この旗まで降ろすようでは、民主党政権への信頼は本当に失墜してしまおう。菅直人首相は、そう銘記すべきだ。
旗とは、2011年度の予算編成について定めた二つの目標である。一つは、新規国債発行額を約44兆円以下に、もう一つは、国債費を除く一般会計の歳出額を約71兆円以下に、それぞれ抑えることだ。菅政権が6月に閣議決定した財政運営戦略の中で、来年度から3年間の「中期財政フレーム」に明記した。
政府はきのう、予算関係閣僚委員会を開き、この予算編成の基本方針を確認した。来週中に閣議決定するという。
二つの目標は、財政健全化を目指し、膨らむ歳出と国債発行に上限枠を定めたものである。財政規律を保つための最低限の条件であり、堅持は当然だ。
ところが、政府・与党内には、この関門があるために予算編成の手足を縛られているとの声もあるようだ。とんでもない筋違いの話と言うほかない。
民主党政権が初めて編成した本年度当初予算は、一般会計総額(92・3兆円)も新規国債発行額(44・3兆円)も過去最高に膨らみ、税収(37・4兆円)より借金の方が多い、異常な姿になった。そもそも、二つの目標は、このいびつな構造の本年度予算を踏襲しており、目標自体が甘いものだからである。
それさえ守れないようでは、とても政治主導の予算とは呼べない。だが、目標達成は容易ではない。与党などの歳出圧力や減税要求は強く、大詰めに入った編成作業の迷走ぶりを見れば明らかだ。
政府は、来年度の税収見通しを41兆円前後とする方針で、税外収入は4兆円程度を見込んでいるという。国債を44兆円枠の上限まで発行しても、歳入は90兆円程度にとどまる計算だ。一方、概算要求総額は96・7兆円に達し、国債費を除いた要求額でも72・6兆円である。
目標の達成には、歳出を削り、歳入を増やすしかない。しかし、どちらも政府・与党内の調整は難航している。
目玉にするはずの「元気な日本復活特別枠」では、要望事業を評価した政策コンテストの判定が甘く、かえって絞り込みの難しさを浮き彫りにした。
子ども手当の増額や法人税減税の扱いは、それに見合う財源探しで迷走している。基礎年金の国庫負担問題では、菅首相が現行の50%維持を表明したのはいいが、財源の霞が関埋蔵金をかき集めるのに四苦八苦している状態である。
とはいえ、二つの目標を堅持して財政規律を保ちながら、経済成長につながるメリハリのある予算を編成することは、菅政権に課せられた重大な使命だ。
菅首相は、最後は自分の責任で決めると明言した。それには、政権公約の主要政策や特別枠事業の優先順位を大胆に決めねばならない。必要なら国民の負担増もためらうべきではない。真の政治主導の成果を示すには、菅首相が指導力を発揮したうえで決断するしかない。
=2010/12/10付 西日本新聞朝刊=