国鉄清算事業団の業務を引き継いだ国土交通省所管の独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」の利益剰余金1・5兆円を巡る政府内の綱引きが激化している。財務省が新規国債発行抑制を狙いに1兆円以上の国庫返納を求めるのに対し、国交省は「未上場のJR4社の支援など鉄道事業に活用するのが筋」と反対。一方、厚生労働省は基礎年金の国庫負担割合を現行の2分の1に維持する財源に充てるように提案しており、鉄建機構の“埋蔵金”争奪戦の行方は来年度予算編成にも大きな影響を与えそうだ。
剰余金がクローズアップされたのは、今年4月の事業仕分けで「必要以上の剰余金を抱えている」として国庫返納を求められたのがきっかけ。会計検査院も9月「剰余金1兆2000億円分が余分」と国交省に返納を求めており、来年度予算編成に向けた最大の“埋蔵金”に浮上した。
財務省は、98年に国鉄清算事業団が解散した際、24兆円の旧国鉄債務を一般会計で肩代わりしたことを盾に、「剰余金が発生したなら本来国庫に返すべきだ」と主張。国債発行を44兆円以下に抑える政府目標達成に向けて「(剰余金のうち)1兆円を超える額を予算編成に生かしたい」(野田佳彦財務相)として、同機構を所管する国交省と折衝を続けているが、議論は平行線のままだ。
国交省が「剰余金は、JR3社(東海、東日本、西日本)の株式や旧国鉄用地の売却収入が積み上がったもので、鉄道会社の支援に充てるのが筋」(幹部)との立場を崩していないからだ。国交省は一部返納に応じる場合も、同機構が過去に国から受け取った補助金(5500億円)の範囲内にとどめる方針で、残りは北海道、四国、九州、貨物のJR4社の経営支援などに充てる考えだ。
国交省の方針にはJR7社も加勢。11月には「剰余金は鉄道活性化に使ってほしい」との要望書を同省に提出した。また、整備新幹線の整備を求める地方自治体も「新幹線整備への活用を強く要望している」(高橋はるみ北海道知事)などとしており、財務省もゴリ押しできない状況だ。
さらに事情を複雑にしているのが、厚労省が割って入ったことだ。財務省が基礎年金の国庫負担割合を現行の2分の1から来年度は36・5%に下げるよう提案したのに対し、厚労省は鉄建機構の剰余金や特別会計の剰余金などを使って国庫負担維持の財源(2・5兆円)を賄うように主張。厚労省幹部は「新幹線より年金の方が大事だ」と意気込む。これに対して国交省は「厚労省の横やりは寝耳に水」(幹部)と反発し、事態収拾が見えない。
桜井充副財務相は2日の会見で「いろんな方から必要と言われ、最終的な調整がつかない」としており、調整に手間取れば年末の予算編成作業に影響を及ぼしかねない状況だ。【坂井隆之、三沢耕平】
毎日新聞 2010年12月3日 東京朝刊