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こころを救う:心身合併症、受け入れ 救急現場「体制に限界」

 ◇総合病院と精神科病院、連携必要の指摘も

 東京都東久留米市で昨年2月、体調不良を訴えた統合失調症の男性(当時44歳)の救急搬送先が見つからず翌日死亡した問題で、受け入れを断った13病院のうち複数の病院が毎日新聞の取材に、身体と精神の合併症患者を受け入れるのが難しい状況を詳しく説明した。総合病院と大学病院は要員の問題などから休日・夜間に精神疾患に対応できないことがある一方、精神科病院は重い身体疾患を診療できず、合併症患者が救急医療のはざまに落ち込む実態が浮かんだ。

 多摩地域の総合病院の事務局長は「うちは当直医を院外の先生にお願いしている。病院の方針は精神疾患があっても受け入れることになっているが、実際は各当直医が判断している」と明かす。

 この病院の夜間・休日の当直体制は診療科ごとに医師1人と看護師数人。1晩で20~30人の救急患者が途切れることなく来る。合併症患者の場合、治療後に自殺を図らないよう、当直が終わるまで患者から目が離せなくなる。1人の患者にかかり切りになると、他の患者を受け入れられないという。

 事務局長は「特に若い医師に、自殺されて(家族から)裁判を起こされるリスクを避けようとする姿勢が目立つ。救急隊から『精神』という言葉が出た途端、当直医が『防御』してしまうのが実情」と言う。

 23区内の大学病院は「精神疾患が軽症なら精神科の病棟があるので受け入れるが、暴れたりする重症な患者には対応できない構造なので、断ることはある」と話す。

 精神科病院は、もともと内科や外科など身体疾患を診られる医師が少ないうえ当直スタッフも少なく、夜間・休日に緊急の受け入れは難しい。受け入れたとしても身体疾患の症状が予想より重かった場合、総合病院など転院先を見つけるのに苦労するという。多摩地域の精神科病院の医師は「当直体制を充実させて24時間対応にしたいが、病院経営を考えると難しい」と語る。

 同じ地区の総合病院の事務局長は「救急受診の時、患者のかかりつけの精神科診療所などと連絡が取れれば患者の普段の症状が分かるので、当直医の精神疾患に対する抵抗感も減る」と、医療機関の連携の必要性を指摘。精神科病床のない別の総合病院の医師は「ベッドが空いていれば合併症でも身体疾患は僕らが診る。治療後に都立病院など公的な病院が精神科の救急患者として受け入れてほしい」と言う。【奥山智己】

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毎日新聞 2010年12月27日 東京朝刊

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