新暦71年4月29日
ミッドチルダの臨海空港で大規模火災発生、そのとき少女の命は、
誇張抜きで風前の灯であった。
---さて、これから話すのは幾重にも分かれた平行世界の一つ。
君たちのよく知る二次創作における定番手法の一つ、二次元世界への『転生』を
遂げた主人公を紹介するわけなのだが、まずは見ていただきたい。---
熱風は乙女の涙を焼き、姉の消息を求めて声帯が張り裂けんばかりに立てる声も、
崩れ落ちる建造物の轟音に掻き消され、誰の耳にも届かない。
少女は泣き虫であった。
力なく、いつも姉の背に隠れては見ず知らずの他人におびえ、
持ち前の心優しさを振舞うのは気心の知れた家族にのみ。
誰が責められよう、この地獄の中。
彼女のみならず響く怨嗟の声、苦しみからの解放を求める怒号、すすり泣く音。
救いを求め縋り付く手はわずかな救助者が握り締める前に、一つ、また一つと地に伏してゆく。
少女に力はなかった。
愛した母も、愛する父も、己が力の限り見知らぬ人々を助ける職に就きながら、
持ち前の心優しさを振舞うのは気心の知れた家族のみ。
誰が責められよう、この地獄の中。
誰にもへ与えられる当たり前の明日が来ようはずもない今、この時。
やがて得たであろう父母譲りの意思は芽吹かぬままに朽ちる。
目を覆う惨状、少女の未来は奪われる。
まさに少女の身の丈をはるかに超える瓦礫が、その身の上に落ちようとしているのだ。
---君たちのよく知る『リリカルなのは』その第三期、冒頭である。
本来ならタッチの差でわれらが高町なのはが瓦礫を吹き飛ばし、見事スバル・ナカジマを救出、
やがてその姿に憧れた彼女はトクサイへの道を邁進するわけなのだが---
だがしかし、瓦礫はその小さな体を押し潰したりはしなかった。
力強い詠唱、少女の悲鳴すら掻き消したその青年の声は彼のナニより野太い輝ける荒縄を生み、
無作法な瓦礫を食い止めたのだ。
その…………
…………亀甲縛りで。
「変態秘奥義、ミッド式悶絶捕縛魔法------伏竜ッッッツツ!!」
---ようこそ諸君。
残念ながら当SSで取り上げられるレパートリーに『萌え』の二文字はない。
正しくクロスオーバーであるように魔法少女は最低5割確保でお送りしようとおもうが、
オリ主は何と言っても『変身ヒーロー』だ---
誰得SS、『リリカル変態仮面』始まります。
*
己が窮地を救い出した恩人の姿を見て、ナカジマスバルは泣き出した。
再び、それこそ己が内にも火が飛んだように激しく、力強く。
それもそのはず、目の前の男は胸元で交差したブラジル水着のようなものを着て、
足元には網タイツのように魔道式が絡みつき、燃える瞳をさえぎる様に、パンティーで顔を隠していたのですから。
「うわーん、へんたいだーァァァァァァァッ。
助けておとうさーんッ!!」
「……私は変態ではない」
だがしかし、その男、紳士。
泣き叫ぶスバルと視線をあわせ、そっと力強く肩に手を乗せ、
股間のお稲荷さんからブラジャーをとりだすとほほを伝う涙をぬぐう。
そして言い聞かせるように、まずはその名前を教えるのだ。
「変態仮面、今日から君の友達だ」
「へんたい……ぐすっ…かめん、さん?」
「そうだ、そして知り合いに曰く友達になるには作法がいる。
まずは君の名前を教えてくれないか?」
途切れ途切れに、しゃくりあげながらも名前を告げた。
「スバル……スバル・ナカジマ…」
「そうか、スバル、いい名前だな。
この火災の中でよく生きていてくれた」
変態仮面は少女の頭を撫でた、若草のようにしなやかな其の髪も、
熱気にさらされて少し傷んでいる。
「まずはここを脱出しよう。
其の後で、がんばった君には何かおいしいものでもご馳走したい。
スバル、君は何か好きな食べ物はあるか?」
「うん、アイス」
「そうか、アイスか。
自前でホットなキャンディはあるが、こんな所に長くいたなら冷たいものもいいな」
二人は手を貸しながら立ち上がり、再び困難を極める退路を行こうとする。
「でも、でもへんたいかめんさん、ここにまだおねえちゃんがいるの。
いっしょにさがしてくれる?」
「なんだと?
それは大変だ、急いで迎えにゆかなくては……ムッ!?」
『ディバイィィィン・バスタァァァァァ』
其の時、オリ主は膨大な魔力の迸りを感じ取った。
少女を背に、目にも止まらぬ速さで腰を突き出すし電光石火の防御魔法を展開、間一髪でその桃色の光から身を守る。
やがてその場に降り立つ一人の乙女、其の名も高町なのは。
いわずと知れた正ヒロインである。
*
「生存者二人をかくほ……ッてパンツさん?どうして!?」
「壁抜きとは相変わらずダイタニッシュな手腕だ、久しいな高町、息災かね?」
互いに杖と腰を突きつける二人、だがしかし再び泣き出そうとする幼女に感づき、その矛を収める。
「わたしはたまたま居合わせて救助活動を手伝っているだけですけど……まさかパンツさんも?」
「そのまさかだよ。
あまりにも時空管理局が鈍亀なので好きにやらせてもらっている。
大体の要救助者は火の及ばぬところに吊るしておいたよ。
少しは私の亀を見習いたまえ」
どんな穴にもすばやく潜り込む、そう言うと背にしたスバルを促した。
「さあスバル、このお姉ちゃんが空を飛んで君を安全な場所まで送ってくれる。
きっと私が助けた人の中に君のお姉さんもいるはずだ」
「……フェイトちゃん、がんばって地面におろしてるの。
何で蓑虫みたいに吊るしてまわってたんですか?」
「この火災は人為的なものだろう?
中に犯人が居るかもしれないではないか常考」
『なのはーなのはー、なんでこんな複雑にバインドされてるかわかんないんだけど、
もう切っちゃっていいかなー?』
親友からの念話が聞こえた。
なぜか救護者が身をよじって上手く解けないという。
とてとて、となのはに近づいたスバル、なのははそんな彼女をそっと抱きあげると宙を舞う。
「へんたいかめんさんは?」
「わたしは炎の大地を行く、ひょっとしたらまだ助けていない人がいるかもしれないからね。
高町、その娘を…頼む」
「いえ、普通に任意同行を求めます。
というか早く捕まって……掴まってください。
もうすぐはやてちゃんが凍結魔法で鎮火しますから」
「そうはいかん、それにこれだけの火災を消し止めるなら相当魔力を食うぞ?」
ならば私はそちらに手を貸す、そう言って炎の中へ消えて行く変態仮面。
なのははその後姿をしばし眺めた後、いこうか?と少女を促し、彼女の輩、果て無き空へ身を窶す。
(また喧嘩にならないといいんだけど…)
そんな事を思いながら。
そして炎に焼かれるはずであった幼い少女の瞳には、戦乙女の横顔と、愛の戦士の後姿が焼き付いた。
スバルは思う、ただ泣くだけの自分も、力のない自分も、もう終わりにしよう。
強くなるんだ……そして100円ショップの電池とパンツは、もう買わないようにしよう、と。
*
八神はやては業火の中、いつの間にかあらかた助けられている救助者をフェイトに任せ、ユニゾンデバイスであり
彼女の家族でもあるリインフォースⅡとともに儀式魔法を展開していた。
管理局の対応の遅さに憤慨していた彼女も、今はただ目の前に荒ぶる炎を消し止めんと、
今まさに広域魔法を放とうとした其の時。
「……雨?」
瞬く間に暗雲に覆われる空、そして一筋の水滴が彼女の鼻先を濡らした次の瞬間。
炎が掻き消えるほどに激しくその場に雨が降り注ぐ。
南米のスコールもかくや、といわんばかりの勢いで、だ。
「ありえへん……天の助けといわれればどんな邪神もあがめたる量やよ?コレ」
「はやてちゃん、あのビルの屋上です!見るです!」
はたして、末っ子の指し示した先に、崇めると誓った其の男はいた。
わっしょいわっしょい、そいやそいや。
強奪したであろう官給品のストレージデバイス、その先端に無数の女性下着をくくりつけ。
わっしょいわっしょい、そいやそいや。
一心不乱に天を突く纏(の、ようなもの)をふりかざしている其の男、変態仮面。
忘れようはずもない、彼がかぶっているのは失った初代リインフォースの遺品であった。
「変態やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッツ!!
だれかあいつ捕まえたってーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
絶叫であった。
彼女達、時空管理局を差し置いてだれもが『陸の守護者』とはやし立てる其の男、変態仮面。
時空管理局に反目し、己が正義でもって人々を救う変身ヒーロー!------オリ主!
だが果たして、高町なのはを除く彼女達にとっては……
*
「そこまでだ!デバイスを捨てて投降しろ」
油断なく愛機、バルディッシュを構えてビルの屋上へ降り立つフェイト・テスタロッサ。
ふむ、と一つ頷くと杖を床に転がし、肩をすくめる。
---遠雷が一つ、轟いた。
「久しいなテスタロッサ、御身疾風の如しと謳われた君にしても、今宵のおいしいところはすべて頂いてしまった。
いっておくが、此度の火災は私の仕業ではないよ?」
「そんなことは解ってる、でもここで逃しはしないよ全次元広域指定性犯罪者」
『Haken Form』
---一触即発、いまだ二人の間に雨は降り注いでいる。
「……やれやれ、ご馳走を平らげてしまった以上、ここは私の体一つでもてなすよりあるまいか?」
手を後頭部に添え、ファイティングスタイルを取る変態仮面。
「公務執行妨害、器物破損容疑、加えてわいせつ物陳列罪の現行犯で逮捕・連行する。
行くよ、変態仮面……いや」
其の身を低く、B+のランク程度しか持たぬ相手をしてなお全力で切りかかる執務官。
「『アールワン・D・B・カクテル』ゥゥゥゥゥゥ!!
母さんのパンツ返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!!!!!!」
嗚呼、幾度目の決闘だろうか。
その日---97管轄外世界『地球』より遥か彼方の地に、落ちた迅雷と愛の太陽---