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[25025] 【ダンガンロンパ】全員脱出絶望学園【逆行ネタ?】
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:3019f9fd
Date: 2010/12/21 14:02
やっちまった感大。
とりあえず続くかわからないけど書く。
まずはプロローグ的なものです。

・ネタバレ
・ループ要素
・ご都合主義
・キャラ崩壊

以上の要素が含まれます。





















「ボクの話を聞いて!■■さん!
君は裏切られてるんだ!■■■さんに!
ここから脱出するにはもう■■さんに頼るしか…!」

「……」

どうやらボクの言葉は届かなかったようだ。
彼女は沈黙と同時にボクの声を掻き消した。
喉から燃え上がるような熱を感じ、空気が抜けた。
目の前に赤い液体が飛び散る。
視界がにごる。
最後に見た彼女は、一切汚れることなく、無表情でその場を去った。


 ああ……
 また、失敗した


 ボクは二回目の失敗を悟り、そのまま目を閉じた。



***************



ボクは閉じ込められている。
この学園に閉じ込められている。
一度は脱出した。脱出したのだが、その瞬間ボクは教室の机に伏せていた。
殺し合いの学園に。絶望の学園に。ボクは戻っていた。
当然夢だと思った。しかし、夢にまで見た彼女が目の前に現れ、
ボクを初めて見る人間であるかのような対応をした時、ボクは膝を落としかけた。
しかも、思い出したのだ。曖昧ながら、あの一年間を。
皆で過ごした学園の日々を。
ボクは死を繰り返したくなかった。
絶望を跳ね除けたかった。
だけど……やはり彼女は死んだ。
ボクがどれだけ説得しても無駄だった。
最初とは違い、殺して、処刑された。
拘束され、ステージの上で爆音に犯されながら。
彼女は最後まで叫んでいた。
”私はこんなことをしている暇はない”と。
そして次は、最初の時にボクの隣に居てくれた彼女が死んだ。
殺された。
クロはボクだ。投票の結果そうなった。
そしてボクはプレス機にかけられ、他の皆と同様に処刑された。
そして、ボクは死に、再び机に戻された。
そこからは冒頭のアレだ。
このふざけたゲームの切り札。
彼女の説得を試みた。
だけど、駄目だった。
…きっとピースが足りないのだ。
前に進むには曖昧では駄目なのだ。
あの一年を正確に思い出さないと、ボクはあのモノクロの絶望を撃退できない。
仲間全員が生き残るにはそれしかない。
ボクは四度目の目覚めと共に目を閉じた。
回想する。
あの一年を。
短いながらに紡いだ絆を。
ゆっくりと意識が沈んでいく。
僕の意識に、消された記憶に沈んでいく。
ボクは希望を捨てない。
だって…、それだけがボクの取得なのだから。





[25025] 舞園さやか
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:3019f9fd
Date: 2010/12/22 19:10
舞園さやか編









ボクは今、途轍もない危機に晒されている。
しかし、この危機は他の人から見てもわからない…、
いや、見ている他の人が危機である故にボクは助けを求めることも出来なかった。
ボクが今直面している危機、その原因は目の前にある。


「苗木くーん?
どうしたんですか? そんなに汗を浮かべて……、
もしかして熱があるんですか?」

「いや、大丈夫だよ舞園さん。
ちょっと…暑くてね……、ははは…」

「今12月なんですけど…」


ボクは渇いた笑いをあげる。
今は12月の後半。クリスマス間近だ。
街はイルミネーションで飾り付けられ、恋人同士が闊歩する。
ボクには特に縁のない季節である。
今も目の前の彼女…、舞園さやかさんと一緒に出歩いているが、
これはデートなどではなく、買い物の手伝いだ。
所謂荷物持ちとプレゼント選び。
今まで忙しすぎて男性と縁のなかったという彼女が、
男の喜ぶプレゼントと教えて欲しいとボクに頼んできたのだ。
ボクも思うところがなかったわけではないが、仲のいいクラスメイトであり、
憧れていた女の子の頼みを断れるはずもなく、こうしてご一緒させていただいているのである。
さて、ここで冒頭の危機についてだが、別に荷物が多くて死にそうとかではない。
というかまだ買い物の途中なので荷物なんてない。
危機とはつまり周りの人間…、限定すると男性であり、
分かりやすく言うと、嫉妬の視線だ。
目の前の彼女は国民的アイドルグループのセンター。
つまり、皆の憧れの女の子である。
ボクはただのクラスメートであり、それは彼女のファンには当たり前の事実だ。
その羨ましい凡人のボクが(ボクの通う学園で凡人は、今のところボクだけだ)、
彼女と歩いているという事実は、それはもう身の危険を感じるほどの嫉妬を受けるのである。
学園の性質上週刊誌などにスクープを受ける心配はないが、
それでもこの寒い季節に冷や汗を掻くくらいは嫌な視線を感じているのだ。
……か、帰りたい。
しかし、そんなボクの心情はなんのその。
舞園さんは、とろとろ歩くボクを先導して目的の店へと向かう。


「さあ行きましょう苗木君。
目的地までもうすぐですから!」

「う、うん……。
でもボクで大丈夫なの? プレゼント選び。
芸能界の友達の方がセンスがあるんじゃあ……」


そう、ボクはあくまで普通の高校生だ。
舞園さんが誰にプレゼントを贈るつもりなのかは知らないが、
ボクのように普通の人間ではないだろう。
人選ミスのような気がしないでもない……、というか最初からそう思ってる。


「もうっ、何度も言ったじゃないですか!
苗木君でいいんです。いえ、むしろ苗木君以外ありえません!
そう、苗木君は私のプレゼント選びを手伝うしかないんです!」

「そうなんだ……」


知らなかった。
どうやら謎の三段活用でボクの行動は決まってしまったらしい。
まあ、でもここまで頼られると悪い気はしない。
彼女の為にも慎重にプレゼントを選ばなくちゃ…!


「……流石朴念仁。
まったく気づいてる気配がありません……」

「……え? 何か言った?」

「いーえ、なんでもありませんよ、なんでも。
ほら、もっと早く歩くっ! こうみえても私は忙しいんですよ?」

「あ、ちょっ舞園さん!? 手! まずいってば!」


舞園さんがボクの手を引いて走り出す。
まるで目立つように、見せ付けるように人ごみの中を。
さっきまでは、視線って暴力になるんだなぁ、なんて感じてたが、とんでもない!
これは人を殺せる。
周りの人がほぼ全員ボク達を見ている。
あ、あそこの人たちカメラを撮って……


「ま、舞園さん!?
ほら、あそこの人たちカメラを撮ってるよ!?
流石にまずいんじゃあ……」

「…ふふふ」


ボクの必至の叫びも彼女は無視する。
ていうか笑顔だ。ボクの手を摑みながらカメラに手を振ってる。
流石にこれは週刊誌に載ったりするんじゃないか?
まずくない? 主にボクが。
彼女の人気は、男関係の報道で落ちる程度のものではない。
むしろ相手がボクのような一般人だったら人気が上がるかもしれない。
でも、多分それと同時にボクの元に怪文章が届くだろう。
そうなった場合のいい訳とか、昔の知り合いに会ったらなんて言おうか…、
なんてことを考えているうちに動きが止まった。


「ほら着きましたよ苗木君」

「…え?」


目の前にはそれなりに大きなデパートがあった。
都心によくあるタイプの物だが、舞園さんがここに来るなんて少し違和感を感じる。

「私だってこういうところで買い物をするんですよ?
忙しくてめったに来れませんけど」

「え、あっ…なんで、ボクの考えてたことが?」

「エスパーですから」


舞園さんの特技(?)にまた引っかかってしまった。
舞園さんはこんな感じでボクをからかうのが好きなのだ。
まあ楽しい会話のスパイスのような物なので文句はないが…、少し吃驚する。
……ボクってそんなにわかりやすいのかなぁ?


「それじゃあ行きましょう。
苗木君はどういうものが好きなんです?
お店も一杯ありますから、まずはジャンルから選ばないと……、
私としては、ずっと身につけている感じの物がいいですね」


口早にそう言う舞園さん。手は繋いだままである。
ボクとしてはそろそろ手を離してもらわないと世間的な意味で死んでしまう。


「えっと……、舞園さん?
そろそろ手を……」

「……苗木君は私と手を繋ぐのはいやなんですか?」


ボクの主張に対し、拗ねたような顔と口調で尋ねてくる舞園さん。
こういう顔の舞園さんはとても珍しい。
基本笑顔を絶やさない人なのだ。
そんな舞園さんにボクは怯んでしまう。
仕方ないじゃないか、ボクは普通なんだ。
つまり、普通にアイドルに憧れていたのだ。


「べ、別に嫌じゃないけど」


むしろ嬉しいくらいだし……、
と消え入るような声で呟いてしまったボクを誰が攻めれるのか、いや誰も攻めれまい。
さっきから周りの視線とか気にしていたが、それ以上に舞園さんが気になっていたのだ。
彼女から感じる体温や、手の柔らかさに先ほどからドキドキしっぱなしである。


「ふふふ…、それじゃあ許してあげます」

「……あ」


そういって舞園さんは満足そうに手を離した。
名残惜しそうな声を上げてしまったボクは少し恥ずかしくなり、目を伏せてしまう。
そんなボクを前にして、舞園さんは明後日の方向を向きながら小さく呟く。


「……大丈夫ですよ、これ以上はしません。
抜け駆けはなし、ですから」

「…?」

「…さて、行きますよ苗木君。
何度も言いますけど苗木君が一番欲しいものを選んでくれればいいですから」


そう言って、舞園さんはボクに笑顔を向けた。
テレビで見る舞園さんは本当に綺麗だけど、
こんなに可愛い顔を見れるのはきっと本当の彼女を知る人だけだろう。
ボクが彼女と知り合えたのは幸運以外の何物でもないが、
ボクは舞園さんのこの表情を見るたび、それに感謝するのだ。
いや、舞園さんだけじゃない。
クラスメートの皆と知り合えたことを感謝しなかった日はない。
ボクは自分の幸運に感謝しながらデパートの扉を潜った。
皆とならきっと明日も楽しい。そう確信して。









**********************






私が苗木君に好意を抱いたのはいつだったか。
鶴を助けた彼を見た時か。
普通の会話が苦手な私と居ても楽しいと言ってくれた時か。
落ち込んだ私を励ましてくれた時か。
どんなときも絶望しない前向きな彼を見た時か。
……きっと答えなんてない。
多分私は最初から彼が気になっていて、最後まで彼が好きだった。
彼といると楽しい。
彼といると立ち直れる。
彼といると希望を持てる。
特殊な学園で唯一接点のある彼の存在に安堵して、
そのまま彼そのものに惹かれてしまった。
もちろんそれは危険なことだ。
芸能界というのは特殊だ。
特にアイドルというのは人間関係一つ一つがとても重要なのだ。
よしんば苗木君と付き合ったとして、それが世間にバレたら、終わりである。
私の人気はゆっくりと下降していき、そして消える。あっさりと。
私は夢の為に大切なものを捨ててきた。
だから苗木君のことも捨てようと…、初恋を捨てようとした。
……でも、駄目だった。
恋という感情がこんなにやっかいだなんて知らなかった。
演じたことはあっても、実感したことはなかった。
だから私は開き直った。
どうせ捨てれないなら両方手に入れてやる、と。
まあ、その決意のおかげでアイドルとしての私の立場は固まったし、
苗木君を諦めなくても良くなった。あくまで結果論だが。
多分私が頑張れたのは苗木君のおかげだろう。
彼といると希望が見えてくる。前に進める。
……つまり、長々と私は自分の心情と言う名の惚気を暴露したわけだが、
残念ながら障害は残っている。
2人、下手したら4人だ。
つまり、競争相手がいるのだ。
これでも自分に自信はある。
そこらへんの娘に負ける気はしないが、残念ながら相手も一筋縄じゃない。
芸能界では後輩に、学園ではクラスメートに負けないように努力しなければならなくなった。
でも、それが苦痛だとは感じない。
だって…、楽しいから。
苗木君を好きでいることが楽しい。これが答えだ。
今日も苗木君をどうやって誘うかを考えながら仕事に向かう。
ああ、この学園に入ってよかった。
心から、そう思う。




 絶望的事件の一週間前
 舞園さやかの日記から抜粋
 




























こんな感じで全員分やる予定です
絶望事件の前の皆との関係を淡々と書いていきます。



[25025] 桑田怜恩
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:3019f9fd
Date: 2010/12/23 01:45
桑田怜恩編











「頼むぜ苗木!
このとーりっ!俺の頼みを聞いてくれ!」

「……はぁ」


ボクの目の前で桑田君が手を合わせて頭を下げている。
はてさて、どうするべきか。
ボクとしては桑田君の力になりたい。なりたいのだが……、
如何せんボクの力の及ぶ領域ではないと思う。
正直ボクじゃないほうが桑田君の為にもなると思うのだけど……


「他の人じゃ駄目なの?
えっと……十神君とか」

「あいつが来るわけないだろ!?
大体あいつに頼みごとできるのなんてお前くらいだっつーの!」

「じゃあ、えーと……、
大和田君とか」

「紋土はなぁ……、いい奴なんだがナリがアレだろ?
相手がびびっちゃうじゃん? それじゃあ駄目なんだよ、わかるだろ?」

「他にも、ほら。
石丸君とか葉隠君とか…」

「ありえねー、石丸が来るわけねーじゃん。
葉隠は本来の目的を忘れて商売始めそうだしな、論外だっつーの!」

「……………………山田君とか」

「あんなブーデー連れてけるかっ!
色物勝負じゃねぇんだよ! 今回は! わりとマジなんだって!
つまりお前しか居ないんだよ! 苗木!
頼む!俺の顔を立てると思ってさぁ……」


桑田君がそれなりに必至な表情でボクを見てくる。
でもなぁ……


「…でもボク、合コンなんて初めてだよ?」


女の子と付き合ったこともないし、初対面の子と仲良くなれる自信もない。
それなのに、女性に人気のある桑田君と一緒なんて……大丈夫なのかなぁ?


「だーいじょーぶだって!
お前ほら、舞園とか霧切とか…、あと戦刃とも仲いいだろ?
あいつらと話してる時みたいな感じでいいんだって!」

「まぁ…そういうことなら……」


彼女たちと居るときの僕は基本振り回されてるのだけど……、
つまり大人しくしていればいいのかな?


「よっしゃ! 言質は取ったぜ!
それじゃー明日の8時に学園の前に来いよ! 遅れんじゃねーぞっ!」


桑田君は上機嫌で去っていった。
そんな彼の後姿を見送りながら、ボクは静かにため息をついた。


「合コン…かぁ……」


ボクの言葉の中には、軽い倦怠感と強い不安、
そして隠しきれない期待があった。
まあ、普通のボクは普通にそういうのに興味があったというわけだ。
ボクはそのまま明日の夜のことを考えながら部屋に戻った。
初めての合コンがあんなことになるとは知らずに……。









*********************











「凄い施設だなぁ……」


ボクはプロ野球チームの施設に来ている。
県内の比較的小さな施設なのだろうが、こういった世界に詳しくないボクにはよくわからない。
よって思ったままを冒頭で口走ったのだ。
ボクはゆっくりと辺りを見渡す。
周りではプロになる前の原石と言われるべきだろう選手が練習をしており、
それを監督らしき人と偶にテレビで見る選手が見守っていた。
その中に1人。鬼気迫る表情でボールを投げている人物が居た。
今日のボクの探し人。桑田怜恩君だ。


「桑田君!」

「…な、苗木じゃん」


桑田君は少し焦ったような顔をする。
当然だ、あんなことがあったのだから……。
ボクも早く忘れたい。
でも、その前に彼に謝らないといけないんだ。


「その、なんというかボクのせいで……」

「…いや、お前は悪くねぇよ。
もちろん俺も悪くねぇっ! あの馬鹿が俺を騙しやがったんだ!」


桑田君は怒り心頭という顔をしてる。でも腰が引けてる。
よっぽど昨日のことが効いたようだ。
桑田君は怒りで赤くなった顔をゆっくりと青にしていき、縦線まで入れるという芸当をこなしていた。
うーん…、どうやら回想を挟む必要がありそうである。


ここでボクが昨日の合コンのことを、そこに至った経緯を含めて説明しよう。
三日前、桑田君は以前から狙ってた美容院の女の人(名前は知らない)に彼氏が居ることを知り、
軽く凹んでいたらしい。
そんな彼に声をかけた人が居た。江ノ島さんだ。
その時の会話が以下の通りである。


「あれれー? そんな所で何してるの桑田君?
もしかして腕に爆弾でも抱えちゃったー?
私としてはすぐに病院に行くことをお勧めします。
それか外を歩いて成功率1割の天才博士を探すべきでしょう。
……ごめんなさい、そんなことわかりきってますよね。
超高校級の野球選手に野暮なことを言ってしまって御免なさい……」

「いや、ちょっと女に振られちゃってさー。
俺としては遊びですらなかったつもりなんだけど……」

「へえ…、結構凹んでるんだ。意外だね、そういう人間だとは思ってなかったよ…。
そんなかわいそうな桑田君にはぁ、私からプレゼントをあげちゃおっかなー」

「プレゼント?
ああっ、盾子ちゃんがデートしてくれるなら俺すぐ元気になっちゃうよ!マジで!」

「私様があなたみたいなのと一緒に歩くわけないでしょ?
プレゼントと言うのは女の子のことよ」

「お、女の子?」

「うぷぷ…、紹介してあげるって言ってるのさ!
とびっきりの肉食系の女の子を3人程ね! みんな可愛いよー」

「ま、マジでっ!?」

「とーぜんじゃん、私は約束を破ったりはしないっての。
じゃあ私が合コンを組んでおいてあげるから明後日にこの店に行きなよ!」

「あ、ありがとう盾子ちゃん!
マジ嬉しいよっ! ギャルも好きなんだよ俺!」

「まあでも条件があるんだけどね…、
世の中そんなに甘くはないのさ、桑田君」

「…条件?」

「そうです。
条件の内容は1つ。苗木誠を連れて行くこと。
もう1人は私のほうで用意しますので2人の先ほど渡したメモのお店にいらして下さい」

「そんだけ?
よゆーよゆー、俺苗木とは仲いいからさっ!
それじゃあ頼んだぜ!」

「………うぷぷぷぷぷ」


と、まあそんなやり取りがあって、桑田君はボクを引き連れて待ち合わせ場所に行った。
そこで待っていたのは……。


「……まさか苗木君が本当に来るとは思いませんでした。
今日は何を期待してこのお店に来たんですか?」

「…見損なったわ苗木君。
私の助手として、これから女性の誘惑に耐える訓練を受ける必要があるわね」

「私としては別にどうでもよろしいのですが……、
苗木君には少しナイト候補としての心構えが足りないようですわね」


舞園さんと霧切さんとやす…セレスさんが居た。
その後ろでは江ノ島さんが絶望的な笑みを浮かべて、くつくつと笑っていた。
その瞬間すべてを悟った桑田君はボクを売った。
ボクがどうしても行きたいと言ったから仕方なく、といった感じに。
今その時のことを回想しても、まったく腹は立ってこない。
あの光景を見れば誰でも保身に走りたくなる。誰だってそうだ。桑田君だってそうだっただけだ。
しかし、江ノ島さんが居るのにそのいい訳は苦しすぎた。
結果、ボクをここに連れてきた桑田君は、その場に居た3人の女性と、
何処からともなく飛んできた謎の凶刃に倒れて保健室送りになった。
ボクは3人に説教をされ(曰く希望ケ崎学園の人間というだけで、異性には気をつけるべきだとか)、
日をまたいだ頃に開放されたのだ。
これらのことを経験したボクの口から出るのは一言だけである。
やりすぎ。
桑田君はすっかり怯えてしまっているではないか。
ボクはある程度慣れてるが、そうでない人には狂気の沙汰だ。
そんなこんなでボクはとりあえず桑田君に謝るべきだと思い、ここまで出向いたのだ。


「まあ、彼女たちもやりすぎたと思ってるみたいだしさ。
今回は許してあげてくれないかなあ?」

「ん、まあ、あいつらには怒ってねえよ。
江ノ島に騙されたってわかったとき俺のとこに謝りにきたしな……、セレス以外」

「あははは……」


思わず渇いた笑いが出る。
まあ、桑田君も怒ってないみたいでよかった。
まったく江ノ島さんのいたずらにも困ったものである。
……それにしても、


「…桑田君が練習してるなんて珍しいね」


というか初めて見た。
野球をしている彼は幾度となく見たが、練習しているのは初めてだ。
それも彼の才能が故なのだろうけど。


「ああ、これ?
まったくふざけた話だよな。
この俺がれんしゅーだぜ?ありえねーっつーの!
汗臭いのとかマジ勘弁なんですけど!」


そう言いながらも桑田君は硬球を投げ続ける。
不満を言いながら悪態をつきながら。


「そもそも練習なんてしなくてもプロの世界で生きていけるんだよな、俺。
なんつーの? 天才じゃん? やっぱりさ。
でも、生きていけるだけで、スターにはなれないんだとよ」


ボール受けのミットから桑田君が一瞬だけ眼を逸らす。
その先には先ほどの監督らしき人とテレビでよく見る選手が居た。


「…あのヤロー俺のボールを1打席で見抜きやがったんだ。
やっぱりさ、話題性じゃん? 大切なのって。じゃないとモテないだろ?
だからさ、そこらへんのプロくらい一蹴しなきゃいけないわけよ。
そんであのじじいに交渉したわけよ。
オメーのクソプログラムに従ってやるから、あのヤローをぶちのめさせろってな」


ブツブツ言いながら硬球を投げ続ける桑田君。
とても態度が悪い。だが、悪いのは態度だけだ。
その姿勢も、目線も、力の入り具合もすべてが真剣で、本気だった。


「ふざけやがってあのヤロー。
俺がどれだけ天才か思い知らせてやる!
そんでもってマスコミでも呼んで超プロ級の野球選手の誕生だ!
そしたら練習なんてしなくてもモテモテだぜ!」


……きっと桑田君は野球が好きなんだろう。
こんなに悔しそうで、こんなに一生懸命な桑田君は見たことがない。
文句を言いながら必至に硬球を投げ続ける彼を見ながら、ボクはそう思った。
どうやら謝りに来て正解だったようだ。
ボクは桑田君のことをまた1つ知れた気がした。


「練習しないでもスターでモテモテの俺マジかっけーっす!」


……たぶん。





[25025] セレスティア・ルーデンベルグ
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:3019f9fd
Date: 2010/12/24 00:55
安広多恵子編













「Fuck you……!
ぶち殺すぞ……! ゴミめら……!」

「セ、セレスさん……?」

「なんですの?」

「ここは何処なのかな?」

「船ですわ。
名前はエスポワール号といいます」

「甘えを捨てろ」

「……ボクとセレスさんは何しにここに来たんだっけ?」

「バカンスですわ」

「バカンスかぁ……」

「勝たなきゃゴミ……」


ボクは現在とある船に居る。
長期休暇の折に、セレスさんに旅行に誘われたのだ。
曰く、日帰りで面白いアトラクションがあるからナイト候補として一緒に来い、とのことだった。
ボクはセレスさんのことは好きだけれど(無論友人としてだ……今のところは)、
ナイトになるつもりはないし、そもそも2人で旅行に行くほど特別な関係でもなかった。
しかし、ほとんど強引に引っ張ってこられてしまったのだ。
その結果がこれだ。


「這っているのだ………
ゴキブリのように………」


目の前で高そうな服を着た男が、ボクを含めた皆に喝をいれている。
しかし、ボクはそれを真面目に聞けずにいた。
そりゃあボクだって十神君や石丸君のように努力を重ねて来たわけではないが、
それでも人並みには頑張ってきたつもりだ。
人並みのことしかしていない僕が、最高峰の学園に居ることに気まずい思いをしたこともあるが、
それでもゴミ呼ばわりされるほどではないと思っている。
もちろん周りの人を蔑んでいるわけではない。
ある程度話しを聞いて、ボクとセレスさんの周りの人達がどのような状態の人達かはわかった。
しかし、この場に居るということは返すつもりのない人達というわけではないのだろう。
だったらボクはそれを応援するだけである。それしかできないし、それ以上するつもりはない。
問題は周りの人間ではなく、ボク達である。
なんでここに居るん?
セレスさんはいつもの笑顔を張り付かせたままバカンスだと言ったが、
ありえんと言わざるを得ない。


「……なんか借金がどうのとか言ってるんだけど」

「ええ、どうしようもない底辺のクズ共の為のギャンブルですわ」

「バカンスじゃないじゃないか!」


ギャンブルだよねこれっ!
そりゃセレスさんにとっては楽勝だろうけれど、
ボクの場合は下手したら明日から債務者である。


「私にとってはバカンス同然ですわ。
稼ぎも少ないし、海の上ですし」

「バカンス=海の上なんだ……」

「ええ、無人島に向かうクルーザーみたいなものですわね。
…もっとも、目的地は無人島ではなく地獄のようですけど」


ニヤリといった笑いを溢すセレスさん。
ボク達の周りに小さな波紋がたつ。
元々セレスさんは吃驚するくらい目立つのだ。髪型的な意味で。
しかもこの場にはセレスさん以外の女性はいない。
その唯一の女性(しかも特徴的な髪型と美麗な顔立ち)が一番余裕そうな態度で、
しかも異様な雰囲気を出しながらクスクスと嗤っているのだ。
おもいっきり目立ってる。
場から浮く、という言葉をこれほどまでに目の当たりにしたのは初めてだ。


「さて、ステージのおじさまのご高説も終わったことですし……、
参りましょうか」


そう言ってセレスさんは歩き出す。
ボクはそれに無言で着いて行った。
その間に今回のゲームのおさらいをしておこう。
今回ボクたちがこの船で行うのはカードをジャンケンのようなものだ。
プレイヤーには3つの星と12枚のカードが配られる。
星はチップであり、カードはグー・チョキ・パーの三種類が4枚ずつだ。
プレイヤーはそれを使って文字通りジャンケンをするのだ。
カードは一度使ったら処分され、星がゼロになったらゲームオーバー。
勝利条件は制限時間以内に星を3つ持ち、かつカードをゼロにすること。
それ以外にこの船から生還する方法はない。
勝利すれば借金がチャラらしいが……、そもそも借金のないボクはどうなるの?


「苗木君と私の場合は星を3つ所持してゲームを終了すれば、
利息がチャラになり、かつ星1つにつき100万円の報奨金が渡されますわ」

「ひゃっ、ひゃくまんえんっ!?
というかなんでボクの考えてることが…」

「エスパーですから」

「……舞園さんのネタは万能だなぁ」


それともボクが単純なのか……。
…………いやいやいやいや問題はそこじゃないだろっ、ボク!


「百万円っていったい……!
それにボク借金なんて……」

「最初のアレですわ。
私が指示をしたでしょう? 1千万円借りるようにと。
それの4割、つまり400万の借金がチャラということです」

「……それって」


えっと、つまりボク達が勝てば……、


「星1つにつき100万で最低300万。
過剰分が出ればそれにつき100万が支給され、
なおかつ星の売買も許可されています。
1つにつき300万程度の値段はつくでしょうから……、
まあ、3100万が限界といったところでしょうね」

「……まあ、セレスさんにはそれぐらい余裕だよね」


超高校級のギャンブラーであるところの彼女が、負けるところがまったく想像できない。
しかし、ボクは違う。普通の高校生だ。
超高校級の幸運らしいが、そんなの入学の時以外感じたことはない。
勝てば300万……、しかし凡人故に負けたときのことばかり考えてしまう。
…ああ、不安だ。
不安ついでに気になったことをセレスに問いかける。


「でもどうしてそんな契約なんてできたの?
この船は債務者の人達に対しての救済みたいだけど……」


債務どころか当分遊んで暮らせるほどのお金持ちの彼女がここに招待された意味がわからない。
本人がバカンス感覚であるのは間違いないだろうが、それでも不思議である。
だってその条件でセレスさんが居る時点で主催者は損をするじゃないか。


「……苗木君、世の中には色々な人が居ます」

「まあ…、そうだね」


それはここ一年でひどく実感してる、……身に染みるほど。


「そう、若者の生血をすする怪物も居れば、
くだらないゲームの為に一億円をばら撒くような団体もあります」

「凄い世界だね……」


絶対に関わりたくない世界である。
まあ関わることもないだろうが。
ボクの反応を見たセレスさんは目を大きく開き、こちらを睨みつけるように見る。
うぅ、ボクはセレスさんのこの表情は苦手だ。
なんというか……、少し恐い。


「いいですか?
つまり崩壊し、絶望する人間と、その表情が好物だという妖怪爺も存在するのです」

「……つまり依頼されたんだね、この人達を叩き潰す為に」

「そういうことですわ。
苗木君はこんな物騒な世界に巻き込まれてはいけませんよ?」


セレスさんが巻き込んだんじゃないか!
ボクは内心で叫ぶ。
勘違いしないでよ? 決して反抗するのが恐いからじゃない。
無駄な反抗をして怒鳴られるのは無意味だと言っているんだ。


「まあ、取り敢えず良心の呵責を感じる必要はありませんわよ?
ここに居る人の殆どは自業自得で多額の借金を抱え、
地道に返すのを諦めて、身を投げるようにしてここに来たのですから」

「う、うん…そう、かもしれないね。
……そういえばボク達は負けたらどうなるの?」

「強制労働ですわ」

「なんてことしてくれるのっ!?」


少しだけ感じていた遠慮が吹き飛んだ。
本当にセレスさんのやることはとんでもないことばかりだ。
バカンスのつもりが自分の将来がかかっていた。
な、何をいって(ry


「それでは行動を開始しますわ。
30分ほど別行動をとりましょう。
苗木君はそこらへんで勝負してきてください。
カードと星をゼロにさえしなければどれだけ負けても結構ですわ」

「え、ちょっ、待ってよセレスさんっ!」


ボクの声が辺りに反響して周りの注目を浴びる。
しかし、セレスさんはそんなものはまったく気にせず歩いて行ってしまった。
彼女は目立つので追いかけることも出来たが、
30分と彼女が言ったのなら指定の刻限までは無視されるだろう。そういう人なのだ。
ボクは理不尽な現状にため息をつきながらもその場を後にした。
……まあ、ボクも聖人ではない。お金は欲しい。
しかし、セレスさんの言葉通りそこらへんで勝負したあげく、無様に負けるのだけは勘弁だ。
なんというか…、それは考えなしすぎるし、なにより格好悪い。
そこでボクはある作戦を立てた。
作戦と呼んでいいのかわからないほど稚拙なものだが、内容はこうだ。

・勝者を狙う。
勝って気が大きくなっているところを狙うのだ。
この際重要なのは表情を顔に出す人を狙い撃ちすることである。
・狙う相手の癖を見抜く。
言うのは簡単だが、実行するのは果てしなく難しい。
1人のプレイヤーが多くのゲームをプレイできる環境ではないので、
せいぜい最初に出しやすいカードを狙うくらいしか出来ないだろう。
しかも、狙えるのは多くて2人くらいだ。
・勝ったら逃げる
あくまでこれは不意打ちのような作戦だ。
深追いは勝負を運否天賦にしてしまう。
カードが余るが、処分する方法は2つほど思いついたので、特に問題ないだろう。

幸いボクはこの中でも異様に若い(……………………………背も低い)。
よって相手は油断して、パターン化したカード選びをするだろうと考えたのだ。
問題は観察しているのがバレたら終わりと言うことだが、幸いボクは身長が大きくないので、
その心配はしなくてもいいだろう。
隠れていれば見えないはずだ。……不本意ではあるが。


「さて、じゃあ実行するかな」


……それにしてもなんでボクはこんなに冷静なんだ?
何処でこんなクソ度胸を手に入れたのか……。
まあ、答えは複数あるだろうが、
主に霧切さんのおかげ(”せい”ともいう)であることは間違いない。
そんなことを考えながら、ボクは人ごみにまぎれていった。








*******************









「うーん……」


あれから20分弱。
ボクは首をかしげていた。
負けたわけではない、ないのだが……、


「こんなのでいいのかなあ?」


ボクの胸には5つの星が輝いていた。
消費したカードは2枚。
こんな簡単にいくとは思わなかった。
対戦した相手は恰幅のいい安藤とかいう男と、細めの古畑とかいう男だ。
その2人は勝って負けてを繰返していた。
ある程度癖を見抜いたあたりで声をかけ、仕掛けた。
結果勝った。
正直勝てるとは思っていなかった。
作戦だとか嘯いていたが、あんなのただの確率心理だ。
負けて星1つになっている可能性も十分にあった。
どうやら超高校級の幸運とかいうのも丸っきりの嘘ではないようだ。
まあ、セレスさんまでとはいかないだろうが。
余ったカードを処分する方法も既に考えてある。
あと一時間程すれば簡単に処分できるだろう。
星があってもカードがなくなった人間が多くなるはずだ。そのときに配り歩けばいい。
時間が経てば経つほど最初に借りたお金の利子はかさむが、ボク達の条件ではそれが免除される。
つまり、待てば勝ち…、なのだ、この勝負は。
もちろん雇われ者のセレスさんはそういうわけにもいかないだろうが、ボクは違う。
契約書にはその記載はなかった。
つまり、主催者にとって、ボクの存在はおまけでしかないのだろう。
超高校級のギャンブラー。
自分の夢の為に誰かを蹴落とすことを躊躇しない、完成されたギャンブラーの……おまけ。
思わず俯く。
別に適当な扱いに不満があるのではない。それにはもう慣れた。
それよりも……、セレスさんの人生を否定するわけではないが、彼女がそういった評価を受けており、
それを本人も認めているという事実が悲しかった。
だってセレスさん、いや安広多恵子さんは……、


「あら、随分暗い顔をしていますわね。
ひょっとしてカード、星共に1つなどという窮地にでも陥ってるのですか?
まったく情けない限りですわね、あの腐れラードにも劣る愚かさですわ。
私のナイト候補という誉れ高い立場をもう少し自覚して行動して欲しいですわ。
このままでは強制労働コースまっしぐらのどうしようもない苗木君には少しお仕置きが必要ですわね。
さあ、苗木君。今すぐ跪き、頭を垂れて私に助けを求めなさい。
『美しくお淑やかなセレス様、どうか無様な私めをお救い下さい』と。
足を舐めながらそう言って下さるのでしたら考えてさしあげなくもありませんわよ?」

「そこまでやっても考えてくれるだけなんだ……」


どうやら約束の刻限になったようだ。
嬉々として長い台詞をのたまった彼女は、そのままボクの胸に視線をやり、
「あら?」と戸惑ったような声を上げた後、これ見よがしに舌打ちをした。


「…チッ!
苗木君の癖に生意気ですわよ?」

「勝ったのに……」


どうやら足を舐めさせるつもりでボクを放置したらしい。
なんてセレスさんらしいんだ。勝って良かった……、
多分靴と素足両方舐める破目になっていただろう。
ボクには、特殊な性癖はないので、それは勘弁である。


「それにしても……凄いことになってるね、セレスさん」

「当然の結果ですわ。
とはいえ星10個では少ないと言わざるをえないですが……、
もう誰も勝負を受けてくれないのでしたら、私にはどうしようもないですわ」


そう、セレスさんの慎ましい胸には10の星が輝いていた。
ボクの2倍以上。
しかし、ボクとセレスさんの運は月と鼈以上の開きがあるだろう。
本来、語り部であるボクはここでセレスさんの行った作戦を聞きだし、懇切丁寧に説明するべきなのだろうが、
残念ながらそんなものは存在しない。
セレスさんに作戦は必要ない。
彼女は祝福され、愛されているのだ。
ギャンブルの神に、確率に。
そもそもセレスさんはそういった作戦や駆け引きがあまり得意ではない。
たしかに嘘をばら撒くのがうまいし、ポーカーフェイスも様になっている。
しかし、彼女を超高校級のギャンブラーにしたのは、その尋常ではない幸運なのだ。
目隠しして鹿児島から北海道まで自転車で到着してしまうような馬鹿げた幸運。
彼女は駆け引きを必要とするゲームでも、駆け引きなしに勝利をひろう。
ポーカーで相手がどれだけ表情を装い、揺さぶりをかけても、
自分の手札が毎回ロイヤルストレートフラッシュなら考える必要もない。ただ場に出すだけで勝ちなのだ。
しかも、彼女は自分の運を自覚している。正しく理解し、運用している。
つまり、ギャンブルである限り彼女に敗北は存在しない。
彼女の胸に輝く10の星を手に入れた方法だって簡単にわかる。
わざわざ細かく描写する必要もない。
ゲームして、勝ったのだ。
運で。


「苗木君?」

「…え? 何かな?」

「次に私の胸について考えたら処刑ですわ。
よろしいですか?」

「……はい」


忘れてた。彼女もエスパーだった。
セレスさんの恐い表情から眼を逸らし、ボクはカードの処分について切り出した。
ボクの予想ではもう少し時間が必要だと思っていたのだが、
トイレに進むその途上にある部屋にボクの求める人が沢山居るらしい。
その言葉を聞いたボクは早速その場から離れ、カードを処分しに行った。
……ああ、セレスさんはカードの余剰がなかった。
それもまた幸運の産物なのだろう。
その後、ボクは顎の尖った青年にカードをプレゼントし(驚いたことに全部持っていった。
何人かに分けて配らないといけないと思っていたので少し予想外である)、
ゲームを終了した。
結果はボクが星2つ、セレスさんが星8個余剰の勝ち。
まあ、それなりに楽しめた……、かな?













*************************














「面白かったですわね、あの男」

「ああ、顎の尖った彼のこと?
最後の方は凄かったね、なんか映画みたいな逆転劇だったよ」

「そうですわね。
苗木君の作戦()とは比べ物にならない物でしたわ。
あれでビジュアルが良かったら私のハーレム要員に入れてもよかったのですが……」


セレスさんはそもそも作戦すらなかったじゃないか……、とは言わない。
勘違いす(ry


「それはともかく、苗木君はどうしようもない甘ちゃんですわね。
あのような人間を甘やかしてもいいことなんてありませんわよ?」

「そうかな?
ボクには300万もあれば十分だったから……」

「あなたのお金なので文句はありませんが……、
いつか痛い目を見ますわよ?」


と、文句ありありの顔でボクを見てくるセレスさん。
別に、星2つを10万で売っただけだ。金を受け取ってる以上偽善ですらない。
手元に残った310万円を見る。
綺麗なお金では決してない。
だけど、少しだけ世界を見た気がした。無駄な経験ではなかっただろう。


「それで? 苗木君はそのお金を何に使うのですか?
私は夢の為に貯金ですが」

「うん、家族に半分渡して旅行にでも行ってもらうよ。
後は舞園さんと霧切さん、あとむくろさんにプレゼントでも買おうかな……。
所詮あぶく銭だし、さっさと使うよ」


150万もあればいいところに行けるだろうし、いいものが買えるだろう。
家族はもちろん、彼女たちには本当にお世話になっている。
ここらへんで恩を返しておくのも悪くない。


「……気が変わりましたわ。
ご家族の方にお金を送ってそのまま旅行に行きましょう」

「……へ?」


急にセレスさんが表情を変え、ボクの手を強く握り締め、引っ張る。


「私が150万円苗木君が150万円、合計300万円ですわね。悪くない旅行が出来ますわ。
ヨーロッパを観光した後、中国で食事を楽しみ栃木県の宇都宮で締めるというプランにしましょう。
ええ、悪くありませんわ……、それじゃあ苗木君? 行きましょうか」

「えっと、ちょ、急すぎるよ!
大体荷物や着替えが……」

「現地調達ですわ」

「それに空路も確保してないし……!」

「ヘリを呼んであります、空港に降ろしてもらいましょう」

「えっと…、というかなんで締めが宇都宮!?」

「あら、知りませんでしたの?」


ボクを引っ張っていたセレスさんが立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
長い髪が風になびき、月が彼女の黒い服を照らし、白い肌が闇夜に映える。
まるで映画のワンシーンのような光景にボクは見蕩れてしまった。


「宇都宮の餃子は、とてもおいしいのよ?」


少しだけいつもと違う口調で、表情で彼女は言う。
ボクは彼女と今まで以上に仲良くなれた、そんな気がした。













































くっついた2人の妄想という名の蛇足。
以前2chに投下した物のコピペです。
無論ifだし、出来は微妙です。ご容赦を。









「ねえセレスさん」

「あら、どうしましたの苗木君?」

「なんで僕は皿洗いなのかな?」

「苗木君の作った料理なんかで店が繁盛するはずないでしょう?
Cランクの苗木君は店長兼皿洗い、適材適所ですわ」

「うぅ……、でも2人でお店開こうって言ったのに……、
セレスさんなんて料理どころか接客もしないし……」

「当然でしょう?料理なんてしたら手が汚れてしまいますわ。
私はオーナーですから。それにちゃんと料理のチェックはしてますわよ?」

「まあ、確かにセレスさんが呼んできた料理人と試食のおかげで店は繁盛してるけどさ…」

「ええ、何の問題もありませんわ」

「(でもなぁ……)」

「俺の餃子は確実に勝ちを拾うぜ!カカカカカ!」

「料理は勝ち負けじゃないよ!料理は人を幸せにするんだ!」

「(ちょっとこの厨房は濃すぎるよなぁ……)」

「やっぱり私の目に狂いはありませんでしたわ…。
ああ、臭くて下品な、それでいて最高においしい餃子が食べ放題……」

「いや、料理はお客さんのだからね!?試食だけにしてよ!?」

「それぐらいわかってます。
それより、いつになったら苗木君は私のところに料理を持ってくるのですか?」

「え?でも今は営業中だから……」

「そうではなくて、試食の件です
あの2人を超えたらBランクに上げると約束しましたのに……、
苗木君ったら全然来ないんですもの……」

「ああ、そのこと?
いやぁ、流石に僕はプロを超える料理なんて作れないよ。
ほら、僕セレスさんと違って凡人だし」

「…チッ!」

「…え?ぼ、僕セレスさんを怒らせるようなこと言ったかな?」

「本当に苗木君は糞虫ですわ。
いいから明日までに私の所に餃子を持ってきなさい。
もちろん手作りで、心を込めて。
それが答えですわ」

「セ、セレスさんっ!?
……行っちゃったよ、どういうことなんだろう?
……とりあえず今日閉店後に作って持っていこう、
なんとなく僕が悪い気もするし……」




[25025] 山田一二三
Name: 桜井君verKa◆a2e1d8cc ID:3019f9fd
Date: 2010/12/25 09:21
山田一二三編












熱気、湿気、人並み。
人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、
人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、
人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、
人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、
人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、
人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人!
ボクはこれほどまでの数の人間が密集しているのを見たことがない。
このイベントの存在は知っていたが、人が集まっているその光景は知っていたが、
実際に体感したことはなかった。
今のボクの心情を文章で分かりやすく説明すると、人がゲシュタルト崩壊した、って感じだ。
目の前の人ごみが文字通りゴミ…、障害にしか見えない。
これだけ人が居ると、人は人を人として認識できなくなるのか。
比較的人口密度の低い場所で育ったボクには新しい発見だった。


「苗木誠殿~!」


そんなことを考えていたボクの前に人が現れた。
何故それを人と認識できたかと言うと、それは知っている人だからだ。
山田一二三君。
ボクのクラスメートにして、超高校級の同人作家である。
その知名度は、この場に限ると絶大で、周りの人がざわめき、
山田君と、ボクを指差したりしながらヒソヒソと話を始める。
山田君は当然だが、ボクもそれなりに有名なのだ。
山田君とは違い何も特出すべきものがない普通のボクだが、
その普通さが希望ケ崎学園と言う異常の中ではありえない程に目立つ。
故に、道端で「あっ」とか声をあげられたり、知らない人に声をかけられる機会も多い。
未だにそういったことには慣れないが、まるっきり初めてというわけではないので、
ボクは周りの注目に対して冷静でいられた。


「いや~間に合ってよかったでござるよ~
安広多恵子殿と一緒に旅行に行ったなんて聞いた時は、すわ愛の逃避行か!?
と、思ってしまいましたぞ!」

「その名前で呼ぶのは良くないと思うけどね……」


セレスさんを本名で呼んではいけない。
ビチグソ呼ばわりされる。
ボクは特殊な性癖を持っていないのでそんなのは勘弁である。


「ふっふっふっ、それには及ばないのだよ苗木誠殿。
この間僕はかの女史のあくび写真を激写したのだ! 弱みがあるうちはこの身は安全!
護身完了といったところでしょうか」


グフフフといった笑いを浮かべる山田君。
しかし、なぜだろう?
ボクにはそれが死亡フラグ(最近知った言葉を使いたかった)にしか見えなかった。


「それでは苗木誠殿、さっそく着替えていただきましょう。
安広多恵子殿とのラブトラベルの後は僕との約束を果たしてもらいますぞ?」


そう言って山田君はボクに衣装を渡してくる。
山田君の好きなアニメ、鬼畜天使ぶー子(だっけ?)のキャラクターの物だ。
敵キャラの少年らしい。
不本意ながら(不本意ながら)ボクは身長的にそのキャラとマッチしているらしい。
てかラブトラベル言うな。


「まあ、約束だからね…、守るよ。
山田君のおかげでボクはあの危機を乗り越えれたわけだし」


ここで言う危機とは、霧切さんと共に、白いタキシードの怪盗に立ち向かった時のことだ。
色々あって怪盗とは別の犯人を捕まえるに至ったが、あの時下手したらボクは死んでた。
あの場に居ながらも、ボクが生き残れたのは霧切さんと山田君、それに小さな探偵君のおかげである。
あの推理小説でも書いてそうな名前の男の子は今何をしているのだろう? 元気だといいな。
まあ、そんな感じでボクは山田君に恩があるのだ。
……あ、ちなみに霧切さん編の時はこのエピソードを語る(思い出す)わけではないのであしからず。


「では早速この『外道天使 もちもちプリンセスぶー子』の怨敵、
『軟弱悪魔アナーキー』のコスプレをしてもらいますぞっ!」

「……すごい名前だね」


どうやらアニメの名前を間違って覚えていたみたいだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。問題はそのキャラである。
軟弱な悪魔ってのもアレだけど名前がもっとアレだ。
由来はバンド名のだよね? だといいな。
でも、ボクのそんな思いは届くはずもない。
だって目の前にソレがあるから。
その衣装はとてもアナーキーだった。無政府状態だった。
今の東京だったら漫画のついでに規制されかねない衣装だ。
男にエロスを求めてどうする。
そういうのは不二咲さんに任せておけばいいのだ。


「……」

「ふっふっふっ!
驚きの余り声が出ないといったところですな?
無理もない。僕もこれほどまでに精巧に再現されるとは思ってもいませんでしたからなぁ。
いやぁ高いお金出して上級生に頼んだかいがあったといったところですかな?」


山田君が得意げにその衣装と言う名のセクハラをひけらかす。
どうやらそれは山田君の私物らしい。なら遠慮の必要もないだろう。
ボクはそれに近寄り、手を下す。


「…えいっ」

「ぬあああああああああああああああああああっ!?」


衣装の一部が破れた。
簡単に直せる程度の破損だが、この場では無理だろう。
つまりボクの目的は完全に達せられたと言うことだ。


「な、何をする苗木誠殿!?
せっかくの衣装が! いくら友とはいえこれは許せませんぞ!!」

「山田君……、考えてもみるんだ。
その衣装を着た不二咲さんのことを……」

「………へ?」


一瞬で表情を変え、腕を組み、考え込む山田君。
まあ、早い話妄想のプロであるところの山田君のことだし、ネタを投げかければこうなると思った。
その、足とへそと脇が丸出しのアナーキーな服装を不二咲さんに当てはめているのだろう。
数秒経つ。ふと、山田君が顔を上げる。


「も、も、も、も、も………」

「……もずく?」

「く、クマー!
じゃなくてっ! 萌えーーーーーーーー!!」


山田君が雄たけびをあげる。周りがざわめく。
先ほどまでのやり取りで、かなり注目されていたが、ここに来てそれはいっそう増していた。
なんというか視線が痛い。痛々しい。


「キタコレーーーー!!
流石苗木誠殿! 僕が思いつかなかったことを簡単に提示してくる!
そこに痺れる憧れるぅーーー!!」

「……あはは」


山田君がその可能性に気づかないわけがない。
とある障害が脳裏をよぎり、身の安全の為、本能的に思考を停止したのだろう。
ボクがそれを呼び起こしてしまったが為に、後日大和田君と言う壁にぶち当たるのだろうが、
まあそれは仕方のないことである。
だってこんなの着たら死ぬ。なんというか男として、死ぬ。あと寒い。今は冬なのだ。
つまりこれは正当防衛である。


「なんか、キタ!
不二咲氏に頼んでこの衣装を着てもらえばコミケは荒れますぞ!
新規アイドルの誕生! しかも今流行りの男の娘!
不二咲氏に冬の寒さの中薄着させるわけにはいかないから夏に決まりですな!
楽しみすぎる! 僕のブースも今まで以上に繁盛間違いなし!
ファンも増える! つまりぶー子の魅力をもっと多くの人間に知ってもらえる!
つーか何より僕が見てぇーーーーーーっ!!」


ボクはいいのかよ、寒空での薄着。
まあいいや。いい感じにごまかせた。
このまま帰るのもアリだけど、流石にそれは悪い気がする。
販売の手伝いでもするかな。


「それじゃあ山田君。
ボクも少しだけ手伝うよ。
衣装のことを考えるのは今日を捌ききってからにしよう」


大和田君のことに気づく前にさっさと別の方向に思考を誘導しないと、
せっかく払った火の粉がボクに舞い戻ってきてしまう。
ボクは急かすようにして山田君に提案をした。


「うむ、そうですな!
オンリーイベントがメインの僕ですが、コミケは別!
今日は色々と周りたいところも多いから売り子の手伝いをしてくれると助かりますぞ!」

「うん、構わないよ」


実力はあれども高校生。年上の人のところには足を運ぶべきだ。
山田君はそこらへんの常識はしっかりしている。
色物なのにクラスの中心(トラブルメーカー的な意味で)なのも伊達じゃない。


「流石苗木誠殿!
では後は任せましたぞー!」


凄いスピードで準備をして、人の海に飛び込む山田君。
ボクはブースの中の人に改めて挨拶をして、売り子を始めた。
さて……、頑張って働きますかね。













**************************



















「あいつらは何もわかってない!
同人作家とは作品を愛している人間がなるものであり、金儲けの為ではないと言うのに!
金が欲しいならプロになれというのだ! 実力も愛もないなら書くな! 働け!
それなのに意志を曲げ、主張を曲げ、利益に走り、この神聖な場で出会いを求める!
いつからコミケはこうなってしまったのか!
そもそもオタク文化自体が一般的になってきた昨今、コミケの低年齢化に始まり、
ただ漫画好きアニメ好きな奴らの集まりからお祭り騒ぎへと……」

「……ふーん」


山田君の話を聞き流す。
さっき帰ってきたのだが、それからずっと愚痴ばっかりだ。
多分暑くて狭いこの環境で疲れているのだろう。
まあ、無理もない。
ボクは相槌を打ちながら周りを見渡す。
と、目線の先に知った姿の人が居た。
あれは……腐川さん?
おかしいなぁ……、腐川さんはこういうのが大嫌いだったはずなのに……。


「つまり国家が悪いっ!」

「ねえ山田君」

「……なんですかな苗木誠殿?
暑さと湿気に対する怒りを国にぶつけている僕に何の用で?」

「あれ……、腐川さんじゃないかな?」

「うん?」


しまった、つい指示語で、しかも人を指差してしまった。
人だらけの環境でもマナーは忘れないように気をつけないと。


「う~ん……、あれは確かに腐川冬子殿……。
ぐぬぬ、散々僕達の文化を否定しておきながらその祭典に来るとは……!
おーい! 腐川冬子殿ーーー!!」

「あ、ちょっ……」


呼ぶのは流石に不味いので止めようと思ったのだが……、遅かったようだ。
その言葉に腐川さんであろう人が反応し、こちらに向かって歩いてくる。


「あっれー? まこりんにひふみんじゃん?
ひふみんはともかくまこりんはこんな所で何してるのかしらぁ?
ひょっとして2人とも出来てるとか?
細太普醜カップル……そういうのもあるのか。
くっそ萌えるっ!!」

「えっと……」

「ふ、腐川冬子殿?」


えっと……誰?
姿形声などは腐川さんそっくりだが、中身が違いすぎた。
普段暗めの彼女が嫌にハイである。


「ん? あーそうだった、
アレよ、私は冬子の姉の翔子よーん!
よろぴくねー! なーんちゃって、古いっつーの!
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」

「……お、お姉さんかぁ……、知らなかったよ。
ね、山田君?」

「う、うむ。 世の中不思議が一杯ですからなっ!
そっくりの姉が居てもおかしくはないでしょう!」


本人からは1人っ子だと聞いていたが、姉が居るようだ。
うん、まあ家族のことって言いづらかったりすることもあるらしいからね、仕方ないね。


「それでそれで?
2人はどこまでイってるのかしらー?
A?B?C?それともZ?
この赤い糸だけはお前の自慢のマイハサミでも切れないっ!とか?
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」

「……僕はそっちには興味ないっす。
むしろ苗木誠殿は安広多恵子殿とラブトラベルを……」

「いやだからそんなんじゃ…」

「は? 何? ラヴクラフト?
ルルイエにでも行ったの?」


そんな冒涜的で唾棄すべき旅行は死んでも嫌だ。
というか変なネタを振らないで欲しい。
腐川さん本人じゃないなら挨拶してさくっと別れるべきだそうすべき。


「まぁいいわぁ。
続きはセルフ妄想で保管するからぁー。
それじゃあひふみん、友達…の姉のよしみで新刊は貰ってくわねー!
ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!」

「……あはは」


渇いた笑いが出る。
嵐のような人というのを文章以外で初めて見た。
今日は何かと初めてが多い日だが、一番衝撃が大きかったのは確実に彼女だろう。
腐川翔子……恐るべし。


「見事な腐女子……いや、すでに貴腐人の器か!
腐川翔子……一体何者なんだ」

「いや、腐川さんのお姉さんでしょ?
それより、女の人でも山田君の本を欲しがるんだね。
お客さんはほぼ男の人だったから少し驚いたよ」


ボクは少し気になっていたことを口にする。
中身は見てないが(見たら最後、弾丸が飛び、プライベートが犯され、賭けで全財産取られたあげく、
テレビでボクを批判する話題があがるのだ)、それでも男性向けであろうことは表紙と客層でわかる。


「……気づきましたか苗木誠殿。
う~ん、最後に教えようと思っていたのだが……、仕方ない」


そう言って山田君は本を開く。
そこには予想通りの内容があったが、彼はそれを飛ばして、最後の方のページをボクに見せた。


「オリジナル漫画を描いてみた、ってやつですな。
実は公式にその旨を宣伝してたので、彼女はそれを知っていたんじゃないかと…。
ほら、苗木誠殿が以前応援してくれたからすこーしだけやってみようかなと思った次第ですな」

「これは……」


そこには山田君オリジナルの漫画があった。
キャラも世界もオリジナル。
しかも、4コマではなく、本格的なものだ。
伝説と言われるだけあって絵が綺麗で丁寧なそれは、とても見やすく、
漫画は有名なのしか見ないボクでも、その世界に引き込まれていくような魅力を感じた。


「いやー、別に初めての試みなんで良い感想は期待してないですよ?
ただ、漫画? やればいいじゃんと言わんばかりに応援した苗木誠殿の意見も聞いておこうと…」

「これ凄く面白いよっ、山田君!」

「……へ?」

「展開が斬新っていうか、漫画を余り読まないボクでも凄く引き込まれたし、
なにより全部が丁寧で作りこまれてるっていうか……、とにかく凄いよ!」


こういう時に自分の語彙の少なさを痛感する。
この感動をもっと伝えたいのだが、いまいち言葉が出てこない。
とにかく面白いということだけは伝えたいのだが、うまくいっただろうか?


「……ふっふっふっ!」

「…?」

「まあ当然ですな!
僕の実力は同人だけに納まりきらないといったところでしょうか……。
このまま漫画家に転進! 若くしてミリオンヒットを達成し、
漫画を世に広め、文化の拡大に貢献する! 敵は都知事だ!
……あ、もちろんぶー子の同人誌は書くけどね」


小躍りしながら未来への展望を語る山田君。
しかし、手元にある漫画を見ればそれも夢ではないんじゃないかと思える。
山田君はそのテンションのまま振り返り、ボクを指差す。


「では苗木誠殿!
約束どおりアシスタントとして僕の栄光のロードをクリエイトする手伝いをしてもらいますぞ!」

「あはは、漫画家になったら、そうだね。
出来る限り手伝いに行くよ」


ボクが頷くと、山田君は驚いたような顔をして、動きを止める。
あれ? 何か変なこと言ったかな?


「……本気で手伝ってくれるんでしょうか?」

「あ、あれ? 迷惑だったかな?」


社交辞令的なアレだったのか。気づかなかった。
まあ、素人のボクに手伝えることもないだろうし当然といえば当然だろう。
……しかし、山田君の様子がおかしい。
なにか戸惑っているようにも見える。


「いえ、正直驚きを隠せない次第でして……」

「どうして? 友達だもん、それくらい手伝うよ」


山田君は大切な友達だ。
それはクラスメートの全員に言えることで、友達を助けるのも当然のことだ。
ボク言葉を聞いた山田君はゆっくりと2度頷き、ボクを見返す。


「友達……、そうですな! 確かに当然でした!
それでは苗木誠殿、近い将来は手伝い頼みましたぞ?
苗木誠殿もお困りのときは是非僕を頼ってくれて結構。
怪盗の時と同様に、華麗に助けてあげましょう!」


そう言って山田君はボクと握手した。
山田君と本当の意味で親しくなれた、そんな気がした。


























クリスマス? そんなの関係ねぇ!
探偵とのクリスマスネタが思い浮かばなかったわけじゃ決してないよ!本当だよ!
少し急ぎ足故雑なところが多いですが、ご容赦ください。


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