きょうのコラム「時鐘」 2010年12月26日

 皇族方の近況を伝える報道写真はパターン化している。が、天皇陛下77歳の誕生日を伝える一枚は珍しいアングルで、これからもこうありたいと思わせた

ご夫妻が、縁側に並んで腰掛けていた。後ろに写るのは、かつてどこの家にもあったガラス戸である。昭和の家庭をしのばせた。場所は、吹上御苑の茶室のようである。老齢期に入られたお二人に、冬の日差しが注いでいた

陛下と皇后さまの並んだ写真は数多い。5年前に、激戦地、サイパン島で太平洋に向かって深々と黙とうする、お二人の後ろ姿を写したのが強く印象に残っているが、今回の縁側でのツーショットも私的な光景として記憶に残るだろう

吉川英治の「新平家物語」に、老夫婦が、奈良の吉野山で肩を並べて腰を下ろし、桜を眺める名場面がある。それを思わせる一枚だった。昭和の国民的作家の言葉を借りれば「言わぬは言うにまさるほどの、心の通いあい」が、長年連れ添った二人にあった、と

小春日和が一転、師走の雪が舞いだした。夏の猛暑の裏返しで寒い冬になるのかもしれない。そろそろ来る年を迎える準備に入りたい。