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美術:この1年 「隙間」への着目で成果 優れた回顧展多く

 今年、衆目を集めた美術の話題といえば、新たに始まった国際展だ。高松市と瀬戸内海の島々で開かれた「瀬戸内国際芸術祭」はのべ93万人、名古屋市での「あいちトリエンナーレ2010」はのべ57万人と、予想を上回る動員を記録。現代美術のすそ野を大きく広げた。

 だが、各地の町中などを舞台にした美術展が増えた分、内容の差が目立ってきた。美術の役割として地域振興が強調される風潮にも危うさを感じる。新潟市美術館で作品の中からクモなどが見つかった問題も、そんな背景と無縁ではないだろう。そのせいか、美術史の隙間(すきま)に埋もれた創作に光を当てたり、従来とは異なる視点を示した展覧会が強い印象を残した。

 その一例が「柴田是真(ぜしん)の漆×絵」(東京・三井記念美術館ほか)や「小村雪岱(せったい)とその時代」(埼玉県立近代美術館)だ。柴田は幕末~明治期に活躍した画家・漆芸家、小村は大正~昭和初期に舞台美術なども手掛けた画家。時代や表現領域が複数にまたがり、調査は難しかったはずだが、それを乗り越えて初の大規模展にこぎつけた。

 「橋本平八と北園克衛(かつえ)」展(三重県立美術館ほか)は彫刻家と前衛詩人の兄弟展。それぞれの分野では知られた2人をクロスさせ、新鮮な感動を与えてくれた。江戸文化の裏方を取り上げた「歌麿・写楽の仕掛け人 その名は蔦屋(つたや)重三郎」展(東京・サントリー美術館)は、着眼点が見事。一見地味でも独自性があれば、口コミやネットで評判が広がることを証明した。

 回顧展では「田中一村展」(千葉市美術館ほか)と「長谷川等伯展」(東京国立博物館ほか)が忘れがたい。時間をかけた丁寧な作品調査の成果を示した。「古賀春江の全貌」(福岡・石橋美術館ほか)▽「高山登展」(宮城県美術館)▽「池田龍雄展」(山梨県立美術館ほか)▽「ルーシー・リー展」(東京・国立新美術館ほか)▽「ハンス・コパー展」(滋賀県立陶芸の森ほか)も挙げておきたい。11月末に始まった「小谷元彦展」(東京・森美術館)には、今年の話題をさらうかのような圧倒的な迫力がある。

 印象派画家を取り上げた展覧会が次々に開かれたことも、今年の特筆事項だろう。中でも「ポスト印象派」展(国立新美術館)は、明確なコンセプトと名品ぞろいで見応えがあった。多くの現代美術作品をまとめた企画の中では、強固なコンセプトを掲げた「トランスフォーメーション」(東京都現代美術館)が一頭地を抜き、あとはやや寂しかった。

 一方、現代美術のフィールドで存在感を放っていた大都市圏の画廊が、それぞれ事情は異なるものの、昨年末から相次いで閉廊した。東京の村松画廊とギャラリー山口、名古屋の白土舎、さらに大阪・信濃橋画廊も今年限り。新しい画廊も次々に誕生しているが、美術を取り巻く状況が転換期にあることを痛感した一年だった。

 美術評論家の針生一郎さん、画家の山田正亮さん、彫刻家の向井良吉さんが亡くなった。荒川修作さんは、初期作品を集めた「死なないための葬送」展(大阪・国立国際美術館)開催中に急逝した。【岸桂子】

毎日新聞 2010年12月20日 東京夕刊

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