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気掛かりや不安が拭いきれない。2011年度の税制改正大綱がきのう閣議決定された。
法人税を減らし企業を優遇する。一方で、所得税の給与所得控除を縮小するなど高所得者層を中心とした個人への増税が目立つ。
企業を優遇することで、果たして政府が考えるような経済成長の成果が得られるのだろうか。
焦点だった法人税は、実効税率を約40%から5%引き下げる。財源不足で途中、3%案を検討していたが、菅直人首相が上積みを決断した。中小企業にかかる税率も18%から15%に3年間引き下げる。狙いは国内の設備投資や雇用拡大にある。
今の法人税の水準は中国25%、韓国24%、英国28%などに比べて高く、国際競争には不利だ。政府は6月に定めた新成長戦略に「段階的引き下げ」を盛り込み、経済界の要望に応えた。政治主導ならではの措置とはいえる。
しかし実際の効果となると不透明と言わざるを得ない。首相は日本経団連に対し国内の雇用拡大など促したが、米倉弘昌会長は約束できないと突っぱねた。
企業が減税分をため込むばかりでは、何のための優遇策か分からない。産業界は姿勢を問われていることを忘れてはならない。従業員を増やした企業を減税する雇用促進税制も新設される。これらの制度をフルに活用し、働く場の拡大につなげてほしい。
不安の最たるものは、代わりの財源が十分でない点だ。
法人税を5%下げると1兆5千億円の減収になる。減価償却制度の縮小など企業増税ではとても賄えない。差し引き約6千億円分の財源の手当が必要である。
減収を補うため、5800億円余りの増税を個人の側に課す。ただ、このうち2千億円は子ども手当上積みの財源に振り向けるため、財源不足は深刻だ。
菅政権は、新たな歳出増や減税には安定財源を確保するとの閣議決定をしている。今回の大綱はそのルールを首相自らが破りかねない危うさがある。
来年度予算案では2年連続で国債発行額が税収を上回る異常事態になりそうだ。将来の経済成長に伴う税の自然増をあてにする意見も政府内にあるというが、いささか頼りない話だろう。
個人への増税では、給与所得控除に年収1500万円の上限を設け、相続税の非課税枠も狭める。高額所得者の負担増は民主党が掲げる格差是正の一歩にはなるだろう。十分な説明は要るが、やむを得ない。
一方、成年扶養控除を原則廃止する対象は年収568万円超の世帯である。就職難の若者を抱える家庭が増えており、影響はかなり大きいのではないか。
大綱は、消費税を含む税制の抜本改革の具体的内容については「早急に検討」と明記した。数字を合わせるやりくりも既に限界に来ている。政府・与党は、国民が納得できるような将来展望を明確に示す必要がある。
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