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統合失調症:腸閉塞の男性患者 受け入れ先なく死亡 東京

 東京都東久留米市で昨年2月、体調不良を訴えた統合失調症の男性(当時44歳)が救急搬送されずに腸閉塞(へいそく)で死亡した。救急隊は2時間半にわたり受け入れ先を探したが、13病院に受け入れられず搬送を断念した。「精神科などの専門医がいない」「病床がない」などが病院側の理由だった。高齢化や自殺未遂で精神障害者が身体疾患にかかるケースが増えているが、両方の症状を診られる病院が少ないため搬送が難航している。精神と身体の合併症患者を受け入れる体制の不備が浮かび上がった。

 ◇心身合併症 減る受け皿

 男性の家族が情報公開請求して開示された東京消防庁の記録や家族の証言によると、男性が死亡するまで次のような経緯をたどった。

 昨年2月14日(土)20・00すぎ 男性が母親に「具合が悪いから医者に連れていってくれる?」と訴える。病院は医師などの配置が手薄な休日・夜間体制

 21・55 母親が119番通報

 22・00ごろ 東久留米市消防本部(現在は東京消防庁に編入)の救急車が自宅に到着

 22・40 母親の呼びかけに応答なし。救急隊員はすぐに生命にかかわる重症ではないが、意識障害があるとみて2次救急医療機関への搬送が必要と判断。自宅前に救急車を止めたまま内科や脳外科がある救急病院に対し、両親から聞いた本人の病歴を伝えた上で、受け入れを要請する電話をかけ始める

 翌15日(日)1・10 13カ所目の病院に受け入れを断られ、搬送を断念。救急隊は容体に変化がないとして3次救急医療機関には受け入れ要請せず、男性を自宅へ運び入れる

 9・00ごろ 母親が同じ消防本部に「病院を探してほしい」と連絡し、消防も探したが見つからない。その後、父親が男性の通院先の精神科病院へ行き、治療を頼んだが「休日で対応できない」と断られる。両親はほかに2カ所の病院に電話で受け入れを依頼したが、これも断られる

 14・00 男性の心臓が動いていないことに気づいた両親が119番通報したが、すでに死亡。大学病院での解剖の結果、死因は腸閉塞と判明

 東京消防庁の記録によると、救急隊員が受け入れ要請した13病院の内訳は▽総合病院5▽大学病院4▽精神科病院3▽都立病院1。断った理由は▽「専門外」(精神科などの専門医がいない)5▽理由が不明確な「受け付けられず」4▽「満床」4--だった。

 このうち要請記録が残っていた2病院が取材に応じ、当時の状況を説明した。

 多摩地区の精神科病院は救急隊が連絡した患者の容体から「脳などの疾患が疑われる」と判断。検査設備や医療機器がないため受け入れを断り、検査ができる他の病院へ運ぶよう頼んだという。

 多摩地区の大学病院は救急隊から連絡があった時、すでに他の救急患者の治療をしていた。「対応できるベッドが空いていなかった」という。

 このほか複数の病院が今回のケースではなく、一般的な事情を説明した。総合病院や大学病院によると▽休日や夜間はスタッフが少なく、治療後も目が離せない精神疾患に対応するのは困難▽当直医が精神障害者の診療で苦労した経験がある--などの理由で受け入れられないという。【江刺正嘉、奥山智己、堀智行】

 ◇2次救急医療機関

 入院が必要な救急患者に対応する医療機関。交通事故や脳卒中などで命にかかわる患者は3次救急医療機関(救命救急センター)で入院治療する。精神障害者は自覚症状が乏しかったり、正確に伝えられないことが多いため、2次救急医療機関への搬送後、重篤と判明することもある。

毎日新聞 2010年12月26日 2時35分

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