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今年は「電子書籍元年」と言われている。紙のページをめくるのではなく、画面上で雑誌や単行本を読むことができるiPadなどの電子機器(端末)が相次いで発売されているためだ。電子書籍と、それを読むための端末の基礎知識を、毎日コミュニケーションズの「eBookジャーナル」の小木昌樹編集長に聞いた。
電子書籍を読む端末は、電子書籍を読むための専用機と、メールやインターネット閲覧もできる汎用機に分かれる。スマートフォンを除いて、現在、日本で手軽に入手できる端末は次のようになっている。
専用機はソニーの「リーダー」だ。液晶画面ではなく、新開発の電子ペーパーを使用して文字やイラストを表示する。表示はモノクロだが画面は反射しにくく、長時間読んでいても、目が疲れにくい。文芸ものなど文字中心の本に向いている。操作は、画面下側にあるボタンや、画面をタッチして行う。
汎用機は米アップル社のiPad、韓国サムスン電子のギャラクシータブ(NTTドコモが販売中)だ。カラー液晶の画面で、動画なども表示できる。主に画面を触って操作する。専用機と汎用機の中間にある端末として、小木さんはシャープの「ガラパゴス」を位置づける。電子書籍を読むのが基本の機能だが、メールもネット閲覧もできる。
電子書籍の購入は、配信プラットホームというネット上の書店(以下、ネット書店)で行う。読者はネット書店のウェブサイト(「App Store」「マガストア」「リーダーストア」など)にアクセスし、読みたい本をダウンロードする。汎用機は本体そのものでネット書店にアクセスし、電子書籍をダウンロードできる。専用機のリーダーは、ネット書店にアクセスしたパソコンにつないでダウンロードする必要がある。
電子書籍の課題は、電子書籍のファイル形式がネット書店ごとに異なっていることだ。ネット書店で本を買うためには、事前にそれぞれの書店の本を読むための専用リーダーソフトウエアをダウンロードすることが必要で、特定のネット書店にしか行けない端末もある。また、iPadは、電子書籍をダウンロードすれば、リーダーソフトウエアが付いてくる仕組み。
さらに、電子書籍は読みたい本がどの書店にあるのか現状ではわからず、入手しにくい。小木さんは「電子書籍は業界内がバラバラに動き、本の形式の共通化の話は進んでいない。その点は不便だが、文字の大きさを自由に変えられることや、数百冊以上の書籍を持ち歩けるなどの利点もある。一度手に取ってみては」と話している。
また、小木さんによるとこれまでにも、「電子書籍が広がりそうになった出来事があった」という。04年にはソニーが電子書籍閲覧端末「リブリエ」を発売したものの、肝心の電子書籍がほとんど作られなかったため、リブリエそのものも売れなかった。また、95年ごろにはフロッピーディスクに写真などのコンテンツ(内容)を入れた「フロッピー・マガジン」というものがあった。
書籍のコンテンツを持っている出版社が電子書籍化を進めないと、消費者が読みたい本がなかなかそろわない。出版業界の売り上げは96年をピークに下落している。昨年は約2兆円で、20年前の水準に落ち込んだ。今年は各出版社が電子書籍に本格的に取り組み出している点が、これまでと異なる。【聞き手・中村美奈子】
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■人物略歴
国内初の電子出版ビジネスの案内役として今年11月に創刊された「eBookジャーナル」(隔月刊)の編集長。
毎日新聞 2010年12月24日 東京朝刊