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[24892] 【ネタ】夢のはざまで笑う化け物【Fate×HELLSING】
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/14 00:10







 ――371万8917名。この時点ではまだ確認されてはいないが、後に別名飛行船事件と呼ばれる一件にて、ロンドンではこれ程までの死者が出たわけである。
 内、時計塔に在籍していた魔術師も半数以上が死亡。これは魔術協会始まって以来の大事件となり、来年にはここで魔術を研鑽しようとしていた遠坂凛にとっては頭の痛い大問題というわけだ。

「……ったく、まさか本当にこんな有り様だなんて」

 飛行機、バスを使い、徒歩で向かい到着したロンドンの荒れ果てた大地を見て、凛は頭を抱えたくなるのを必至で堪えた。
 ただでさえ地元ではビッグイベントが控えているというのにこの状況。時計塔が堕ちたと聞いたときは何の冗談かと思ったが(事実、時計塔の機能事態は堕ちてはないが)、成る程、この様では暫く『まともには』動けばしない。

「ハァ……聖杯戦争も近いっていうのに」

 ここに来るまでに何度呟いたかもわからない言葉を口にする。凛本人には珍しく、やや弱気になってしまうのも無理はない。
 そう、聖杯戦争だ。普通ならこの時期、どのようなサーヴァントを召喚するか、そこから編み出す戦略や、他のマスターの情報などを集めるのが常識である。
 遠坂凛は、次回の聖杯戦争に参加するマスター候補だ。体にはもう既に令呪と呼ばれるマスターとしての印も浮かんでおり、本来ならマスターらしく上記のことをしていなければならない身である。
 だがここで時計塔再建を手伝い、貸しを作っておくメリットや、あわよくば時計塔秘蔵の聖遺物でも借りられたらと思い来てみたはいいが、この惨状では、むしろ聖杯戦争に間に合うかどうかすら怪しい。
 まぁ一度やると決めたからには全力を尽くすのが遠坂凛が遠坂凛たる証である。弱音はもう吐くまい。脳裏の気だるさを吐き出すように深呼吸を一つ。

「よし! それじゃまずは受付……ん?」

 時計塔に向かおうとした矢先、凛は妙な違和感を感じて足下を見た。

「黒い……石?」

 違和感に導かれるまま、足下に落ちていた一センチにも満たない小さな石を拾う。
 そして、凛は見た。
 黒い闇の中を歩く骸、滲み出す地獄、沸き立つ戦禍、延々と続く銃声の中、群れなす悪夢を一人一人丁寧に食い潰すのは、犬歯の伸びた長髪の吸血――

「ッ……!?」

 知らず流れた汗を感じて、凛は自分に戻ってこれた。

「今のは……」

 何だ、と言いそうになって口を閉じる。
 強烈なイメージは、思い出すのも頭が痛い。だが、そう、そうだ。例えるならばあれはそう――

「まるで、戦争」

 あぁ、その言葉こそ相応しい。






 そして、遠坂凛は召喚する。

「ところであなた、真名はなんて言うの?」

 本物の化け物。

「今の呼び名でよければ」

 死徒ではなく、本物、純正の吸血鬼。

「へぇ、教えてくれる?」

 それは存在そのものがインチキ極まりなき存在。

「arucard。アーカード、と」

 赤は血を連想させる。魔性の色は今宵、運命の闇をただひたすらに嘲笑う。

「欲しいものは?」

「夢のはざまの終焉を」

 汝、運命の夜を越えたくば、広がり続けるあきらめを、ただひたすらに踏破せよ。







以上、嘘予告。まず型月の時計塔が壊れるとかファンからフルボッコだよな、とか思ったのですが、まぁ予告なら許してくれるかもと思ってこんな感じにしました。
設定としては、戦いが終わったロンドンに来た凛が、虚数になったアーカードの印が刻まれた石の微細な欠片を偶然に手に入れ、それを持ったまま召喚するといった風です。
そもそもセラス辺りなら細かい破片もちゃんと回収するとか、そうでなくても時計塔の魔術師が欠片を逃すわけないよなぁとかも思いましたが、まぁ予告なんで細かいところは気にしない方向にしてくれたら嬉しいです。
プロットもクソもないのでこの先はまるで考えてなかったり。誰か書いてくれないかなぁ、このクロス……



※続きも、ということなので、もう少し続きます。あくまでネタネタ、細かいとこは気にしない方向で。






[24892] プロローグ・1
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/24 15:50




 ――違和感は対峙と同時だった。
 全てのサーヴァントと戦い、生還することを令呪で命令されたランサーは、今宵もまた敵サーヴァントと遭遇を果たしていた。
 赤い赤い、赤い男だ。いや、今まで相対してきた敵からの経験上、今目の前にいる敵は、男というよりは――化け物、そういうものなのだろうな、とランサーは当たりをつけていた。
 だがそれくらいならば違和感など気にすることはないだろう。
 ならば何故自分は男を、アーチャーと名乗った化け物に言い様のない違和感を感じているのだろうか。喉元に骨を引っ掛けたようなもどかしさは、常より少し槍の精彩を欠かせる。
 馬鹿が、と、雑念を振り払いながら槍を放つ。貫く血肉、噴出する血液で深紅の槍をより赤と濡らしながら、槍に付着した血液の分だけ雑念は積もる。
 違和感は、肥大する。

 英霊のはずが、銃を持っているからか?
 ――なわけあるまい。近代の英霊がいても可笑しくはない。

 槍で貫いても笑いを絶やさぬからか?
 ――馬鹿な。戦いとは、高揚を持って刃を交わすが常。であればその笑みもまた必定。

 では、俺が感じる違和感はなんだ? 爆音と共に放たれた弾丸を容易く避け、返しの刺突で眼球を抉ったランサーは、片目の様になったアーチャーから距離をとった。
 死地を超えたアーチャーの体がグラリと揺らぐ。赤いコートを濡らす流血は、既に本来の赤すら塗り潰す勢いだったが、しかしアーチャーはダメージなど気にした素振りを見せない。

「よく避ける。流石は英雄と言うべきか」

 ランサーが距離を取ったのを見て、アーチャーは二丁の拳銃(というにはあまりにも馬鹿げた大きさのを)のマガジンを慣れた手付きで取り換えた。

「まるで当たらんな」

「生憎、武器の形が変わっても、それが飛び道具な時点で、当たる気は更々しないんでね」

「成る程。逃げるのが得意というわけか」

 ランサーの説明に、アーチャーはランサーの槍によって幾つもの穴が開いた体を揺らし、愉快だと笑みをより深くした。
 ランサーの眉がアーチャーの言葉に揺れる。自負すべき能力を、逃げ足の一言で断じられたランサーの怒りは、握り直された槍を見れば瞭然か。

「アーチャー!」

 その背後でマスターの凛が声を張り上げるが、心配してくる凛など意に返さずアーチャーはランサーを見る。

「しかし、これだけではあるまい?」

 そして、まだ足りぬと、言外にそうアーチャーは呟いた。

「……あぁ、とりあえず、な。テメェは何処か胡散臭ぇ、悪いがここで決めさせてもらう」

 その挑発とも呼べる言葉に応えるように、ランサーは槍を構え直し、その矛先を大地へと向けた。
 瞬間、空気が反転する。周りの冷気を、あるいは熱気を、ランサーの槍は次々に貪っていく。それが宝具の発動の予兆であることは、誰の目から見ても明らかであった。
 凛は緊張からか息を飲み、それからアーカードと名乗った自らのサーヴァントの背中を見た。
 はたして、その背中は何を語っているのか。あやふやで、しかし真っ直ぐで、どこかひねくれていて、あまりにも歪な背中に――

「刺し穿つ―ゲイ―」

 ランサーの声に意識が現実へと戻される。魔力の塊を吐き出したかのような言葉と同時、それ以上の濃密な死が、魔力となって凛とアーチャーの体を圧した。

 そして悟る。あぁ、自分のサーヴァントは、間違いなく今死ぬのだ、と。

「死棘の槍―ボルク―!」

 放たれる魔槍。因果を逆転させ、確実に敵の心臓を貫く、必殺の一閃。
 それはアーチャーに抵抗などまるでさせないまま、静かにその心臓にあたる部分を貫き――

 ランサーはそして、違和感の正体に気付いた。

「素晴らしい! 素晴らしいぞ!」

 槍に貫かれた体をランサーに持ち上げられたアーチャーは、心臓を貫かれたというのに、大きな声を張り上げた。
 そういうことか。ランサーの口元にも僅かな笑みが溢れる。

「私の心臓を抉って穿つ! これだ! たまらない! 実にたまらない!」

「俺の槍を受けて死なねぇってのは不愉快だが……いいな、テメェ。そうかよテメェ! あぁ!? アーチャーよぉ!」

 ランサーは槍を引き抜くと、笑うアーチャーの脳天から股間までを、一振りで寸断した。

「アーチャー!?」

 凛がたまらず声を張り上げた。自身のサーヴァントのあまりにも無惨な姿に目を見張る。
 だが普通なら空気に溶けて消えるはずのアーチャーの体は、何故か中空で静かに停止していた。まるで時を止めたかのように微動だもせぬ体。同時、分割された一つ目が、ギョロリとランサーの目線と交差した。

「拘束制御術式。第一号、第二号、第三号……解放」

 声を発するはずもない口が声を発する異常、炸裂する魔力、凛は自身の体から次々に吸われていく魔力の、そのあまりの量にたまらず膝をついた。

「な、に……これ?」

 魔力、いや、命が吸われているような感覚に凛は目眩を覚える。しかし、類いまれな精神がそこで意識を失うという選択肢を放り投げた。自らのサーヴァントが戦う中で、一人眠るなんて馬鹿げてる。
 ふらつく視界、それでも意識を保ちながら、凛は確かに見た。アーチャーの体が周りの闇と同化していくのを。
 そしてその闇に現れるのは無数の瞳、出来の悪いモニュメントのような瞳が、ただ無感動にランサーを捉える。
 違和感がなくなる。ランサーは、遂に姿を表した化け物と、晴れ晴れとした気持ちで対峙を果たす。
 そうだ。答えは最初に出ていた。あれは化け物なのだ。純粋に、ひたすらに真っ直ぐに、愚直なまでにくだらなく化け物なのだ。
 違和感の正体は単純にして明解。本来、反英雄と呼ばれ、果てが化け物であったものも、召喚の際は人としての形で呼ばれる―ランクに嵌め込まれる―のがこの聖杯戦争のルール。
 だがしかしこいつは違う。アーチャーという枠組みに捕らわれて尚も化け物という矛盾。
 英雄ではなく、ひたすらな化け物である違和感。

「ハッハァ! 来いよ化け物がぁ!」

 その違和感がなくなった今、ランサーは吠える。
 化け物よ! 化け物よ! ひたすらなまでに化け物な化け物よ!

「その心臓、貰い受ける!」

 異形を前に、英雄は英雄として相対する。その強き信念を前に、化け物は影の中、穏やかなる笑みを浮かべた。

「始めようか人間―ヒューマン―。化け物と人の――甘美なる闘争を」

 始まるは、一心不乱の闘争。月を背に、おとぎ話は幕を開け――

「ッ!? 誰だ!」

 空気を読まぬ道化師が一人。今宵の宴はただの狩りへと成り下がる。






 英雄とは、人の身でありながら誰にも叶わぬ願いを果たせた者、諦めを諦めた者のことを呼ぶ。ならば、化け物たるアーカードもまた、一人の英雄であって然るべきはずだが、彼は化け物だった。永遠に化け物であらんとした。
 だからアーカードは倒されなければならない。化け物として人間に、五百年前のように、百年前のように、明けの陽射しに焼かれながら、アーカードは倒されるべきなのだ。
 それは化け物に残された唯一の希望である。心の臓を抉られるその刹那を望む。
 いつまでも、いつまでも、未来永劫がその過去を食い潰す日を夢見て。

『故にマスター。私の望みはただ一つ、私の夢のはざまを終わらせる存在だけだ』

「……ふーん」

 夜の冬木市を歩きながら、何ともなしに聞いたアーチャーの望みを聞いて、凛はどう答えればいいかわからずに空返事を返した。
 ランサーとの戦いから、今は暫くの時間が経っていた。
 要約すれば学友の衛宮士郎が聖杯戦争のマスターで、学校にてアーチャーとランサーの戦いを目撃し、口封じに殺され、凛が復活させたらまた殺されかけて、何故かセイバーを召喚して凛ちゃんくやちー。以上。

「……別に羨ましくなんかないんだから」

「どうした遠坂?」

「衛宮君には関係ないわよ」

 追記。聖杯戦争が何だかわからない士郎を教会に連れて行っている。これが現状だ。
 心の贅肉であることは重々理解しているが、一方的というのはやはりフェアではないだろう。という結論から、仕方なく凛は士郎を連れて歩いているのだが、そこで漸く現在の問題についての考えを始めることにした。

『アーチャー』

『なんだ?』

 隣で実体化したままのアーチャーと(召喚してから今まで霊体になったことがない)念話を繋ぐ。
 隣を歩く彼の背後、凛はまるで殺気を隠そうとしない黄色いカッパを着込んだセイバーを、チラリと振り返る。

『あなた、セイバーに随分嫌われてるわよね』

『無理もあるまい。あぁいう類いは穢れを逃さぬ。まるで僅かな埃も気にする喧しい小姑のようにな』

『それ、絶対にセイバーには言わないでよ。今更ドンパチやる気にはなれないんだから』

『無論。マスターの望むがままに……それに』

『それに?』

 文は背後のセイバーではなく、そのセイバーにさりげなく守られていることすらわかっていない士郎を見た。

「?」

 視線の意味を量りかねて、士郎はアーチャーと視線を交わしながら首を傾げた。敵意などまるで感じない眼差し。
 はたして、感じないのは敵意だけなのか。
 アーチャーは僅かに笑むと、再び前に視線を戻した。

『ワインだな』

『はっ?』

『寝かせるのさ。そう、今はな』

 意味深なアーチャーの言葉に、やはり凛は首を傾げる他なかった。





続きました。ですがプロットもクソもないので、習作ではなくあくまでネタ表記です。こんな作品より、より『らしい』クロスを書ける人へのネタ提供の意味合いも込めてってな感じで。
一応一日かけてある程度終わりまでの道筋は考えましたが、作者にこれを書ききる気合いがないので、所々はしょる上、描写もプロットをまんま上げるような描写に近いという暴挙です。
ちなみに携帯からなので文章量は少ないです。とはいえ、なし崩しではありますが他者に公開する作品ですので、最低限は読めるような小説を心がけるつもりなので、頑張らせていただきます。



[24892] プロローグ・2
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/24 17:19




 凛は士郎への道案内は言峰教会に至る坂までと決めており、その坂には時間も経たずすぐに到着した。

「それじゃ衛宮君。これでお別れね」

 本来なら話を全て聞き終え、改めて彼がマスターとして戦いを続けるか否かまでついてやりたかったが、何せ行くのは教会だ。アーチャーが問題ないとは言っても、純正の吸血鬼が教会に足を運んでいい気がするわけあるまい。
 故にここでお別れ。

「ありがとう。遠坂」

「……あなた、このまま戦うなら敵になる相手に、感謝なんかするんじゃないわよ」

「だったら遠坂こそ。敵になるかもしれない俺に塩を送るような真似をしてるじゃないか」

「フェアじゃないもの。当然でしょ?」

「なら尚更ありがとうだ。遠坂、俺は出来たらお前と戦いたくないな」

「馬鹿ね……全く」

 笑う士郎につられるように、凛も静かに微笑した。
 士郎は再びありがとうと呟くと、教会へ続く坂を歩きだした。真っ直ぐに進むひた向きな背中を見送る。
 と、何故かセイバーは士郎が歩きだしたというのに、その場に立ち止まっていた。「何かしら?」余裕を持ってセイバーに向き合う凛。堂々と、それこそ今ここで戦いになっても構わぬといった風でだ。
 だがセイバーは先程までの殺気をまるで感じさせず、小さく頭を下げた。

「助かりました」

「……あなたも衛宮君と同じ口?」

「どうでしょう? ただ、手助けには感謝を、時が流れどこればかりは常識だ」

「叶わないな。でも次に会ったら敵同士よ」

 ニヤリと凛が不敵に笑む。セイバーはその挑戦的な笑みの背後、それと同種の笑みを称えたアーチャーを見据え、

「是非もない。その首、我が剣の礎としましょう」

 剣の主に相応しい力強き言葉を残し、己の主の背中を追って足を進めた。
 その背中が坂の奥に消えていく。凛はただ静かに敵となりえる二人の主従の背中が見えなくなるまで見送り、

「おっかないわね。アーチャー、どうやらあなた、嫌われてはいるけどすっかり気に入られたみたいよ?」

 凛は皮肉をこめてアーチャーに言う。是非もなしと応じるアーチャーの目は、闘争の空気にぎらついていた。

「『たぎる』な。だがしかし、その前にもう一仕事あるらしい」

「えっ?」

「なぁおい。もうたまらないんだろ? 獣臭い殺気がここまで届いているんだ、我慢するな」

 アーチャーはコートを翻し、背中から伝わる殺気を見つめた。
 不死の一族に、夜の隠蔽は通じない。例え魔術による隠れ蓑があろうと、アーチャーの瞳は、財布の中の小銭を探すよりも容易くそれらを看破する。

「……ったく、なんて災難」

 ゆらりと姿を現した敵の姿に、凛は思わず悪態をついた。
 そこにいたのは死だった。あるいは山か、あるいは鋼か。ともかく剥き出しの脅威がいた。一瞬の内に理解する、全く、なんて怪物か。
 その横には、浮き世離れした美しさをもった幼き少女が一人。あからさまにアーチャーを敵意を送っていた。
 ランサー以降、出会う者から毎回敵視されるとは運がない。まぁ仮にアーチャーが敵だったならば、敵意以外の何かを感じられるか、と聞かれれば、凛としても何とも言えないが。
 ともかく、臨戦は既に入った。後は開戦を待つばかりだが、目の前の敵は、強敵だったランサーと比して尚強敵と言わざるをえないだろう。
 勝てる気がまるでしない。なのに、負ける気もしないのは何の期待からか。

「こんばんは。お嬢さん」

 アーチャーは敵意に愉悦を感じ、恭しく礼をしてみせた。堂に入ったその礼は、社交の場でも充分以上に通用するはずだが、その人を小馬鹿にしたような態度は、どうやら社交の場が似合う少女にはまるで通用しない――むしろ、余計な怒りを買っていた。

「下品なサーヴァントね遠坂凛。当代の遠坂はこんな気持ち悪いのを使役しているんだ」

「あら、醜さで言うならあなたのそれ……頭が下品になってんじゃないの? て言うか、そっちだけ一方的に私のこと知ってるなんて不愉快だわ。まっ、何となく見当はついてるけど」

 少女の言葉に、大胆不敵に返す凛。目の前の敵は巨大で、先程化け物らしい力を見せつけたアーチャーですら敵うか怪しい。
 でもまぁ、あれだ。

「自己紹介は無しかしら? だったらほら、さっさとかかって来なさいよ」

「……言うじゃない。その言葉、後悔してもしらないんだから! やっちゃえバーサーカー!」

 返答は殺意の咆哮だった。闇に浮かぶ銀色の少女の妖精のように可憐な声を合図に、隣に佇んでいた死が進行を開始する。
 凛が即座に後退し、アーチャーがその代わりとばかりに前に出た。近づかれるだけで肌を焼かれる錯覚、良し、とアーチャーは白銀の拳銃を構える。
 銃声、銃声、銃声、銃声。化け物拳銃の四連射。一発当たれば人体など『ひき肉』にする威力は、バーサーカーと呼ばれた灰色の巨人の肌に傷一つつけることすら叶わない。

「■■■■■■ッッッ!」

 弾丸では僅かにすら押し留めることが出来なかった獣の如くバーサーカーが吠えた。その手に持つ岩を加工しただけの巨剣を、アーチャーを射程に捉えた刹那真横に振るい、アーチャーを真っ二つに引きちぎる。
 上体と下半身が泣き別れをする。コマのように回りながら暗い闇に鮮血が注ぐ景色は、あぁ、一種の芸術のようである。

「アハッ! 上出来よバーサーカー!」

 少女が巨人の産み出した刹那で崩れるオブジェクトに喜色を浮かべた。ほとばしるは流血の大洪水、内臓を撒き散らしながら回る赤は、少しの飛行をした直後、コンクリートの壁にベチャリと叩きつけられた。
 静寂。アスファルトを伝う血が凛の足に辿り着くと、体をなくした下半身が力なく地べたに屈した。

「他愛もないわね。何かしら自信があったのかもしれないけど所詮は低レベルのサーヴァント。そんなのが大英雄ヘラクレスに勝てるわけないわ」

 少女は楽しげに、愉しげに声を張り上げる。

「そういえば自己紹介だったわよね凛? 私はアインツベルン、イリヤスフィール・アインツベルン。こんばんは、そしてさようなら凛」

 それは劇の熱に浮かれた観客のように。
 それは劇を舞う可憐な妖精のように。
 ただただ己の勝利を謳う姿は。

「本当に。さようならイリヤスフィール」

 迫り来る悪夢を意識しないようにしているだけの、哀れな少女でしかなかった。

「え……」

 イリヤの笑顔が凍る。凄惨な処刑現場と化していた大地にて沈黙していたアーチャーが声をあげた。
 まだ生きていたのか。困惑するイリヤを他所に、アーチャーの凛への要求をただ一つ。

「命令―オーダー―を。我が主」

 もうわかっているはずだ。アーチャーは欲している。
 マスター、凛による号令を。

「我が下僕アーチャーに命じる」

 凛の体から魔力が失われていく。アーチャーを束縛する鎖をほどくために、凛の体が蹂躙される。
 だがその痛みに耐える。貪ればいい、食い散らかせばいい。
 故に勝てと。凛の命令はただ一つ。

「拘束制御術式、第三号のみ限定解放! やりなさいアーチャー!」

「了解」

 クチャリと、肉と血が混ぜ合わされる音が鳴る。現実にはあり得ぬ異常を持って、赤き鮮血は黒を彩り、再びアーチャーという個体を整形していく。
 時間を巻き戻したかのような光景に、イリヤはただ言葉を失った。死んだはずが生きている。いや、生きているのに死んでいるのか。
 一つ、言えることがあるとすれば――

「化け物……!」

 幼い顔を怒りに歪め、イリヤは吐き捨てるようにそうアーチャーを蔑んだ。

「そうだ、そうだともお嬢さん。今あなたの前に佇むのはそういう化け物だ。そうなった化け物だ。それで、お嬢さんはどうするかな?」

 アーチャーは一呼吸置くと、犬歯を剥き出し問いかける。

 選択を。お前は犬か、人間か。

 応じたのは、鋼の巨人だった。

「■■■■■ッッッ!」

 巨人の剣が空を斬る。いや、砕く。アスファルトを容易に破砕した剣は、その爆心地にいたアーチャーをも吹き飛ばす。
 しかし今宵は闇が時。着弾した剣の上にアーチャーは再び構築を果たし、黒色の拳銃、ジャッカルをバーサーカーの眉間に向けた。
 連続するマズルフラッシュ。およそ人類の編み出した拳銃では最大級の威力がバーサーカーの顔面で破裂をなす。

「やった!?」

 凛が必殺の予感に拳を作る。着弾と同時に出た煙からバーサーカーの顔は見えないが、脳裏に浮かぶジャッカルはDランクの宝具。Dランクとはいえ、宝具が顔面に直撃、しかも連続でだ、流石に無傷ではいられまい。

 ――だが化け物よ覚悟せよ。其の前にいるは、数多の化け物を駆逐した大英雄なのだから。




後書き

中途半端に携帯の文字数オーバーしたので分割しました。なので戦闘場面も中途半端です、申し訳ありません。バーサーカー戦が終わったら、凛がアーチャーを召喚した場面のとことかを書いていく予定です。それから足りないだろう描写をちょこちょこ肉付け。まぁ基本書きたい場面をどんどん書いていこうかと思います。
一応スペック的にはハンパない旦那なので、書くにあたり制限をかけました。次回で説明しますが、まぁ少なくとも零号どころか第一号解放もあまり出来ません。
どうでもいいですが、感想きすぎて胃が痛い。まぁ細かいことはネタなんで気にしない気にしない。



[24892] プロローグ・3
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/24 17:28




「■■■■■ッッッ!」

 煙を吹き散らす悪夢の絶叫。晴れた煙からは、やはりかすり傷一つないバーサーカーの顔。
 三度、バーサーカーはアーチャーの乗ったままの剣を持ち上げ、空中で切り捨てた。
 水の入った袋が破裂したかのような音とともに、アーチャーの体が消滅を果たすが、やはり三度、拘束制御術式を解かれたアーチャーは凛の隣に顕現をする。

「千日手だな」

「千日手だな、じゃないわよ。第二号、解放行くわよ」

 凛の体からさらに勢いよく魔力が失われる。第二号解放を維持するだけで、この大食い。

「どんだけ燃費が悪いってのよ」

 悪態をつけるだけまだ余裕はある。しかしそれもすぐになくなるのは明白だ。
 拘束制御術式―クロムウェル―とは、アーチャー――アーカードという宝具を封印している宝具のことだ。第零から第三号まであるこの封印は、アーチャーの無限に等しい命のストックを使用するため、馬鹿みたいに魔力を消費する。数万、あるいは数百万におよぶ命だ。それを解放し続けるのは、アーチャーの蘇生にストックを消費するだけでも魔力を使う。
 ましてや第二からは使い魔の展開も追加され、第一は使い魔との物理的な融合だ。例え凛でも、令呪のバックアップ無しには、零号はまず使うことは出来ないだろう。
 そんなバーサーカーよりもタチが悪い魔力食いのアーチャーを従える凛の事情だが、当然敵は知ったことないだろう。

「だから、負けるなんて許さないわよ?」

「当然だマスター。下僕は下僕らしく、淡々と命令をこなしてみせよう」

 影が生える。月明かりに伸びたアーチャーの影から無数の獣が現れる。
 溢れでる幻想は、全てが全て血肉を欲する化生の類い。
 相対するは鋼の守護神。妖精を守る不落の城壁。

「開演だ。楽しく踊れよ狂戦士」

 月光は遠く。肉の宴は終わらない。






 ――喜べ少年。君の願いはようやく叶う。
 そう言った言葉を最後に、教会の扉は静かに閉じられた。

「……俺の、願い」

 実感のないようでどこか確信の持てる言葉を、士郎は教会から離れながら、ゆっくりと反芻した。
 願い、それは間違いなく正義の味方になろうとする衛宮士郎の願いで、それが叶うことはつまり、この世には許容されない悪が現れるという――

「シロウ」

「……っと。なんだセイバー?」

 物思いにふける士郎は、セイバーの声に慌てて返答した。セイバーの表情は家を出てからここまで、剣のように固い。

「先程の神父、言峰の話しはあまり深く考えないほうがいい。あれは、人を惑わします」

「そう、だな。あぁ、そうだ」

 どうやら、いらぬ心配をさせてしまったらしいと感じた士郎は、快活に笑うことでセイバーに応じた。
 だがセイバーは一つうなずくだけで、変わらずその表情は険しく、

「さっきから仏頂面でどうしたんだ?」

「いや……」

 たまらず声をかけた士郎に、思案顔でセイバーはどう答えるか一瞬躊躇う。しかし、これに関しては話したほうがいいだろうと、セイバーは己が胸中を吐露することに決めた。

「アーチャーのことです」

「アーチャー? あぁ、あの胡散臭い奴か」

 士郎は脳裏に浮かんだアーチャーの印象をそのままに返す。「胡散臭い、か。わかりやすいですね」セイバーはそんな士郎の捉え方に、微かに笑うと、「アーチャーは危険です」改めて言った。

「危険……そりゃサーヴァントなんだから危険なんだろうけど」

「あなたには危機意識があまりないのですね……」

 呆れたと言わんばかりにセイバーは盛大に肩を竦めてみせた。

「シロウ、あのアーチャーはあまりにも危険だ。直接的な戦闘能力ならば、おそらく私よりも遥かに劣るでしょう。しかし、彼の危険はそこではない」

「よくわかるな」

「勘です」

「勘か」

「しかし私はこれまでこの勘に裏切られたことはない」

 勘という曖昧に頼るセイバーを疑うように見た士郎だが、次いででたセイバーの二の句の力強さに言葉を失った。

「ですからシロウ。誓って戦いに割り込もうなど考えぬようにお願いします」
「わかってる。さっきのランサーとの戦いを見たからな、あんなのに介入しようとするほど馬鹿じゃないさ」

「ならばいいのですが」言葉と裏腹に、セイバーはまだ不安を募らせていた。

「それよりも今は早く帰ろう。流石に今日は色々ありすぎた。本当は今すぐにでも動いたほうがいいのかもしれないけど」

「いえ、その意見には私も賛成です。先程戦うと誓っていただきましたが、マスターは偶然この戦争に入ることになった身です。今は体を休め、考えをまとめることが、私達の最善です」

 例え未熟なマスターとはいえ、自身を案じるセイバーの優しさに、士郎は一言「ありがとう」と答えた。
 そして再び誓う。私達と言ってくれたその優しさに、私達と言ってくれる信頼に応えるために、セイバーに相応しいマスターたろうと決意を新たにする。
 瞬間、背筋を悪寒が通り抜けた。

「マスター!」

 声を張り上げ、セイバーが士郎を庇うように前に出た。その手には既に顕現した見えない剣を構えている。

「何が、起きてるんだ?」

 悪寒は坂を下った――共同墓地からする。未だ体を走る悪寒は拭えず、だが頭は熱に浮かされたようにフワフワとしていた。
 それでもわかることはある。

「サーヴァント……!」

 士郎の考えを代弁するようにセイバーが言った。そして、そこから組み立てられるここからの行動は。

 逃げるか。戦うかだ。

「落ち着け……!」

 頭の二択を踏み砕く。破砕した思考は改めて構築をし、第三の選択を編み出す。

「……とりあえず様子を見に行こう。いいか? セイバー」

「望むままに。ですがマスター」

「ここで待ってろって言うんだろ?」

「はい。暫く待っててください」

 セイバーは返答と同時にその場から飛び出した。

「頼んだぞ、セイバー」

 令呪の宿った手を強く握り込む。何も出来ない自分が、士郎にはとても歯痒かった。






 そしてセイバーは見た。夜に君臨する化け物と、夜を駆逐する暴虐の終わりなき闘争を。

「■■■■■ッッッ!」

「そうだ! 突け! 斬れ! 砕け! 私は『ここ』だ! 『ここ』にいるぞ!」

 死者の眠る墓が旋風に打たれ、儚く砕けていく。
 その墓に眠っていた骸が起きたかのように、影から獣が込み上げる。
 それは神話の再現に他ならなかった。無限にも見える群にただ己の体のみでぶつかる戦いの交響曲。
 バーサーカーの剣は、既に十以上アーチャーを絶殺せしめた。だがアーチャーは十を超えて未だ健在、底なでないかのように、ひたすら笑い、ひたすらに襲いかかる。
 セイバーはバーサーカーの圧倒的な力に強敵の予感を抱く。だがやはり、バーサーカーの力を補って尚アーチャーの規格外を認めざるをえなかった。
 不死というわけではない。現にアーチャーはバーサーカーの剣を受ける度に間違いなく死んでいる。
 しかしアーチャーは蘇る。何度裂こうが砕こうが潰そうが、何度も何度も嘲笑しながら蘇る。

「……ッ!」

 歯を食いしばり、セイバーは飛び出そうとする自身を抑えた。
 あれは断じて英雄ではない。ましてや反英雄ですらないだろう。
 一心不乱に化け物な化け物。それがあれだ。あれというあり方だ。
 おそらく、全ての英雄はあれを嫌悪するだろう。何故ならば、英雄は化け物を倒すから英雄なのだ。
 故に英雄は嫌悪する。悪夢のような化け物の存在に。
 セイバーは知らず、掴む剣に力をさらに込めるのだった。




後書き

またまた分割。携帯だから仕方ない仕方ない。
一応頑張って次回にはバサカを終わらせるつもりですが、感想でやや気になる部分があったので僕なりの返答をします。
アーカードと凛がイリヤを狙うのは無いとのことですが、僕は実はそうは思ってません。凛は現に漫画でアーチャー使ってイリヤ殺ろうとしてますしね。
アーカードに関しては、ホテルで人間を殺りまくった後のセラスへの言葉から、バーサーカーとの決着のためにイリヤを狙うんじゃないかと。
確かにアーカードは人間に殺されるのを望んでいますが、だからって『よし、正々堂々殺し合おうぜ』ってキャラじゃないはずです。アンデルセンを殺すためにジャッカルを手にしたり、伊達男との戦いでは、セラスの援護にもとやかくは言ってません。あくまで闘争においては何もかもを利用しきって、それを上回る意思と力をもった人間に倒されたいんじゃないかって思ってます。
なわけでイリヤを狙われた程度で諦めるようなバーサーカーなら、まず端から相手なんてしませんでしょう。むしろそういう場面で抗おうとする奴が大好きでしょうし。ロンドンのアンデルセン戦では、お前が俺に勝つ確率は万に一つもないだろ?って言ってますから、まず負けることはないのを凌駕されることを人間の可能性に期待してるのではないか。
と、いうのが僕のアーカード像です。何かそりゃ違うぜ、っていう意見がありましたら是非言ってください。
まぁそんな細かいのはネタなんだし気にしないぜ。って言っていただけたら一番幸いですが。



[24892] プロローグ・4
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/24 17:42




 ――選択をしろ。右か左か、それだけでもいい。選択し続けることだけが、誇りある生を紡ぐのだから。




 教会へ続く坂の頂点。静寂のみのその場に、士郎は今にもセイバーの元へ駆け出したい自分を律するように、同じ場所をグルグルと歩いていた。
 セイバーが偵察に出てからもう何分が過ぎただろう。一分、二分、いや、一時間どころか体感では一年か、待つばかりの焦りが、士郎の体内時間を狂わしていた。
 既に何周目に入ったか、その場でグルグル歩き回っていた士郎の令呪が、セイバーがすぐ側に来ていることを伝えてきた。
 同時に、上空から軽やかに士郎の前にセイバーが着地をする。

「セイバー!?」

「遅れましたシロウ。申し訳ない」

「いや、それはいいんだ。それより怪我はないか?」

 見た感じ、美しい甲冑と凛々しき顔には目立った傷はない。「安心を。騎士としては無様なことですが、斥候だけに勤めましたので」心配する士郎を安心させるため、セイバーは穏やかに笑んでみせた。現に、セイバーの言葉にまるで嘘はない。
 本来ならこのようなやり方は本意ではないが、これもまたなし崩しに聖杯戦争へ挑むことになった士郎を思っての行いだ。
 そして、それ故に。ここで選択を迫らなければならない。

「マスター……今、死者の眠る土地は戦地となっています」

 だからセイバーは士郎のことを、万感を込めてマスターと呼ぶ。
 その意図するところは、未だ戦いに慣れてはいない士郎にもわかる。

「……あぁ、それで?」

「一組は、おそらくバーサーカーであろうサーヴァントを操るマスター。そしてもう一組は……」

「遠坂、なんだな」

「はい」

「なら行こう。遠坂には借りがあるからな」

 躊躇いはまるでなかった。士郎は行こうと言う。ならば自身は振るわれる剣にすぎないセイバーは、ただ静かに従うまでだ。

「では、マスターはここで――」

「いや、俺も行く」

「なっ……」

 士郎の言葉に、セイバーは一瞬返す声を無くしてしまった。
 だがすぐに怒りを体から発すると、「何を馬鹿な。行ったところでシロウには何もすることはない」と、あえて現実を分からせるために士郎を使えないと断じた。
 確かに、その答えは事実そうなのだろう。衛宮士郎には何も出来ない。行ったところでセイバーの荷物にしかならないのは明白だ。
 だが、だがだ。遠坂の顔を思い浮かべる。敵だと言いつつ、手を差し伸べてくれたあの少女。
 いや、違う。それだけならば、セイバーだけを行かせればいいはずだ。
 ならば何故。答えはその隣。
 遠坂の隣にいた、あの赤い赤い、闇より赤いあの男が――

「行かないといけないんだ」

 遠くを見据えながら、士郎は静かに呟いた。
 セイバーはその眼差しに、最早何を言っても聞かぬと見たか、ただ一言、

「絶対に、戦いに割り込まないでくださいね」

 そう、先程と同じ言葉を再び口にしていた。






「こいつ!」

 イリヤが苛立ちのまま叫んだ。滅ぼしても滅ぼしても際限なく襲いかかる異形と化した黒い犬に蝙蝠に百足等々、ありとあらゆる生物の群に、最強を誇るバーサーカーですら、その圧倒的な物量には押し込まれるのは当然の流れ。
 どんなに葬ろうが迫るそれらは、いよいよイリヤにすら攻撃を加え始めていた。何とか魔術による防壁によって防いではいるが、それもいつまで持つかはわからない。

「どうした英雄? 敵はここだぞ? ここにいるぞ? さぁ剣を振るえ、足を踏み出せ、拳を固めて食い荒らし、叫びながら潰してみせろ。でないと愛しい愛しいお嬢さんは、化け物の腹の中だ」

 アーチャーの挑発に、理性のなきバーサーカーは前進をもって答えた。理性は失われど、狙うべきがアーチャーではなく、その背後にいる凛だと悟るバーサーカー。
 自身を圧迫する殺気に、疲労の汗とは別種の汗を凛は流した。だが笑え、常に優雅たれと凛もアーチャーの意図を知り、イリヤに向けてガンドを放つ。さらにアーチャーも二丁の拳銃の照準をイリヤに向けた。吐き出される銀の弾丸と、呪いの弾丸。
 バーサーカーの前進が再び後退した。イリヤの魔術では防げない威力を、己の体を持って防ぎきる。

「まだまだぁ!」

 凛はさらに取り出した宝石を投げつけた。血のように赤い石が、凛の魔術の願いを受け取り、簡易的な手榴弾となってイリヤとバーサーカーを巻き込み破裂する。
 ダメージはないという確信はある。適当な宝石では、ジャッカル程の威力も神秘もありはしないのだ。
 だが凛の狙いは別にある。イリヤを守るために立ち往生するバーサーカーの周りを、アーチャーの闇が取り囲んだ。

「行け」

 巨大化した黒犬が、イリヤはおろかバーサーカーの巨体も飲まんと口を開く。
 回避などはせず、当然バーサーカーは一振りにて犬を葬った。鼻を基点に、滝のようにおびただしい流血をしながら、犬が二つに避けていく。
 ぐちゃりと地面に犬が堕ちた。イリヤの障壁を濡らす野犬の血。
 あまりにも不潔な光景に、嫌悪に歪むイリヤの顔。その目の前で、今度は死した犬の骸から、新たな使い魔の大群が溢れた。

「離れなさい!」

 風の魔術とバーサーカーの剣風が犬を排除する。だが終わらない、終わるはずがない。
 銃声が鳴り響く。難航不落のバーサーカーが刹那の隙を狙い、アーチャーがイリヤに銀の鉛を届かせる。

「キャア!?」

 白銀の一撃はイリヤに届くことはなかったが、障壁を削るには充分すぎる威力を誇る。
 開いた僅かな隙間。そこから入り込むは百足の群。イリヤは一瞬焦りを見せたが、たちまち構成させた火の魔術で百足を焼却していく。
 その一瞬。勝負所を確信した凛が新たに魔力を放出した。

「アーチャー! 拘束制御術式、第一号、限定解放!」

 燃える闇が輪郭を失っていく。そして同様に、アーチャーの姿も炙られた飴細工のように影に溶けた。

「■■■■■ッッッ!」

 勝機を確信し、バーサーカーが凛へと風よりも速く迫る。
 だがその突撃は、凛の目の前に現れた巨大な犬に阻まれた。
 しかしそこで止まる大英雄ではない。剣の一振りでバーサーカーは容易く犬を切り裂き、その先にいる凛すらも切り払わんとし、

「残念。一歩遅かったわね」

 剣の間合いに凛を捉える一歩手前で、バーサーカーの前進は停止してしまった。
 何故停止をしてしまったのか。答えは至って簡単だ。

「バーサーカー……」

 巨人の背後、泣きそうな声を出して、イリヤはその背中を見た。
 幼く、か弱い首には、白い手袋をつけた手が添えられている。その手の持ち主、幾つもの眼を闇より現したアーチャーは「チェックメイトだ人間」と、敗北者のように弱々しく勝利を謳った。
 未だ凛の周りにはアーチャーの影がひしめき、主を失ったバーサーカーの突撃を数秒ならば防げる。その間にアーチャーはイリヤをくびり殺し、悠々と凛の元へ帰還を果たせる。
 だから王手。主を人質にとられたバーサーカーは動けず、しかも凛を殺して相討ちに持ち込むことも叶わない。

「だがどうだ? ここで諦めるか?」

 しかし勝利者たるアーチャーは、この限りなく勝率が零に近い状況で尚立ち向かってこいと言う。
 だがイリヤは首を圧迫され話すこともままならず、バーサーカーは主の命を握られたために動かない。
 そこで悟ったのか、悲しげに、それでもある種の満足感を胸に秘めてアーチャーは言う。

「残念だ人間。あまりにも残酷だよ人間。お前達は届かなかった、ついぞ今宵の私の心臓に一歩届かなかった。理はいつも残酷だ。化け物は人間に滅ぼされる。故にお前達は穿つ権利を持っていた。私の夢、一睡の夢を終わらせることが出来た……だがな」

 だからこそ努々忘れるな。化け物を殺すのが人間であるならば――

「人間が化け物に殺されるという理も、また必然なのだ」

 アーチャーの犬歯が露になった。絶対の死の予感にイリヤは目を閉じる。

「■■■■■ッッッ!」

 バーサーカーは、無駄とわかりつつ主の元へ駆け出した。
 だが遅い、遅すぎる。バーサーカーがどんなに速く駆け寄ろうとも、アーチャーの牙は少女の首筋を違わず――



 夜空に舞う赤い赤い雫は、先の見えない未来を予測するかのように、ただ不規則に飛び散った。




後書き

昨日は飲み会で小説を書かず、今日はハンターランク6を目指していたため、夕方まで小説を書かずで更新が出来ませんでした。申し訳ありません。
一先ずバーサーカー戦の本筋は終了しました。後は事後処理だけです。まぁ何となく展開読めるかもですが。
後、こんなことを書くのは感想を貰える場で書いている身としては、あまりに失礼な物言いかもしれませんが、僕が書けるのはあくまで僕の小説です。しかも後書きに書いたように、プロットも1日でざっくばらんに組み立てた、ネタにしかなりえない小説です。
それにたいしてつまらないと言うのも当然ですし、中々いいじゃんと言うのも当然ですし、今後の展開を予測するのも当然です。皆様が僕の小説を読んで書こうと思った感想は、一つ一つありがたくいただいています。
その上で僕は僕の小説をただ書くだけです。それが皆様の希望する話から違うとしたら、ただ謝罪するだけしか僕には出来ません。
以上、くだらない後書きで気分を害されたのでしたら、重ねて謝罪を申し上げます。



[24892] プロローグ・5
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/24 17:46




 ――許容出来るわけがない。

 視線が合ったのは、勘違いだったのかもしれない。今にも涙を泣きそうな瞳が、ただ助けてと訴えていたのも都合のいい妄想だろう。
 だがそう感じてしまった。認めてしまった。だから助けたいと、願ったから。

「セイバァァァァァ!」

 細かい命令など必要なかった。戦場に到着した士郎は、巨人が動くよりも、銀の少女が目を伏せるよりも早く令呪を励起させ、その命令のままにセイバーは瞬間移動もかくやという速度で、少女を掴んでいた化け物を十七の肉塊に寸断した。

「おぉぉぉぉ!」

 同時に駆け出した士郎が力なく崩れ落ちようとした少女をその腕に抱き締めた。
 驚愕は誰のものか。期せずも主を救われたバーサーカーか、予想外の乱入者に目を見開く凛か。
 いや、そのどちらでもない。

「マスター!? 来てはいけない!」

 驚愕はセイバーのものだ。彼女の直感が、少女、イリヤを救出した士郎の危機を予感する。
 先程の戦いを見ていたセイバーにはわかる。あれは、あれはまだ終わらない。

「クッ……ハッハ……」

 ぞるぞると耳によくない音を鳴らしながら、士郎とセイバーの目の前で、寸断された肉が結合し、闇色のまま形のない体を揺らす。
 セイバーが刃を構え直し息を飲む。遠目と間近ではまるで違うプレッシャー。直感は、士郎を抱えたままでは敗北すると告げていた。

「ハハハッ……ハッハッハッハッ! これだ! これだからやめられない! イリヤスフィール! イリヤスフィール・アインツベルン! 貴様は永らえたぞ。諦めが心を塗り潰す直前で、貴様は万に一つを己が手にしたのだ!」

 化け物が勝利を逃したというのに喜悦を露にする。その内心は如何程のものなのか。
 人間の持つ可能性を。人間という力を。人間が繋いでいく絆を。
 孤独な化け物にはないその真実が、アーチャーには心地よい。
 だが、しかし、だ。

「それでもお前は敗北したのだ」

「■■■■■ッッッ!」

 バーサーカーが一足にいれた凛へと踊りかかる。再びイリヤが捕まえられる前に倒すには、ここを好機とみたのか、後を考えない捨て身の一撃は、絡み付く闇に体の動きを鈍くしながらも、凛をその射程へと収めた。本能が一先ずの主の安全をセイバーに委ねてもいいと確信したからだ。
 そして、それがバーサーカーの命を失わせる結果となる。

「駄目だ。それでは駄目だ。そんなんじゃ私の心臓(マスター)には届かない」

 まとわりつく闇が、バーサーカーの動きを遅く鈍らせる。その間に凛は静かに後ろへ下がった。
 決定的な隙、絡んだ闇がまるで蜘蛛のように複数の腕となり、バーサーカーを包んだ。

「捕まえた」

 蜘蛛の巣に捕まった虫のようにバーサーカーはもがく。卓越した力は、十秒もせずに拘束をほどくだろう。
 だが、

「私はお前を捕まえた」

 バーサーカーの首筋にアーチャーの顔が現れる。再び剥き出しになる牙、アーチャー、いや『アーカードという宝具』がその首筋に牙を突き立てた。

「これは……」

 その間にも襲いかかる使い魔を落としながら、セイバーは確かに見た。鋼の肌に牙を食い込ませ、血を貪る化け物を確かに見た。

「■■■■■ッッッ!」

 その咆哮は、死に抗う絶叫に聞こえた。湯水の如く血を噴き出して、バーサーカーが暴れ狂う。
 死を前にした抗いは、アーチャーの拘束を無理矢理にほどき、自由になった手でアーチャーの顔を掴み、引き剥がした。
 そして全てに幕が降りる。バーサーカーが出来たのはそこまでで、アーチャーはそこまでで終わったバーサーカーからゆっくりと離れた。

「見事だった人間。実にお美事だったよ人間」

「あっ……」

 士郎に抱かれたイリヤが目を覚ます。僅かな微睡みから覚醒した少女は、その直後に現実を直視した。

「バー、サー……カー?」

 崩れ落ちる巨人。少女を守るためだけに戦った狂戦士は遂に、戦いきった命を、化け物の胃袋に取り込まれ、

「……ッ。戻りなさい! バーサーカー!」

 まだ大丈夫だとイリヤは理解した。急いで戻せば、回復をはたす。バーサーカー、ヘラクレスが宝具、十二の試練は、まだ二つしか破られていないのだ。
 だが同時にイリヤは歯噛みした。バーサーカーは暫く動けない。二つの命を一気に奪われた。瞬く間になくなった命を継ぎ足すには、今暫くの時間が必要となる。
 でもあいつは構わないだろう。目の前の化け物は、動かないバーサーカーには興味はない。狙いは私だ、助かった私――

「って、あれ?」

 そこでハタと気付く。場違いなほどにきょとんとして、自分の顔をペタペタ触り、何故自分が生きてるのか今更気付く。

「私、生きてる?」

 生きてる。生きている事実。あの瞬間、首筋に感じた殺気が肌に触れるまで、イリヤはバーサーカーを信じた。でも生温い血の暖かさを感じて、駄目だったのかと意識を手放したのだが。

「気付いたか?」

「えっ? お兄、ちゃん?」

 どうして、自分は彼に抱き締められているのだろう。ずっとずっと会えるのを待っていた彼に包まれているのだろう。
 状況を忘れ呆けるイリヤ。だが状況はまるで待ってはくれない。

「マスター!」

 セイバーが叫んだ。バーサーカーを倒し、狙いをこちらにだけ定めたアーチャーの使い魔の攻撃が密度を増したからだ。

「速く後退を! このままでは……!」

「でもそれじゃセイバーが!」

「あなたがいると背中を気にしてしまい戦えない!」

「ッ……」

 辛辣なセイバーの言葉に返す答えのない士郎は息を飲んだ。そうだ、セイバーは絶対に戦いに割り込むなと言った。その約束を破ったから、こんなことになっている。
 約束を破り、しかも敵方のマスターを助けさせるという真似までさせて、この期に及んでセイバーの助言を無下にする程、士郎は馬鹿ではなかった。
 でも、

「遠坂! 俺達に戦う意思はない! だからアーチャーを止めてくれ!」

 士郎はアーチャーの背後で腕を組む凛にそう訴えた。戦う必要なんかない、そんな意味がない、と。
 だが、返ってきたのは銀の咆哮だった。

「何を言っている小僧」

 士郎に迫る弾丸は、セイバーによって切り払われた。
 アーチャーが白銀を士郎に向けて、背中の凛をその体で隠す。それはつまり、士郎とアーチャーの視線が重なることを意味した。
 その眼にあるのは怒りだ。闘争に水をさす愚かへの純粋たる憤怒だった。

「お前は闘争に入った。己の意思を持って闘争への道を選択したはずだ。命をチップに、持てる手札に全てを賭けたのだ。債は投げられて、後はコールを待つのみ。お前の言葉は場違いだ。和平を望むなら、家に引き込もって愛と平和(ラブ&ピース)でも歌っていろ」

 アーチャーの言葉が士郎に突き刺さる。剣を向けながら戦う意志がないという愚かを指摘され、言える言葉はない。
 しかし士郎は歌う。歌うのだ。

「あぁ、俺は戦いに参加したさ。だってこんな小さな子を殺すのが戦いなら――俺は、その戦いと戦わないといけないから」

 士郎は胸に抱く小さな体を離すまいと強く抱き締めた。
 暖かな体が、まだ少女が生きていることを伝えてくれる。その温もりが、もし士郎が行動をしなかったことで失われたとするなら、

「だから、俺の戦いは、間違いなんかじゃない」

 そう強く断言出来るのだ。

「……なら、証明してみせろ人間。お前の確信を私に見せてみろ!」

 アーチャーの体から、あのバーサーカーを一時とはいえ捕らえた無数の腕が再び現れた。さらに、回りには無数の獣が溢れる。

「くっ……!? マスター!」

「すまないセイバー! ……ごめんな、遠坂」

 セイバーは迫る腕を、獣を、勝利を約束された剣で振り払う。その間に、士郎は一目散に逃げ出した。

「ハァ!」

 セイバーが果敢にも攻め立てる。勿論、バーサーカーの体を貫いた牙に捕らわれないように直感を働かせながらだ。
 果たして、無限に等しいアーチャーに、士郎が逃げるまでの防戦を強いられるはめになったセイバーだが、その攻撃は突如終わりを見せた。

「もういいわ、アーチャー」

 ここまで一言も話さなかった凛が口を開く。すると、打てば響く鐘のように、使い魔が闇に消え、アーチャーは元のコートを羽織った姿に戻り凛の横に並んだ。

「何故止める? 敵がいるのだ。やることは一つだろう?」

 マスターに言われたためにアーチャーは攻撃を止めたが、再び凛が行けと言えばすぐに飛び出す程に殺気をみなぎらせたままだ。

「黙りなさい。今夜はもう終わりよ。衛宮君もイリヤも逃げた。それが全て、全てなの」

「……」

「それとも、私の言葉が聞けないわけ、アーチャー?」

 挑戦的な凛の眼差しに、アーチャーは剥き出しの殺気を収めることで返答をしてみせた。
 当然、それだけでセイバーが矛を収めるわけがない。警戒しているセイバーを、凛は溜め息混じりに見た。

「あー……まさかこんな直ぐにあなた達と敵対することになるなんてね」

「次に会うときは、その首を獲る、そう言ったはずだが?」

「……そういえばそうだったわね。でも止めよ。今夜はあくまでも様子見、ここであなたとまで戦うとなると、私も覚悟を決めないといけない」

 表面上は冷静だが、凛の魔力は、ランサー戦も含めた一時間以上にもおける戦いで、既に半分程消費されていた。
 たかが半分と侮るなかれ、普通の魔術師ならば最早枯渇していても可笑しくない量の魔力を凛は消費していた。
 だからというわけではないが、もしこのままセイバーと戦えばさらなる魔力の消費と、未だ見てはいないセイバーの宝具により、零号の解放すら余儀なくされるかもしれない。
 それはこの冬木を管理する凛からしてみれば、許容出来るものではない。冬木に眠る見知らぬ人々を巻き込む愚行は出来ないし、まだ見ぬサーヴァントがいる中、死力を尽くすメリットが見えない。

「じゃあねセイバー。生きてたらまた会いましょう――アーチャー」

「了解。マイマスター」

 アーチャーのコートが凛を包むと、そのコートから落書きのような赤い翼が出てきた。
 その翼をはためかせ、二人の主従が夜に消えていく。セイバーは黒になくなる赤の姿を見送ると、振り返らずに自身のマスターの元へと走り出した。
 一晩の夢はここで終わる。化け物は化け物たる力を示し、人間は人間たる覚悟を証明した。

「アーチャー」

「あぁ、なんだマスター」

「次に行くわよ」

「勿論。次の闘争が私を呼んでいる」

 夜空を駆けるは赤の主従。それに抗いを誓うのは、鉄の心と剣の英霊。諦めを認めぬが故に、次の対峙をただただ望むなら。

「一睡、一酔。夜は魑魅魍魎が夢のはざま。さぁもっと私を酔わせてみせろ、人間共」

 汝、運命の夜を越えたくば、広がり続けるあきらめを、ただひたすらに踏破せよ。




 ――ここに、第五次聖杯戦争の幕が開く。





後書き

ここでオープニングを挟んでく感じです。なので誰も死なず。理由はオープニングだから。
この作品の主人公は凛とアーカードですが、勿論士郎のほうも頑張ってイリヤルートを書いていくので、それでもいい方もよくない方も読んでいただけたら幸いです。
アーカードの拘束制御術式展開が凛に付加を与えるってのは、今回や前の文章で説明はしてますが、やや伝わり難かったでしょうか?今後は今回までみたいに易々と拘束制御術式第一号までの解放はないので。
後イリヤが令呪を使わなかったのは、その兆しを見せた瞬間にアーカードが首に牙を突き立てるからって理由です。それとバーサーカーに牙が通ったのはアーカード自身がAランク以上の宝具という設定だからです。今度、アーカードのスペックとか載せたほうがいいのでしょうかね?
まぁテンプレになりますが、この作品はあくまでネタなので、細かいところは気にしない気にしない。……いや、致命的な部分はちゃんと直していくつもりですが。
では、また次回も読んでいただけたら幸いです。



[24892] interlude
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/21 22:52




 ある日、私は連れ去られた場所で犯された。
 だが神に慈悲は乞わなかった。絶対に願いはしなかった。
 ある日、私は剣を握って戦争を繰り返していた。
 神は祈りの果てには降りてくる。戦いという祈り、闘争の果て、生死の狭間、壊し果て、死に果て、惨めに憐れな我らの下に、神は降りてくるのだから。
 そしてある日、私は化け物になった。人道を外れ、人外への門を叩いた。泣きたくないから化け物になった。全てを殺し、自分までも殺した果てに、私は化け物に成り果てた。成って果てるために成り果てた。
 だから、いつまでも終わりのなき闘争に身を置くのだ。焼けた戦禍の音を聞き、砕けた剣を携えて、割れた鎧に牙を立てる。
 その終わりに、朝日は昇るのだ。五百年前に、百年前に、そしてあの日あの時見た朝日が昇るのだ。

 それを見る度に思う。あぁ、陽の光とはこんなにも――




「ん……」

 夢を見ていたらしい。おそらくパスから流れたアーチャーの記憶だろう。それを私は擬似的に追体験をした。
 戦いにしか己を見い出せない彼の生涯。化け物に成り果てるしかなかったその歴史。私はどんどん失われる彼の、アーチャーの記憶に対して、ただ「まぁなんだ。ドンマイ」と軽く感想をつける。そんな風に扱うべきじゃないからこそ、忘れるために、そう感想をするのだ。
 そうすればほら、起き上がった私には軽く済ませた感想しか残らない。

「……うー」

 寝ぼけ眼をゴシゴシ擦り、私はベッドの横にある椅子で本を読むアーチャーを見た。まるでどっかの貴族みたいに優雅な姿は、どことなく気品を漂わせていて――悔しいが、結構様になっている。

「おはよう……アーチャー……」

「ようやく目覚めたか、リン」

「あによ、まだ6時じゃない」

 全く、何がようやく起きたか、よ。不機嫌を露にして、再び読書に戻るアーチャーを他所に、私はベッドから降りると部屋を後にした。

 あの戦いの夜から一日が過ぎた。
 ランサーとの戦いのときは、あまりにも一方的なやられっぷりにこいつホントに大丈夫か? なんて思ったりもしたが、いざ蓋を開ければ、そんな評価をした前の自分を直ぐに殴り飛ばしたくなるほど、アーチャーのポテンシャルは計り知れないものだった。
 アーチャー。真名をアーカード、またはドラクル、またはヴラド・ツェペシ。彼は死徒や真祖なんかとは違う、血を吸うことで生きる本物の吸血鬼だ。
 どうやらつい先日吹き飛んだロンドンが英国の誇る、相互不干渉で時計塔すら手を出すのは止めていた『あの』ヘルシングの鬼札だったらしい。だった、というのは、今のアーチャーは何とも複雑な状況下にいるらしく、本物の(おそらく座にいる)アーチャーは、まだここにはいるがどこにもいないらしい。とのこと。
 まぁそこのところはよくわからないし、知っても意味がないのは、アーチャーと私の共通認識だ。今は私がアーチャーのマスターで、アーチャーは私のサーヴァント。それ以外に知る必要は何処にもない。

「ふぅ……」

 自分で淹れた紅茶で一息入れて、やっと覚醒しつきた意識をシャンとさせる。
 ともあれ、昨夜をもって私の聖杯戦争は始まった。いや、始まったのはあの日あの瞬間。

 闇夜に現れたアーチャーを下僕にせしめた、運命の夜からだろう。




【interlude 『Rin』・1】

 ――この闇を言葉で表すなら、どんな言葉が似合うだろうか。

 召喚は完璧に上手くいった。何も問題はなく、家がぶっ壊れるだなんてアホなことなんか起きるはずもなく、ともかく完璧に成功した。
 だがこれはなんなのだろう。成功したはずが、召喚陣より現れたのは、無形の闇だった。狭くはない室内を埋め尽くす闇の籠は私の足下も覆い、幾つもの眼で私を観察している。
 得体の知れない恐怖が私を襲った。闇に呑まれる中、思い出したのがあの光景だからだ。ロンドンで拾ったあの小石に見せられた光景だ。
 頬を伝う汗が、顎から落ちる。それは闇に波紋をつけることもなく吸い込まれ、まるで化け物の胃袋の中にいるような錯覚を覚えた。
 だが、私の動揺はそこど終わる。再び落ちようとする滴を掬い取ると、大胆不敵に笑ってみせた。

「あら、趣向を凝らしたにしてはセンスがないわね。普通、サーヴァントならサーヴァントらしく、マスターに挨拶するところから始めるもんじゃないのかしら?」

 問いかけに、返事は沈黙。いや、僅かに私を認める眼差しが、細くなり、笑んでいるかのように形を変えた。
 そのあまりにも私を小馬鹿にした態度に、流石の私もカチンときた。青筋を額に浮かべると、足下の目を思いっきり踏み潰す。

「セクハラよ。見るなら金払えっての」

 感触はグニグニしていて不気味だが、あえて踏んだ目を踵で弄くる。グリグリと踵で抉れば、目はゆっくりと瞼を下ろした。
 同時、全ての目が瞼を下ろし、続いて召喚陣のあった場所に闇が収束していく。

「ハ、ハハハッ! どうやらこの程度で逃げ出すような童ではないらしい。いや、そうでなくては私を飼い慣らすマスターとしては程度が知れる」

 闇は人形を作ると、パチパチと拍手をしながら、徐々に輪郭を形成していく。
 それは赤い赤い男だった。背丈の高い、赤いコートを羽織った男――いや、サーヴァント。
 まるで存在自体が魔力で作られたかのように、高密度の力を男から感じる。これがサーヴァント、神話の再現をした伝説の存在か。

「……で? あなたの眼鏡にはかなったのかしら?」

 だからこそここで舐められる訳にはいかない。可能な限り余裕綽々といった感じで、私はサーヴァントを見上げた。
 未だ笑うサーヴァントは、「あぁ」と一言。その場で膝をつき頭を垂れた。

「新たな我が主よ。契約を交わそう。主従の契りを果たそう。私の夢に現れたあなたに、我が夢のはざまを捧げることを、ここに誓おう」

「えぇ、よろしくね……えーと」

「アーチャー」

 アーチャーか。まぁこんな胡散臭い奴がセイバーだったらそれはそれでごめんだったかも。
 まぁともかく。

「私は遠坂凛。短い間になるだろうけど、よろしくねアーチャー」

「こちらこそリン・トオサカ。我が新たなるマスターよ」

 交わされる主従の契り。祝福はない、悪魔とアクマ、魔の契約に祝福などはいらないからだ。






「さて、これからどうするか……」

 紅茶を飲み干した私は、対面に座すアーチャーにもカップを渡して二杯目を楽しんでいた。

「紅茶、か」

「あら、吸血鬼は血以外飲まないんだったっけ?」

「そうだ、とでも言うのがいいのかもしれないが、折角のマスターからの好意だ。ここは我慢してありがたくいただくとしよう」

「いやならいやって言いなさいよ」

 クッとアーチャーの口が裂ける。全くこの化け物は、いつだって人を小馬鹿に……って。

「アーチャー、あなた、血が流れてる」

 それはあまりにも日常に溶け込んでいて、私は米粒が顔に付いているのと同じくらいの容易さでアーチャーの額から流れる血を指摘した。
 それに対しアーチャーは「ククッ」とさらに笑みを深くすると、白い手袋で自身の赤を救って楽しげにそれを眺めた。

「活きがいいな。死して尚、未だ諦めない、か」

「アーチャー?」

「何、気にするな。『暴れん坊』が暴れているだけだ……直に溶け込む」

「……そう。まぁ私に迷惑がかからないなら別にいいわ」

「それよりもマスター。私のこと等どうでもいい。次の話をしようじゃないか」

「そうね。でもその前に……」

 私は席を立ち上がると、アーチャーの隣にまで行き、自身の指を噛みきった。
 そこから染みだす赤い雫を、カップの上から落としていく。
 ピチャピチャと跳ねながらカップに染みていく私の血液。十秒程そうしたら、魔術刻印を働かせ、指の止血をする。
 黙ったままのアーチャーはやはり笑ったままだ。私も笑いながら席につくと、私を見るその顔を、真正面から見返した。

「ミルクは充分かしら?」

「あぁ存分と。紅茶はミルクなしでは私には少々苦いのでな」

 注がれた紅茶をアーチャーが飲みだす。不味いか、不味くないか、それはこの際どうでもいい。
 ともかく今は、

「さぁ、戦争の話をしましょうか」

 次の闘争に向けて、私とアーチャーは静かに準備を始めるだけだ。




【interlude out】




後書き

一夜明けた後の主従の会話と、ちょっとした回想ですが、正直書くといった手前書きましたが、今更書くのダルいなぁとか思った次第でかなりの難産でした。
というかアーカードの日常の会話に、召還時の台詞が書ききった今でも違和感が拭えません。
あんましストーリーには関係ないので、この話は折りを見てちょくちょく直していきます。てか凛も口調がおかしいしなぁ……
まぁ大筋にはまるで関係ないので気にしない気にしない。

次回は逃げきった衛宮グループの話です。ドーピングエミヤはいませんが、そこはお兄ちゃんパワーで十二分に補い余りますから大丈夫です。





[24892] FLASH POINT
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/21 22:57




(※本編にはまるで関係ないとてもくだらないネタなので、閲覧には注意してください。でも見てくれたら嬉しいです、書いたから見てほしいです、つまらないと吐き捨てられたらぞくぞくしますから見てほしいです)















 起きなさい。起きなさい凛や。

「んー……」

 ほら起きるんだ凛さんや。早くしないと徳川埋蔵金が奪わ――

「お金っ!?」

 グァバっという勢いで凛は飛び起きた。

「って……何よこれ」

 その視界に入り込むのは、まるでガキの落書きのような木々や太陽やビル等だ。慌てて自身の体を見るが、どうやらいつも通りのパーフェクトビューティー遠坂のままだったので安堵する。

「ようやく起きたか」

 そんな凛の目の前に現れたのは、風景に似て汚い落書きで描かれた、どことなく中国拳法を使いそうで、かつコミカルな演技もこなしそうな、

「誰よあんた」

「やぁ、私はあなたの持つ遠坂秘伝の宝石の精でジャッキー」

 挨拶をした妖精(仮)に、凛はツッコミという名のアイアンクローをぶちかました。

「あんたみたいな精霊がいるかぁ!」

 妙に生々しく出血する妖精(笑)の言葉に凛は声をあらげ、あの切り札とも呼べる父から譲り受けた宝石を思い出す。

「いや、ないないない」

「あるあるあるジャッキー」

 故に凛は妖精(キモい)に、芸術的なシャイニングウィザードをぶちかました。
 再び出血をなす妖精(さんじゅうななさい)だが、凛の攻撃を食らっても出血以外に目立ったダメージはない。
 流石は中国四千年の歴史か。な、わけあるまいと凛は一人ツッコミをする。

「てか何処よここは!?」

「ここは我が宝石の内側。名付けて固有結界ジャッキー空間なのでジャッキー」

 不敵な笑みを浮かべる妖精の背景が変わる。それは往年のアクションとかなんとか、まぁあれ、要はビルからの飛び降り的なやつ。

「お前はここで地元ではあんまし受けない作品や、酒に酔っぱらって泡を吹く作品に私と一緒に出まくるジャッキー」

「なっ……」

「そう、そしていつかはお前の前に来たトッキーとかいうオッサンみたいになるでジャッキー」

 そう言って妖精は空間の隅を指差した。

「……あっ」

 そこにいたのは、小さき日の遠い遠い憧憬だ。
 撫でられた頭の感触、かけられた言葉の意味を、凛は今でも覚えている。

「お父、さん」

 それが今は――なんかどっかの村で聖者とか救世主とか呼ばれてそうな出で立ちで、座禅組んで両手を上げてまぁなんつーかテーレッテーでハァーンしていた。
 そして脳裏に響く声。ただそれは静かに凛の頭を侵していく。
 ジョインジョイントッキー、ジョインジョイントッキー、ジョインジョイントッキー、ジョインジョイントッキー、ジョインジョイントッキー、ジョインジョイントッキー。

「止めて……」

 ジョインジョイントッキー、ジョインジョイントッキー。

「止めて……!」

 ジョインジョイントッキー、ジョインジョイントッキー。

「もう止めて!」

 ジョインジョイントッキー、ジョインジョイントッキー。

「もう止めろって……」

 凛はたまらず妖精の頭を掴み、

「言ってんでしょうがぁ!」

 全力で画面端コンボをぶちかました。

 ジョインジョイントッキー。




凛「うぉぁぁぁぁぁぁぁ!? ゆ、夢!?」




後書き

召喚の日の朝、この夢のため凛は宝石を召喚時に持っていかず、ロンドンで拾った黒い石を使うのであった、てのがオチ。

ヘルシングといえばこれ、という感じで書きましたが、幕間に負けず劣らず書いてる間なんか違和感が付きまといました(笑)まぁ気が向いたら書き直しますんで。勢いとノリで読んでいただいたら幸いです。

白状すれば、伝承者候補になったトッキー(凛パパ)主役のギャグFate小説を書こうとしたときのネタを、世に出さず封印するのも悔しいから晒しただけです。ホントオナニー全開で申し訳ない。





[24892] 【WHITE WHITE FAIRY GIRL・1】
Name: トロ◆0491591d ID:97c8aed9
Date: 2010/12/24 20:50




 無様を晒す。とは、屈辱的なことだ。自身の信念に反し、取捨選択を間違い、理性を裏切り、本能に否定するのだから。
 それが他人への無様ならばまだ救いはあるのかもしれない。しかし、これは自身への無様だった。正義の味方を志す己を裏切る屈辱だった。
 だがそうしなければ少女は救われない。剣を預けると言った彼女も助からない。
 故に彼は責められない。他人への無様ではないために、罰は己で己にくださないといけない。
 歯を噛み砕く勢いで噛み合わせる。ギシリと歯と歯が音を鳴らした。

「お兄ちゃん?」

 そんな彼を心配するのは、彼の選択により命を繋ぎ止めた少女だ。

「ハァ、ハァ……あぁ、ハァ、大丈夫」

 少女の心配が痛い。無様だ、あまりにも無様だ。俺は何をした、何も出来なかった。戦うと言った癖に戦うつもりなんかはまるでなかった。
 その無様が悔しいが、今はともかく走り続ける。少女を抱き締め、走り続ける。
 彼に今出来る最善だから走るのだ。その間だけは何も考えなくてもいいという、甘い甘い考えだったとしても。
 衛宮士郎にはそれしかない。生存への逃走しか、彼には許されていないのだ。
 選択は既になされた。或いはあったのかもしれない、赤い主従との同盟などという奇跡のようで冗談な選択は最早ありえない。
 だから走る。走り続ける。選択は常に示され続けているが、どう足掻こうが今士郎に出来るのはそうすることしかないのだから。




【WHITE WHITE FAIRY GIRL・1】




 深夜の撤退は成功した。あの化け物を相手に逃げ切ることが出来るか、正直自信があまりなかった士郎ではあったが、何があったにせよ戦わずに済んだというのは、士郎に安堵の念を覚えさせた。

「……なんか随分と懐かしいな」

 普通の一家屋にしては広大な実家を見て、小さな溜め息を吐き出す。

「ここ、お兄ちゃんの家なの?」

 胸元の少女、イリヤスフィールは士郎の肩から覗く形で彼の家を見た。
 耳元を擽るイリヤの吐息をむず痒く思いながらも、「あぁ。ここが俺の家だ」と答えてみせた。

「ふぅん……ここが、かぁ」

 イリヤは複雑な胸中をどう言葉にすればいいかわからなかった。イリヤスフィールは、衛宮士郎の養父であ、衛宮切嗣の娘だ。だが前回の聖杯戦争の時に彼に捨てられて(実際は捨てられたわけではないが)アインツベルンにて耐え難い苦難の毎日を過ごしていた。
 だからここに来たら切嗣の息子だという士郎を殺すつもりだった。自分を差し置いて幸せになった切嗣の幸せの象徴を壊して、彼への復讐を果たそう、それだけを願ってここに来た。
 それが今は、復讐の対象者に助けられるという始末だ。複雑になるのも無理はないだろう。

「えと……だ、大丈夫か? 寒いならすぐにお茶淹れてやるから」

 当然ながらイリヤの小さな胸中など察するスキルを士郎が持ってるわけもなく、場違いな気づかいをしてしまう。
 だが、そんな士郎の不器用な優しさがイリヤにはとても心地よい。士郎の首に手を回すと、クスクスと笑ってその耳に口を寄せた。

「……シロウはもっとレディへの気づかいを習うべきね」

「~~ッ!? み、耳元で話すのは駄目だ!」

「あら? どうして?」

「どうしてって……そりゃ、くすぐったいからだよ」

 見た目はどう見ても自分より一回りは幼い少女に、言い様にされてしまったのが悔しかったのか、ぼそぼそとか細く、どこか拗ねた口調に、イリヤの笑みはより深くなる。

「ふふっ、ごめんなさいお兄ちゃん」

「あ、あぁ」

 首に回した手を離そうとしないイリヤに生返事を士郎はした。

「って、今俺の名前を……」

「ん? あれ、まだ自己紹介してなかったかしら? 私は――」

 自己紹介をしようとしたイリヤだったが、それは二人の前に現れた騎士によって遮られた。

「セイバー!」

「怪我はありませんかシロウ」

「バカ! 俺はどうでもいい! お前は大丈夫なのか!?」

「……えぇ。化け物に遅れをとるとあっては騎士の名に恥じる。とはいえ、逃がしたのは事実、申し訳ないマスター、彼を仕留め損ねた」

「いいんだそんなことは。セイバーが無事で何よりだよ」

「心遣いに感謝を……ところでシロウ」

「なんだ?」

「まずは状況整理を……あなたも構わないな。バーサーカーのマスターよ」

「……いいわ。そうしましょう」

 イリヤは、セイバーが来たことで蚊帳の外に置かれたのが気に入らず、すっかり不機嫌になっていた。
 士郎から離れて、軽やかに着地をすると、セイバーと士郎の正面に立つ。

「改めてこんばんは。イリヤスフィール・アインツベルンよ。よろしくねお二方」

「俺は衛宮士郎だ」

「えぇ、よろしくねお兄ちゃん」

 花が咲いたように可愛らしく微笑むイリヤ。
 そして改めて思う。あぁ、恥は晒した、無様は変わらない。
 でも、だけれど。

「……こちらこそ。よろしくな」

 この子を救えた事実が、衛宮士郎には心地好い。






 すっかり冷えてしまったお茶を飲みほす。冷めても美味い衛宮印だが、今回に限れば味もクソもない。士郎とイリヤとセイバーは、衛宮邸にとりあえず入ると、そこで今日の出来事――アーチャーについて話し出した。
 改めて聞かされたアーチャーの特異性に、士郎はお茶を飲んで落ち着くことしか出来なかった。
 あのランサーを撃退したセイバーをもってして化け物と評すアーチャー。彼の実力は、イリヤのサーヴァントであるバーサーカーすら突破口を見つけられなかったくらいだ。

「やはり、あの異常な程の使い魔に、首を跳ねようが心臓を突こうがまるで死なない耐久力が彼の強みでしょう。あれでは宝具を晒すだけ晒して死なないということもあり得る」

 アーチャーの強さをまとめたセイバーの言に、直にそれと接したイリヤも「そうね」と相槌を打った。

「現状はマスターの凛を狙うしかアーチャーを倒す手段はないわ……悔しいけど、私のバーサーカーじゃ負けはしないけど勝てもしない」

 バーサーカーが宝具、十二の試練は、Aランクに届かない攻撃は、例え宝具の一撃ですら受け付けない。事実、バーサーカーは迫り来るアーチャーの使い魔や弾丸に幾度も身を晒したが、ダメージは皆無であった。
 唯一バーサーカーを貫いた一撃も、一度受けた攻撃に耐性がつくので、次は食らうこともあるまい。
 まぁまだ他にAランクに届く宝具があれば別だが、それはおそらく捕らえることでようやく使えた一撃よりも使用は難しいはずなので(でなければ使うはすだ)、近づかれないかぎり受けないだろう。
 だが再びマスターである自分を狙われれば今度こそ逃れられまい。悔しいが、バーサーカーではアーチャーという壁を越える前に、守るべきマスターを奪われてしまう。

「だからシロウ。お願いがあるの」

「えっ? 俺に?」

 いきなり話を振られた士郎が、お茶を入れ直そうとして立ち上がったまま呆けた。
 アホらしいその姿に、イリヤは「シロウ。ポカンとしてる」と言って笑い、セイバーも静かに口元を弧に変えた。

「……で、頼みってなんだよ」

 士郎はたまらず話を戻した。再び座り込み、背筋を伸ばしイリヤに向き直った。

「俺に出来ることなら、なんだってやるさ」

 偽りなき言葉は、士郎の胸に蔓延る無力感から出たものだ。話し合いにすらまともに参加出来ない自分だが、それでも頼みがあるなら聞く、そんな覚悟の声。

「シロウ。いいえ、セイバーのマスターにお願いするわ」

「あぁ」

 ゴクリと息を飲む。はたしてどんな無理難題が出るかわかったもんではないが、やれるだけならやってやる。そう、覚悟を決め――

 そっと、イリヤが右手を士郎の前に差し出した。

「同盟を結びましょう。あのアーチャーを倒す、その共通の目的のために……」

「あっ……」

 向けられた手のひらと告げられた言葉。士郎が声を失ったのは、驚きと、そして嬉しさからだ。

「ダメ……?」

 何も答えを返さない士郎が拒絶をしたのかと思ったイリヤが目に見えて落ち込む。

「そ、そんなことあるか!」

 慌てて士郎はイリヤの手を握り返した。同時に、雪のような暖かい冷たさが士郎の手を包んだ。
 それはイリヤの白い肌に似た冷たさで。小さい手のひらは、強く力を込めてしまえば雪のように崩れそうだが、今の士郎には何よりも便りになる、そんな手のひら。

「むしろこっちからお願いする。よろしくなイリヤ、一緒に頑張っていこう」

 士郎の裏表のない言葉と鋼のように固く、力強く、暖かい手のひらに包まれて、イリヤは心の中で笑った。
 なんて素敵な言葉だろうか。なんて優しい手のひらだろうか。ただ復讐を願っていた。それだけを願ってきた。
 なのに彼から感じるのは遥か昔、もう忘れたはずの父の温もりで――

「うん! よろしくねお兄ちゃん!」

 堪らなくなって、イリヤは士郎に飛び付いた。構わない、構わない。まだ胸の大部分を憎しみが埋めていても構わない。
 胸に宿った小さな灯火。
 冬を知らない少女の心に、鋼の熱が染み渡っていった。




後書き

エアセイバー。イリヤデレ。デレ早いなぁとか書きながら思いましたが、正直ウダウダいちゃいちゃに至るまでの話とかバーサーカーの生存について云々とか同盟組むまでの過程とかを詳しく描写するとかより、ともかく早く次の書きたい部分を書きたいから色々駆け足です。
以前の後書きに書きましたが、書きたいシーンを書くために、最低限の説明、または描写以外、だいぶ削ったりしちゃいます。そうしないとスカスカのプロットじゃモチベーションが上がらないんです。

でも、「ここの描写が欲しいでサノバビッチ!」とか「ここは説明増やせよこの汁男優」とかあったら、女王様に跨がれた豚のように駆け足でちゃんと書き足します(携帯なので色々変になるでしょうが)

まっ、細かいとこは気にしない精神でいていただけたら一番幸い。しつこいですが、僕より『らしい』HELLSINGとFateのクロスを書ける人へのネタでしかないわけですしね。




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