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2010年12月07日 5:26 pm JST

中国は大幅利上げしない公算

投稿者 田巻一彦
タグ: コラム, 世界経済, 経済政策, 通貨政策, 金融政策, , , , ,

ロイターコラムニスト 田巻 一彦

*投稿における見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

中国が金融緩和路線を中立方向に転換する方針を3日に表明したが、大幅な金利引き上げ(利上げ)は海外から中国への資金流入を加速させ、過剰流動性を招いて逆にインフレの火を強めることになりかねない。したがって中国当局は緩やかに緩和路線を修正するともに、人民元相場をこれまでよりもやや速いテンポで上昇させる可能性があると予想する。緩やかとは言え金融緩和方針を転換することで、米国や日本などにとっては需要減少の影響が出るだろう。米長期金利には下押し圧力がかかると予測する。

<大幅利上げなら投機マネー流入、インフレ拡大の懸念>

中国共産党中央政治局常務委員会が3日に決定した内容は、適度に緩和的な金融政策を穏健に変更するとともに、積極的な財政政策は維持するというマクロ政策のパッケージだった。これを受けて世界の市場では、中国の金融政策は引き締め方向に向かうとの見方が広がり、一部の市場関係者は来年にかけて計5回程度の利上げがあると予想していた。

だが、教科書通りに緩和から引き締めに転換した場合、今の中国のマクロ政策を取り巻く環境下では、教科書通りにならないリスクが大きい。米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和第2弾(QE2)を決め、日銀が包括緩和に踏み出し、世界的に過剰流動性がうねりを強める中で、中国が累次の利上げをすると見込まれれば、リスクマネーは中国市場を目指して集中する可能性がある。中国が水際でそのリスクマネーの流入を止めようとしても、完全に防ぐことはできないだろう。大量のマネー流入で人民元も押し上げられ、中国人民銀行によるドル買い/人民元売りが大量に実施され、人民元がこれまで以上にマーケットに出ていくことになる。人民銀は自行発行の債券(手形)を売って資金吸収のオペを繰り返すだろうが、吸収しきれない事態に直面する可能性がある。そういうケースでは、過剰流動性を背景にインフレの火だねがかえって広がる懸念が高まる。

<小幅利上げと人民元切り上げ併用の可能性>

このため中国当局が、急激で大幅な利上げを実施する可能性は極めて低いと私は予想する。預金準備率の引き上げや銀行融資の窓口規制の一層の強化などを主体に引き締めの効果をより出す政策を続け、利上げの回数や合計の幅は、より小さくする政策オプションを選択するだろうとみている。同時に人民元の上昇のテンポを今までの超スローからやや速めにし、介入による人民元売りの量を小さくするとともに、輸入物価の下落の面からインフレ圧力を緩和する方策を模索すると予測している。

FRBがQE2に踏み出した現状で、為替レート維持のためのドル買い/人民元売りを増加させることは、非常に負担が大きくなると中国自身がみているのではないだろうか。FRBによる6000億ドルの米国債購入は、同規模のドルが市場に出回ることであり、中国側から見れば、ドル安政策に映るだろう。ドル安で人民元高の圧力が高まれば、介入によるドル購入額が増大し、結果的に米国債を購入する規模が膨れ上がる。しかし、米国債の価値はドル安で毀損するから、この構造を維持したままでは、中国が将来の損失を拡大させない方策が見当たらない──ということになる。

<中国需要減なら、米長期金利低下・日本株下落の圧力>

したがって大幅な利上げよりも、少しだけテンポアップした人民元の切り上げの方が、総合的に見て中国のプラスになると判断する可能性があると私は分析する。だが、それでも中国経済の拡大のペースが落ちるのは間違いないだろう。米国や日本にとって対中輸出が減少し、現地法人の売上が期待したほど伸びないという現象が、1─2四半期先に起きている可能性がある。市場は先取りするだろうから、米長期金利には低下圧力がかかり、それを材料に外為市場でもドル/円に円高圧力がかかりやすくなるという構図が生まれやすい。国内企業にとって中国市場のウエートは高くなる一方なので、中国経済の減速は日本株にも上値圧迫要因となる公算が大きい。

2010年に世界第2の経済大国に躍り出る可能性が高い中国のマクロ政策の動向は、東京市場の参加者にとってこれまで以上に重要な要素になる。しかし、為替制度が他の主要国と違うために、様々な分野に規制のシワがよる。人民元の自由化という課題は、インフレ抑制に向けた経済政策の策定という面からも大きな圧力を受けることになるだろう。

4件のコメント

金融政策の経済理論としては利上げをしなければならない。然しながら、政治的には利上げするわけには行かない。これが中国中央政府の直面するジレンマでしょう。

何故なら中国バブルで出回った資金の殆どが、不動産にroot onされてしまっているからである。もし利上げでもしようなら、この不動産バブルに手を出した地方政府幹部、国営企業幹部が真っ青になる事は目に見えている。彼等の殆どは、共産党員ないしその支持者で、全人代で幹部を選出するのも、国の重要政策を承認するのも、元を辿れば彼等である。

構造はこうだ。中国の地方大都市の殆どは、鉄鋼産業などの重工業を中心に城下町が形成されてきた。工場を中心に関連産業工業団地が取巻き、その周りに従業員住宅街が建設され、その間を縫うように商店街が形成されていた。鞍山、唐山、包頭、石家荘、馬鞍山、武漢、重慶等々の鉄鋼都市がその典型であろう。しかし経済発展に伴い、中心の工場群が環境問題、物流問題から邪魔な存在となると共に、商業地域としての価値を高めてきた。1990年頃から始まった工業近代化は、2005年頃にはピークとなったが、その時期にこれ等の工場群の殆どは郊外に移転されると共に、設備近代化が図られた。その原資となったのが、工場跡地の不動産価値と新興開発地区の新たな商業的価値であった。

何度か書いたように、元々国営であったこれ等の企業は、幹部が地方政府の要職を兼務している場合が少なくない。更に工場内には経営幹部の部屋の隣には、党規委員会の部屋があり、地方組織を通じて全人代に代表を送り込んでいる企業も多い。従って、工場の移転計画、近代化投資は経営計画と同時に、政治的な意図を持って実行されたと思われる。近代化計画は企業により案画・決定されるが、その後に地方政府の”批准”(承認)が必要であるのは、通産省全盛時代の高度成長期の日本を知っている方々には、容易に肯ける事であろう。

工場の移転により商業的価値の増した都市中心部住宅群に住む幹部たちの中には、それを担保に工場移転先に建設された新興住宅街の物件を買い、更に値上がりを見越して中心部再開発地区の商業施設の物件に投資している者も少なくない。それらの資金は、地方政府の起債により工場移転費用として計上された資金のかなりが、いわゆる公的融資、社内融資として流れたものである。そこで金利上昇が起これば、これ等の返済金利が上昇し、破綻する者も出てくるのは間違いない。これは同時にその様な資金の流れに乗り、今の中国経済を活発化しているいわゆる富裕層をも直撃する。彼等の資産は膨大だが、負債もまた膨大である。

従って、中央政府としても地方組織の反発を買うような、大幅金利引上げには踏み切りにくい事情がある。しかし、これ以上のバブルは危険水準となるゆえ、総量規制を始めている。既に鉄鋼などの大型産業は、追加投資は利益の範囲で行なえと、蛇口が締められつつある。また、銀行の預金準備率を引き上げたのも、この政策の一環であろう。先日の中国幹部層の意識調査で、約50%の者が負け組意識を持っているとあったが、多分蛇口の開いている間に、この時流に乗れなかった真面目な連中であったろうと推察する。

しかも様々な批判を浴びながらも、中国は為替管理が活きており、投機マネーの流入はしっかりと規制されている。今流れ込んでいるのは、将来の中国市場における販売を目指した、健全な投資マネーが大部分である。更に中国の官僚は日本のバブル崩壊に至る経済を、真面目に学習している。かっての「ミスター円」が中国で教えているのも、この内容だろう。蛇足だが、中国における日本の文献整備は、日本の技術文献のみならず、経済情報は完全にデータベース化されて、企業の端末からいつでも検索可能な状態にある。小生も企業を去った今、そこから様々な情報を得ている状況だ。

ゆえに小生の興味は、中国は日本の経験を生かし、バブル崩壊をを初めて乗り切ったと国と評される国となるか、同じ道を辿り、再び暗黒の世界に潜りこむことになるのか、この壮大な実験結果を見守ることにある。

- 投稿者 HANZO

現状の中国においては、急激なインフレは避けられない。そして、湾岸部と山岳部の生活レベルの違いや物価、人件費の違いで調整してきたが、既に中国国内の国民に大きな不満が生じている。尖閣諸島の問題も、単に石油だけの問題ではなく、食料の問題もある。ロシアも同様である。
そこで日本の立場を考えれば、そのインフレに巻き込まれることが予想できる。
混迷する現状の日本経済、国民状態では、かなり厳しい洗礼を受けることになる。
農業、漁業の新しい仕組みづくりの準備が必要だ。

- 投稿者 倉橋隆行

円安と原材料価格の急上昇の関連性は、あまり低い、被害妄想があまりにもひどい。
中国に頼る、経済システムは、とても危険をはらんでいる。
時間がたてばさらにその危険性がさらに認識されることである。
中国経済依存から早く脱却できる政策を考えていくべきだ。
また中国には一定の外交圧力を加えていくことが重要である。
特に知的財産を中心とした技術流出等の対策にさらに力を入れるべきである。

- 投稿者 bghsoa

私も、利上げと元の切り上げを漸進的に進めるというのがコンセンサスに成りつつあると感じている。
来年の中国の大きな問題は、リーマンショック以降牽引エンジンになっていた不動産と自動車の縮小だ。中国市場に過大な期待を描く自動車メーカーが少なくないが、私は競争優位から見てかなり甘いと思う。中国市場は米国市場より欧州市場に近い。
とにかく、電力はほとんど石炭火力発電、原油の輸入増加はほとんど自動車が飲み込んでしまう国だ。単なる減速というより、前回も言ったようにおそらく質的変化が誘導される。
日本経済は憂鬱だ、パラは700ドル、銀は30ドルを上抜けした。何度も言って来たが、原材料価格の急上昇は、円安は全てを治すというシナリオを破壊する。多くの製造業の収益モデルが円安でも機能しなくなった時、日本経済は70年代の英国のように致命傷を負うかもしれない、本当に憂鬱な事だ。

- 投稿者 第九の鉄人

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