長編に煮詰まって書いたものを投稿します。
まえがきも小説風に。
アンチ風味前書き 実験室のフラスコ
やぁ、こんにちは。 研究所見学の方だろう?
うん、やっぱりそうか。 今日は見学に来てくれてありがとう。
見学に来たのは研究に興味があってのことかい?
え、ああ、そうか。 もう一つの方かい。
それなら説明はざっと概要だけにしておいた方がいいかな。
うん、ご存知の通り、この都市で行う実験、研究はどれも他の都市とは一線を画している。
それこそ、物理の基礎の基礎、落体の実験ですら他の都市とは異なっているんだ。
うん、その通り。
この都市には一切の実験器具と言えるものがない。あるのは馬鹿でかいコンピュータ、それだけだ。
いや……、他の実験器具はあるといえばあるかな? フラスコ。
フラスコ型空間ディスプレイ。 シュミレーション結果を投影するための。
うん? 改めて言われると驚くかい?
うん、本当にそうなんだよ。
うちでやる実験や研究は一切合財、馬鹿でかいコンピュータのシュミレーションなんだ。
都市の中央にある巨大な塔、アレ全体が現代最高峰の演算能力を誇るスパコン『イマジン』さ。
各研究所には一つずつ『イマジン』の子機が配置されていて、それによって研究を行うんだ。
ここの研究所にも一つ、『アブドゥル』という子機があるよ。私達の研究はこれで賄っている。
なんでシュミレートかって?
うーん、研究や実験ってさ、お金掛かるでしょ?
例えばさ、コンピュータ関係の実験で薄膜デバイスの用意をする場合。
まず、基盤を用意しなくちゃいけない。
最近は法則制御が容易になって変位相積層シリコンは安価に手に入れられるようになったけど、
それでも半径5cmの円盤一枚に1,000GeVだよ?
プラス、様々な試料をこれに付着させるわけだからそれの分のお金。
しかも、大体二、三回の実験でこれを使い潰しちゃうから毎回それだけの費用が掛かる。
他にも実験機械の方も維持費が掛かるし、実験で出た廃棄物の処理とかも面倒なものだ。
全体でどれだけ掛かると思う?
あ、それは君たちのほうが知ってるよね。今更言う必要はないか。
で、話はシュミレートの話に戻ってくるんだ。
ここのコンピュータを使ったシュミレートなら世界を丸々再現可能だからね。
物理法則を完全に書き込んでやれば、その世界は現実と変わらない。
そこの中に生まれた人間達に実験させればいいってことさ。
これなら電気代しか掛からないし、実験結果が出れば電源を消すだけでいいから廃棄物も出ない。
はっきり言ってこの都市の馬鹿でかいコンピュータ、作るのに莫大なお金が掛かってる。
維持費や冷房代も馬鹿にならない。
無駄だ、という意見が建造中から、今でも絶えず送られて来てるしね。
でも、試料代を削れるっていうのは結構侮れないんだよ。
研究費用をかなり少なく出来る。
年間で掛かる研究費用を計算した場合、約千年で元を取れる計算だ。
耐用年数は四千年だから、建てた価値は十分あるってことさ。
ま、所詮はシュミレートだから未知の分野の実験には心許無いし、
検証のための本実験が必要になるときもある。そのときは外に出掛けて実験さ。
結局普通の実験もするんじゃないかって?
……回数が減ったってことだよ。それで十分なのさ。
実を言うと、最近は別の利用の仕方も増えてきているんだ。
現代科学は進歩したし、このコンピュータも高性能だから、簡単な積層世界ぐらいならシュミレート可能だからね。
資金難の一部研究室がフラスコを民間に貸し出して娯楽施設にしてるんだ。
自分の妄想した世界を作ってヴァーチャルリアリティとして遊んだりね。
で、君の目的もそっちなわけだ。
説明はざっとこのぐらいかな?
学術的なことには興味ないだろうし、早速各フラスコを見て回るかい?
さすがに守秘義務があるから見せられないフラスコもあるけど、
民間用のは利用規約でOK取れてるからドレでも見放題さ。
なかなかに興味深いよ?
ま、ときどき羞恥心の有無を確認したくなる物もあるから気をつけてね。
ん、なんだい? ……ああ、その割れたフラスコかい?
民間に貸したフラスコだったんだけど、借りた人が無茶してね。
少し前に構成データが飛んじゃって。 そのせいで世界が維持できなくなって圧壊してしまったんだ。
今度からはそういうことがないようにしないとね。 対策は検討中だけど。
片付けないのかって? 今、残骸からシュミレーションデータを抽出中でね。動かしたくないんだ。
なるべく多くのデータを取り出して欲しいらしい。次回からに活かしたいんだって。
こっちとしても圧壊の原因を突き止めたいし、その間も貸し出し扱いでお金入るしで渡りに舟かな?
ま、僕の考えでは、たぶん世界構成のための構成データが多すぎたんだと思うけどね。
不思議かい? うん、君の疑問は正しい。
確かに世界一のスパコンにとって、シュミレーションの構成データが不足ことはあっても多すぎることは普通はありえない。
それにだ。
子機とはいえ、『アブドゥル』の演算速度は世界構成の標準モデルたる積層型鎖状連結式多次元宇宙を
何万でも何億でも同時展開し、それを世界終了まで連続維持することが可能だ。
その演算能力を持ってすれば、たかが一つのポリマーユニバースの構成データが吹っ飛んだとしても、
運用データから逆算して構成データを復旧させることなど造作もない。
でもね、ハードの方はよくてもソフトの方は駄目だったんだ。
元々の入力データが乱雑でね。
なにかのゲームかアニメのシナリオを基にしているらしいんだけど、
科学的世界観にファンタジー的な魔法なんてものを付け加えたくせに、その根拠となる科学理論は中途半端で脆弱。
魔力というものが存在するみたいなんだけど、
その魔力が基本粒子なのかハドロンのような構成要素なのか、はたまた相互作用なのかも曖昧と言えば、どれだけいい加減か良くわかってくれるだろう?
それになにやら魂や記憶なども関連するらしくてね。幽子や電気信号的な側面もあるらしい。
また、人類社会の構成データの方も矛盾が多くてね。
かつて世界を滅ぼしたのは科学兵器だったとしているデータもあれば魔法だったと書いているデータもあったりとか。
その上、実験を依頼した人がまた自重を知らない人間でね。
そんな世界観にさらに組織内の派閥抗争に軋轢、思想やオカルトまで強引に詰め込んだときた。
パンパンに張った風船にさらに空気を吹き込んで膨らませようとするようなものさ。
はじけて空気が抜ければ中身がないからすぐ潰れる。
ま、そんなことは別にいいじゃないか。
せっかくなんだ。 ここら辺にあるディスプレイを何個か見ていくといい。
簡易のものばっかりだからワンシーンしかシュミレートしてないけど、
ここの実験を実体験するにはちょうどいいと思うよ。
民間に貸し出したフラスコが多いから、
この都市の謳い文句、「世界さえシュミレート可能!」が嘘じゃないことが良くわかるはずさ。
さ、どれにする?
[1] 聖戦 in 2177
むしゃくしゃしてやった。今も反省していない。
WBⅦ(中)+聖戦を行う漢達。
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あとがき
前書きはアンチへイト的要素アリ。
どいつもこいつもアンチだとかヘイトだとか言うが温過ぎる。
そう思ってこれでもかと言うくらいブラックな要素を詰め込んだ後、
蓋をしてその上に短編集の前書きという絵を描いてみた。
あ、短編の方はアンチではありませんよ。