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きょうの社説 2010年12月26日
◎能美に液晶新工場 生活の質も「売り」になる
石川県にとって一足早い「お年玉」が飛び込んできた。東芝モバイルディスプレイ(T
MD、埼玉県深谷市)が能美市に建設する液晶パネルの新工場は、投資額が県内で過去最大の1千億円を超える。進出企業の大型投資は、税収、雇用面で大きなプラス効果をもたらす。これから需要が拡大する多機能携帯電話(スマートフォン)向けの製品というから、関連企業のさらなる進出も期待できるのではないか。TMDが新工場の立地場所に石川県を選んだのは、川北町に石川工場があり、既に携帯 電話やカーナビゲーション向けの液晶パネルを製造しているからだが、理由はそれだけではあるまい。県や地元関係者によれば、以前からこの地域の暮らしやすさ、生活の質の高さを評価する声があったという。自治体が産業基盤を整備し、企業誘致にしのぎを削る姿は珍しくはないが、生産拠点の再編を進めるメーカーから選ばれる地域になるために、生活環境を良くしていく努力も欠かせない。 北陸の暮らしやすさを評価する企業経営者は少なくない。金沢港に大型プレスを生産す る金沢工場を建設したコマツの坂根正弘会長は先ごろ、小松市で行った講演で、「石川や富山など生活コストの安いところでもっと仕事をしなければならない」と述べ、地方に拠点を移すメリットを強調した。ベアリング(軸受け)製造大手のNTN(大阪市)も今月、鈴木泰信会長が能登を一大生産拠点にする方針を明らかにしている。 地方は都会より生活費が安く、多少賃金が安くても安定した暮らしができる。労働者が 安心して働けるから、仕事にも精通し、結果として企業にもプラスになる。暮らしやすさは、企業誘致の際の大きなセールスポイントになる。 TMDの場合、昨年は姫路工場を閉鎖し、今年春にはシンガポールの工場を台湾企業に 売却した。製造拠点を集中する地域に、石川県が選ばれた意味は大きい。北陸は携帯電話向けの電子部品工場が多く、地域経済のけん引役を果たしている。とりわけ雇用面での貢献が大きいだけに、官民挙げて十分な支援体制を整えたい。
◎参院選挙制度 定数削減抜きの改革ない
参院の西岡武夫議長が、「1票の格差」の是正をめざす参院選挙制度改革の試案をまと
めた。都道府県単位の選挙区を廃止し、比例代表を全国9ブロックに分割するという内容である。最大5倍の格差が生じた先の参院選を違憲状態とする司法判断が相次いでおり、早期の改革は必要ながら、西岡議長試案は格差是正だけを目的にしているため、地方の人口の少ない県への配慮がみられず、いささか急進的で粗雑な改革案と言わざるを得ない。しかも、議員定数を現行の242のままとし、「削減について今後検討する」と指摘す るにとどまっている点も問題である。参院改革では、1票の格差の是正以上に定数削減が課題であり、この点に大胆に踏み込まない改革では有権者の理解を得られまい。 仮にブロック単位の比例代表制を取り入れるとしても、北陸3県を分割し、富山、石川 両県を「中部ブロック」、福井県を「関西ブロック」にそれぞれ編入する案には疑問が残る。政策に差異が出る地域特性や、衆院選で北陸信越ブロックに慣れ親しんできた歴史的な経緯を無視し、格差の縮小さえ実現できればよいという乱暴な印象をぬぐえない。 西岡議長試案は、従来の選挙区の定数調整による格差是正には限界があるため、ブロッ ク単位の比例選に一本化し、格差を一気に最大1・15倍にまで縮小するものだ。確かに、選挙区定数の見直しで格差を完全になくすとなれば、東京や神奈川などの定数を大幅に増やす必要がある。が、ブロックの比例選一本では、人口少数県から議員を出すのが困難になることも確かである。参院改革は格差是正だけではなく、参院の役割、存在意義をどう考えるかという根本からの議論が必要である。 定数削減については、民主党は参院選マニフェストに「40程度の削減」を掲げ、みん なの党は定数を100に減らす案を発表している。自民党も独自案の取りまとめに入っている。次期参院選からの新制度導入が参院各会派の既定方針であり、痛みを伴う自己改革から逃げないでもらいたい。
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