまた夜、外出することはなかった。
だがやはり染まりきっていなかったのか、それとも好奇心を抑えきれなかったのか、グレイは“昼間”にジャイアントホールに向かってしまう。
夜一人でトイレに行けない子供は数居れど、昼間に一人でトイレに行けない子供は少ない。

『ジャイアントホールに行って戻ってくれば、みんなに自慢できる』

そんな軽い気持ちでグレイは町から飛び出した。


――そして、彼女は出逢う。
黒き竜 ゼクロム
白き竜 レシラム

それに肖り名付けられた、畏怖すべきもの――キュレムと。











『ヒュラララ!』

(・・・・・・もしかしなくとも、あたしってばピンチ?)

文字に起こすと少しマヌケな鳴き声だが、それを正面切って向けられるグレイにとっては冗談ではない。
洞窟の寒さもあり、チビりそうだ。

(いやさオカシイ。ジャイアントホールが出来たのってすんごい昔なんでしょ? なんでこんな元気なのさ、この子は)

人間だったら輪廻転生を大分繰り返してるはずだが、目の前の怪物はお年を召しているようには全く見えない。むしろ若々しい気がする。

(あー意地になって寒い中進むんじゃなかった! これは完全に選択肢ミスったよ!)

昼間に出てきたはずなのに、吹雪の中を進んでいたらいつの間にか時刻は深夜を示していた。
内心号泣なグレイの脳裏に両親の顔が思い浮かぶ。

『母さんたちはサザナミタウンで大人のお仕事があるから☆』
『一週間で戻ってくるから、いい子で待ってるんだぞ? これからお姉ちゃんになるんだからな☆』

(一人娘置いて何が大人のお仕事だよっ!? 一週間ってどんだけお盛んなんですかマイペアレント! ええい、台詞さえなければ浸れたのにっ)

走馬灯の内にも目の前の怪物という脅威は近づいてくる。
最早距離は文字通り目と鼻の先。
体が恐怖と寒さで震える。というか比重では寒さの方がデカい。

(くっ、これは定番の命乞い!? いやでもそれは死亡フラグな気がしてならない!)
「・・・・・・あ」

震えながらも何とか声を絞り出す。
最期の言葉になるかもしれない、慎重に――

「あたしの名前はグレイ! カゴメタウンに住む灰被り姫(シンデレラ)とはあたしのことよ! さあ、そうと分かったら跪いて!」
『ヒュラララ!』
「マジごめんなさい」

即刻一歩下がって土下座。シンデレラにプライドも何もあったものじゃない。
――と、土下座したはずみでグレイのポケットから小瓶が零れ落ちた。

『――!?』

それを見た怪物が後ずさるが絶賛土下座中のグレイは気づかない。

『・・・・・・』
「あたしは食べても美味しくないけどもし食べるなら痛くないようにガッツリいってくれると泣いて喜びますんでどうか一つ!」
『・・・・・・』

怪物は考えるように首を傾げ、グレイはベラベラと言葉を吐き出し続ける。
そんな図が五分ほど続いたところで、グレイが漸く異変に気づいた。

「昔話でしょ(笑)とか言って本当スイマセンでしたっ・・・・・・?」

恐る恐る顔を上げると相変わらず怪物は目の前にいて、叫び声をあげそうになるが踏みとどまる。
怪物との距離が先ほどよりも少しだけ空いていたからだ。
そして自分と怪物との間に落ちている小瓶に気づく。

(あ、あれはジョウトの友達から貰った聖なる灰(笑)!? 常に暖かいからカイロ代わりに持ち歩いてたんだった! や、やっぱりこんな寒い所に住んでるくらいだし暖かいものが苦手だったりするの!?)

ゆっくりと手を聖なる灰に手を伸ばす。怪物はそれを黙って見ている。
――掴んだ!

「そぉい!」

――投げた!

パリンッ

――割れた!(小瓶が)

「や、やったの!?」

微動だにしない怪物を見て、“こういう場面で言ってはならない言葉”を言ってしまうグレイ。

『――ヒュラララ!』
「やってないかー!」

ヤケクソ気味に叫び、今度こそ死を覚悟する。

(ああ、せめてまだ見ぬ弟か妹を見てから死にたかった・・・・・・母さん、父さん、先立つ不幸をお許しください)

『――!!』

言葉にならない声と共に、凍えるような風がグレイを襲う。

あ、氷付けか、と他人ごとのように思いながらグレイは意識を失――――わなかった。

「・・・・・・はて?」
「――あー、スッキリした。まったく我が力といえど自分の鼻水まで凍らせることはなかろうに」

それを疑問に思ったグレイが固く閉じていた目を開けるとそこには同じくらいの少女が一人立っていた。
少女は透き通るような青みがかった白い髪をしている。そう、それは喩えるならば怪物の肌のような、氷の色。申し訳のように身に着けたぼろ布のみずぼらしさを感じさせない神々しさを持つ彼女を“少女”などという表現で収めていいのかはわからないが。


「ここ数百年、鼻の穴が痒くて痒くて堪らなかったのが漸く解消された。うぬのおかげじゃ。いや、私の言いたいことが一発で伝わるとは思わなかった。その灰を私の鼻に入れてくしゃみをさせてくれ! という私の思いがうぬに届いたのじゃな!」
「あ・・・・・・あう?」

うんうん、と頷く少女にグレイは困った顔をするしかない。
いくら子供でも、目の前の現実は許容し難い。
怪物が、いきなり、少女に、なった、などという現実は。

「この気持ちを伝えるためにどれだけの生命を食い荒らしたのか知れぬな。あまり生態系を崩すのは好ましくないのだがのう」
「あー、えーと、あのぅ?」
「ん? なんじゃなんじゃ。言いたいことがあるなら言ってみろ。うぬと私は最早対等の存在、相応の敬意と態度を持って接しようではないか」

偉そうに言う少女。だが混乱中のグレイに気にする余裕はない。

「で、ではお言葉に甘えさせていただいて」
「うむ」

むしろ普通に敬語で返してしまった。

「あなたがさっきまであたしの目の前にいた怪物さんですか?」
「怪物などと言ってくれるな。本来の私はもっとスマートなのだからな。それにうぬたちが付けてくれた名前があるだろう?」
「な、名前・・・・・・?」
「キュ、キュ・・・・・・」
「キュ・・・・・・キュレムさん、ですか?」

まさか、という気持ちとやっぱり、という気持ちが混ざり合った言葉。
対する少女の返答は、

「おお! そう、それだっ。少しゴツい気がしなくもないが、うぬたちがくれた大切な名前じゃからな」
「そ、その、キュレムさんは何故そのようなお姿に?」

まさか聖なる灰の力!? とグレイは驚愕する。

「なに、ではなく、私の力のちょっとした応用だ。集中しないと使えないからこの姿になるのは数百年ぶりだがな。あれだけ鼻が痒いと集中もできぬ。この姿ならば掻きたいところをいつでも掻けるというのにな」

「は、はぁ。なるほど・・・・・・」
「そもそもこの星の環境が我に合わぬのじゃ! 否が応にも重苦しい氷の鎧を纏わねばならぬのだからな」

星とかかなり大きな話になってきたが、グレイはスルー。この状況でそんなことにまで頭が回る子供はいないだろう。

「じゃあ聖なる灰の力じゃなかったんだ・・・・・・がっかりというか逆に驚愕というか」
「そう落ち込むではない。私の氷を溶かす灰なのだ、大したものだぞ? 実際」

その灰ももう散ってしまったんですが・・・・・・とグレイは涙目。

「さて、私の力が弱まったとはいえこの洞窟は寒い。外に出ようではないか」
「えっ、あたし生きて帰れるの!?」
「? 何を言っている? まあ死にたいのならば止めぬが、私としては久しぶりの友人じゃ、うぬが寿命で死ぬまでは付き合うつもりなんじゃが」

また聞き捨てならない言葉が聞こえたが、グレイは助かったことに歓喜して聞いていない。
灰被り姫らしい、彼女の不幸である。

「では参ろうか。うぬの家へ」
「あ、はいっ!」
(こ、ここここの子も来るの!? あ、いやでも下手に断ったりしたらあたしってばマルカジリ? あうあう・・・・・・)
「外がどうなっておるのか楽しみじゃな」





あとがき
自分の体を凍らせちゃうドジっ子なキュレムが可愛くて書いた。
時系列的には主人公たちが旅に出る直前です。
次回あとがきにキャラ紹介を載せますのでこの作品の主人公グレイとキュレムたんについてはそこで。



[22391] その2
Name: アウウ◆09594bf1 ID:f6242140
Date: 2010/12/25 21:46
「うーむ? そこに居るのはグレイか? これはこの町に来て初めての本官の仕事であるな! 不良少女の補導である!」
「む? 誰じゃそこのヒゲモジャは?」
(逃げてー! お巡りさん超逃げてー!)

ジャイアントホールからキュレム(少女ver)を伴っての帰り道。
カゴメタウンに到着し、後は階段を上がればすぐにマイホーム、というところでこの町唯一の公務員、お巡りさんに遭遇。
昼間は町に、夜間はポケモンセンターに常駐しているはずのお巡りさんとまさかのエンカウント。
仕事をしていないとばかり思っていた彼が夜の見回りを一応やっていたらしいことに驚愕するがそれは一瞬。
すぐに自分の隣の少女の存在を思い出し、あたふた。
下手なことをしたら殺られる。自分もお巡りさんも。

「一緒に居るのはグレイの友達か? ならば一緒に補導であーる!」
「うむ、なかなか立派な髭じゃの。手入れも行き届いておる」
「ほうほう! 目の付け所が鋭いな君は! そうなのである! 本官の髭は毎日セットに一時間以上かけて――」

キュレムの言葉に気をよくしたお巡りさんが髭を撫で、誇らしげに語り始める。

(――今しかない!)
「こ、こっち!」
「む・・・・・・? いやしかしあやつが――」
「いいから!」

即断即決即行動。
キュレムの手を引いてグレイは走り出す。

(あの人の髭自慢はほっとけばいつまでも続く! そのまま朝までよろしく!)

髭を褒められたのだ、彼も本望だろうと勝手に決めつけてダッシュ。
二人は階段を駆け上がり一気に家まで駆け抜けた。



「はーっ、はーっ・・・・・・」
「どうしたのじゃ、いきなり」
「・・・・・・」

特に気分を害した様子のないキュレムを見て、グレイは彼女の評価を上方修正。どうやら今時のキレやすい若者ではないようだ。

「い、いやあなたのことをなんて説明したものかと・・・・・・」
(とりあえず気がついたらあの世でした☆ 展開はなさげ・・・・・・かな?)

ひとまず安心だが、それにしたってピンチなことには変わりない。
幸いなのは両親が不在だということと、お巡りさんがキュレムの存在を“グレイの友達”だと認識していること。
しかし前者は一週間という期限つき後者に至っては明日にでもお巡りさんに逢えば言及されてしまう。

(もしも彼女の正体が怪物だとバレて騒ぎになったらヤバい。『うるさい虫め』とか言って殺される。いくらこの子が温厚だとしても騒ぎになるのはマズい!)

最早グレイの中でキュレム=破壊神の方程式が成り立ち、グレイの頭の中には如何に彼女から逃れるか、または如何に彼女の脅威から町を守るか、しかない。

「ああ、そうか・・・・・・確かに生物は自分と異なるものを排他しようとするからの! 私を守ろうとしてくれていたのか、うぬは!」
「え、あ、いや・・・・・・まあ、そう、かも?」

怪物verの時とは違う、キラキラと光る瞳。
それは尊敬の眼差しにも見えた。

「感動した! 人間も変わったのう・・・・・・“王”が居た時とは考え方も変わったようじゃ。ううむ、しかしうぬには借りを作ってばかりじゃのう」

キュレムの表情が(`・ω・´)から(´・ω・`)に変わる(※イメージです)。

「いえいえ! 誰かに親切にするのは当たり前のことですよ!」
「――うむ! うぬの態度には感服したぞ。私にはこの身しかないが、できる限りうぬの力になろう。なんでもいいぞ? 世界が欲しいでも明日が欲しいでも彼女が欲しいでもな!」
(選択肢が色々とツッコミどころ満載なんですが――!?)

泣きたくなる気持ちを抑え、しかし気づく。

(これってもしかしたらチャンス・・・・・・? ううん、今しかない!)
「な、なら!」
「うむうむ」
(遠くでひっそりと暮らしてください! こう言うんだ!)
「・・・・・・と」
「と?」
(言え、言うのよっ、グレイ!)
「と・・・・・・遠くの場所に一緒に行きたいなあ、なんて・・・・・・えへ?」
(バ――バカバカっ、あたしのヘタレェ!)
「――うむ! 委細承知! 私もこの世界を見てみたかったところだったのだ、やはりうぬと私は何らかの絆で繋がっているのだな!」











早朝。そう、まだ日も昇りきってもいないような朝早く。
グレイとキュレムは家を出て、カゴメタウンのゲートの前に居た。

「では参ろうか! 思う存分、世界を見て回ろう!」
「・・・・・・はい」

どうしてこうなった。
それがグレイの心からの疑問だった。
いや、理由は分かっている。分かってはいるが理解したくない。

ただ言い訳をさせてほしい。

(だってこの子はジャイアントホールの化け物なんですよ? 遠くに行け、とか言ったら『お前が遠くに行けば相対的に私が遠ざかるだろう?』とか言って殺されますよぅ! だけど何故かキュレムさんはあたしを気に入ってるみたいだし? あたしと一緒に旅して、あたしよりもお気に入りの“何か”を見つけてくれればあたしは解放されて町も無事、彼女もできる!)

いや、彼女はいらないが。
ともかく無理やりにでもそう思い込むことで自分を安心させ、前向きな思考を心がける。

「まずはビレッジブリッジを渡って、ソウリュウシティ・・・・・・でいいですよね?」←既に敬語で確定
「む? なんじゃそれは?」
「へ? タウンマップ・・・・・・つまり地図ですよ」

地図もなしに子供が歩き回るのは自殺行為。場所によっては迷子で済まない。

「ふーむ・・・・・・旅にそんなものは不要じゃろう。どれ」

キュレムがタウンマップに触れると、ピキピキッと凍りつき、そして呆気なく砕けてダイヤモンドダストに一瞬で変貌する。

「・・・・・・」
「旅は気の向くまま風の向くまま。私がこの星に来る時も気の向くまま重力に引かれるまま、じゃ」
(ああ、やっぱりあたし近い内に死ぬかもしれません・・・・・・)

――グレイの旅は前途多難。だが彼女にはもう一人の少女が常に共に在る。
黒でも白でもない、透き通るよう(クリアー)な少女が。











「はぁ!? 通行止めって橋がですが!?」
「はい。あなたで一旦通行止めになります。橋の老朽化が進んでいるのでその工事があるんですよ。
(逃げ帰ることもできないってことですか・・・・・・本当に薄幸な灰被り姫みたいだよ)

このゲートに来るまでも野生のポケモンはキュレムを恐れているのか近づいて来なかったが、トレーナーたちは別。朝っぱらから勝負を挑まれて断るのが大変だった。

(そりゃポケモンを持ってない子供が此処まで来れるはずないしなぁ)

トレーナーなら色々と自由が利くと思ってカモフラージュに空のボールを持ってきたのがミスだった。

(ポケモンを捕まえたくても、キュレムさんが居るとなると・・・・・・昔話が本当なら、食べられかねない)

そんなトラウマを持ちたくはないのでグレイはポケモンを捕まえる気はない。
別にジムを制覇するのが目的でもないし、バトルを断るのも一苦労なのでボールもソウリュウシティに着いたら預けるつもりだ。
今はボールなどよりもタウンマップが欲しい。
この辺りの地形はまだ何となく分かるが、ソウリュウシティよりも向こうにグレイは行ったことがない。グレイにとっては死活問題だ。

「懐かしい匂いがするな、この辺りは」
「来たことがあるんですか?」
「敬語はいらぬと言っておろうに。・・・・・・来たことがあるわけではないが、知っている匂いがある。私が知る匂いは少ないからの、間違えぬよ」

そう言うキュレムの視線の先には何もないようにグレイには見えたが、キュレムには遠くに塔が見えていた。聳え立つ螺旋の塔が。

グレイは首を傾げ、キュレムは笑いながら一歩踏み出した。

「さあ、まだ始まったばかりだ。慌てずゆるりと行こうではないか」

髪の色と同じ水色のワンピース(元はグレイの)を着こなすキュレムがグレイを促す。

「あ・・・・・・はい」

名前と同じ色のロングスカートを翻し、グレイもキュレムの後を追う。
今は万が一にもカゴメタウンに危害が及ばないようにするために先に進むべきだろう。

(・・・・・・本当、展開が早すぎだよ。あたしってば昨日までは普通の女の子してたんだけどなぁ)

好奇心は猫をも殺すと言うが、猫どころか人も余裕で殺せる。まずはそう心の辞書に書き加えてから。

「それにしてもソウリュウシティに近づくにつれてトレーナーが弱くなってる気がするんだよね・・・・・・? なんかこう、雰囲気でだけど」
「うぬも感じておったか、ジャイアントホールの周りの生物は私の力を感じ取り襲って来なかったが、ここから先は身の程を知らぬものが襲いかかってくるやもしれんな」
(・・・・・・草むらは避けよう、うん)








あとがき
この作品を書きたかった理由の一つとして、橋とか通行止めになってなかったらプラズマ団涙目だよなあ、と思ったからだったり。
まあキャタピーとかコイキング60lvを出してくるトレーナーたちもいますが。
以下人物紹介です。


グレイ
自称カゴメタウンの灰被り姫(シンデレラ)
主人公の女の子。
年齢はゲームの主人公たちと同年代。
少し大人びてる気がするのは主人公たちのグラの年齢が一気に上がったように見えたので精神年齢も少し大人にしたから。
せいなるはいをくれる友人がいるあたり、交友関係は広いらしい。

手持ちとは言えないが、仲間はキュレム(Lv75)。
個人的にはCVはアリソンとかフェイト(作者の趣味です)


キュレム
この作品のヒロイン(?)ってかヒーローのクーデレ娘。
襲い来るプラズマ団をちぎっては投げちぎっては投げの大活躍・・・のはず。
ゲームでは微妙なこごえるせかいもこのSSではロマン仕様のキュレム最強技です。
人間になれるのはツッコマナイデクダサイ。人間との対話は重要ですよね、やっぱり。
何やら色んなフラグを乱立させているフラグメイカー。しかし回収されるのかは不明。
個人的にはマイナーチェンジ版の看板ポケモンになると思う。
CVはとがめとかなのはを(やっぱり作者の趣味)。


このSSはほのぼのメインを目指しており、シリアスな展開はNと関わらないかぎりありません。
まともなバトル描写もほとんどないかと。
またそのバトルもロマン仕様でわざの効果や威力などがゲームとは異なります。ご了承くだしあ><

このSSを通してキュレムたんの魅力が少しでも伝わればいいなぁ!



[22391] その3
Name: アウウ◆09594bf1 ID:03f7ed78
Date: 2010/10/09 16:48
ソウリュウシティ。
ポケモンリーグに最も近い町であり、つまりはチャンピオンを目指すトレーナーたちが最後のバッジを勝ち取りに訪れることの多い町である。
この町のジムリーダー、シャガとアイリスのことはポケモンリーグに興味のないグレイも知っている。
カゴメタウンから近いということとリーダーであるアイリスが自分よりも幼い少女であるというも大きいが、このジムのトレーナーたちがドラゴンタイプの使い手であることも理由の一つである。

カゴメタウンの灰被り姫(シンデレラ)、グレイ。
今でこそ女の子らしい名乗りをする彼女だが、昔はその男っぽい名前もあり、可愛いものよりカッコいいものに憧れていた時期がある。
幼い時にテレビで見た、カントー・ジョウト地方のポケモンリーグの試合。
チャンピオン・ワタルが華麗に勝ちを決めたはかいこうせんの光は今でもグレイの目に焼き付いて離れない。

(・・・・・・でも人間に向けてはかいこうせんは危ないよね)

それはさておき、ドラゴンタイプに憧れを持っていたグレイだがキュレムと出会い、既にトラウマに変貌している。
カゴメタウンよりはいくらか施設があるとはいえ、トレーナーではない人間にとってはさほど魅力的とは言えないソウリュウシティ。

(キュレムさんはこの辺りを知ってるみたいだし、あんまり興味もないみたいだからポケモンセンターに寄ったらすぐに出発しよう)

カゴメタウンからソウリュウシティまでの道のりは長いがグレイはもう慣れているし、キュレムがこの程度で疲れるはずもない。
夜にはセッカシティに着けるだろう。
――などと、予定を考えていた時だった。
その“老人”がグレイとキュレムの前に姿を表したのは。

「――待ちなさい」
「?」「?」

ポケモンセンターまでもうすぐ、というところで背後からかけられた声。

「・・・・・・ええと、あたしたちのことでしょうか?」
「ああ」
「んむ? グレイ、知り合いか?」
「知り合いではないですが、知ってはいます」

老人が他の町と比べて多いこの町だが、グレイは彼ほど覇気のある老人を他には知らない。

「此処に来るまでに話しましたよね? ジムリーダーの一人、シャガさんです」
「――はじめまして、ソウリュウシティにようこそ」

温厚そうに微笑むジムリーダー・シャガ。
グレイは彼が話しかけてきたことに多少の疑問は抱けど、ジムリーダーが一般人と関わることは珍しいことでもない。
グレイは知らなかったが、イッシュ地方にはモデルをやっているジムリーダーとて居るのだから。
それに何よりキュレムとの二人旅は早くもグレイの心を蝕んでいた。
無論、グレイの被害妄想でしかないことではあるが。

「君たちはポケモントレーナーのようだが、やはりジムに?」
「いえっ、私たちはバッジを集めているわけじゃないんです」

勘違いされる前に否定。

(なんであたしはこういう時に限ってリーダーさんに会っちゃうんですかっ!?)

ポケモンを一匹も持っていないことに気づかれれば、恐らくカゴメタウンに強制送還、お巡りさんのお世話になるだろう。
それだけは避けなければならない。

(一応キュレムさんが居るけど、流石にリーダーさんには勝てるわけないって!)

ここで補足しておこう。
カントー地方にはサンダー、ファイヤー、フリーザーと呼ばれる伝説の鳥ポケモンがいる。
伝説のポケモンについての伝承や噂というのは何処の地方にもあるが現在ではほとんどが解明、またはガセと判明している。
上に挙げた三匹の鳥ポケモンは存在が解明され、証明された伝説のポケモンと言える。
イッシュ地方における伝説のポケモンと言えば二体の龍が真っ先に挙げられるが、この二体の存在は文字通り伝説として残っているだけで存在は証明されていない。
逆に存在が証明されている伝説のポケモンとしてボルトロスとトルネロスが挙げられる。
捕獲こそされていないもののその存在は様々な場所で確認されている。

そして最後にキュレム。
キュレムはカゴメタウンのみで語られるだけの存在で、他の伝説のポケモンたちのようにメジャーではない。
無論、隕石が落ちたジャイアントホールには研究者たちによる調査が入ったがキュレムの下にまで辿り着いた者は居らず、結局キュレムについてはただの言い伝えに留まっていた。

だからだろう、グレイはキュレムの力をまだ理解してはいなかった。
少し珍しいだけの、少し力が強いだけの、そんなポケモンだと思っていたのだ。
そう、喩えるならばカントー・ジョウト地方のカビゴンやラプラスだったり、シンオウ地方のフワンテ、イッシュ地方で言うムシャーナ。
それらと同類だと、勝手にグレイは決めつけていた。

しかし彼女だけを責めることはできない。幼い頃にカゴメタウンに越してきたグレイに“カゴメタウン周辺のポケモンたちが恐れる存在”の脅威を理解できるはずがないのだ。

少し長くなったが、これで補足を終了しよう。




「カゴメタウンへと繋がるゲートは通行止めになってしまったが、家には戻らないのかい?」
「はい。ジムに挑戦することが目的ではありませんが、イッシュ地方を回ってみたいと思っています」
「いやいやイッシュ地方とは言わず、ゆくゆくは世界を回ろうとも思っておる」
(どうしてあなたはそうやって話を大きくするんですかぁ! あたし、そんなの聞いてませんよぅ!)

グレイの説明を胸を張って補足するキュレム。
胸の大きさ自体は残念だが。

「ほう、世界か」
「うむ。世界はまだまた広いと分かると逆に燃えてくるだろう?」
「ああ。私の孫も少し旅に出ているのだが、あの娘はまだ君たちのように視野が広くはない」
(シャガさんが良いお爺ちゃんの顔つきになってるし・・・・・・まあ結果オーライかな?)

何度かソウリュウシティでシャガを見かけたことはあったが、今のような表情は初めて見る。
少しだけ、イッシュ最強のジムリーダーのことが好きになった瞬間だった――。











(・・・・・・いや、確かに良いお爺ちゃんだなぁ、とは思ったよ? 思ったけれども・・・・・・)
「むむっ、このとろけるような食感・・・・・・人間の顎が弱くなるのも分かるのう!」
(なんでご飯をご馳走になってるんだろう)
「はははっ、そう言ってもらえると私も嬉しい」
(なんでっ!? オカシイでしょ、色々と!)

ひょっとしてこの人ただのボケ老人なんじゃないか、と思い始めるグレイ。

「話し込んで君たちの予定を狂わせてしまったお詫びだ。遠慮せずに食べるといい」
「は、はぁ・・・・・・ありがとうございます」

エプロン姿がやけに様になっているシャガに礼を言って、グレイも運ばれてきた料理に口をつける。

「あ、美味しい」
「これでまた一つ旅の楽しみが増えた。うぬの料理にも期待しておるぞ? グレイ」
「いや、流石にここまでの味はあたしには・・・・・・」

娯楽の少ないカゴメタウンで育ち、料理を趣味にしていたグレイにとってもシャガの料理はまさに絶品。
キュレムの期待には応えられそうにない。

「料理は旅をより良いものにしてくれる。人も、ポケモンも。人が作る料理はどんな出来であれ既製品には出せないものを出してくれるのだよ」
「それは何となく分かる気がします」

現在進行形で自分たちが体験していることだ。こんな料理が毎日食べられるのなら旅も悪くない。

(でもこんな料理食べた後だと、あたしの料理を出したらキュレムさんに殺されそうな気がするんですけど!)
「今日はこの町に泊まっていくのだろう?」
「はい。もう日が暮れてきてしまいましたし、カゴメタウン育ちのあたしたちにはまだ夜は少し辛くて・・・・・・」

昨日から衝撃の連続だったこともあり、気づいていないだけでグレイの体力は限界に近づいていた。

「確かにあの町の人間なら夜に慣れていないのは仕方のないことだ。だがそれは決して悪いことばかりではない」
「世界には一日中明かりが点いている町もあるそうですけどね」
「イッシュではライモンシティやヒウンシティが比較的賑やかで、カゴメタウンやこの町など比べものにならないほど活気に溢れているな」



――そんな世間話を交えながら、シャガとの食事を終えた。
最後にまた礼を言って、グレイとキュレムはポケモンセンターを目指す。
シャガとの話に出たヒウンシティなどではポケモンセンターだけでは部屋が足りず、他にホテルもあるらしいがソウリュウシティにはポケモンセンターしか宿はない。それでも部屋には空きはあり、簡単に取ることができた。

(少し予定が狂ってしまったけれど、傷心のあたしにはシャガさんの優しさが身に染みる・・・・・・キュレムさんも気に入ってたみたいだし、明日の朝になったら『私は此処に残ることにした』とか言ってくれないかな)

キュレムの眠る上のベッドを見て、そんなことを考えながらグレイは瞳を閉じた。











「――何の用だね? カゴメタウン育ちの君には随分と遅い時間だが」

カゴメタウンの人間でなくとも、普通の人間、特に子供なら夢の中にいる時間帯。
――キュレムはシャガの家を訪ねた。

「グレイの話に“龍の心を知る少女”という言葉が出てきた時点で何かはあると思っていた。此処には“塔”もあるからの」
「・・・・・・」
「幸か不幸かそのアイリスという人間は此処には居らず、代わりと言ってはなんだがうぬが我らに声をかけてきた」
「ふむ・・・・・・」

ジャイアントホールからほとんど出たことのないキュレムにも、この町には多少の縁がある。
とはいえここまで大きなアクションがあるとは思わなかったが。

「私としては美味いご飯を食べることが出来て、多少なりともグレイとの距離が縮まったりと良いことづくめなのだが――うぬはそうでもないのではないか?」
「そんなことはない。私も君たちのような若者に会うことが出来たのは幸運だった」

キュレムの言葉にシャガは表情を崩すことなく返答する。

「・・・・・・まあ、うぬが我らをどう思っていようと知ったことではないのだが」

その様子にキュレムはつまらなそうにそっぽを向く。

「それに私もあまりこの町に長居したくはない。“奴ら”を刺激したくはないしの」
「では何処に?」
「言ったであろう? 世界を見て回ると。せっかくの機会だ、同郷の者を探すのもよいかもしれん」

今度は一転、楽しそうに笑ってシャガを見る。
見目相応か、それよりも幼くさえ見れるキュレムの様子にシャガはモンスターボールに伸ばしていた手を離す。

「・・・・・・私には君たちの旅を止める気も、権利もない。ただジムリーダーとして町を見守り、人々を守るだけだ」
「そう堅苦しいことばかり言うな。うぬはただ私とグレイの旅の門出を祝福すればよいのだ。グレイが望まぬ限り暴れたりはせぬよ」

鬱陶しげに手を振り、「むう・・・・・・」と唸るシャガを見て、また笑う。

「“奴ら”と違って私は英雄などに興味はないし、“王”にも興味など湧かぬ。グレイに重荷を背負わせる、恩を仇で返すような真似もせぬ」

「それに今の姿ではな」と苦笑して付け加える。それが少女の姿のことを指しているのか、それとも違うナニカを指しているのかは誰にも分からない。

「中立、ということか」
「・・・・・・だから間に立つ気もないと言っている。まったく、人間も変わったと思えばうぬのように昔と変わらない者もいるのだな」

――――これはずっと後のことになるが、ポケモン図鑑にキュレムのページが加わることになる。その時奇しくも彼女の分類は“きょうかいポケモン”。シャガの言う、2種の間に立つ境界の存在として図鑑に刻まれるのだった。







あとがき
私はホワイトを買ったのもありますが、シャガのキャラがよく分からない・・・。
一人称って私でいいのかな?それともわし?
それとたぶん今回みたいな回はしばらくありません。これから先は二人の平和な旅路が延々と綴られていきます。
次回はソウリュウシティ出発~プラズマ団(したっぱ)が登場。犠牲者に南無。
では以下人物紹介

シャガ
ソウリュウシティということでアイリスが登場すると思った方ごめんなさい。オジサマの方です。
アイリス共々いまいち設定がわからないですが、割と重要なポジション。・・・しかしキュレムさんがあの調子なのでこの設定が活かされることはしばらくないでしょう。
ゼクロムとレシラムだけではなくキュレムについても知っているようだが・・・?

料理上手のいいお爺さん。
このSSだけの裏設定として、ジム戦用の他にプライベートのポケモン持ち。
キュレムさんを前に手を伸ばしていたボールの中にはオノノクス(68Lv)が。



[22391] その4
Name: アウウ◆09594bf1 ID:03f7ed78
Date: 2010/10/11 10:13
翌日、9番道路側のゲートに見送りに来てくれたシャガに手を振り、グレイとキュレムはシリンダーブリッジを通ってセッカシティを目指す。
グレイにとっては漸く旅らしい旅が始まる――のだが。

「どうしたんですか? キュレムさん」
「だから敬語はいらぬ・・・・・・。のうグレイ、セッカシティとやらは後回しにして他の町にせぬか?」
「・・・・・・タウンマップがあればそれでもよかったんですけど」

シリンダーブリッジ。キュレムが初めて見る表情と声音でグレイに言う。
普段のグレイはキュレムの言葉ならすぐに頷くだろうが、今回ばかりはそうもいかない。

キュレムもそれを言われればぐうの音もでない。
実はタウンマップがショップに置いておらず(店員に確認してもらったところ、セッカシティには置いてあるらしい)、グレイたちはシャガにもらった手書きの地図を頼りにセッカシティに向かっている。

ショピングモール――R9に寄ることも考えたが、ショピングモールの中のトレーナーたちの挑戦を言葉巧みに断らなければならない労力を考えれば取り置きしてもらっているセッカシティのショップに真っ直ぐ向かう方が圧倒的に楽。
キュレムもそれは分かってはいるが、セッカシティに、正確には其処にある“塔”に近づきたくないというのが彼女の本音。

(力を振りまけば“奴ら”を刺激してしまう、かといって力を抑えればトレーナーやらポケモンやらに襲われかねん)

それがキュレムが力にものを言わせられない理由だ。
シャガにグレイを巻き込むつもりはないと言った通り、キュレムはその約束を言われずとも守る。しかしその約束を守るにはキュレムは些か世界を知らなすぎた。
ジャイアントホールに引きこもっている間に世界は変わり、キュレム自身も変わった。
今のキュレムには昔のように全ての人間に畏怖される程の知名度はなく、キュレムの言う『身の程を知らぬ者共』は増えている。

(“たうんまっぷ”とやらを壊した時は無粋なものだと思っていたが、地形が変わった今ではなくてはならぬものだったようじゃな)

変わらないものはある、しかしそれ以上に変わったものが多すぎた。
大手を振って外を歩けるのは嬉しいが、それ以上に痛手だ。

・・・・・・皮肉なことに今のキュレムはグレイの想像通りの“少し珍しいだけのポケモン”に成り下がっていた。
勿論、グレイにとって畏怖すべき者になのは変わりないが。

「そういえばキュレムさん」
「なんじゃ?」

仕方ない、と割り切って気を取り直す。
そもそも少しの間おとなしくしているだけでいいのだ、と自分に言い聞かせて。

「セッカシティのジムリーダーさんは氷のジムリーダーさんなんですよ」
「・・・・・・因果じゃのう。双龍の塔がそばにあるというのに」
「確かに。リュウラセンの塔って言うくらいだし、あたし、子供の頃はずっとソウリュウシティの近くにあるんだとばっかり思ってましたもん」

今も子供ですけど、と付け足してグレイは笑う。
少しは肩の力が抜け、キュレムとの距離が縮まったようだ。

「今と昔では町の場所も違うようだし、どちらに近いというわけでもないのじゃが・・・・・・まあどうでもいいことじゃろ」
「ですね。で、それはそれとして――」
(あうっ、セッカシティにもあんまり興味持ってない・・・・・・まだまだ私の旅は続きそうです)

心の中で落胆して、話題を変える。グレイは諦めの悪い少女であった。

「――しかしこの辺りは騒がしいの」
「え? ・・・・・・ああ、下に鉄道が通ってますからね。ビレッジブリッジとは全然違いますよ」

足元には行き交う電車が見える。

「それに下からの風でいつも以上にスースーする」
「・・・・・・それはあたしもです」

若干頬を赤らめながらグレイはロングスカートを押さえる。スカートの少女たちの早く通り抜けたい橋No1、シリンダーブリッジ。ビレッジブリッジの改修工事の前に此処の造りをどうにかするべきだ、と切に願うグレイだった。

「む? あれはなんじゃ?」
「? さあ・・・・・・?」

グレイとは違う、ワンピース姿のキュレムは下からの風を大して気にすることもなく、反対側からやってくる集団を指差す。

「珍しい格好ですね」
「ん、うぬにとっては珍しいのか。まあそうかもしれぬな」

一般人の服装とはかけ離れた、どこか宗教色が窺える様相。
それがグレイには珍しく映った。

「ふむ、どうやらソウリュウシティに何かの準備に行くようじゃの。格好から察するに布教じゃろうな」
(この距離でしかも電車の音もあるのに聞こえるんだ・・・・・・)

キュレムの非常識さは既に知っているので口には出さず戦慄する。

「布教って、ソウリュウシティはイッシュの伝説の総本山みたいな町ですよ? 難易度がかなり高い気がするんですけど」
「んむ? いや、どうやら準備をしに行くだけらしい。教主はカラクサタウンというところに居るようだ」

それも向かってくる彼らが話していたのだろう。大分距離も近づき、グレイにも彼らが何かを話しているということは分かった。

『ゲーチス様は・・・・・・』
『ジムリーダーは一人――』
『下準備を――』
『疲れた・・・・・・』

通り過がり様につい耳を澄まさせてしまうグレイの好奇心。仕方ない。

「お疲れ様、ですね」
「好きでやっているのだ、好きにさせておけばいいだろう」

だんだんと遠のいていく一団を見送り、呟く。
カゴメタウンで育ったグレイにとっては、いや、そうでなくとも少女であるグレイにとって宗教は長く興味を引かれる対象ではない。
面白いのは格好だけだ。

「さて、もう少しです。さっさと渡っちゃいましょう」
「うむ」











グレイたちは知らぬことだが、シリンダーブリッジですれ違った集団はプラズマ団。彼らが知名度を高めるのはもう少し後のことなので知らぬのは仕方のないことだ。

彼らの掲げる理想は“ポケモンの解放”。聞こえの良い、人道的な理想だ。
尤も組織の中にはその理想を曲解し、他人のポケモンを奪うという暴挙に出ている者もいるが。
今回はその暴挙に出た者たちとグレイたちが出会う。グレイたちとプラズマ団との因縁の出会いと言えなくもない、そんなおはなしである。



――シリンダーブリッジを渡り、ゲートに置いてあったシリンダーブリッジの模型を眺めてからゲートを抜けた二人。

「すいません。それなりにお金はあるつもりだったんですけど・・・・・・」
「なに、元々は私がたうんまっぷを壊したのが悪いのだ。気にすることはない」

ゲートで買った傘を二人で差して道を進む。
季節は春であり夏とは違い、この辺りはあまり雨が降らないのだが今日は運悪く通り雨に出くわしたようだ。ゲートで見た天気予報では昼過ぎには晴れるらしいので、それならばセッカシティに着く前に晴れるし、先に進んでしまおうと傘を購入したのだが、タウンマップの購入費用や生活費等を考えると一本買うのが限界だった。
カゴメタウンでお金を使う機会がほとんどなく、同年代の子供たちと比べたらお金は持っている方のグレイだが、二人旅となると想像以上にお金は早く尽きそうだ、と嘆く。

というわけで仲良く相合い傘で進んでいるグレイとキュレムに、“見覚えのある服装の男女二人組”の姿が目に入った。

「はぐれた、というわけではなさそうじゃな」
「サボってるだけなんじゃないですか?」

ゲートを抜けて少し歩いたところに彼らはいた。
つい十数分前に見たばかりの珍しい格好を忘れるほど残念な頭をグレイはしていない。

降りしきる雨に当たらぬように木陰に立ち、何やら話し込んでいる。

「どうやら仲間割れしているようじゃが」
「雨で人が少ないとはいえ、目立ちますね」

むしろ人が少ないから(というか見える範囲にはグレイたちと彼らしかいない)こそ、彼らの姿はさらに浮いていた。
水溜まりを避けて進むと、丁度その二人の脇を通り抜ける形になり、会話の内容が聞こえてくる。

「ここら辺のトレーナーはレベルが低いから大丈夫って言ったのはお前だろっ!」
「実際に最初の三人は簡単に倒せた。あの金髪の女がオカシイ」

その声は雨音が掻き消すにはあまりに大きく、耳を澄まさずともよく聞こえた。・・・・・・聞こえてしまった。

「せっかく奪ったポケモンも取り返されちまったし・・・・・・ああくそっ、先に行った奴らに何て言えばいいんだっ!」
「入団試験のノルマは一人五匹・・・・・・大丈夫、まだ間に合う」
「・・・・・・ああ、分かってるよ。とりあえず手近な奴からポケモンを奪う。あの女みたいなデタラメな奴がそうポンポンと居るはずがねぇ」

・・・・・・聞こえて、しまった。
ついでに言えば顔を上げた男と目が合った。

「・・・・・・」←グレイ
「・・・・・・?」←キュレム
「手近な奴、発見・・・・・・?」←プラズマ団・女

ニヤリと男の方が笑い、グレイたちに歩み寄る。

「お嬢ちゃん、話は聞いてたな? つまりそういうこった」
(話しかけられたーっ!!)

内心絶叫。キュレムと会ってからというもの、何かと絡まれるグレイである。

(できるなら喜んでキュレムさんを差し出したいところですけどっ)

そんなことができるはずもないので、さらに泣けてくる。

「おとなしくポケモンを渡せば、痛い目に合わなくて済む・・・・・・?」
「なんで疑問文なんだよ・・・・・・。いくら何でも丸腰になった相手をいたぶったりはしねぇよ」
(はっ! 思ったよりも紳士的な方! あたしがポケモンを持ってないことを懇切丁寧に説明すれば分かってくれるやもっ!)
「そ、そのぅ、渡したいのは山々なのですが」

愛想笑いを浮かべようとして、泣き笑いになってしまうのは仕方ない。
それでも事情を説明しようと恐る恐るグレイは口を開くのだが・・・・・・

「なんじゃ、賊の類か。行くぞ、グレイ」
「あん?」
(どうしてそうやって挑発的な態度取るんですかっ!?)
「そのっ、ですから、あたしたちはあなた方に差し出せるようなものは何も持っていなくてっ」
「・・・・・・嘘。トレーナーじゃない人間が、ここを通ってセッカシティに行くはずがない」
(だってシャガさんはあたしたちがトレーナーだと思ってるから、このルートしか教えてくれなかったんだもん・・・・・・)

実際にはシャガは気づいていて、キュレムならば大丈夫だろうと安心して最短ルートであるこの道を教えたのだが、グレイが知るはずもない。

「出せないって言うなら仕方ない」
「へっ?」
「出したくなるようにさせてやるぜっ!」
「・・・・・・言い方が少し卑猥」
「ほっとけ! いけ、メラルバ!」
『ぶぴぃぃぃっぷ!』
「ひぃ!?」

男が繰り出したのはメラルバ。特徴的な鳴き声と共にその虫のようなポケモンはグレイとキュレムの前に姿を現した。

「――む、むむむ虫はダメなんですっ、あたし!」
「む、むむむ?」

素早い動きでキュレムの後ろに隠れるグレイ。
女の子らしく虫は生理的にダメなタイプらしい。
キュレムはそんなグレイの様子に驚いて目を丸くする。

「・・・・・・正直、私も虫はダメ」
「お前もかよ! こいつが居ると冬場は暖かくて気持ちいいんだからな!?」

虫ポケモンは進化が早いと聞き、タマゴから育て続けて一年以上、まだ進化する気配のないメラルバ。
しかし男にとっては苦楽を共にした相棒である。

「うううっ! それの体温を想像しただけでも気持ち悪い!」
「・・・・・・その、なんだ、あまり気持ち悪いと言ってやるな。あやつはあやつなりに頑張っているのだから」

随分と言えば随分な反応にキュレムが慣れないフォローを入れる始末。

「のう、おぬし」
「なっ、なんだよっ?」
「こやつ、グレイの言う通り私たちはポケモンを持ってはいない」
「んなわけがあるか! ならどうやって此処まで――メラルバ?」

叫ぶ男にメラルバがすり寄る。まるで怯えるように。

「ほう、利口な者のようじゃな。古代から生き残っている種なだけはある」

関心したようにキュレムが呟くと、メラルバは一層強く男にすり寄る。

「・・・・・・何だか妙」
「わ、分かってる!」

相棒と言えるポケモンの様子にうろたえつつも、男は強気な態度を崩さない。

「――もしも退かぬというのならば、本意ではないが私はグレイと我が身を守る為に力を振るうことも厭わぬ」
「何を言ってやがる・・・・・・!?」
「分からぬか? 見逃してやる、と言っておるのだ。生憎私は力の制御が苦手でな。手加減はできぬぞ?」

キュレムは一歩踏み出し、傘から出る。すぐさま雨がキュレムの身体を濡らす――が。

パキパキとはじけるような音と共に雨粒は凍っていく。

「あまり派手なことはしたくなかったが、グレイの頼みとあらば仕方あるまい。全力でうぬたちを排除する」
「・・・・・・」

その圧倒的圧力を持った視線に、男は後ずさる。

(――あの女といいこいつといい、今日は厄日だ。ちくしょう)

内心悪態吐いて、傍らの女を見てからゆっくりと口を開く。

「わかった、わーったよ。さっきも言った通り丸腰の相手をいたぶるのは趣味じゃねぇ」
「・・・・・・ネロ」
「うっせ。お前は黙ってろクリア」
「・・・・・・」

クリアと呼ばれたフードを被った女は男の袖を引っ張るが、ネロというらしい男はそれを突っぱねる。
袖を掴んだクリアの手が震えてるのを無視し、メラルバを押し付けてネロは一歩前に出た。

「ほう」

その行動に目を細めるキュレム。

「それにお前たちがポケモンを持ってないって言うのなら、俺たちにもお前たちを襲う理由はない。・・・・・・俺たちの目的はポケモンの解放だからな」
「ふむ。ならば行け、お仲間が町で待っているぞ?」
「言われなくとも。おい、行くぞっ」
「・・・・・・ん」

急かすネロにクリアは頷き、メラルバを抱いたまま踵を返す。

「あ、てめっ、メラルバを雨に濡らすんじゃねぇ!? デリケートなんだよそいつは!」

そんなことを喚くネロを伴って。



「グレイ、もう行ったぞ?」
「・・・・・・みたいですね」

先程までの自分の痴態を思い出し、頭を押さえながらグレイは傘をキュレムが入るように差し直す。

「っていうかなんでまた凍ってるんですか!?」
「なんだ、見ていなかったのか?」
「ちょっと記憶が飛んでて・・・・・・」
「まあ気にすることはない。この程度なら晴れれば溶ける」

キュレムが動く度、パキパキと音を立てて剥がれていく氷。

「――それか、さっきのメラルバというのが居ればすぐに溶けるのだがな」
「やめてくださいっ! あたしが万が一トレーナーになることがあってもああいうのだけは絶対に捕まえませんから!」
「・・・・・・冗談じゃ」

グレイの想像以上の剣幕にキュレムは冗談だと呆気なく明かし、おとなしく傘の下に入る。



――これが、これから長く奇妙な付き合いとなるプラズマ団の二人との初めての出会いだった。


(・・・・・・今のぐらいのなら大丈夫じゃよな? “奴ら”が起きた気配もないしの・・・・・・)








あとがき
プラズマ団もある程度は下準備をしていると思うんだ。

プラズマ団・男の方が今までグレイの合わせたよりも「」の数が多いんじゃないだろうか・・・。よく喋るキャラですね。早くも私のお気に入りです。
以下最早恒例の人物紹介


ネロ
プラズマ団・男 したっぱ。名前だけは格好いい人。『すごくつよい金髪の女』から逃げられる辺り、逃げ足と運は良い。
手持ちはメラルバ(Lv48)、レベルはそれなりに高いがまだまだ弱いようだ。
虫ポケモンは進化が早いと言われる中、未だに進化しないが果たして・・・?
ツンデレかもしれない人。年齢はグレイよりも年上だが意外と若い(19歳)。
CVはキョン。


クリア
プラズマ団・女 したっぱ。名前だけは格好いい?人、その2。
無口。まあ一人は居るキャラ。寒がり。
クーデレっぽい?
年齢はフード被ってるため不明。声は若いというより幼い。
CVは性格的にもアーニャ。


新たなオリキャラを二人投入。メインを張るオリキャラはこの二人が最後・・・のはず。



[22391] その5
Name: アウウ◆09594bf1 ID:f6242140
Date: 2010/10/13 20:05
セッカシティ。漢字を当てるとすれば雪花。
春の現在は暖かな陽気に包まれているが、冬には雪が降り積もり、町の周りは氷で満ちる。
尤も、そんな時期まで留まる気のないグレイたちにとっては関係のないことだが。


「はぁー」

リュウラセンの塔の下、巨大な塔を見上げてグレイは間の抜けた吐息を漏らす。
空を飛ぶことの叶わぬグレイにはジャイアントホールの巨大さをその目で確認することはできなかったが、この塔の巨大さは地を這うグレイたち人間にこそ理解できた。

「名前負けしない凄さだなぁ」

感慨深げに呟くグレイの傍らにキュレムの姿はない。ポケモンセンターに引きこもってしまっているのだ。
既にタウンマップを受け取り、目的は達したがプラズマ団(グレイたちはその名を知らないが)との一件や、濡れた、というより凍ったキュレムとそのそばに居たせいで凍えたグレイは結局セッカシティに一泊することにし、明日朝一で此処を発つというキュレムの言葉を聞いたグレイは夜になる前に一目この塔を見たくて出てきた。
夕焼けをバックにした塔は神秘的だったが、キュレムはこの塔が嫌いらしく寄り付こうとはしない。

(・・・・・・でも感動は一瞬、まあそんなもんだよね)

ボーっと立ち尽くすグレイの他にも老婆が塔を拝みに来たりもしたが、グレイがそこまでこの塔に感謝感激するはずもなく、キュレムのそばに戻るのが怖くてこうして立ち尽くしているだけだ。

(今のところは特に被害はないけど、やっぱり怖い)

カゴメタウンに住んでいたグレイには、どうしてもキュレムに気を許すことができないでいた。
さっきだってシャワーの使い方の分からないキュレムの髪を洗った時もグレイの手は微かに震え、表情は強張る。
一度根付いた認識はそう簡単には変わらない。
グレイにとって氷の少女はどこまでいっても怪物のままで、畏怖すべき対象だ。

(・・・・・・端から見ると情けないよね、あたし)

同年代の少女に怯える少女。どっからどう見てもビビりのヘタレだろう。

全ては調子に乗って、あの日の夜に外に出たのがいけなかった。

「本当に灰被り姫並みの不幸さだ・・・・・・いや、本当」

若気の至りで済ませられない、どうしよもなく愚かでバカな少女の姿が其処にはあった。

(・・・・・・帰ろ)

最後に溜め息を吐いて、グレイは踵を返す――と、いつの間にかもう一人、塔を見上げる女性が居たことに気づく。

「――」

顎に手を当て、どこか楽しそうに塔を見上げる“金髪の女性”はまるで一枚の絵画のような美しさを放っている。

(綺麗な人だなぁ)

塔を見た時以上の感動に駆られ、つい見蕩れてしまった。
その内に女性はグレイの視線に気づくと、淀みのない足取りでグレイに歩み寄り、口を開く。



「ぐるぐる わかれて
ぐるぐる まざって
まわる まわる
まわって ねじれて
おどれ おどれ
2ひきの ドラゴン
あさも よるも まざり
すべてが ゆるされる」
「あの・・・・・・?」
「さっきこの町の人に教えてもらった歌なの」
「は、はぁ・・・・・・」

女性の言葉にグレイは曖昧に頷く。そういえば此処に来る途中にそんなフレーズが聞こえた気がしなくもない。

「はじめまして、可愛らしいお嬢さん」
「えと、はじめまして美しいお姉さん・・・・・・?」

混乱気味のグレイは女性の挨拶にまるで口説き文句のような返事をしてしまう。すると女性は驚いたのか、ぷっと吹き出す。

「あはっ、お上手ね」
「ど、どうも」

男でなくとも彼女のような女性に話しかけられたら萎縮してしまう。グレイもその例に漏れることなく、つい顔を伏せてしまう。
顔が熱くなるのを感じる。

「顔を上げてちょうだい?」
「・・・・・・」

そう言われてしまえば、断るわけにもいかない。
ゆっくりと顔を上げると、間近で女性と目が合う。

「――うん、良い目。あなたみたいな目をしてる人ってなかなかいないわ」
「目、ですか?」

俗に言う、目を見れば分かるというやつだろうか。
だとしたら果たして女性はグレイの瞳に何を見たのか。

「そう。諦めたような、疲れた目」
「・・・・・・」

それは良い目なのか? という疑問がグレイを支配するが、女性はさらに付け加える。

「目の色が変わるって言うでしょう? あなたの目はきっかけがあればすぐに変わるわ。疲れたなら休めばいい。それだけよ」

女性は優しく微笑み、グレイの頬に触れた。

「あ、うぅ・・・・・・」

そんなことされたグレイはガチガチに固まってしまい、さらに体温が上がる。

「ふふっ、それじゃあね。お姫さま」
「っーー!」
(聞かれてた! 自分で自分を姫に喩えてたのを聞かれてたっ!)

誰もいないと思って何となく呟いたつもりが、これは恥ずかしい。
そんなグレイを見て、さらに女性は笑みを深くする。

「・・・・・・随分見せつけてくれるの」
「きゃあ!?」
「あら」

若干、百合の香りが混ざり始めたところで横から第三者の声が入った。
それに驚き、グレイは飛び跳ねながら金髪の女性から距離を取る形になるが、女性はあまり驚いた様子はなく、現に笑みは崩れることなく続いている。

「まったく、帰りが遅いと思ったら・・・・・・」

不機嫌さを隠すことをしないキュレムにグレイは戦々恐々。

「別にうぬが誰と何をしようと構わぬが――」

ちらりと金髪の女性を見てからグレイと女性の間に入り、女性に背を向けてグレイと向き合う。

「私とは長い付き合いになるのだ。少しぐらい、私と仲良くしてくれてもよいではないか」

その言葉には若干の拗ねが混じっているということはグレイにも理解できた。

「うふふ、モテモテね」
「いや、その・・・・・・」

どうしたら良いのか分からないこの状況にグレイは今まで一番混乱する。

(キュレムさんがストレートなのは今始まったことじゃないけど・・・・・・)

どう受け止めて、どう返せばいいのか。
それがグレイには分からない。

「――それじゃあ私は行くわ。その娘と仲良くね」
「え、ちょ・・・・・・」

放置ですか!? と叫びたいが、目の前のキュレムの存在がそれを許さない。

「な、名前! 名前だけ教えてくださいっ!」
「私もあなたの名前は知らないんだから、私の名前だけ教えるのは不公平でしょ?」

優しげな微笑みから一転、子供のような笑みでグレイに手を振った。

(来年の春にはきっと、良い目になってるでしょうね)

今から来年の春を楽しみに、金髪の女性は去って行った――グレイとキュレムをその場に残して。


「・・・・・・」
(あうあう・・・・・・)

無言のキュレムとグレイ。

「そ、の、キュレムさん」
「・・・・・・なんじゃ」
(やっぱり怒ってらっしゃる!)

キュレムは不機嫌さを隠すことなく言の葉と視線に乗せ、グレイに向ける。
正面切ってそれを受け止めるグレイは龍の姿で睨まれた時ほどではないにしろ、チビりそうな恐怖に襲われた。

(う、うぅ・・・・・・)

グレイとて本当は理解している。キュレムという少女が自分のことを友と呼んで、慕ってくれていることを。

「――戻るぞ、グレイ」

暫くの間、リュウラセンの塔を見上げていたキュレムがそれだけ言って、塔に背を向け歩き出す。

(・・・・・・近づくを嫌がってたのに、心配して来てくれたんですよね)

足早に去って行くキュレムの背を見つめていると、申し訳ない気持ちで一杯になっていく。

「キ、キュレムさん!」

このままで終わるのはダメだ。グレイは意を決してキュレムに声をかける。
振り向くキュレムに駆け寄り、今の自分にできる精一杯の誠意と感謝を。

「――今日の夕飯は何がいいですかっ!?」
「・・・・・・ふむ」

突然のグレイの言葉にも特に驚くことなく、キュレムは少し考える素振りを見せ、そして――

「うぬじゃな」
「いやぁ!?」

何ということのないようにキュレムはグレイを指差し、グレイは即座に距離を取る。

(あうあう、やっぱりあたしは食べられちゃうんですねっ!?)

目がぐるぐる回り、顔色が青やら白やらに変化していく。
そんなグレイの様子をたっぷり十秒ほど眺め、「冗談じゃよ」とキュレムは楽しげに笑った。

「くくくっ、やはりうぬは面白い。初めは龍の私に啖呵を切ったうぬが、今はこうして少女の姿の私の顔色を窺うとはの」
「・・・・・・どんな姿でもキュレムさんはキュレムさん・・・・・・ですから」
「その台詞は怖がりながら言っても意味はないぞ? やはりうぬは英雄の器ではないの」

安心した、と小さく呟くキュレムだが、その呟きが聞こえなかったグレイは手をぶんぶんと横に振る。

「いやいや、英雄って。あたしってば一応女の子ですよ? そういうのは男の子に任せて、遠慮します」
「ああ、うぬはそれでよい」
「――って、話を逸らさないくださいよぅ! あたし、腕によりをかけて作りますから! ・・・・・・シャガさんほど美味しくないですけど」

キュレムの不機嫌さは既に霧散したが、グレイから言い出した以上、できる限りのものを出すつもりだ。

「残念じゃが私は人の料理には詳しくないし、うぬのレパートリーもまだ知らぬ。私の好物は旅の中で、うぬがつくってくれ」
「――が、頑張ります」



結局、二人の絆を深めたのは気の利いた言葉でも何でもなく、必死の覚悟で口にした、戯言だった。











「あー、まーた俺たちは宿無しか。おいクリア、俺のメラルバ返せ。春って言ってもまだ寒いんだよ」
「や」
「一文字で否定すんなっ・・・・・・」

ソウリュウゲートの手前、9番道路の木の下にプラズマ団――ネロとクリアの姿があった。
先行していた仲間たちは既に拠点に戻ってよろしくやってるだろう。
未だ半人前のネロとクリアは明日の朝までソウリュウシティに留まり、やってくる交代に色々と報告せねばならない。
ポケモンセンターに泊まりたいところだが、ポケモンの解放を理想として掲げている以上、世話になるわけにもいかない。
まあネロがポケモンセンターを使わない理由は、経費で落ちないからだが。

「ってかメラルバ、おやは俺だぞ。誰がお前をそこまでデカくしてやったと思ってんだ。そんな虫をキモいとか言う奴のところじゃなく、俺のところに来いよ」
『・・・・・・』
「こいつ寝てやがる・・・・・・!」

虫なんだから夜行性だろ、とも思うがタマゴからの付き合い。もう完全に人間と同じ生活習慣が身に付いていた。

「ネロも早く寝たら・・・・・・?」

クリアが眠たそうに瞼をこすりつつ、ネロに言う。

「わーってるよ。ったく」

ぶつくさと文句を言いながら、クリアとは反対方向に顔を向けて、目を瞑る。

「おやすみ」
「ああ」

クリアはそんなネロの背中をメラルバを抱きつつ、見つめていた。


もぞっ


「っ・・・・・・!?」
「のわっ!?」

が、腕の中でもぞもぞと寝返りをうったメラルバに驚き、思わずネロの背中に突き飛ばす。

「てめっ、何しやがる!?」
「・・・・・・やっぱり虫はダメ」

驚いて起き上がったネロに対してふるふると首を横に振り、クリアはプラズマ団のマントにくるまって寝息を立て始める。


「・・・・・・ちくしょう。本当にろくなことがねぇ」

ネロもそれだけボヤくと、ふてくされたように横になった。







あとがき
そろそろポケモンらしいことをやらないと。
次回はちゃんとしたポケモンバトルをやります。



[22391] その6
Name: アウウ◆09594bf1 ID:03f7ed78
Date: 2010/10/17 14:29
「――ん、朝か・・・・・・」

心地良い春の陽気が眠気を誘うが、それを振り切ってネロは目を開けた。

「おはよう。ご苦労だったね」
「っ!?」

意識の外からかけられた声に驚き、慌てて身構える。

(クリアは無事・・・・・・か。安心した。だがこいつは誰だ? ・・・・・・って)
「え、N様!?」
「ああ」

朝日の逆光に隠れていた顔は、話したことこそないが自らが所属する組織のボス――彼の言葉を借りるならば王。

「っ、クリア起きろ!」
「ん・・・・・・」
「気にしないでいい。キミたちは二人でよくやってくれた。先に戻った連中にはボクからゲーチスに言っておくよ」
「はっ、ありがとうございます」

姿勢を正し、王の言葉に一人耳を傾けるネロ。
彼らしくないその姿をクリアが見なかったのは幸運だっただろう。
ネロにとってもクリアを起こさなくていいというNの言葉はありがたかった。

「N様がどうしてこちらに?」

仲間たちの話では、カラクサタウンに居るとのことだったが――と、昨日盗み聞いた話が頭を過ぎる。

「トモダチに乗せてもらってきたんだ。一度、ポケモンリーグを見ておきたかったからね。此処に来たのはそのついでさ」
「・・・・・・なるほど」

ポケモンリーグ。ただのポケモントレーナーだった頃によく口にしていた、懐かしい響きだ。

「既に交代の者は行った。キミたちも戻るといい」
「はい。クリア――こいつが起きたら、すぐにでも」

ネロの言葉にNは未だ眠りこけるクリアとメラルバに目を向ける。

「そうか――キミはポケモンをボールに閉じ込めないんだね」
「は? ・・・・・・あ、ああ。はい」

湯たんぽ代わりにしてた、などと正直に言うわけにもいかないので素直に頷く。

「でもキミのポケモンは珍しい。他のプラズマ団のポケモンは、人のそばでは警戒してこんな風に眠らない」
「まあ、長い付き合いですから慣れたんじゃないですかね」
「・・・・・・そうか。そうなのかもね」

Nは少し考えるような素振りを見せてから頷いた。
何か思うところがあったのかもしれない。

「キミみたいな人間ならきっとたくさんのポケモンを救える」
「? ありがとうございます。・・・・・・あの」
「なんだい?」
「俺たちって入団試験を未だにパスしてないんですが、その辺りどうなんですか?」

まさか強制脱退とか・・・・・・と、最悪な回答を想像して焦るネロ。

「入団試験? ・・・・・・何のことだい?」
「え?」
「それじゃあボクは行くよ」
「ちょ、N様!?」

最後まで早口にNは言って、ポケモンリーグの方角に向かって足早に歩いて行った。
無論、ネロの言葉を無視して。

「・・・・・・あいつら、騙しやがったなぁ!?」
「・・・・・・ネロ、うるさい」
「途中から狸寝入りしてた奴は黙ってろ! ちっくしょう! 入団試験なんて真っ赤な嘘で、自分たちの仕事を俺たちに押し付けやがって!」

地団駄を踏みながら悪態吐くネロ。
妙だとは思っていた。
プラズマ団のダサい団服までもらったのに、今更入団試験なんてあるわけがない。

(・・・・・・ネロ、気づいてなかったんだ)

空気を読んだのか、それとも黙れと言われたからなのか、クリアはそれを言葉にすることはなかった。

「くそっ! ・・・・・・戻るぞ、クリア!」
「うん」

ネロはこの騒ぎの中でも眠り続けるメラルバをボールに戻し、どすどすと足音を立てながら先へ先へと進んでいき、クリアはそれをちょこちょこと歩いて追いかける。











「・・・・・・のう、グレイ」
「はいっ! なんでしょうかキュレムさん!」
「くっつかれるのは悪い気はせぬが、流石に歩き難いのだが・・・・・・」
「お気になさらず! あたしは空気のような存在ですから!」

ネジ山。セッカシティから山に入った十数分。
今まで黙っていたキュレムが漸く発した言葉である。
その言葉の通り、キュレムとグレイの距離は今までになく近い。昨日の金髪の女性とグレイの距離なんて目じゃないほどに近い。
だがそれは別にグレイとキュレムがラブラブになったわけなどでは勿論なく、野生のポケモンを必要以上に恐れているグレイが一方的にくっついているだけである。

「そうは言ってものう・・・・・・」
『きゅー!』
「ひぅぅ!? い、いや、これはセーフです。今の鳴き声はコロモリのはず」

キュレムではない誰かに言い訳するようにグレイがぶつぶつと呟き、キュレムは困ったように頬をかく。

「まあ早く町を出たいと言ったのは私じゃし、私は構わぬが・・・・・・だがグレイ、今のところは襲われておらぬが、私にくっついていたところで襲われる時は襲われるのだぞ?」

グレイが野生のポケモンを恐れる理由の一つはトレーナーとは違い、話し合いの余地がないことにある。
となればグレイの選択肢には出会ったら逃げるしかない。しかしもしも逃げられなかった場合、キュレムにより見るも無惨な姿にされたポケモンを見ることになる。
それに万が一、グレイが襲われてもキュレムが守ってくれない可能性もグレイは考えているのだ。万が一、だが。

(だってキュレムさん、昨日からずっとおとなしいし・・・・・・やっぱりリュウラセンの塔が関係あるんだろうけど)

『刺激したくない』とキュレムは塔を見て言っていた。
そんなキュレムをわざわざ塔の下にまで迎えに来させてしまった負い目は感じているものの、怖いのだ。

(それにこの山ってコロモリ以外は全部ゴツいんだよっ!?)

特にドテッコツがグレイ的にはアウトらしい。
あんなのに迫られたら気絶する自信がある程度には。

(・・・・・・情けないのう)

グレイがではない、自分が、だ。
尤も情けないのは圧倒的にグレイなのだが。
それに本来ならいくら力を抑えているとはいえ、キュレムとの力の差を弁えないような野生のポケモンは簡単に出るはずはない。
必要以上に怯えているグレイの存在がキュレムをより低く見せている――というのはグレイには酷だろうか。

(まさか己の無力さを嘆くことになるなど思いもしなかった)

己の友を安心させることも出来ない自分に自嘲する。

「・・・・・・やはりポケモンを捕まえた方が良いのではないか? これから先、何をするにも邪魔になるということはないだろう?」

くだらないプライドを捨て、グレイの身を案じ、キュレムは提案するが――

「いえいえ! あたしにはキュレムさんが居ますしっ!?」
「む・・・・・・そう言われると言い返せぬ、な」

ちなみにグレイは昨日の金髪の女性と話していた時のようにキュレムが不機嫌になってしまうことを恐れているから、即座に否定しただけである。
キュレムはキュレムでグレイの言葉に緩みそうになる顔を前を向くことで隠し、ネジ山のさらに奥へ奥へと入っていく。
未だにすれ違う二人だが、初対面の時よりはマシになった・・・・・・のだろう。

「――む?」
「ど、どうかしました?」
「これはあの娘・・・・・・かの」

しばらく歩いたところで急に立ち止まったキュレムに、何かあったのかとビクビクしながらグレイが訊ねる。

「キュレムさん・・・・・・?」
「いやなに、そういえばいつ出発したのかは訊いていなかったの、とな」
「?」

笑みを零したキュレムを見て、危険ではなさそうだとグレイは安心して――

(ってなんであたしキュレムさんのそばで安心してるのっ!? い、いやでもキュレムさんは良い人(?)だし・・・・・・あうあう)

――とりあえず、安心することにした。

「変わらぬと言ったが訂正しよう。あやつも随分変わっている。まあ、私にもその気持ちは分かるが」

背後のグレイを見て、今度は苦笑する。

「・・・・・・?」
「すぐ近くじゃ。これも縁、行くとしよう」
「あ、はいっ!」

キュレムの様子に首を傾げるグレイだったが、すぐにくっついて歩いて行く。
その姿には友と言うより、姉妹のような微笑ましさがあった。











「キバゴ、たいあたり!」
『キバーッ!』



「あれは・・・・・・アイリスちゃん、ですよね?」
「あやつのことはうぬの方が知っているのだろう?」
「とは言っても話したことはないんですが・・・・・・」

岩陰から頭だけを出して、バトルを眺めるグレイとキュレム。
野生のポケモン、ガントルと戦っているのはソウリュウシティが誇るもう一人のジムリーダー アイリスが操るドラゴンポケモン、キバゴ。

「やっぱりかたすぎて、あんまりダメージを与えられない・・・・・・でもあきらめないよ! キバゴッ、つめとぎ!」

アイリスとキバゴ。
そのどちらの身体も土で汚れていたが、それでも立ち向かう彼女たちの姿は輝き、楽しそうに見えた。


「む、あのデカブツの方が仕掛けるようだぞ」
「えと、確かパワージェムっていうわざのはずです」


威力はさほど高くはないはずだが、今のキバゴには決定打に成りかねない一撃。
それはアイリスにも理解できた。
アイリスとて祖父と、シャガと共に挑戦者を退けてきたのだから。
たとえそれが祖父のポケモンの力だとしても、アイリスのトレーナーとしての技術は養われている。
そして何より、アイリスは竜の心を知る娘。

「――キバゴ!」
『キバッ!』

アイリスと心を通わせたキバゴにはアイリスの言いたいことが分かる。

ガントルのパワージェムを避け、小さい身体を利用して後ろに回り込む。

「ドラゴンクロー!」


「・・・・・・ふむ」

レベル差や相性を考えれば、キバゴにとって有利とは言えない相手。
事実、当初アイリスたちは押されていたが・・・・・・しかし、最後の一撃。
キュレムには一瞬だが、シャガのポケモンたちと同じ気配を感じた。

「やったぁ!」

自分の身体がさらに汚れるのも構わず、アイリスはガントルを倒したキバゴを抱き上げる。
実を言えば、アイリスの身体が汚れているのはバトルで勝つ度にキバゴを抱き上げているからだったりする。

「というかキュレムさん、なんであたしたち隠れてるんですか?」
「隠れたつもりはないのだが」


「そうそう。なんでおねえちゃんたち、隠れてアイリスたちのこと見てたの?」
「きゃ!?」


いつの間にか背後に移動していたアイリスの声に驚き、グレイは飛び上がるが、キュレムは動じることなく腕を組んだままだ。

「なに、うぬたちの気を散らしては悪いと思ってな。まあバレておったのなら意味なきことじゃったが」
「灰色のおねえちゃんは分からないけど、水色のおねえちゃんならすぐにわかったよ!」
(灰色・・・・・・)

自分から名乗るのはいいが、名乗ってもない他人に言われるのはショックらしい。
アイリスは見た目からそう呼んだだけであり、彼女に罪はない。

「ふむ。まあうぬならばそれも当然か」
「? ところでおねえちゃんたちもフキヨセシティに行くの?」

アイリスは一瞬ハテナマークを浮かべたが、気にしないでそう尋ねてきた。

「あ、うん」
「無事に辿り着ければの話じゃが」
「やめてくださいっ!?」
「あはは、おねえちゃんたちおもしろいね!」

無邪気に笑うアイリス。
それを見て和むグレイ。

「シャガさんから旅に出ているというのは聞いてたけど、まさか会うとは思いませんでした」

自分よりも幼いとはいえ、ジムリーダーということとキュレムの前ということで敬語でグレイは呟く。

「おじいちゃんから?」
「うむ。旅に出ている、などと言うから随分経ったのかと思っていたが、此処に居るということは町を出たのは最近のことなのだろう?」
「うん! あたしがソウリュウシティを出たのは三日前だよっ」

アイリスの言葉にやっぱりシャガさんは良いお爺ちゃんだ、とグレイはしみじみ思う。

「えと、自己紹介がまだでした。あたしはグレイ。カゴメタウンのグレイです」
「同じくキュレムじゃ。・・・・・・ところでグレイ」
「? はい」
「私の時のように名乗らぬのか?」

キュレムのその質問はただ純粋に思ったことを口にしただけであり、他意はない。
それを分かっていてもグレイの顔は否応なしに紅潮していく。

「あっ、あれはもういいんです! 忘れてくださいっ!」

ソウリュウの塔の下で会った金髪の女性にからかう様に言われたのを思い出してしまったのだ。
あんな綺麗な女性に言われてしまえばこれまでの自分が恥ずかしくもなる。

そんなグレイとキュレムを見て、アイリスは楽しそうに笑っていた。




「あたしはアイリス! ソウリュウシティのアイリスだよっ!」









あとがき
N&アイリス登場。
キバゴの鳴き声はアニメ仕様。
どうしようもなくバトルが短すぎた。前回まともなバトルを、と書いといてこんなので申し訳ない。
でもこれで漸くバトルを入れられるようになる・・・
やっぱりポケモンなんだからバトルしないとなぁ・・・。あまりバトル回数は多くありませんが、一応要所要所に入れていきます><



[22391] その7
Name: アウウ◆09594bf1 ID:cc32c781
Date: 2010/12/25 18:50
「はいどうぞ、二人共」
「わー! おいしそう!」
「シャガさんほどではありませんが、食べれなくはないと思います」

夜。
グレイたちは未だネジ山に居た。
今日中に山を越えることを諦め、野宿することにしたのだ。

「うぬは少し自分を卑下し過ぎる、悪い癖じゃ」
「あはは、すいません・・・・・・」
(いや、シャガさんの料理を食べるまでは結構自信あったんですけどね・・・・・・)

世界は広い、などとそんなところで感心したものだ。

「はむっ・・・・・・おいしい〜!」
「・・・・・・んむ。やはり美味しいの」
「えへへ、ありがとうございます」

褒められて悪い気はしない。はにかみながらグレイも食べ始める。

「アイリスちゃんは一体何処まで行くんですか?」
「んー・・・・・・キバゴと一緒に行けるところまで! おねえちゃんたちはっ?」
「同じじゃよ。グレイと共に、行けるところまで」

キュレムの言葉にグレイは頬をかくだけで、何も言わない。
その真意は分からないが、良い傾向なのだろう。

「だがひとまずはうぬも一緒じゃの。あやつに借りを作るのも良いじゃろう」
「ジムリーダーさんには余計なお世話かもしれないですけど、一人よりは楽しくなると思いますよ?」

当然のように言うキュレムと、それに同意するグレイ。
彼女たちの中では、アイリスが旅に同行するのは決定事項のようだ。
問題のアイリスは俯いていた顔を上げ、満面の笑みを浮かべ口を開いた。

「うんっ! ありがとう、おねえちゃんたち!」
「なに、気にすることはない」
(借りを作るというのは本当だが、こやつならばグレイを守ってくれるじゃろう)
「いえいえ。あたしたちこそ強引ですいません」
(ジムリーダーさんとはいえ、こんな小さい娘の一人旅は心配だし・・・・・・)

二人はお互い口には出来ない想いを抱えつつも(ちなみにグレイもアイリスほどではないにしろ、幼いのだが)、新たにアイリスを加え、旅を続けていく。











「キバゴ、おねがい!」
『キバッ!』


「わぁ・・・・・・」
「む? どうしたのだ、グレイ? 落ち込んでいるようだが」
「いえ、分かっていたことですけどあたしよりも子供なのにすっごく強いんだなぁ、って」
「まあジムリーダーなのだから当然なのだろう?」

そうですけど・・・・・・とアイリスとキバゴを見ながらグレイは頷く。
少々複雑な気分のようだ。


(キバゴっ、おねえちゃんたちにあたしたちの力を見せてあげよう!)
(キバッ!)

実際にはアイリスたちが張り切り、いつも以上の力を発揮しているというのもあるのだが、心を読むことの出来ないグレイたちが気づけるはずもない。

「この調子なら夕方にはフキヨセシティに着けそうですね」
「そうじゃな。それだけ離れれば余計なことを気にする必要もあるまい」
「あの、できればあまり目立つようなことだけは・・・・・・」
「心配しなくとも暴れたりはせぬよ。洞窟に籠もる生活には戻りたくないしの」

ジャイアントホールのすぐそばのカゴメタウンでさえ存在が形骸化し、おとぎ話になるほどだ。やることもなく、よっぽど退屈だったのだろう。

「不安ならば私を捕まえてみるか? うぬにならばそれも悪くない」
「い、いえ! 遠慮しておきます!」

意地悪く笑いながら言うキュレムにグレイは慌てて首を横に振る。

「賢明じゃな。それに本当にモンスターボールとやらで捕まえられるのかも解らぬ」
「・・・・・・?」
「ん、うぬが気にすることではないさ」

キュレム自身、さほど興味があったわけではないのだろう。すぐに考えるのをやめて、視線をアイリスに戻した。

(しかし、凄まじいな)

アイリスの実力に素直に感嘆する。
強大な力を持つキュレムから見ても、アイリスの力は相当なもののようだ。
勿論、シャガやキュレムの知るトレーナーにはまだ遠く及ばないが。

(変わったのは人かそれともポケモンか・・・・・・まあ、今の私にはあまり関係のないことよの)

パートナーであるグレイがトレーナーでない以上、大した興味は抱けない。



「あっ、洞窟の出口だ!」
「ということはもう少しで山を抜けられそうですね。既に三つ洞窟を通って来てますし」

中腹で見た地図板を思い出し、出口が近いことを悟る。このまま何事もなければいいけど、と心配性・・・・・・というより臆病なグレイは不安がる。

「とりあえず、この辺りで休憩しましょうか」
「そうだねっ」

このメンバーで危険なことなどそうそうあるわけもないのだが。











「・・・・・・」

ネジ山から少し離れた空。
一人の少年が鳥ポケモンに乗って飛んでいた。

少年の名はN。
ポケモンの解放を謳うプラズマ団の王。英雄の資格を持つ者。

「どうしたんだい? そんなに怯えて・・・・・・」

自身が跨る鳥ポケモン、ケンホロウの首の辺りを撫でながらNが問うた。

「――あの山?」

ポケモンの思考を読むことのできるNがケンホロウの心を読み取り、そして呟く。
怯えの原因は山に在る。そうケンホロウはNに伝えた。

(ネジ山・・・・・・彼処に何が?)

ジッと山を見つめていたNの脳裏に、唐突にイメージが過ぎる。
否、Nには視えたのだ。
ケンホロウが怯えている原因の力の一端が。

「っ・・・・・・」
(氷の、龍・・・・・・?)

Nは知らない。
その龍の名を。
だがその力な強大さは理解できた。

「・・・・・・やはりポケモンは解放されなければ。あんなに素晴らしい力を持つポケモンが、人間に利用されちゃいけない」


グレイもキュレムもアイリスも。誰もが気づかなかったが、これがNとの最初のコンタクトであったのは間違いない。











「む、んむ・・・・・・?」
「どうかしましたか?」
「いや・・・・・・何か妙な感じがしての」
「ひょっとして・・・・・・おばけ!?」

休憩を終え、最後の洞窟を進むグレイたち。
そんな中、キュレムが何かを感じて首を傾げた。

「懐かしいような、そんな感じじゃ。それとアイリス、この辺りにゴーストタイプと呼ばれるポケモンは居らん」
「キュレムさん、多分アイリスちゃんが言いたいのはそういうことじゃありません」
『キバキバッ』

グレイのツッコミにアイリスに抱かれたキバゴが同意するように頷く。

「む、そうなのか?」
「極端に言えば、おばけとは目には見えない怖いもののことです」
「? 目には見えないモノをなぜ怖がるのだ? そもそも、目に見えないのなら居ないモノと同じであろう?」
「ええと、それは何というか・・・・・・神様と同じです。この地方で言うゼクロムやレシラム。それに三闘神――についてはあたしはあまり知りませんが。ソウリュウシティではそういう伝承でしか知らないポケモンをみんな信じて、お参りしたりしていたでしょう?」

最後にアイリスに気を悪くしないでください、と言ってグレイは精一杯の説明を終えた。
キュレムを出来るだけ常識的にすること、それがグレイにとって最善であるからだ。

「勿論、神と呼ばれるポケモンは本当に居るかもしれませんけど」
「ううむ・・・・・イマイチ理解できぬが、そういうものなのか」
「まあキュレムさんにとってはピンと来ない話なのは仕方ないですね」
(自分自身がその、“目に見えない怖いもの”だったんだし・・・・・・見えていた方が怖かったりもするけど)
「あ、おねえちゃん、出口が近いみたいだよっ!」

アイリスに抱かれていたキバゴがアイリスの腕を飛び出し、走り出す。
アイリスの言うとおり出口が近いのを感じたのだろう。

キバゴを追ってグレイたちも走り出した。

「洞窟の中は結構寒かったですから、外は暖かいと良いですね」
「そうだねっ!」
「む、あれが出口じゃな」
『キバッ!』





・・・・・・結論から言えば、外の天気は最悪だった。
暗雲が空を多い、日の光は全く差し込まない。
雷が轟き、草木は豪雨に曝されている。

「・・・・・・」
『キバ・・・・・・』
「・・・・・・と、とりあえずフキヨセシティに急ぎましょう! 此処に居たら風邪を引いちゃいますっ」

悪天候に目に見えてテンションの下がったアイリスとキバゴ。
それを見てグレイが無理にでもとテンションを上げる。

「グレイの言うとおりじゃな。この天候、少しおかしい」
「少しというか、かなりおかしいですよ。ネジ山から見た時はあんなに晴れてたのに・・・・・・変わりやすいのは山の天気のはずなんですが」
(やっぱりキュレムさんから見ればこの雷でも少しおかしい、程度にしか感じないんだなぁ)

――と、グレイは驚いていたが、キュレムの言う天候の異変は天候そのものを指しているわけではなかった。

「さ、アイリスちゃん、行きましょう」
「うん・・・・・・」

雷に怯える年相応なアイリスの表情にキュンとしながらもグレイがアイリスを促し、大雨の中走り出す。

「グレイ」
「? はい、なんですか?」
「うぬが今日言った、伝説のポケモンの話があったじゃろう?」
「はい。ゼクロムとレシラムのことならあたしよりアイリスちゃんの方が詳しいでしょうけど」

キュレムの目が鋭く、空を睨んでいることにグレイはまだ気づかない。

「いや、そやつらのことは良い」
「? なら三闘神ですか? でもその伝説についてはあたしも全然知らなくて・・・・・・きゃっ!」

会話を裂くようになった雷の轟音に驚くグレイ。
アイリス程ではないにしろ、グレイとて怖くないわけではない。

「私の記憶が正しければ――いや、予想が正しければ、か。この地方にはまだ何体か伝説などと言う大仰な名を与えられたポケモンが居るのではないか?」
「それはまあ――キュレムさん?」

キュレムが突然立ち止まり、グレイとアイリスもそれに合わせて足を止める。

「では伝説と呼ばれるくらいだ。その中には天候を操ることぐらいはできる者も居るじゃろう? 例えば、そう――」

グレイとアイリスがキュレムの視線が何処かを向いていることに気付く。

それは愚かにもキュレムを見下ろす、空に居た。

「悪戯の過ぎる、身の程知らずの神様気取りが」


「え――ええっ!?」

真っ先に声を上げたのはアイリス。
キュレムの言わんとしていることに気付き、それが的を射ていることを理解する。
ドラゴンという最も伝説に近しきポケモンと親しいからこそ、本当の伝説の存在をその幼い肌で感じ取った。



「じゃあこの天気の原因は、ボルトロスのせいなのっ!?」
「雷雲を操るのはうぬたちが神と崇める黒竜もまたそうだが、このようなことをするのはあやつしか居るまい」

――まったく、変わらぬな。と小さくキュレムは呟いたが、その呟きは一際大きな雷にかき消され、そして伝説が三人の前に姿を現す。

「うそ・・・・・・本物っ、本物の伝説のポケモンだっ! 見て見てキバゴ! あれがボルトロスだよ!」
『キバッ!』

雷に怯えていた少女の姿は既にない。
ただ好奇心を隠すことなくさらけ出す最年少のジムリーダーの姿が其処にあった。

そして最後の一人、彼女にとっては二度目の伝説との対峙。
一度目はただ怯えていた彼女は今――


(ええと、伝説のポケモンにこんなことを思うのも失礼ですけど、何というか・・・・・・見た目はあたし的にアウトです)


ドテッコツといいこのボルトロスといい、この辺りはゴツいポケモンしかいない、と冷静に考えてみて憂鬱になる灰被り姫が其処には居た。











あとがき
みなさまお久しぶりです&メリークリスマス。
これだけ放置しといて復帰がクリスマスってどうなんだろう。

今更ですが、連載再開です。
それに伴い、次回更新時身の程知らずにもその他板に移らせていただきます。

できれば見捨てずにお付き合いください。・・・・・・切実にお願いします。
キュレムたん可愛いよキュレムたん。



[22391] その8
Name: アウウ◆09594bf1 ID:f619fa38
Date: 2010/12/27 23:54
「――ネロ」
「ああ!? 何か言ったかぁ!?」
「・・・・・・何も言ってない」

ただ呼んだだけ、とクリアが返すとネロは視線をクリアから外して正面へと戻す。

「そう、かよ!」

今にも消え入りそうな小さな声で確かにクリアはネロの名を呼んだ。
今のような状況でなくとも、彼女の呟きを聞き取れる者がどれだけ居るのか分からないほどの小さな声だったがネロはそれに反応してみせる。
それが何故か嬉しくて、クリアは自らの言葉を飲み込み、再び背後の木に背を預けた。

「――っしゃあメラルバ、むしのさざめき!」
『ぶぴぃぃ!』

プラズマ団、団員 ネロ。そのパートナー、メラルバ。
進化を目指して絶賛修行中。
天候、激しい雷雨。



(・・・・・・ネロの邪魔、したくないから)

こうして、クリアが“雲間から見えたポケモンの影”について口にすることはなかった。











(さて、どうしたものかの)

雨粒が身体に当たる直前で氷へと変わり、キュレムはそれを鬱陶しく感じながら未だキュレムよりも上の位置に滞空するボルトロスを見つめ、そしてチラリと自身の後ろの二人に目をやる。

(こやつとの戦いは流石にアイリスにはまだ荷が重い・・・・・・が、それは私も同じことか)
「グレイ」
「は、はいっ?」
「この戦いが終わったら・・・・・・むう、特に思いつかぬな。まあ終わってから考えれば良いか」
(いやキュレムさんその台詞もですが、あたし的にはその笑顔の方がアウトですっ!)

S気全開(にグレイには見えた)の笑み。一部の人間は大喜びしそうなその笑顔にグレイは震え上がりながらも、完全にボルトロスに対する恐怖心が消えた。

「身構えているところ悪いがアイリス、グレイを頼むなどとは言わぬぞ」
「えっ?」
『キバッ?』
「グレイ、うぬは何の心配も構えもしなくて良い。この私が何者にもうぬを傷付けさせぬ。ただ私の傍に居てくれればの」

アイリスを信用していないわけではない。
ただ、

(――やはり私の友は私が守る。私が、守りたいのだ)

そしてキュレムはボルトロスに向き直り、さらに笑みを深める。今度は誰の目から見ても凄惨で残酷な笑みを。

「――はい、キュレムさん」

背後からグレイの声が聞こえる。その事がどうしようもなくキュレムには嬉しい。


「さて、私が貴様らの親玉の代わりじゃ。躾てやろう、二度と私たちに噛みつく気など起きんようにな」

働かぬ親玉も、いずれは私が躾てやる。
そう言ってキュレムは己が力を解放する。
人の形を捨て、竜へと――。


『ヒュラララ!』


「え? ・・・・・・ええっ!?」

何が起きたのか、数瞬起きたのか理解出来なかったアイリスが遅れて叫ぶ。

(・・・・・・こんな間近で変身されてもあんまり驚かないなんて、あたしもう駄目かもしれない)

などとアイリスの驚愕を余所に、グレイはもう引き返せないところまで来ている自分の常識に嫌になる。

(でも)
「――大丈夫です、アイリスちゃん。やっぱりあたしもまだ怖いけど、あれはキュレムさんですから」

ボルトロスよりも遥かに凶悪で恐ろしい姿でも、たとえそれが本当の姿だとしても。
関係ない、と言い切れるほどグレイは強くないけれど、英雄の器なんてものはグレイにはないけれど、いつだって彼女は強く在ろうとしている。
キュレムと初めて出会った時も、今この瞬間も。

そんなグレイだからこそキュレムは惹かれたのだ。


『ヒュラララ!』


雄叫びと共にキュレムの羽ばたいた。
羽ばたく度に翼から氷が剥がれ、また覆われていく。

キラキラとその氷の粒は雷雨の中でも幻想的な美しさを持って地上へと舞い落ちる――いや、氷の粒はキュレムの翼から剥がれたものだけではない。
雷は変わらず鳴り響いているが、先ほどまで痛いほどの激しさでグレイたちに当たっていた雨粒も、氷の粒へと変化していた。
今のキュレムにはボルトロスのように天候を操ることは出来ない。それどころか今の姿に戻ることさえするべきではなかった。

雨粒を氷に変えているのはキュレムの身体から発せられる冷気。キュレム自身にさえ操作することの叶わない冷気がグレイたちを豪雨から守っていた。


「きれい・・・・・・」

その光景にアイリスが思わず呟く。
アイリスだけではない、きっとこの光景を見れば、ほとんどの者が美しいだとか綺麗だとかいうような感想を抱くだろう。

ただ一つの例外、即ちキュレムと対峙しているボルトロスを除いて。
ボルトロスにとってこの光景は美しさなどなく、逃げ出してしまいたくなるような恐怖だけが生まれる。

そしてその恐怖がボルトロスを動かした。



「あれは・・・・・・かみなり?」
「でも、あんなに強いかみなりなんて見たことない!」


天候を操り、悪さをするポケモンと伝わるボルトロスだがボルトロスにとっては悪戯でしかなく、実際ボルトロスの起こした雷雨のせいで事故が起きたり、停電が起きたことはあるが、雷が人間に落ちたという話はなく、ポケモンでさえボルトロスの雷が元で亡くなった者はいない。

そのボルトロスが今、敵意を持って自身の力を行使する。

■■■■――!

それはボルトロスの鳴き声だったのか、雷の音だったのか、それともまったく関係のない風の音だったのかすら分からない。











「えらくあっさりしていてすまぬが、これで終いじゃよ。というかそうしてくれなければ私も困る」

強烈な稲光が収まり、二人が目を開けると少女の姿へと戻ったキュレムが目の前に居た。

「・・・・・・?」「・・・・・・?」『・・・・・・?』

グレイもアイリスもボルトロスも、何が起きたのか理解できない。
ただ分かるのはキュレムには傷一つなく、またボルトロスも無傷だということと、雷雨がやみ、だんだん雷雲が流れていっていることだ。

「多少離れたところでこのイッシュにいる限り、私には全力など出せぬよ。だがまあこの程度ならば今の私でもどうにかなる――もう奴には雷を操ることも、雨を降らすことも出来ぬ」
「え、と、確かに雨も雷もやみましたけど・・・・・・」

だが釈然としない。
グレイもアイリスもてっきり手に汗握るようなバトル展開か、グレイに限って言えばキュレムのワンサイドゲームを予想していた。
これもキュレムのワンサイドゲームと言えばその通りだが。

「――さあ、ボルトロスよ。この状況でもまだ私に刃向かうか? 次は情けなどかけぬがな」
『・・・・・・』

低い声でボルトロスは唸り、やがてしょんぼりとした様子で背中をキュレムたちに向け、ゆっくりと飛んでいった。

「ふん、まあ当然じゃろうな。正しい判断じゃ」

「あの、キュレムさ――」
「――すっ、ごい! ねえねえ水色のおねえちゃん、おねえちゃんでポケモンだったの!? しかもあんなに大きくて格好良い竜! わたし初めて見た! ね、キバゴ!」
『キバッ!』

「・・・・・・」

アイリスの反応が予想外だったのか、一瞬呆気に取られるキュレム。

「全然気付かなかった! すごい! すごい! すごーい!」
「あー、その、なんだ。アイリス、怖くはないのか?」
「全然怖くないよ! だっておねえちゃんはおねえちゃんだもん! びっくりしちゃったけどね!」
(・・・・・・まったく似てないようで似ておるな、うぬの祖父とうぬは)

キュレムは少しだけ口元が緩むのを感じる。

「でも本当にすごーい!」
「さっきからそればっかりじゃな・・・・・・」
「わたしたちと全然変わらないのに――って冷たい?」

アイリスが勢いそのままにキュレムの右手を掴むと、その手が異常なほど冷たいことに気付く。

「これもあるからあまりあの姿にはなりたくないのじゃ――って、何をしておる?」
「こうすればすぐにあったかくなるよ!」

ぎゅーっと、さらに強くアイリスはキュレムの手を握り締め、さらには――

「これならもっとあったかい!」

と、今度は腕に抱きついた。

「こ、こらっ! 離さぬか! うぬとて雨に濡れておるのだし、寒いじゃろ!?」
「大丈夫! ほら、おねえちゃんも!」
「へ? あ、あたしもですか!?」
「うんっ! だってわたしじゃ小さくて全部をあったかくできないから!」
「だからそんなことせずともいずれ体温も戻る!」

キュレムが取り乱すという初めての状況にグレイは混乱の極みであった。

(あうあう・・・・・・)

だからだろう、普段からは考えられないはずの行動を、アイリスの提案を受け入れるという行動を実行してしまったのは。

勿論アイリスのように抱きつくことはしなかったが。

「し、失礼します、キュレムさん」

それでもグレイは両手で優しくキュレムの左手を握った。

「っーー!?」

誰も触っていないはずのキュレムとグレイの顔が少し赤く染まる。

「あっ、あったかくなってきた!」
「う、うう、うむ。そ、そうじゃな」
「あの、キュレムさん」
「な、なんじゃ?」
「ありがとうございます。それぐらいしかあたしには言えませんけど、本当に・・・・・・」
「う、うむ。気にすることはない、私が好きでやったことなのだから」

この大変珍しい光景の価値はまだ、アイリスには分からなかった。
ただ二人は仲良しなんだ、とだけ理解して、アイリスは笑った。











(雷雨がやんだ・・・・・・?)
「どうしたクリア――って、晴れてきたのか。よーしよし、思う存分太陽の光を浴びろよ、メラルバ」
『ぶぴぃぃぃっぷ!』

ほぼ同時刻、ネロとメラルバの修行も一旦の終わりを迎えたが、未だメラルバに進化の気配はない。

「よっしゃ、晴れたことだし飯でも食いに行くか。今はそれぐらいの余裕はあるしよ。ったく、入団試験なんて嘘っぱちを真に受けてなけりゃあ今までだってもっとマトモな飯を食ってたっつーのに」

ネロのボヤきに反応したわけではないが、クリアが空から視線を外し、木陰から立ち上がる。

(突然やんだ雨よりご飯の方が大事・・・・・・)
「じゃあ町に戻って――って財布がねぇ!?」

無駄に厚くて重い団服のポケットをあさりながらネロが焦りを隠そうともせず叫ぶ。
クリアはそれに溜め息を一つ吐くと、自分のポケットから財布を取り出す。

「ネロ、此処に来る途中に落としてた」
「うぉぉ! 危ねぇ! ナイスだクリア!」

大袈裟な反応に薄く笑うと、クリアはネロの財布を投げ渡す。そしてついでに疑問も一つ投げかけた。
あまり興味はないけれど、疑問を氷解させ、すっきりしたかったから。

「ネロ」
「あ?」
「バトルで相手のあまごいとかみなりを止めたかったら、ネロはどうする?」

大きな弧を描いて財布がネロへと落ちていく。

「そりゃ方法は色々あんだろ。ねむらせるとかしびれさせるとか」

ゆっくりと落ちてくるそれをキャッチしようとネロが手を上げる。
返事も適当で、会話に集中してはいない。

「もっと静かに、見てる人に気付かれないように止めるとしたら?」

パシッと財布をしっかりキャッチ。
そしてなんてことないようにネロはクリアの疑問に答えた。



「そりゃ、ふういんしちまうのが一番バレないやり方だろ」

とは言ってもトレーナーが指示を出すから聞いてる奴にはバレバレだけどな、とオチをつけてネロは町へと歩き出した。

「ほれ、さっさと行くぞ」
「うん」

それにクリアも続く。
ネロにとってもクリアにとっても、そんなことはどうでもいいことだった。








あとがき
バトルシーン期待してた人が居たなら本当にごめんなさい。
キュレムたんのバトルなんてこんな感じです。
やっぱりバトルよりも会話とかの方が書きやすい・・・。
今回はクリアも結構喋ってくれましたし。


そして一番最初に書いてある通り、このSS内のわざはゲームと異なる場合があります。 それが顕著な話ですね。華麗にスルーしてください。


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