電子書籍が普及するなか、広告業界は、読書中の消費者に対して宣伝を行う方法を実験している。この動きは、出版業に変革をもたらしうるが、一部保守層からの反発にも直面している。
広告・マーケティング業界は、読者に無料書籍を提供するスポンサーシップをはじめとして、さまざまのフォーマットを探っている。読者が初めて本を開いたと きに表示される、あるいはデジタル・ページの縁に沿って表示される、広告主のメッセージ入りのビデオや、グラフィックス、テキストも検討されている。広告 は本の内容や、読者のデモグラフィック(年齢、性別等々の人口統計学的な属性データ)およびプロフィール情報に基づいて、ターゲットを絞ることができ る。
しかし、紙の書籍の販売が頭打ちになるなか、スマートな電子書籍リーダーの登場や、出版業界におけるアップル、アマゾン・ドット・コム、グーグルといった大手の台頭は、電子書籍広告に対する新たな熱意に火をつけている。
電子書籍ストアの一つワウィオ(本社ロサンゼルス)は、ユーザーが同社サイトから例えばノートパソコンや、アップルのiPad(アイパッド)、アマゾンのキンドルといった電子書籍リーダーにダウンロードする電子書籍に掲載する広告の販売に乗り出している。ワウィオで扱う一部の電子書籍は3つのページに広告が入る。冒頭と最後のページにそれぞれ広告が入り、加えてもう1ページ、全面広告がある。ワウィオのCEO、ブライアン・アルトゥニアン氏によると、同社は、章と章の間に広告を挿入する手法や、同社ウェブサイトにユーザーが送信するプロフィール情報を用いて広告のターゲットを絞る手法も試しているという。
映画サイトのファンダンゴは、ワウィオのクライアントの一つだ。ファンダンゴは、クリスマスシーズンに公開されるジャック・ブラック主演の映画「ガリバー旅行記」のチケットを同サイトで購入する人にファンダンゴの宣伝が3ページ入ったジョナサン・スウィフト原作の「ガリバー旅行記」を無料配布している。
ワウィオのアルトゥニアンCEOはこう話している。「これは、本を読んでいると画面にビデオがポップアップ表示されるといったたぐいのものではない。広告のおかげで、無料または格安のコンテンツが手に入るのなら、ほとんどの読者は広告を受け入れるだろう」。
ワウィオは、ダウンロードされる書籍1冊につき1~3ドルを広告主に請求し、その収入を出版元と分け合う。出版元は、そうした広告収入のどれだけを著者に払うかを決める。
ワウィオは、カート・ヴォネガットの「スローターハウス5」などを出しているロゼッタブックスや、ハウツーものや歴史ものなど広範囲の書籍を出版しているアークトゥルス・パブリッシングといった出版社と取引を結んでいる。
別のビジネスモデルを有する企業も、電子書籍に広告を融合する方法を探っている。読書に的を絞ったソーシャルネットワーキングおよび自費出版サイト、スクリブドは、ユーザーが読んでいるものや、ユーザーが表明した興味対象に基づき、ユーザーに関連性のある広告を入れることを試みている。紙の書籍の電子版製作契約を出版各社と結んでいるスクロールモーションは、電子書籍に広告を入れる方法を模索する初期段階にある。
米調査会社フォレスター・リサーチによると、電子書籍の今年の売上高は9億6600万ドルで、来年は急成長が見込まれる。
しかし、電子書籍内広告は、売り込みがなかなか難しそうだ。一世紀前には、本が広告入りの続きものとして出版されるのはよくあることだったが、書籍内広告は現代では異例だ。そもそも、ほとんどの書籍はせいぜい数万部しか売れないため、ほとんどの広告主は関心を向けない。また、多くの著者契約は、著者が広告を承認する必要があると定めている。
その一方、書籍は寿命が非常に長いため、書籍の出版当初に掲載される広告は、何年か後には意味のないものになる可能性がある。しかし電子書籍は、読者がその本にアクセスする時点に適切な、読者の興味にターゲットを絞った広告を挿入することで、その問題に対処できる。一部の企業は、広告スペース購入を勧誘するため、複数書籍にわたるスペースの売り込みに取り組んでいる。
いずれにしても、広告は、邪魔物扱いだけは避けねばならない。フォレスターのアナリスト、ジェームズ・マクウィビー氏が言うように、「二都物語」の「それはすべての時代のうちで最良の時でもあれば、最悪の時でもあった」という一節の隣に、「今日は、最悪の時みたいな気分ですか?」というスポーツドリンクの広告が表示されたらどう思うだろう。あるいは、「緋文字」のそこかしこにコンドームの広告が入っていたとしたら。
著作権代理人のアン・リッテンバーグ氏は、「物語の途中に入ると、不愉快な邪魔物になってしまう。ペーパーバックの裏表紙に広告を入れるよりもずっと厄介な問題になるだろう」と語る。
ドイツのメディア大手ベルテルスマン傘下の出版社ランダムハウスのスポークスマン、スチュアート・アップルボーム氏によると、1950年代から60年代初めにかけて、大衆向けペーパーバックの裏表紙にはしばしば広告が掲載されていたという。しかし、広告は決して大きな収入源とはならず、この習慣は、著者の抗議をはじめとするさまざまの理由で廃止された。
アップルボーム氏は、著者の承認なしにランダムハウスの電子書籍に広告を入れることはないという。
同氏は、「フォーマットのいかんにかかわらず、著者の同意がなければ話は始まらない。しかし、著者たちがそれに同意してくれたなら、ある程度広まるかもしれない」と話している。