――371万8917名。この時点ではまだ確認されてはいないが、後に別名飛行船事件と呼ばれる一件にて、ロンドンではこれ程までの死者が出たわけである。
内、時計塔に在籍していた魔術師も半数以上が死亡。これは魔術協会始まって以来の大事件となり、来年にはここで魔術を研鑽しようとしていた遠坂凛にとっては頭の痛い大問題というわけだ。
「……ったく、まさか本当にこんな有り様だなんて」
飛行機、バスを使い、徒歩で向かい到着したロンドンの荒れ果てた大地を見て、凛は頭を抱えたくなるのを必至で堪えた。
ただでさえ地元ではビッグイベントが控えているというのにこの状況。時計塔が堕ちたと聞いたときは何の冗談かと思ったが(事実、時計塔の機能事態は堕ちてはないが)、成る程、この様では暫く『まともには』動けばしない。
「ハァ……聖杯戦争も近いっていうのに」
ここに来るまでに何度呟いたかもわからない言葉を口にする。凛本人には珍しく、やや弱気になってしまうのも無理はない。
そう、聖杯戦争だ。普通ならこの時期、どのようなサーヴァントを召喚するか、そこから編み出す戦略や、他のマスターの情報などを集めるのが常識である。
遠坂凛は、次回の聖杯戦争に参加するマスター候補だ。体にはもう既に令呪と呼ばれるマスターとしての印も浮かんでおり、本来ならマスターらしく上記のことをしていなければならない身である。
だがここで時計塔再建を手伝い、貸しを作っておくメリットや、あわよくば時計塔秘蔵の聖遺物でも借りられたらと思い来てみたはいいが、この惨状では、むしろ聖杯戦争に間に合うかどうかすら怪しい。
まぁ一度やると決めたからには全力を尽くすのが遠坂凛が遠坂凛たる証である。弱音はもう吐くまい。脳裏の気だるさを吐き出すように深呼吸を一つ。
「よし! それじゃまずは受付……ん?」
時計塔に向かおうとした矢先、凛は妙な違和感を感じて足下を見た。
「黒い……石?」
違和感に導かれるまま、足下に落ちていた一センチにも満たない小さな石を拾う。
そして、凛は見た。
黒い闇の中を歩く骸、滲み出す地獄、沸き立つ戦禍、延々と続く銃声の中、群れなす悪夢を一人一人丁寧に食い潰すのは、犬歯の伸びた長髪の吸血――
「ッ……!?」
知らず流れた汗を感じて、凛は自分に戻ってこれた。
「今のは……」
何だ、と言いそうになって口を閉じる。
強烈なイメージは、思い出すのも頭が痛い。だが、そう、そうだ。例えるならばあれはそう――
「まるで、戦争」
あぁ、その言葉こそ相応しい。
そして、遠坂凛は召喚する。
「ところであなた、真名はなんて言うの?」
本物の化け物。
「今の呼び名でよければ」
死徒ではなく、本物、純正の吸血鬼。
「へぇ、教えてくれる?」
それは存在そのものがインチキ極まりなき存在。
「arucard。アーカード、と」
赤は血を連想させる。魔性の色は今宵、運命の闇をただひたすらに嘲笑う。
「欲しいものは?」
「夢のはざまの終焉を」
汝、運命の夜を越えたくば、広がり続けるあきらめを、ただひたすらに踏破せよ。
以上、嘘予告。まず型月の時計塔が壊れるとかファンからフルボッコだよな、とか思ったのですが、まぁ予告なら許してくれるかもと思ってこんな感じにしました。
設定としては、戦いが終わったロンドンに来た凛が、虚数になったアーカードの印が刻まれた石の微細な欠片を偶然に手に入れ、それを持ったまま召喚するといった風です。
そもそもセラス辺りなら細かい破片もちゃんと回収するとか、そうでなくても時計塔の魔術師が欠片を逃すわけないよなぁとかも思いましたが、まぁ予告なんで細かいところは気にしない方向にしてくれたら嬉しいです。
プロットもクソもないのでこの先はまるで考えてなかったり。誰か書いてくれないかなぁ、このクロス……
※続きも、ということなので、もう少し続きます。あくまでネタネタ、細かいとこは気にしない方向で。