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[24536] 【習作】 ダイト・マスター レイ(鋼殻のレギオス)
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/11/24 21:36
  第一話


 自律型移動都市<レギオス>

 何時の頃からか、汚染物質と呼ばれる有毒物質が降り注ぎ生き物が姿を消し赤く乾燥した荒れ果てた大地。
 既に失われた技術で生み出された人間が生存する事の許された唯一の人工の世界、無数の足で移動する自意識を持つ都市であるレギオス。

 生命の存在を許さない汚染物質に満ちた世界で尚生存し都市と人類を襲う汚染獣と呼ばれる化け物。ほとんどの自律型移動都市は基本的に汚染獣を避けるために移動し、それ故に放浪バスと呼ばれる多足の長距離移動車両という細い糸だけが都市間の連絡を担っていた。
 その移動都市の中で例外的に人類の天敵ともいえる汚染獣を求めるかの様に移動する狂った移動都市とも言われる槍穀都市グレンダン。
 その外縁部に茶色の髪、藍色の瞳をしたどこか気弱な雰囲気の少年と金色の髪と澄み切った意志の強い青い瞳の少女が立って居た。


 一年前

 グレンダンには天剣授受者と呼ばれる至高の武芸者が居る。

 天剣授受者とはグレンダンの秘奥の12本の天剣を与えられる武芸者の頂点に立つ栄誉ある称号で十二名だけに限られていた、そしてグレンダンの歴史上稀な天剣が十二名揃っている今現在では、新たな天剣授受者になるには試合で指名した天剣授受者を倒さなければならない。

 そしてここグレンダン闘技場に一人の少年が地に倒れている拳士を見下ろしていた。

「何故、剣を使わないっ!」

 そう、少年は剣士で在りながら拳で己の倍近い年齢の拳士を打ち倒したのであった。それが先日にこの試合の裏取引に合意したと勝手に思い込んだ敗者のプライドを傷付けた。その裏切り行為と思い込んだ不当な怒りを爆発さた拳士は本来ならば秘密にするはずの告発を行なう為に闘技場で叫んだ。

「天剣授受者が闇の賭け試合を行なって許されるのかっ!! そのような卑劣な武芸者が何故ここに立っている」

「貧乏が悪い、金を稼ぐのに効率が良いから行なっただけだ」

 武芸者の誇りとは無関係な返答に「何だと……」と思わず絶句する拳士。そして始めから裏取引が成立していなかった事も理解した。

 少年。天剣授受者レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフが身も蓋もない返答を表情も変えずに返し拳士ガハルド・バレーンの告発を切って捨てた。
 あえて素手で倒して実力差を見せつけ相手の心を折ろうとしたのに、逆効果となり怒りを増幅させたガハルドを見て計画が失敗したと悟った。そのうえで次の対応を必死に考えていたのに何も思いつかない為に内心は動揺していたのである。しかし、周囲にはふてぶてしくも無表情にいると見られるのがレイフォンという少年である。

 武芸者。それは剄と呼ばれる生命エネルギーを人が腰に発生した新たな器官、剄脈から発生させ、資源の乏しいこの自律都市で人類の天敵である汚染獣と刀剣や弓、又は格闘術で戦う人たちである。
 そして、その剄を人々は天から恩寵と呼び武芸者はそれ故に高潔である事を期待していた。

 そんな中でグレンダンの武芸者の頂点に立つ一二人の天剣の一人が金目当てに闇の賭け試合という自らを汚す行為を行なったという事実が白日の下に曝された事はグレンダン市民に衝撃を持って迎えられた。

 常に汚染獣と戦い勝利をする、グレンダンではあったがその為に都市としては貧しく又過去には食糧プラントの事故により大規模な食糧危機も発生し、孤児であるレイフォンの居た孤児院を始め都市全域で深刻な飢餓状態となったのは全住民の記憶にも生々しかった。
 その上に養父であり、サイハーデン流刀争術の師であり孤児院の園長でもあるデルク・サイハーデンは院の経営や金策が下手で食糧危機後も生活が困窮していた。その解決手段としてレイフォンは安易な道を選んだ結果が闇試合の参加でありそれはごく自然な行動でもあったりする。

 天剣授受者として都市の守護者としての使命よりも院の仲間たち、更にそれよりも一人の少女の笑顔を優先するある意味純真な少年の当然の選択であり結末はこの様に望まない形で終了してしまったのである。


 闇試合の告発の後、王宮は秘かに情報を操作し批判の矛先をレイフォンから闇試合を行なった裏社会へと変えたがそれでも天剣というシンボルが闇試合に参加したという事実は大きかったのである。

 それでも今回の事件の結果、闇試合と共に孤児の存在に改めて意識が向けられ、汚染獣との戦いの結果多数生みだされた孤児たちへの王宮の予算が増額される様に見直されることになった。

 デルクもこれまでの経営を反省し、孤児院の責任者としての立場を残しているが経営を他の専門家に任せる事にして、かつての孤児院出身で食糧危機の経験から食糧プラントの経営を始めた才媛でもあるロミナに委ねることにした。その結果は、

「何これ? ドンブリ勘定も良いとこじゃない。居たころは気が付かなかったけれど良く破綻しなかったわね。それに、補助金の申請や税控除も手抜きだし会計士は何やっていたのよ」

 過去十年分の時効前の再申請による補助と控除だけで経営が持ち直し建物の補修まで行なえたのには流石にデルクも驚いていた。
 彼女は経営のノウハウや租税計算、各種申請書類の読み方などをリーリンに仕込んでもいた。

 更に疑念を抱いた彼女は内偵を行ない、長年依頼していた会計士が実は他の都市の犯罪者が偽装して潜り込んでいた疑いが浮かび上がった。
 そこで彼女は警察へ訴えると、経済に疎い武芸者を中心に様々な詐欺行為を行なっていて更にその上にレイフォンに闇試合を持ちかけていた事が捜査の結果明らかになった。
 治安組織だけではなく、この事実を知った都市の全住民の追跡によって何とか生きている状態でこの詐欺師は逮捕された。そして即決裁判で強制都市外退去処分となった。早い話が生身で都市の外への散歩と言う名の死刑判決であった。

 市民はレイフォンも詐欺師の被害者であったと同情する機運が盛り上がっていた。それでも、王宮はレイフォン自身の為にも武芸者以外の部分の成長を促す方が良いと1年の猶予の後に学園都市への6年間の留学という処分を都市全域へ発表されて、意外と重い処分と市民は受け止めていた。
 この事件でレイフォンも思い知らされた。例えグレンダンと言えども武術の腕だけでは生きていけないと。

 それでも都市の補助の増額といったレイフォンも安心して都市を出れる状況になった上での判決にレイフォンも納得し、又戻ってくるのも皆が認めたのはグレンダンの天剣授受者として再びレイフォンが受け入れられた証である。
 事件の当事者と影で煽った人物以外は急速にレイフォンの行為は風化していったのは情報操作の勝利と言えた。

 一般人にとっては事件はこの様に解決したがグレンダンの武芸者。特にレイフォンと同年代の若い世代は違った、これを機会と捉えて6年後には自らが天剣授受者になるものと更なる鍛錬を始めていたのだ。彼らは今回の事件でも闇試合の参加には、年寄りや一般人とは違いさほど問題視せずに、闇試合についても公式試合以外にもある鍛錬の場と認識している者すらいた。


 それでも、レイフォンは己の行為を今までは恥じてはいたが後悔はしていなかった。
 元々事件が発覚した時に養父とサイハーデン流刀争術に迷惑がかからないようするためでもあり、闇試合に参加するのにけじめを付ける為に己が学んだサイハーデンの技を封じ武器を刀から剣に替えていた。そのような不利になっても命にかかわる汚染獣の戦いを実践し続けても納得していたし生き伸び続けてもいた。

 そう、何よりもその笑顔を守ろうと思っていた同じ日に引き取られたリーリン・マーフェスがレイフォンの代わりに彼の心の傷を思い泣いた姿を見て。

 そして、学園都市への留学の為に10歳に満たずに汚染獣との戦いに没頭し勉学が疎かになっていた自分を共に受験すると言って勉強を見てくれたリーリンが最強の汚染獣、老生体の一騎打ちよりも恐ろしい鬼になった姿に震え上がった時に。

 初めて己の行為の罪を自覚してしまった。

 はたしてリーリンの泣き顔に心を痛めたのか、剄技をひと目見て再現出来る武芸の天才といえども問題集を脳の右から左へと抜け出ていく学習能力の無しとリーリンの鬼教官への恐れのどちらが大きいかは判らなかったけれども、まあどちらかと言えば後者だけれど言わぬが花でしょう。


 そして一年後、無事合格し王宮で女王に謁見し出立の挨拶に向かったレイフォン。

「ツェルニとは随分と遠い所に決まったわね。6年後には無事に戻ってくるのよ」

「他の近場の学園都市は全て落ちてしまって……」

「可愛い幼なじみにあそこまで勉強を見てもらってそんな結果とはだらしないわね。
 せっかく一緒に行ってくれるんだから、ちゃんと彼女を守るんだよ」

 女王の言葉は受験に疲れ切ったレイフォンに容赦は無かったが、既に罪人では無い証拠の言葉であり周囲に徹底させる儀式でもあった。
 又女王が受験勉強中のレイフォンとリーリンに接触しておりその時の醜態を見ていての言葉でもあり、からかいという名の女王の娯楽というハタ迷惑な面もあった。
 そんな女王の言葉に顔を赤くするレイフォンはとても天剣授受者と呼ばれる武芸者の頂点でも、闇試合に参加した裏のある人物には見えず年齢よりも幼い純情な少年にしか思えなかった。その後はそのまま穏やかに謁見は終了したのである。



 そうして、二人は女王と市民達から許されたといっても最も許してほしい孤児院の皆からは未だにわだかまりが解けずにいる状態で時が過ぎていた。
 それが、現在旅立ちの時を迎え放浪バスの停留所へは見送りに誰もいないまま二人だけでバスの出発準備を待ち受けていた姿となって表れていた。


「リーリン、レイフォン」

 その時、二人を呼び掛ける声がして振り返ると初老の男性、養父であるデルク・サイハーデンが立っておりその背後には孤児院の幼い弟妹たちが泣きそうな顔で並んでいた。

「「皆……」」

 その姿を確認した二人は驚きと嬉しさに声が出なかった。
 デルクはそんな二人に園長として頼りになれず、レイフォンの苦悩を気づけずに刀を棄てたのを増長と捉えた己の不甲斐無さを謝り、木箱を取りだした。
 金糸、銀糸に飾られた布に覆われた木箱、その木箱にはサイハーデンの紋章が刻まられていた。それをデルクはレイフォンの眼前に差し出し……

「養父さん、それは」

「そうだ、サイハーデン流刀争術の免許皆伝の証で本来は5年前に渡すべきものであった物だ。あの時は私のわがままで渡すのを躊躇っているうちにお前は刀を棄て剣に替えた。そして、その真意を見抜けずに封をしてしまった愚かな私を許してくれ。そのうえで改めて受け取ってほしい」

 それでもまだ躊躇って箱へ手を伸ばさないレイフォンに更に説得と悔悟の言葉を続けるデルク。

「サイハーデン流刀争術は戦場の闘技であり刀技なのだよレイフォン。道場で師として高潔さを追求して本質を忘れたが、サイハーデンは戦場で戦い勝利するのではなく生き残るのが本質の流派だ。それならばレイフォンの生き方も肯定出来るし許せる事なのだ。
 それに陛下からヴォルフシュテインを剥奪されなかったが、流石に天剣を都市外に持ち出せない上に学園都市は武芸者も成長途上の未熟者ばかり。その中でもし汚染獣が襲ってきた時に本来の刀技を使えない剣だけでお前はリーリンを守れるのか?」

 デルクの最後の台詞が決め手となりレイフォンが受け取る決心をするが、やはりこの男はリーリン第一主義者で説得するのはリーリンをダシにするのが一番であるということが良く判るシーンだった。

 若干感動的というのには躊躇われるが、それでもレイフォンと孤児院の皆との和解と交流が始まり弟妹達が二人に近付き声をかけ出そうとした時に突然リーリンの胸を鷲掴みにする人物が背後より現れ再び時が凍結した。

「リーちゃん、いきなり消えてこんな生活能力ゼロの男と駆け落ちなんて許さないわ」

「か・駆け落ちって単に留学ですっ!! 変な事を言わないで下さい。それにシノーラ先輩には先日出会ったときに出発を告げたでしょう」

「リーリン…… 僕が生活能力ゼロという事を否定しないんだ」

 何気に落ち込むレイフォンや反応出来ない子供たちを他所に二人の美女・美少女の会話が続いていた。

 シノーラ先輩・彼女はリーリンがレイフォンに受験勉強を教えていた時に図書館で偶然に知り合った高等研究院の学生でレイフォンだけではなくリーリンにも勉強を教えた優秀な女性であった。その性格はイタズラ好きでリーリンの胸がもっと大好きとという迷惑な物であったがそれでも憎めずに何故かリーリンも姉の様に甘えられる雰囲気を持って今もこうしてじゃれ合っていた。

 そして、園の弟妹達は駆け落ちという言葉に反応して再起動を果たしてレイフォンを再び責める様な眼で見ていただけではなく積極的に問い質し始めた。「逃げるのか」「二人だけの世界に行くのか」といった追及にレイフォンは冷や汗を流しながらも必ず帰る事を約束させられていた。

 この様なごたごたが最後にあり旅立ちの時にある別れの悲しみが薄れた中で二人は放浪バスに乗り込んでいったのである。

 都市部外縁から二人を乗せたバスを見送る人影があった。

「おい、本当に挨拶をしないでこんな所で見るだけで良かったのか。一応はあのガキの先生様何だろ」

「608秒前にも同じことを言っていたが、俺はあいつの先生でもないし、わざわざ戻ってくるのに改めて会う必要も感じない。
それにお前の方が関係が深いのではないか」

「赤ん坊の事で色々とあるのよ。あいつはガキだから自分の事には判らない癖に、他所の男女の事に文句を言っているだけだ」

 最初に声を掛けた見上げる様な巨体の男性が単純な力なら天剣最強であり最凶と呼ばれるルイメイ・ガーラント・メックリング、煙草をくわえ、不機嫌な顔をしたまま返答を行なった男性が女王を除くと天剣最強と目されるリンテンス・サーヴォレイド・ハーデン。
 基本他人に無関心な天剣達にしては二人も陰からとはいえ見送るのは異例の事であった。本人が思っているよりはレイフォンは友好関係を築いていたのだろうか?



 王宮の尖塔の頂上のグレンダンの旗の下に何時の間に停留所から移動したのかシノーラが立っており、レイフォンとリーリンの乗った放浪バスを常人では目視する事が不可能な距離になっても何時までも見送っていた。

 彼女はシノーラとは仮の名であり本来の名はアルシェイラ・アルモニス。このグレンダンで最強の武芸者でもある女王がその正体であった。
 レイフォンは知っており、デルクも薄々と気付いていたが女王がこの様に出歩いているのは政治的に不都合な為に秘密にされていた。

「12本の天剣が揃い、いよいよ時が満ちたかと思ったけれどどうやらあの天剣は私の天剣では無い様ね。そして彼女はこの都市から離れたけれど運命は手放してくれるかしら。
 出来たら私の手で全てを終わらせて彼女は平穏に過ごして欲しいけれど、レイフォンは果たして守れるかしらね」

 朝日の中、旅立つバスを何時までも見ている女王の言葉の意味は? そして、新たな生活を目指す二人の前途は? 全ては一年前のあの日から大きく変わっていった、これからどのような運命が待ち受けているのかは誰も判らない。




 あとがきと云う名の言い訳

 感想は書いてもSSは始めてのくろしおです。
 初めての文章を最後まで読んでいただき有難うございます。不慣れな為に誤字、文法がおかしい等といった指摘、展開に無理が有り過ぎ等の指導をお待ちしています。

 最初はホルスマスターのアルハイム兄妹の性格と関係にしてみようとしたが、女王が強すぎ天剣を奪っても逃げきれる姿が浮かばないからら諦めました。
 その結果じゅっ様の優しい世界同様に留学だけで永久追放は免れています。

 その為にアルハイム程でなくても、原作よりは少しリーリンを優先させる魔改造レイフォンを目指して見ます。

 
 レギオス本編は読んでも、レジェンド、聖戦は参考程度で設定に違いが出るかも知れませんがもしそうなら教えて下さい。
 聖戦のディックの移動の時系列が理解しにくいから一部矛盾するかもしれません。



[24536] 02
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/11/26 23:20
  第二話


 交通都市ヨルテム

 全ての移動都市の位置を把握し放浪バスを管理する為に多くの人と情報が立ち寄る豊かで活気のある都市。

 その都市に今グレンダンを出た放浪バスが到着した。バスからぞろぞろと降りてくる乗客たち、現在グレンダンの財政を担う若き情報貿易の商人の数が多かったが、その中にレイフォンとリーリンという二人の学生の姿も見えた。

 この世界は、基本自給自足のレギオスでの貿易として各種情報(遺伝子から娯楽まで)を交換しての貿易が主流であり一部で希少金属を都市間共通通貨として通用しているのである。

 何を言いたいかというと、貧乏と言われているグレンダンでは貿易用情報が少なく、代わりに汚染獣の死体から抽出する希少金属が豊富にありレイフォンは通貨としてリーリンの分も含めて重たい荷物を進んで担いでいたという事である。

 実際は、武芸者として基本の内力系活剄による身体能力の向上による負担は少ないが、同乗者達は自分たちも嫁に尻に敷かれる姿を幻視して涙していたりするのは内緒。特に同郷の者はレイフォンが天剣授受者と知っているのでそのイメージと実態のギャップに精神の安定の為にもレイフォンの正体を忘れた振りをしたりする。

 ヨルテムの宿泊施設で一時滞在の手続きを終えたレイフォン達はまだ都市内部には入る事が出来なかった。それでも鍛錬所の使用許可と錬金鋼の調製の専門家ダイトメカニックの協力依頼を行なった。武芸者を優遇するこの世界の気風によりこれは容易に認めれたが、ぶっちゃけ、養父と和解してはっちゃけた雰囲気のレイフォンに担当者が脅えたともいう。

 次の日の鍛錬所。

 グレンダンで天剣になってからのレイフォンはどこか心が死んだようになっており、更に闇試合の告発の後はどこか自分の居場所を探している不安な表情を時に見せていたが、リーリンと心を通わせ受験から解放その上に養父達との和解が幼き日の目の輝きをヨルテムに来る頃には取り戻していた。

 そして今、養父より託された鋼鉄錬金鋼(アイアンダイト)。斬撃武器に最も適しているレイフォンが幼少時から使っていたそれを手にした。

 握りに柄糸が巻かれたサイハーデン流の免許皆伝の証を復元し刀へとその姿とそれに相応しい質量に変化した。
 刃長はレイフォンの腕ほど、幅広く豪壮。刃文はのたれ乱刃、切っ先は火炎帽子。屋内の照明に輝くその刀身は目を瞠るような美しさだった。

 その美しさに同席したダイトメカニックも思わず「ほう~」とため息を吐くほどであり、そのまま正眼の構えから刀を振るうと大気をも切り裂く剣戟が発生しその凄まじさに今度は声が出ない状態になっていた。

 何合か振った後に素振りを止めると、斬線に沿って切り裂かれていた空気の層が素振りが止めると同時に断裂が消え静寂を取り戻した。そのままレイフォンは周囲の様子を気にもせずに感触を確認しつつ呟いていた。

「もっと重くしてもいいかな。刃長ももう少し……長くなりすぎるから鋼鉄はこのままで脇差として予備にして、今ある青石(サファイア)の第一形態をその様にして身を厚くすれば鋼糸の容量は維持出来るだろうし。
 すみません、メカニックの方。この様な設定で青石のダイトの方の調製をお願い出来るでしょうか」

「大き過ぎくなりませんか? 今の刀で丁度良い大きさだと思いますが」

「いえ、今のは10歳の時に組んだダイトですから、元々大きなめな刀を振るっていましたから大丈夫です」

 ダイトメカニックが大刀の他にあるその設定の細かな第二形態の存在に驚きながらも打ち合わせを行ないつつ調製を始めた為に手が空いたレイフォンがリーリンの許に戻った所に話しかけていた。

「レイフォンはやっぱり刀を振るっている姿が一番似合っているわ。何よりも天剣になってからのレイフォンを見るのは好きでなかったけれど、今日のレイフォンは久しぶりに天剣前の武芸を純粋に好きだった頃の姿を取り戻して嬉しいわ」

「えっ、やはりリーリンに秘密を持っていたからかな? リーリンを守りたいと思っているのは昔も今も変わらないよ」

 天然男は無意識のうちに口説いているのは何時もの事でリーリンも慣れたもので聞き流してた。

「ハイハイ。判ったからメカニックの方が呼んでいるから行ってらっしゃい」

 鋼鉄よりも剄の伝導率が高いバランス型の錬金鋼がレイフォンが剄を走らせると先ほどの鋼鉄錬金鋼より一回り以上大きなだけでほぼ同じ形状の刀が青く輝いて現れた。

 更にそこから数度微調整を繰り返し満足したのか、レイフォンはその刀の大きさと自分の剄量に周囲の注目を集めても気にする事もなく素振りを止め本格的に演武を初めてそれに気を集中していた。

 上段からの振りおろしに返す刀で切り上げ。そのまま横に切り裂き刀の重さに振り回されるかの様に身体が動いてもその動きに逆らわずに身体が宙に浮き逆に利用することで刀を振るうたびにそのまま滞空時間が延びていった。
 そして振り回される刀に空気の渦が巻き付き更に威力が増しレイフォンの周囲に結界の様な空気の断層が生れ尚も高く跳びあがっていく。

 最早、設定上刃引きをされていても対汚染獣ならまだしも、対人には意味が無いくらいの威力と動きの速さに他のこの場に居た武芸者は動きを止め注視していたがその目を持ってしても確認が困難になってどこまで威力が上がるのかと皆が思い込んだ頃にレイフォンは唐突に動きを止め、しばらくしてから周囲の緊張も漸く解けてきた。

 パンパン。周囲の空気を他所に拍手をして近寄ってくる男性がその時現れた。

「あなたは?」

 その武芸者として優れた剄と油断の無い笑みから出てくる自信のある姿は女の敵としては遥かに強敵と認識したレイフォンはさりげなくリーリンを庇う位置に立って注視して問いかけた。

「失礼。私はここの都市警察の者でゲルニと申します。巡察に立ち寄ったおかげで良い物を見せてもらいました」

 浅黒い肌に赤い髪、引き締まった長身。武骨な警官として信頼を抱かさせるような如才ない笑顔で続けた。
 都市に入らなくても武芸者の行動は都市警にとっては注意すべきものでこの様な巡察は当然であった。

「その若さで、その動きは素晴らしい。娘が都市に残っていたら勉強の為にも見せてやりたかったくらい惚れぼれしました」

「娘さんは今どちらに?」

 今度はリーリンが危険な単語を聞いた気がしてゲルニに問うと。

「先日学園都市に入学する為に幼馴染達と旅立ってしまって、同じ年頃を見るとつい声を掛けてしまうんですよ」

 娘たちはツェルニに行ったと告げ、ハッハッと笑い声を残しそのまま去っていった。

 そのまま、三日後に次のバスに乗るまでは鍛錬以外する事もなく過ごし、その後特に問題もなく二人は旅立って行った。

 尚、免許皆伝の証の入った箱には、デルクからの都市の外で出て行ったサイハーデンの同門達の事やその秘密の任務を記した手紙が入っていた。それは、かつて女王陛下よりの言葉を補完するものでもあった。


 次の都市

 都市間は移動するがゆえに決められたルートが無く又直通ルートも少なくこの様に中継に他の都市に立ち寄る事も多かった。
 この都市は特筆する様なものが無い平凡な物で、ただ平和な事が長く武芸者の質が低い事が目に着く程度で物価も平凡、繁栄も平凡。何もかも平凡が特徴と言えようか。

「このまま、次はツェルニに到着だし汚染獣にもヨルテム以降には出会わなくて順調で何よりだね」

「入学式に余裕を持てそうだから、安い住宅物件も残っていたら良いわね」

 しっかりしているリーリンは家計を気にしながらも嬉しそうにレイフォン答えたのだが、汚染獣の台詞がフラグとなったのか都市内で突如警報が響き渡った。

「この警報は? 汚染獣の襲撃かな。リーリンじゃあ、シェルターに避難しようか」

 リーリンを促しシェルターへ誘導しようとしたレイフォンだったが、襲撃に慣れたグレンダン市民と違い慌てている彼らはスムーズに退避できずにいて皆青い顔をしていた。その様子を見て疑問に思って内力系活剄による聴力を強化して様子を伺ってみるレイフォン。
 そこでは市民達の不安に満ちた言葉と共に十年以上も襲撃の経験が無い事が判りレイフォンはそのままではリーリンを守れないと判断した。
 汚染獣迎撃を都市の武芸者に任せられないと、本来は部外者は出しゃばらない方が良いが敢えて戦うと決断をした。
 戦闘。殊にリーリンが絡むとその決断は普段と違い果断で自信に満ちている。

「リーリン。僕はこの都市の武芸者の支援に向かうから。どうも、頼りにならない上に、リーリンに付いていくと迎撃に間に合いそうもないから今から行くね。悪いけれど一人で避難してもらうけれど、気を付けてね」

「わたしはグレンダンで慣れているから大丈夫よ。それよりも、レイフォンも気を付けてね、グレンダンと違うのだから油断をしちゃダメよ」

 汚染獣慣れしている二人は周囲の喧騒を他所に落ち付いて会話を交わし、リーリンを一言気遣ってからレイフォンは一般人の目には止まらない速さで移動した。

 剣帯にある三つの錬金鋼のうち一つを取りだして「レストレーション02」起動鍵語をレイフォンを呟くと、その青石錬金鋼が柄だけに変化していた。
 次の瞬間にリーリンの目の前から市庁舎の尖塔に向け飛んでいたのであった。
 実は、青石錬金鋼は柄の先は目に見えない程細い鋼糸が無数に枝分かれしていて、そのうちの一本を尖塔に巻いて引き寄せたのが高速移動の正体であった。そして、剄の流れから都市の武芸者の主力の位置を推定したレイフォンはそのまま一気に飛び込んでいった。


 総数130名程の武芸者達の中で汚染獣との戦闘経験があるのは僅か20名前後の主力から外れた初老に近い者たちだけであって、それでも皆は緊張をしながらも、都市外縁部で念威操者からの情報による汚染獣の接近する方向へ構えていた。
 壮年の武芸者の最高責任者(この都市では単純に司令官と呼ばれている)が緊張で身体を固くしている周囲に対して鼓舞を行なっていた。皆実力は伴わないが心意気だけは一人前だったりする。

「いいか、皆今回の汚染獣との戦いは今年行なわれる戦争の予行演習と思えば恐れる事は無い。落ち付いて普段の実力を出せば汚染獣でも勝てる。全員集中せよ」

 その様な司令官の演説中に突然飛び込んだ少年。

「君、いきなり飛び出してきて危ないではないか。興奮するのは判るが、未熟者は早くシェルターに戻るんだ」

 その少年の発する剄の量には緊張に気が付かずに外観の年齢から、戦闘の興奮で飛び出してきた未熟者と思って後方に並んでした武芸者が声を荒げた。
 知らない事は幸せな事であり、勇気ある発言だったりする。レイフォンの実力を知っていれば到底言えない発言で他の天剣、ルイメイとかサヴァリスとかバーメリンだったら汚染獣の前に彼らが殲滅させられる暴言だと知ったらどうなったか。

「僕の名はレイフォン。グレンダンの武芸者で汚染獣戦の経験があります。協力を行ないますから許可を願います」

「グレンダン……。経験者という事は汚染獣と何度も戦った事があるのか。ならばこちらから協力依頼を願う」

 一般に孤立している都市にとって、他の都市の情報は詳しくは知らないが、グレンダンは武芸が盛んであり、汚染獣戦も多いという事だけは良く知られていた。司令官も当然知っていて現状の経験不足の自都市の武芸者に対し有効な戦力と理解すれば年齢を無視してでも協力依頼は当然だった。
 自分たちの都市の若年武芸者は一部シェルターに退避してが一定の能力を認められた者たちは予備戦力として後方からの負傷者救出を主任務として配置していた。その中でも虚勢を張っているのは少数派で、ほとんどは青い顔をしていたのは当然ではある。

 それでも、自分と同じ年頃の武芸者が前線に立つのを見て、皆なけなしの勇気を発揮し覚悟を決めて一人前の武芸者の顔になったのがレイフォン参戦の一番大きな効果であった。

 そして汚染獣が接触するまであと僅か。



 あとがき

 はい、オリ設定を出しました。
 他の都市と違って汚染獣と毎月以上戦っていたら利用方法も考えているのかなと思い。そして外皮の固さと汚染物質の利用可能な能力。汚染獣の祖先の経歴で希少金属を持っていると設定しました。
 あと、それぐらいの利益が無いと財政破綻が必至かなとグレンダンの特産品も欲しいと考えました。
 原作は汚染物質の除去と本体はポイ捨て何ですけどね。



[24536] 03
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/11/28 10:10
  第三話


 汚染獣に襲われる平和だった都市

 今緊張に襲われている武芸者達が集う都市外縁部。
 慣れない都市外戦闘を行なうと戦闘衣が破れ五分もすれば汚染物質により武芸者といえども、命を落としてしまうのがこの世界の現実。
 その為に彼らは都市にとっては危険でもエアフィルターによって大気を汚染物質から守られている外縁部の空き地で迎撃する事を決断したのである。

「汚染獣は何期の大きさで何時頃接触するか判るか」

 レイフォンの耳元に浮かんでいるタンポポの種の様な念威端子を通して念威操者に問い合わせた回答は。

「すみません、汚染獣の識別は私たちでは不可能です。距離はあと二分で接触します」

 期待外れの回答だが士気の為にも表情を変えずに、巨大な剄羅砲に複数人の射撃系武芸者に剄を込めて射撃準備を行なうように司令官に頼んだ。

「汚染獣。特に雄性体の危険性はその飛行能力です。皆さんまず翅を狙って地面に落とす事を目指して下さい」

 準備を進めているうちに視覚を強化したレイフォンが十メルトル程の二対の翅と複数の足を持つ蛇の様なその姿を念威操者の警告より早く確認し。

「あの大きさと、足の数から雄性体一期だと思います。脱皮を繰り返す度に足が減り飛行に特化していきます。
そして、繁殖を目的とした地面に潜る雌性体で再び昆虫の様な外観と足が復活します。逆に繁殖を捨てた老生体一期で足が完全に失い、その後固有の変化をして奇怪な姿をして油断出来なくなります」

 念威操者へ今後の為にも汚染獣の知識をレクチャーするレイフォン。しかし、次の瞬間には自分たちの都市がいかに優れた目を持っていたか知らされる悲鳴を聞いた。
 彼らの監視体制で擁護すると飛行による移動が主体の雄性体が地下から近づいたのが都市が移動で避けなかったのも念威操者が発見に遅れたのもそれが原因であった。

「後方10キロメルに更に大きな汚染獣を発見。直ぐに来ます」

 悲鳴と同時に最初の汚染獣が襲いかかってきた。慌てて迎撃をするのも今の発言で動揺した射手が剄羅砲を撃ってもほとんどが外れてしまった。

 汚染獣がもっと近づいていたか、あるいは離れていたのならもっと早く発見も出来たのだろうが、それは過ぎた事であり直ぐに頭を切り替えた。何よりレイフォンにとってはこの都市がどうなっても良いがリーリンの危険は見過ごせなかったのだ。ある意味最低の男である。

 あのままでは、都市に突っ込むと判断し鋼糸を汚染獣に巻き付け翅を切り裂こうとしたが、本来の武器である天剣であるか、鋼糸の師であるリンテンスなら天剣でなくても可能であったであろうが、現在のレイフォンは慣れないサファイアを使用するのならば無理だと判断した。

 そこで、レイフォンはそのまま糸を使って汚染獣の背に立ちもう一本のサファイアダイトを復元し右手を柄頭に当て突きを放つサイハーデン刀争術、逆螺子(さかねじ)。左右の手から放たれた剄が別個の流れを生み二重螺旋の剄が切っ先から突きにより穿たれた翅の付け根の内部を貫き内部で解き放たれ衝剄が二重螺旋の回転の輪を広げ汚染獣を外縁部に叩き落とした。

 都市外縁部の大地を震わせ土埃を上げながらも怒りの咆哮を上げる汚染獣。

「たかが、一期の癖に手間を取らせるな」

 刀を左の腰に添えて左手を刀身の根元を握りこんでの抜き打ち。
 左右別々の手から発した衝剄が衝突の火花を発し刀身に炎が生れたサイハーデン流刀争術、焔切り(ほむらぎり)。
 更に一歩踏み込み切り上げた斬線をそのままなぞり、振りおろす焔重ね(ほむらがさね)。
 剄により溜めこまれた圧力を解放され、爆発的な風を起こしその衝撃が甲殻を破壊する。

「止めは皆さんにお願いします。弱っている様に見えても決して単独では攻撃しないで下さい。
 連携して汚染獣の注意を逸らして確実にダメージを重ねるようにして落ち付いて攻撃をすれば倒せます」

 耳元に浮いていた念威端子を通じて他の武芸者に指示を出すレイフォン。そして内力系活剄による旋剄で高速移動を行ない更に都市外縁部ギリギリの所に立った。
 剄羅砲の攻撃から焔重ねまでの僅かな時間でもう一匹の汚染獣が目前に迫ってきていたのだった。

 剄羅砲の攻撃よりも早く再び鋼糸によって汚染獣に張り付くレイフォン。

「この大きさと足の数からは雄性体三期と云ったところです。それなりに強力ですから注意して下さい」

 汚染獣の背に立っていても落ち付いて説明を行なうレイフォンに念威操者と全体の指揮を執る為に発言を聞いていた指揮官はその年齢でどれほどの経験を重ねていたのかと彼自身とグレンダンの凄まじさに畏怖を覚えていた。

 そして、レイフォンが軽々と切り裂いた汚染獣の鱗を年長の都市防衛隊の武芸者は渾身の剄を込めて切りかかっても鱗を切り裂くのが精々で体内まで傷を与えられるのはごく一部だけであった。

「一班はレイフォン君の作った傷口を集中せよ。残りの班は牽制をして注意を惹きつけろ」司令官は冷静に実力差を認識して指示を出していく。

 更に巨大で二対の翅は共通でも第一期の蛇というより、トカゲに形がより似て凶暴な外観をした第三期の汚染獣。幼生体以外は形状はどれも統一されない変化をするのが汚染獣でありそれが余計に何期か判断が困難な理由である。

 その凶暴な外見に怖れもせずに、戦闘になると冷徹な判断を行なえるレイフォンは刀に剄を流し込み、剄が長大な刀を形造る轟剣。
 そのまま、空中にいる汚染獣に轟剣を叩きつけ更に衝剄を内部に浸透させ無数の斬線に変化し破壊していく、霞桜(かすみろう)。

 体内を破壊され苦痛の声を上げ、大地に落ちる汚染獣。
 心臓が傷付いてもその生命力はまだ健在である。天剣による攻撃なら二匹とも既に絶命していたが、錬金鋼の破損を恐れて使える剄に制限が掛かっている現状では一撃必殺は無理であった。

 しかし、レイフォンもそれは承知している事でありその為にも第一期はこの都市の武芸者に任せ、より危険な第三期を単独で戦うという判断を行なったのである。

 八双の構えから切りかかろうとした瞬間にレイフォンは体の向きを変えもう一匹の汚染獣にその場から衝剄を飛ばし(閃断)若き武芸者を狙った汚染獣の尾を断ち切って援護した。この様にリーリンが安全ならそれなりに周囲にも気配りが出来る男がレイフォンである。

 その隙を狙いレイフォンを噛みつく汚染獣。
 噛みつかれたと思った瞬間にレイフォンの身体は掠れたように消えていった。高速移動と気配の欺瞞による陽動技、疾影。

 レイフォンを見失い動きの止まった汚染獣はレイフォンにとっては敵では無かった、再び轟剣を使い首を切り落とし今度こそ確実に倒した。

 その間に飛ぶ事も出来ずに、尾も切断され攻撃手段を失った第一期の汚染獣も残りの武芸者によって時を置かずに退治され戦闘開始から三十分程で終了とグレンダン以外の都市では信じられない短時間で汚染獣戦が終了した。

 その後一般市民にも戦闘終了の報告と共に、重傷者は発生しても死者が出なかったと云う情報が伝えられ都市全体がお祭り騒ぎになっていった。


 お祭り騒ぎの中、本来まだ入国審査中だったリーリン達旅行者も都市内で入る事が出来ていた。
 そして、レイフォンは名前を未公表にしてもらい目立つのを避けてもらってリーリンと一緒に都市の騒ぎを楽しんでいた。
 この時、汚染獣戦の報奨金を犠牲者ゼロの多大な功績を上げた活躍によって割増で受け懐に余裕ができたのも偶の贅沢も良いかと散策をして二人は久しぶりの買い物を行ない、心身のリフレッシュを行なっていたのだ。


 数日後。再び旅立ちの日。

 汚染獣戦の影響も消え、放浪バスも発進の安全を確認した結果ツェルニに向かう事になった。

 放浪バス内で二人が出発を待っていると、慌ただしく一人の少年が入ってきた。
 身長は平均より少し低く、体重は少し重いのでスタイルはそれなりであるというのは説明なくても判る。

 荷物を多く持っていて、発進間際の為に慌てていたせいでバスの通路で転びそうになった処をレイフォンが短距離旋剄で飛び出して支えた。この男はリーリンに被害が及ばなければそれなりに優しいのである。
 そうでなければ、闇試合に参加してまで自分たち以外の孤児院を支援しようなどと考えるわけは無かった。

「大丈夫ですか」躓き下を向いた顔を上げて声を掛けた相手を確認した少年は感謝の声を出そうして、

「モテは滅びよ」

「何それっ?」

 色々台無しな出会いだった。

 更に隣に座るリーリンを見て本格的に呪いそうになるといったドタバタの後、バスが出発してから漸くまともな会話が可能となった。

「へえ~、二人は幼馴染で一緒に留学ですか『どんな新婚旅行かよ』。出身はあのグレンダンでレイフォン君の方は武芸者なら強いんだろうね。
 あっ、おれの名前はエド・ドロン。エドと呼び捨てで良いよ」

「僕もレイフォンと呼び捨てで良いよ」

「私もリーリンで充分よ」

 リーリンの言葉の後にエドにだけ判るような殺気の籠った視線を発し、「モテは滅びるべき」を信条としているエドでも大人しくリーリンさんと警告に従って呼び捨ては止めていた。

「今回の汚染獣戦の影響で一緒に行くはずだった留学仲間は皆辞退したし、おれの両親も今までは何とか認めてくれたのに直前になって危険だからと言って反対して、説得に手間取って乗車にギリギリだったんだ」

「ふーん。大変だったんだね」

「まあね。それでもどうしても一度は外の世界を見たかったから必死に説得したさ。
 二人はなんでこんな遠くの学園で学ぼうと思ったんだ」

「レイフォンは常識と集団戦や指揮官としての戦い方を学ぶ為の留学で、合格したのは遠いツェルニしか無かったの、私はレイフォンが学業不振で落第しないようにする為の監視役と云った所よ」

 三人が普通の会話を始められる様になってから、エドは女性とこうして会話できるのは幼い時以来で秘かに「おれは今モーレツに感動している」状態だったりする。

「そう言えば、おれの両親は武芸者とも親しくてオフレコ話を一緒に聞いたけれど、本来なら武芸者の部隊が半減か全滅しても不思議でなかったけれど、旅行中のグレンダンの武芸者の応援で死者ゼロの完勝だったと言っていたな。同じグレンダン出身ならその活躍した人の名前を知っているか?」

 エドの言葉に指で顎を掻いて上目使いに照れているレイフォンを見てエドは思わず「お前かーっ」と大声を出そうとする所を慌てて口をふさぎ黙ってもらえる様に頼み込んでいた。

「何で隠すんだ。顔もスタイルも良くて、武芸者として一流。モテモテじゃないか『何だかトッテモチクショー』。勿体ない」

「イヤ、僕は普通の一般的な武芸者になりたいんだ。だから、余り目立つ行動は避けたいと思っているんだよ」

「それにレイフォンは今までが強すぎて故郷では単独戦闘が多すぎるから、武芸者としての常識や集団戦闘に疎くなったね。
 それで陛下に都市外で修行せよと命じられたの。だから普通の学生として皆に見てもらって欲しいの」

 二人の説明を聞いても、エドはどうせ直ぐに悪目立ちして注目されるんだろうなと思ったが、新しくできた友人の為を思って黙っていた(既にトップに知られている事は三人とも知らなかった)。

「そう言った目的で留学か。おれは今までは、都市の外を見るのが目的で何を学びたいかは考えていなかったけれど、今回の戦闘で少し考えて錬金鋼か武器。又はもう少し範囲を広げて錬金術を学ぼうとおれは思っているんだ」

「レイフォンは先に言った様に武芸者としてレベルアップだけど、わたしはお養父さんを助ける為に孤児院の経営に役立つような経営学や経済学を学ぼうと思っているの」

 そんな事を話しながら、彼らは外の世界の脅威を感じつつ初めての生れ故郷以外の友人を乗せたバスは移動していった。

 エドは時々興奮しておかしなことを口走るが、基本的には善人であり故郷の人たちと違いレイフォンを必要以上に恐れずに同年代の友人と接してくれるのが二人には新鮮であって移動の時間も気にならずにすぎ去っていった。

 こうして、都市の尖塔にペンと少女からなる紋章を持つ旗を揚げる自律型移動都市(レギオス)に接触した。

「ツェルニ」

 誰かが旗を見て呟いたその名こそがレイフォン達の長い旅の目的地、学園都市ツェルニであった。
 このバスの新入生はレイフォン達三人だけであるが毎年一万人を受け入れ、卒業していく六年制の若人だけで運営されている学びの都市に到着した瞬間であった。


  あとがき

 初の戦闘シーンはどうでしょうか? 皆さん上手に描けて羨ましい。跳んだ、切った、勝ったで終わってしまいました。 

 友だちの少ないレイフォン君の為にエド君登場。どこかにエド君の出身都市の情報を知っている人がいたら教えて下さい。



[24536] 04
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/11/30 20:01
  第四話


 学園都市ツェルニ。

 三人がこの都市の住人、生徒になってまず行なった事は住居の確保であった。
 男衆二人はまず不案内な新規学生に用意された安価な寮である第一男子寮に運よく入室が出来、特に二人部屋なのに同居人が居なくて初めての一人部屋になったレイフォンは感激していた。
 リーリンの方はもっと慎重に物件を調べ校舎や一般居住区からは離れていても建物そのものは立派で家賃は色々と不便という事でお手頃な女子寮を見つけて、そこに決定した。
 レイフォンは女の子がその様な場所に住んで治安上大丈夫かと気にしたが、寮の先輩に武芸者もいる事で安全であるし学園都市は治安も良いとリーリンに説得され文句を言うのを止めていた。
 そして、数日でリーリンは寮の台所の主導権を握り君臨するようになっていた。その為に朝が弱い寮生一同、今まで襲ってきた寮長による地獄の目覚ましが無くなり感謝感激。

 男衆の方は別個に食事を準備するようになっており、一人暮らしになったレイフォンも園の時代と違い料理をするのも減っていて外食や弁当が増えていくようになり後にリーリンに注意を受けていた。

 レイフォンもリーリンも二人とも、武芸科、一般教養科で奨学金ランクAを受け学費免除であり、判決後の汚染獣との戦闘報奨金とリーリンのアルバイト費用を生活費として貯めていたので王室からの学費援助としての一時金と合わせて六年間の生活は最低限出来たが、それでも最低限の為にここでも新たなアルバイトを探すことにしていた。
 グレンダンの福祉予算の増大によってレイフォンも武芸者奨励金だけを園に渡して、一緒に学園に来るリーリンの生活が困らないように報奨金は蓄えたけれどもまだ不足気味だったのがレイフォンにとっては悔いのあった準備期間であった(受験勉強に手間取り過ぎだったからよ byアルシェイラ)。

 アルバイトは決まったが、正式採用は入学式までは決まらないと云う事であと何日かはのんびりすることになるはずだった。


 時を戻してここは生徒会室。

 生徒会長のカリアン・ロス。生徒会長として君臨し三年目になるこの都市の最高権力者。
 今彼の前に二人の男性が立っていた。どちらも巨漢であり生真面目な雰囲気を持つ武芸者である。

「昨日、グレンダンからレイフォン・アルセイフ君が無事ツェルニに到着して入学手続きを終えたよ。
 それで、彼を小隊員。新設の第十七小隊に入ってもらおうと思うんだが、同じ都市出身のゴルネオ君の意見をまず聞いてみたいと思って呼んでみた」

 眼鏡の奥から一般人で在りながらも武芸者に負けない鋭い視線で二人のうち、やや背が低いそれでも二メルトル近い巨漢で銀髪を短く刈り込んだ男性に問いかけていた。

「会長は彼の事を知っているのですか」

「五年前にここに来る途中でグレンダンに立ち寄って公式戦で彼の戦った姿を見た。天才と言うのは彼の様な者を言うんだろうね。『だからこそ、学力で規定に達していなくてもAランクの奨学金で受け入れたのだよ』」

 小さな体で大の大人を巨大な剣で倒す姿は圧巻だったと呟くカリアン。
 なるほど、会長はあの天剣授受者の選定試合を見たのかと納得し、そして故郷から届いた三通の手紙のうち最も厄介な兄の手紙を思い出し会長に躊躇いながらも話しかけていた。

「ああ~、会長。実は故郷からの命令もあって一つ決闘を彼としなくてはいけないのでその許可とヴァンゼ武芸長も立ち会ってもらえれば実力は判ると思います。
 個人の戦闘能力はそれで納得出来ると思います。ただし、彼は集団戦の能力は低くそれを学びに来た事をお忘れないように」

「うむ。正当な理由があれば許可を出すが、武芸長は問題ないかね」

「新学期に向けて現在は野戦グラウンドが空いているから問題はないだろう」

「それで、安全装置を切って刃引きを解除した状態で目立たないように夜間に戦いたいのです」

 ゴルネオの発言に二人の目は細められ理由を問い質すのに対しての回答は、兄からの本当の実力を手加減抜きでレイフォンに判定してもらい低かったら抹殺するというトンでも内容に返す言葉も無かった。

 本来決闘とは学園都市連盟で定められた安全規定の合格した武器の使用と定められていて、その上でなら決闘を断るのは武芸者の恥と言われるのだが、グレンダンの天剣事に戦闘狂にその様な常識が通用するわけが無かった。

 認められないという返答にそのままでは卒業後に殺されると言って無理矢理に会長たちに納得してもらって例外的な決闘を行なう事の許可を取るといった最初の話から目的が変わっていた形で終わってゴルネオは退席していった。

 ゴルネオ・ルッケンスの内心は複雑だった。レイフォンには実の兄よりもルッケンスの技を直接師事され親しかった兄弟子のガハルドの天剣授受者の選定挑戦の試合内容を知ってわだかまりは無いとは言えなかった。
 拳士として侮辱された気分になった物だった。
 それでも、グレンダンから女王からの手紙によって世間知らずのレイフォンのフォローを行なうように勅命を受けた為に真面目な彼は個人的感情を抑えて助ける気にはなっていた。
 何よりもその様な行為を行なってまでも作った金の使い道を知っては尚更であった。

 更に同時に届いた手紙を続けて読むと、ガハルドの自己弁護の手紙に違和感を覚え兄からのいつもの軽い調子の説明(所詮弱者の癖に脅迫した卑怯者の末路等)で納得した上でガハルドへの同情と共にその行動には同意出来なかったし、レイフォンの行動を許せる気持ちになっていた。

 そして兄からの命令を読んだ時の絶望感。兄のサヴァリス・クォルラフィン・ルッケンス。ルッケンス初代以来二人目の天剣授受者で戦闘以外に価値観を認めないイキモノ。
 ゴルネオは、その様な存在にかつて逃げるかの様にツェルニに行く時の条件。グレンダンとルッケンスの名を辱しめない為にも実力を確認するから戦えと、公式戦のポイントが不足していても関係なく幼生体及び雄性体一期と単独で戦わされた過去の再現が待っているとは想像もしていなかった。

 そして再び腕が錆びていないのか確認の為に今度は老生体以上に危険な天剣と戦わされる己が不運に泣いていた。

「カリアン。ゴルネオはまともだと思っていたが、それでも非常識にしか見えない様な命令を出すグレンダンの武芸者を重用して大丈夫なのか」

 先に退席したゴルネオの姿が消えた事を確認してから学園の武芸者の頂点である武芸長ヴァンゼ・ハルディは己の責任感からカリアンに問い質していた。

「いや、僕もアルセイフ君の試合を見ただけで性格までは確認できなかったけれど強すぎる武芸者は皆ああなる物なのか?」

「……そんな筈はないだろ」

 質問に質問で返したカリアンに対しため息混じりに返答した後二人は決闘の後で性格の確認をする事を決めて解散となった。


 こうして、住居が決まりリーリンと都市の施設を探索する予定を潰され殺る気満々のレイフォンが夕方の野戦グランドに現れてきた。リーリンとの約束を優先するレイフォンは例え天剣サヴァリスの依頼であっても機嫌が直るわけが無かった(ゴルネオに合掌)。

 手甲と脚甲を紅玉錬金鋼(ルビーダイト)で装備し覚悟を決めたゴルネオ。対してレイフォンは剄技よりも刀技を優先する為に最近使用をしているサファイアダイトではなく鋼鉄錬金鋼(アイアンダイト)の刀。サイハーデンの免許皆伝の証を持って来ていた。

 いかに怒っていてもサファイアの鋼糸で瞬殺するほどでは無く理性が残っていた事に見学者は感謝すべきであった。人体分割といった残虐シーンを見ずに済んだという意味で。

 この時野戦グラウンドにいたのは秘密を守る為に当事者の二人の他にはゴルネオの錬金鋼の安全装置を解除する為に彼の小隊の武器の調製担当者と立会人の武芸長兼第一小隊長のヴァンゼ。そして、生徒会長のカリアンの三名だけであった。

「それでは、武芸者として正々堂々と戦い、勝敗に関係なく遺恨を残さないように」

 ヴァンゼの開始の合図と共に二人は錬金鋼を復元し、剄を高めていった。

 それを見て、ヴァンゼは一般人であるカリアンと武器調製者のいる観客席まで下がり解説と危険と判断したら止めようと自身の武器の棍を復元していた。

 ゴルネオは化錬剄という普通の武芸者ではあまり使わない直接打撃より剄の効果を変化させる技の使い手であった。
 それ故に安全装置による剄の流れの低下に影響が大きく、完全な状態での剄の流れを感じたヴァンゼは思わずこれほどの力を持っているのかと感心のため息を吐いていた。

 ルビーダイトの紅い光とアイアンダイトの透明な刀身から放つ白い光が剄の高まりと共に更に激しく輝いていた。
 それはゴルネオの同僚であるヴァンゼも会長であるカリアンも見た事もない輝きでこれが安全装置を解除する理由か。と納得しかけた時に両者が動いた。

 ゴルネオの右手が巨大化したかのような化錬剄の拳のストレートがレイフォンを襲う。それを内力系活剄の変化旋剄で強化された脚力による横方向の退避に対しその動きを読んだかのような左フック。これも同じく化錬剄によって巨大化された拳であった。

 だがそれすらも上回る速度でゴルネオの横へと移動していってそのまま単純な切りおろしを仕掛けるレイフォン。
 フックの反動で身体を動かし斬撃を避けると共に、斬撃時に放たれた衝剄の圧力をも利用して距離を取りそのまま拳を放つゴルネオ。

 この拳も外される事を予想し外れた剄を地面に打ち付け土埃を煙幕に利用しようしたが、これは悪手であった。

 他人の剄の流れからどのような技を使うか読みとれるレイフォンは少々の土埃位では剄の流れによる気配を容易に感じ取れてしまい、気配を誤魔化す術を持っていない限り相手の方が不利になってしまうのであった。
 結果、先にレイフォンがゴルネオの位置と姿勢を読みとり、死角への侵入を果たし抜き打ちの体勢になっていた。

 実際ならば、そのまま両断されて終了となるのを殺剄をわざと緩めゴルネオに気が付かさせて退避行動を取らせていた。
 一応実力の検分を行なうという目的は忘れていないようだった。

 抜き打ちの速度も下げて薄皮一枚切り裂くだけに手加減したレイフォンが様子を見ると、ゴルネオの目には闘志が衰えずに輝き動きも痛みや恐怖で鈍っていないのを確認し剄技の威力と合わせて最低限合格かなと判断し更に動きを早めていった。

 徐々にレイフォンの動きに追い付かず全身に傷を負っても剄を高めていたゴルネオは一瞬の隙を見つけ蹴りを放った。
 ルッケンスの剄技・疾風迅雷の型。連続した回転蹴り。回し蹴りから後ろ回し蹴り、続けての回し蹴りと多様な蹴りを放ち周囲には風が渦を巻き真空の刃が蹴りとは違う向きからレイフォンを襲っていく。

「これは……。安全装置付きでは確かに使えない剄技だな」

 一連の技の応酬を見たヴァンゼは呟き、立ち会いという立場を忘れて魅入っていった。

 その様な猛攻もレイフォンは躱しあるいは刀からの放った衝剄による相殺で身体に傷一つ付ける事も出来ない程の圧倒的実力差に気が付いているのは攻撃を行なっているゴルネオとヴァンゼだけで一般人のカリアンとダイトメカニックはそこまで理解していなかった。

 そして、最後の蹴りで纏った風を同時に開放し真空の刃としてレイフォンに襲ってくる。外力系衝剄の化錬剄変化、風烈剄。
 対して行なったのは、外力系衝剄の変化、円礫。レイフォンを中心に衝剄が発生し真空の刃を押しつぶし更にゴルネオを吹き飛ばしていった。

 もう頃合いかと思い、終了させようと判断したレイフォンがまず右手を傷付けずに手甲を破壊した。サイハーデン流刀争術、蝕壊。武器破壊術である。
 更に抵抗しようと蹴りを放った右足の脚甲も斬り飛ばそうとした時。

「ゴルを虐めるなーっ!! 炎剄将弾閃ーん」

 甲高い少女の声がしたかと思うと上空から炎の塊がレイフォン目指して襲ってきた。

 しかし、技を放つ為の剄の高まりで気配を既に感じ取り、声を聞く前から警戒をしていたレイフォンには通用しなかった。
 事、戦闘に関しては普段の気の抜けた笑顔からは想像も出来ない程に辛辣とも言えるほどの判断を行なえるのがレイフォンである。

 左手の指の間に剄を凝縮して針のようにしてゴルネオの四肢を貫き(九乃くない)、動きを封じてから上空にいまだに居る少女に向かい、『子供?』赤毛の小柄な姿を確認した時の疑問をそのままに技を躊躇いなく発動。

 刀身を振り上げそのまま衝剄が空気の渦となって少女を巻き込み回転と衝撃により気を失わせた。
「シャンテ」ゴルネオは一言叫び動けない筈の身体を少女、シャンテとレイフォンの間に入れ庇って見せた。

 彼女。シャンテ・ライテは夜の街を何時もに様に移動している時に見覚えのあるゴルネオの剄を感じ取り、近寄って決闘の様子からそのまま助けようと介入したのであって事情はまったく知らなかったのである。

「会長。学園は数えで十五歳以上の筈なのになぜこんな子供がいるのですかーっ?」

 ゴルネオを汚物を見る様な眼で見ていたレイフォンはカリアンにこう問い質して、その返答は。

「いや、そう見えても彼女はルッケンス君と同じ年齢の今年五年生だ」

 カリアンの返答に更に視線を冷たくして。

「そうですか、すると彼女を騙して内力系活剄で成長を止めさせたという事ですね。武力は技や剄量で雄性体二期を一週間も掛ければ倒せると思えるから合格と報告しますが、その性癖は自分で報告して下さい」

「誤解だ彼女の成長が遅いのにはおれは関係していない。それにシャンテとは何の関係も持っていないただの腐れ縁だ」

「ふーん、まあそういう事にしておきましょう。それでは、今日はこれで終了と言う事で。あと、神経や剄路を外している筈ですけど一応医者に診て下さい」

 最後は色々と誤解が生まれた様だがそれでも大怪我もなくレイフォンも不必要に怪我をさせる性格では無いと確認も出来た。
 ゴルネオもレイフォンの乱れの無い太刀筋から気質の純粋さを感じ取り見直したのだが、最後のシャンテの乱入により誤解を受けたのが気がかりであった。

「あっ」カリアンの呟きにヴァンゼはどうしたと目を向けると「彼に小隊加入の話を忘れていた」と答えた。
 彼も今回の強烈な決闘に普段の対応が出来なかったようだ。


  あとがき

 実際三巻まではゴルネオ君は存在していないんですよね。一、二巻でもグレンダン出身は去年の途中退学者だけで彼の名は出てきませんから。
 ルッケンスの人間なら幼生体の時にもう少し活躍して名前も出ていたはず。
 という事で、ここのゴルネオ君は留学の条件としてサヴァリスさんに汚染獣の前に投げ出されました。

 16巻のクララ戦には到底及びませんがそれでもゴルネオ君は強いのですと言っておく。(あれは反則ですよ雨木センセイ)



[24536] 05
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/08 20:30
  第五話
  第五話


 ツェルニ大講堂

 決闘という名のルッケンスへの査定というか最後はドタバタがあってから三日後。
 寮の部屋の必要品をバザー等を使い格安に揃えていった。こういった節約はレイフォンやリーリンが得意で、エドは彼らのアドバイスを受けて同じような節約が出来て喜んでいた。その様な転居の慌ただしさが終わったのを待っていたかのように入学式が始まった。

 大講堂の近くの路面電車の停留所でリーリンと待ち合わせた男二人は入学式の会場に向かう生徒たちを見ていた。

 自分たちと同様に新品の制服を着なれない様子の新入生。三年から一般教養から専門課程に変った一般生徒は今年三年と四年以降での白衣の着こなしや汚れが違い彼らでも直ぐに区別が付いた。又は普段は作業着などでかえって制服を着なれない様子の上級生とか。
 そして、一年から別の制服で一般教養以外にも武芸を修める様に区分されている武芸科は二年から既に毅然とした姿勢で歩いていた。

 その様な生徒たちから視線を外し、次に横に立つレイフォンを睨むように見たエドは。

「一般教養科と違って、武芸科は制服からしてデザインが違って格好良くて羨ましいな」

「格好良いかは判らないけれど動きやすいのは確かだね」

 モテは滅びろという心の叫びを封印してレイフォンに話しかけると、ノホホンと回答があった。
 よく見るとレイフォンは武芸の達人らしく姿勢が良く、見る人が見れば正中線がぶれずに歩く様子で実力が判るのだが、現在の弛緩した様子の目や表情そしてのんびりした雰囲気で知らない人が見たらとても達人に見えないし、女の子の注目も浴びないだろうとエドも納得して心の平穏を取り戻していた。

 リーリンと合流し大講堂へ向かう三人。事前の連絡で三人とも同じクラスと判っていた(一般教養課程は全科共通でより多くの交流という事で一般教養毎でのクラス分けであった)のでそのまま一緒に歩いていた。

 大講堂では案内書にあったアルファベット順のナンバーの配置の為に三人はバラバラになって場所を探そうとした時に騒ぎが起き、幾人かが転ぶという事故が起きた。

 どうも、対立している二つの都市出身者の武芸者が舌戦を行なっており、レイフォンの目前で活剄を始めて実力行使に行なうかという状態だった。そこでレイフォンが剄を込めた殺気を叩きつけて二人を威圧して大きな騒ぎになる前に騒動を潰してしまう。
 リーリンに何が有ったらどうするんだという意味を込めた殺気であった。あくまでもレイフォンの思考はリーリン第一であってまずはリーリンの安全を確認していて近くで転んだ女生徒には注意が向いていなかった。
 そんなレイフォンの思考に既に慣れているエドは苦笑しながら転んで立つ事が出来ない女生徒に手を差し出していた。この男もリーリンとの会話で漸く女性と話しても緊張をしなくなっているのであった。

 折角のチャンスでは在ったけれど、人見知りする性格なのか顔を真っ赤にして小さな声でお礼を言った後に友人らしい二人の女生徒の許に走って行ってエドは伸ばした手をそのままに置き去りになっていた。

 その時に小さく「メイっち」と彼女の名前が呼ばれていた様な気をエドはしたが確かめる術はなかった。

 そして、そのまま周囲の生徒全員が順不同のままで入学式が始まった。

 生徒会長のカリアン・ロスの登場時の銀髪、眼鏡の奥の銀色の瞳に知的な美貌を見た周囲の女生徒の反応にまたもやエドが呪いの言葉を発しそうになっていたのは何時もの事かとレイフォンはスルースキルを覚えた。

 武芸長のヴァンゼ・ハルディは挨拶の壇上で武芸科の新入生を見て列の乱れや姿勢の悪さを確認するとレベルの低さを認識し表情には出さなかったが失望し、今年や卒業後の都市対抗戦の苦戦を思い描いていた。

 無事とは言い難がたい入学式が終了し、レイフォン達新入生は各教室に集結し新たなクラスメイトとの交流が始まる時に教室に肩に赤毛の少女を乗せた巨漢の先輩武芸者がやってきた。
 そして、そのままレイフォンを生徒会長室に呼び出してきて、そのまま一人教室を出て行き二人に付いていった姿をクラスメイトの皆は見て早くも注目を浴び出していた。

 先日の一件で肩の上のシャンテは猫の様に警戒をしていてレイフォンを睨み、レイフォンはゴルネオの先日の言葉を信用せずに今でも胡乱な眼付きで見ていた。

「一応は手合わせの件だけしか手紙に書いていませんから安心して下さい」

「だから、誤解だっ」

「前は油断しただけだからなっ、今度は勝つから待っていろ」

「シャンテ、あれは同意の上の腕試しだから遺恨は無い。前も言った様に兄貴の無茶な指示が原因だからレイフォンの責任ではない。だから恨む事ではない。それからレイフォン、おれは正常だ誤解するな」

 色々噛み合っていない会話をしているうちに生徒会長室の前について、ゴルネオの扉のノックに返事が返ってきて三人は生徒会長室に入室した。

 部屋の中には机に手を置いている生徒会長とその横に立っている武芸長が居た。

「失礼します」

 挨拶のあと教室で待っているリーリンに早く会いたいレイフォンは単刀直入に用件を問い質し、それに対し本心を表さぬ笑みを零したまま依頼を告げた。

「アルセイフ君。君には小隊員になってほしい。学園都市対抗戦を知っているよね?」

 首を振り否定するレイフォンに更にカリアンは説明を続けた。

「簡単に言えば、二年ごとに訪れる、アレだよ」

 そう言われてもレイフォンには推測は出来なかった。

「都市の習性として同類にしか縄張り争いしか行なわず、学園都市の場合は学園都市対抗戦と呼ばれ、学園都市同盟の監督の許に非殺傷を目指して健全な戦いとは言っているが結局は標準都市の戦争と同じだ。戦争の勝敗によって与えられ、失う物は変わりない」

「都市の命…… セルニウム鉱山ですか」

 判るかね?とカリアンの視線にレイフォンは躊躇いながらも答えた。
 基本的にはグレンダンは他の都市との戦争は滅多に行われずレイフォンの意識からも二年ごとと言われても良く判らなかったのである。

 セルニウム鉱山。大地の汚染が始ってから産まれた金属でレギオスの動力源となっている。大地を掘ればどこにでもあるが、動力源として使える純度の高い物はそれなりの鉱山が必要となっている。
 そして、その鉱山を二年毎の戦争の勝敗によって移譲されるのがこの世界のルールであった。

「そうだ。そしてツェルニが所有している鉱山は私が入学した当初は三つだった。それが今ではたった一つだよ」

「つまり、次に負ければ後はないと?」

 カリアンの嘆息のあと、レイフォンが確認すると共に、ゴルネオに対しグレンダンのそれもルッケンスの名を持つ者が何を行なっていたのかと睨んでいた。

「対抗戦は相手都市の尖塔にある旗の奪い合いが基本の集団戦だ。グレンダンの様に入口を封鎖してその間に相手都市の武芸者を全滅させる戦いとは違うし、刃引きされた武器や麻痺弾しかないんだ。戦術が重要になる事を理解してほしい。もちろんヴォルフシュテイン卿位の戦闘能力なら別だが」

 レイフォンの視線に思わず冷や汗を流しながら言い訳をするゴルネオ。そしてカリアンの説明のあとをヴァンゼが続け。

「小隊とは、学園都市対抗戦では学内の武芸者の中枢として彼らを指揮下に置いたり、少数の潜入部隊といった特殊部隊といった学園でのエリートである。そういった戦いの時は全力を出して欲しいが、普段行なわれる、先日戦った野戦グラウンドでの小隊同士での学内対抗試合では力を抑えて欲しい」

「つまり、アルセイフ君に頼り切ってしまう事に私は恐れているのだよ。強くて目標になってくれれば良いけれど自分たちが不要と感じてしまうとアルセイフ君の卒業後に又滅亡の危機がやってくるし、先ほどのゴルネオ君が言った様に個人だけでは対処しきれない事態もあるだろう」

 だから、先日のゴルネオ君より少し強い位、二人掛かりで勝てるかどうかに抑えて欲しいというカリアンの発言に今度はシャンテがゴルは弱くないと言い出したりして若干の混乱もあったが。

「まあ、どちらにせよ錬金鋼が剄に耐えられないから手加減はしますがゴルネオ先輩位の動きで刀技を合わせるのも、後で過去の試合を見せてもらえれば何とかなると思います。
 他に出来たら個人用の鍛錬場として、あの時の二人の発生した剄にも充分余裕のある強度の建物が欲しいです。普通の道場ではグレンダンでも壁が壊れそうになるし、騒音で苦情が来ていましたから、専用の道場をお願いします」

「……あの時に居た、ゴルネオ君の第五小隊のメカニックが色々測定していたから、錬金科、建築科と協力してもらおう、それまでは暫くは我慢してもらうが、野戦グラウンドの夜間使用を優先出来るよう手配しておこう」

 レイフォンの要求にその規格外れ振りをカリアンも実感し言葉を詰まらせたが快諾して、後で小隊を紹介するから今日は解散という事になり生徒会長室には再び二人になった。

「お前、第十七小隊の設立を認めたのはこの為だったのか。それにしても錬金鋼が剄に耐えられずに壊れるとはどんな力を持っているのだ」

「ふむ、都市を守るのに手段を選べないからね。それに、グレンダンで滞在した時の話ではアルセイフ君位の武芸者は基本的には一人で汚染獣と戦うらしい。だから、万が一アルセイフ君の力に振り回されて潰れてしまっても被害は最小に抑えたい」

 冷徹な政治家の目で返事をした後、インターフォンで第十七小隊隊長、ニーナ・アントークの呼び出しを行なった。


 教室に戻ったレイフォンを待っていたのはリーリン達だけではなく、彼女たちと会話をしている三人の少女も一緒にいたが他の生徒たちのほとんどは既に帰宅していた。
 レイフォンを確認したリーリンはパッと笑顔に変わり、秘かに彼女たちを見ていた残っていた男たちは新たな敵出現かと視線を向けた先で武芸科の制服にそれなりの顔といった事を確認して何人かは直ぐに諦めていた。

 一方エドは四人ものタイプの異なる美少女に囲まれても周囲の男からの敵意ある視線が刺さって気が休めなかったのがレイフォンに向かいホッとしていた。こんなヘタレでは彼女いない歴=年齢も当たり前か。
 今日の学校での行事は既に終了していたので、六人はそのまま校舎近くの喫茶店へと向かった。

 入学式の後の教室への移動、更にそこから校舎の離れた生徒会長室への往復と時間がかかってしまってランチタイムが過ぎていたがそれなりに安価で美味しい食事にありつけていた。

 そこでの自己紹介で長身の赤毛で浅黒い肌の少女がナルキ・ゲルニ、通称ナッキ。武芸者である。
 栗色の髪をツインテールにして活発な印象の少女がミィフィ・ロッテン、通称ミィ。
 最後に黒髪を肩を越えた長さの大人しげな少女がメイシェン・トリンデン。通称メイっち。そして、入学式の時に倒れていた少女である。
 後の、二人は一般教養科である。

 リーリンからの要領を得た説明で三人の名前などを知りそして三人とも来る途中で寄った交通都市ヨルテムの出身という事も聞いていた。
 そして、ナッキはあの時の警官の娘であることもリーリン達の会話の時に判明していた。
 食事中思わず噴き出しそうになったのは、リーリンはリンちゃん、エドをエッドンと名付けレイフォンをレイとんと呼ぶ事にレイフォンが来る前に五人の会話で決まっていた事である。メイシュンだけは何故かエドをエド君と呼んでいたけれど。
 この様な愛称を付けるのをミィフィが好んでいるらしい。

 食後のデザート(レイフォンだけはジュースだが)の時にそれぞれの思い出や将来の夢を語っている時に。

「あの……すいません」

 不意に声がかかった。
 声の主は腰まで届きそうな白銀の髪。色素が抜けたような白い肌。伏し目がちな銀の瞳。人形のようにきれいな、それでいて確かに生きている人間としての存在感のある美少女であった。
 思わず、全員が息を呑み声が出なかった。

「これは先輩、なにかご用でしょうか?」

 最初に武芸科の制服を着ている事に気づき声を掛けたのはナルキであった。
 その声にレイフォンも彼女の腰の剣帯のラインの色が自分たちとは違いそして、細い棒状の物を吊り下げられている事に気が付いた。

「レイフォン・アルセイフさんは、あなたですね?」

 レイフォンを確認しその人形のような容姿と異なり有無を言わせぬ雰囲気の中に言葉を放ち。

「用があります。一緒に来ていただきますか?」

 疑問形だが、確実な命令であり逆らう事も出来ずにレイフォンは食事の代金を置いてリーリン以外の命令を珍しく素直に聞いて喫茶店の外に向かう少女の後に続いていった。

「な、なにがなんだったの?」

 我に返ったミィフィがそう呟く。
 グレンダンでの実力と生徒会長に今日呼ばれた事を合わせて考えてリーリンはある程度事情を推測して。

「うーん、抜擢?」

「先輩の胸ポケットのところにバッジを付けてたろ?」

 リーリンの言葉に続きナルキがミィフィに説明を引き継いでいく。

「十七と数字のあった銀色の丸いバッジだが、あれは武芸科の中でも小隊所属者に与えられる特別なバッジなのさ」

 武芸科らしく、情報通のミィフィやリーリンよりもナルキの方が情報が詳しく説明を続ける。

「武芸科の中でも幹部候補で、スキルマスターという意味合いもあるけど。
 で、小隊に所属するという事は何がしかの能力で突出している事を証明しなくてはいけなく、小隊対抗戦で常に査定を受ける、それが学内対抗戦。そこで、成績が悪ければ最悪小隊は解散。プライドの高い武人には幹部候補生から一般生徒に逆戻りは転落と言われてなかなか耐えられるわけがない。ハードな学生生活になるということ」

 ナルキはその後、学内対抗戦、都市対抗戦などの説明を生徒会長がレイフォンに行なったのと同じような内容で説明していた。
 説明中に意外と女性武芸者が多いと聞くとリーリンの目が据わって「十七という事は、十七小隊という意味よね」と呟き小隊の集合場所に様子を見に行くわよと立ち上がった。

 その様子に三人娘は思わずエドにリーリンはこんなに嫉妬深いのか?と聞いて。エドも放浪バスからの付き合いだけど始めて見たと答えていた。

 まだまだ波乱万丈な一日は終わらない。



  あとがき

 メイフラグ消滅。リーリンに危害の恐れがあれば芽のうちに潰すレイフォン。おかげで、入学式が行われました。
 ゴルネオとの決闘で性癖への疑惑目線や無駄な怪我をさせなかったから、性格はOKと会長たちは判断しました。

 16巻ではレイフォンの鍛錬方法が始めて出たけれど剄技の発動が不要ってどれだけ天才なんですかと言いたい。



[24536] 06
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/03 19:30
  第六話


 錬武館。第十七小隊区域。

 美少女に連れられて(決して釣られてではない。リーリン以外は気にしない男だから)、やってきたのは一年生校舎より奥まった場所にある少し古びた会館であった。
 その中の教室二つ分の大きさに区切られた部屋で、ショートカットの金髪をした怖い表情の美少女の前にレイフォンは立たされていた。

「わたしは、ニーナ・アントーク。この第十七小隊の隊長を務めている三年生だ。レイフォン・アルセイフ。貴様は生徒会長より小隊員の推薦を受けている。
 しかし、会長の推薦といってもまずは貴様の実力とポジションを確認する為に試験を行なう。さあ武器を取れ。
 それから、武芸者を志す者が小隊在籍の栄誉を辞退するような軟弱な行為は認めないし、試験の手抜きも認めない」

 え~と、と戸惑い周囲を見ると案内をした少女は部屋の隅にいって我関せずと座っており、他に種類が不明な薬品で斑に汚れたツナギを着た少年が苦笑を浮かべるだけだった。
 最後に寝転がっていた長身の男がレイフォンの許にやってきた。背中に伸ばした金髪を一つにまとめ、軽薄そうな眦のたれた目が笑っていた。

「俺の名はシャーニッド・エリプトン。四年生だ。ここでは狙撃兵を担当している。
 もう判ったと思うが、隊長は熱血だから面倒と思っても付きあってやってくれ」

「面倒とは何だ。貴様はこの小隊では最年長という事をもっと自覚して訓練も真面目に出ないか」

 うへ、やぶ蛇と小声で呟き頑張れと肩を軽くたたいてシャーニッドは元の席に戻っていった。

「さあレイフォン。壁にある武器から好きなのを選ぶがよい」

 まあ、会長の依頼もあったし、ここのレベルを確認する為にも試合は必要かと納得し武器を選ぶ為に壁に近づいた。
 暫く悩んで、自分に合う刀もないことから天剣時代に使っていたのと同じような大剣を手に取り数回素振りを行ない、やや重いので身体が流されても問題は無いかとそれに決めた。

「君の体格だと、バランスが悪いと思うけれど。簡易模擬剣だからパラメータの変更は出来ないよ」

 ツナギのの少年が声を掛けたが、レイフォンは黙って頷き問題なしとしたが、それでも少年は不服そうだった。

「ハーレイ。本人が良いと言っているんだ黙ってやらせな。ニーナ隊長も待ちくたびれているし爆発するぞ」

 シャーニッドの軽薄な発言がそれ以上の文句を止めさせた。

「よし、準備は良いな。それでは始めるぞ」

 ニーナは両手の錬金鋼を復元させ構えた。その艶消しの黒い重量感のあるのは、黒鉄錬金鋼(クロムダイト)の鉄鞭であった。
 都市警の使用する小柄な鉄鞭と違い重たい大型を二本も自在に扱うという事は内力系活剄が優れている証であって油断はできないなとレイフォンは判断を下した。
 それにしても、鉄鞭か。やはり学園都市は小隊対抗戦といい、対人戦を重視して汚染獣戦は軽視かな?これではゴルネオ先輩も苦労したのも無理ないか。などと余計な事を考えていた隙をついてニーナは一挙に踏み込み打ち込んできた。
 彼女の性格を表すかのような迷いの無い打ち込みが左右から襲いかかってきたが、レイフォンは一本の大剣でいなし、逸らして直接受けて手首を痛めたり姿勢を崩すような事もなく距離を取って仕切りなおした。

「ははっ。ニーナの初撃を受け切った奴を始めて見たぜ。どうやら、会長の推薦も今回は当たりの様だな。なあフェリちゃん」

 フェリはその言葉に反応もせずにニーナとレイフォンの攻防には興味も無いという態度であった。

 シャーニッドの声をレイフォンは無視して、次はどこに来るかと間合いの取りあいをしながら、ワザと隙を作る為に足を大きめに上げながら移動しようとした時に再びニーナの突撃してきた。そして、ニーナの左右からの攻撃を今度は受け流さずにしっかりと受け止め力負けすることなく弾き飛ばして見せた。

「外力系衝剄を修めているか?」

 再び間合いの取りあいを行なうのかと思っていると、突然問いかけが行なわれ戸惑いながらも頷くと。

「そうか。なら受け止めろ」

 酷薄に笑って、胸の前で交差させた鉄鞭を構えたまま大きな振動音と共にレイフォンの目前に現れた。
 そのまま、衝剄を伴った一撃を与えるのに成功したと思いニーナは勝利を確信したが、レイフォンの姿が既に無かった。内力系活剄の変化、旋剄。左右へのフェイントのあと殺剄と併せて天井まで飛びそのまま無音で床に飛び降りていた。

「後ろだっ!!」

 レイフォンを見失い左右に視線を走らせているニーナの背後にレイフォンが立った時、思わずシャーニッドは警告し振り返ったニーナ。
 しかし、既に遅く八双の構えからそのまま振りおろしたレイフォン。技も無くただ単純に剣身から衝剄を放ちニーナを転倒させた。

「この辺でよろしいでしょうか?」

 構えを解いてレイフォンはニーナに問いかけると、まだ不満が残っていたが力試しとしては充分合格以上だからとニーナも無理矢理に納得し鉄鞭の復元を解除して立ち上がった。

「実力は充分と認められる。前衛としてアタッカーを今後任せる事になるだろう。
 フェリ。バッジと帯剣許可証を。彼女の名前はフェリ・ロス。小隊の念威操者だ。」

「これです。バッジは付けておいて下さいね」

 無表情に近付いてバッジと許可証を渡すフェリ。

「後は、明日はあそこにいる、ツナギ。ハーレイ・サットンと言うが彼は小隊でのダイトの調整の担当者で一緒に装備管理室に行って専用のダイトを支給してもらいパラメータの設定をしてもらう」

 幼馴染のニーナにツナギ呼ばわりに思わず落ち込むハーレイ。その時ノックの大きな音が扉に響き返事をする前に「レイフォン生きている?」リーリンを先頭に五人が入ってきた。
 その扉の後ろからシャンテが脅えた様な顔で「案内したからな。もう良いよな」と言って逃げるように出て行った。


 時を少し戻して、喫茶店内。

「そういえば、ナッキは小隊に詳しいけれど、小隊を目指さないの」

「ミィよ前から言っているように、あたしは警察を目指していて、ここの都市警に入るつもりはあるが小隊まで兼ねる気は無いからな。掛け持ち出来る様な実力も器用さもわたしは持っていないことを自覚している」

「ふーん、残念。ところで小隊の武芸者ってさっきの先輩みたいに美人が多いの?それならナッキも充分資格があると思うけれどな~」

「あたしが美人かどうかは知らないが、それなりに女性武芸者はいると思うよ。武芸者の実力は単純な腕力ではなくて、剄量の大小だからね」

 その台詞を聞いた途端に今まで穏やかな笑顔を浮かべていたリーリンが表情を変えて立ち上がった。
 そして、皆を引き連れてレイフォンを探しに歩き出した時に、武芸科の先輩を発見して、ナルキが平謝りしながら尋ねた相手がゴルネオであった。
 その時に肩に乗っていたシャンテがなぜあんな男を探さなくてはいけないのか?と文句を言ったが、一般人である筈のリーリンの表情を見てレイフォンを襲った武芸者であるシャンテでも脅えてしまって案内することになったのだ。
 そして、錬武館の第十七小隊の場所まで同行してきたのが現在の状況である。


 静かになった部屋で視線がリーリンに集中し、漸く興奮から冷めて自分の行動に思わず顔を赤らめ俯いてしまった。

「リーリン慌ててどうしたの?」

「うん? リーリン?」

 レイフォンから聞いた事のある名前を耳にしてニーナはもう一度注視して。

「リーリンか。どうしてここに?」

 同じ寮の新入寮生であり現在の台所の支配者だと確認して声を掛けると、リーリンも漸く部屋に居るのが先輩のニーナだと認識していた。グレンダンにいたころのリーリンとイメージが大分壊れたかも知れない。

「いえ、少しレイフォンが心配になって、意外とドジですから『ことに女性心理的には』」

「リーリンもそういえばグレンダン出身だったな。すると、知り合いだったか」

「レイフォンとは同じ孤児院の出身で落第防止の監視役として同行しました。それに、ニーナ先輩からは武芸科と説明を受けていましたけれど小隊のエリートなんて言ってくれないのですからビックリしましたわ」

「リーリン。ニーナ先輩はこの隊の隊長だよ」

「何、小隊長と言っても今日アルセイフ君が入隊してくれないと最低人数も満たなくて活動が出来ないから話せなかっただけだから、気にしなくても良いさ」

 後方で三人娘、特にナルキとミィフィがひそひそと「絶対にけがの心配じゃないね」「落第防止以外の監視役よね」といった会話をしていた。
 そして、エドはハーレイに話しかけて、錬金鋼の専門家と確認すると。

「おれはエド・ドロンと申します、錬金については素人ですが是非勉強してみたいので弟子入りを許してもらえるでしょうか」

 いきなりの弟子入り宣言という積極さを見せていた。

「いや、ぼくもまだ三年だし、人を教える程の知識も無いから」

「それなら、自分で知識を得るのに必要な本をを教えて下さい。あとは、ダイトの調整を見せてもらえるだけで良いですからお願いします」

 うーんと、ハーレイが悩んでいる時にミィフィが内緒話から抜けて。

「どうして、そんなに錬金やダイトの調整にエドロンは拘るの」

「学園に来る直前に都市が汚染獣に襲われてね、何もできなかったからそんなおれでも都市を守るのに手助けをしたいと決意したんだ。そして、レイフォンが小隊に入るなら友人として応援もしたいし」

 ミィフィへの回答を聞いてシャーニッドがハーレイの肩に手を回し。

「本人はあの台詞を聞く限りただのミーハーでは無いみたいだから、しばらくは仮の弟子入りとして様子を見てやれば良いではないか? それにあそこの女の子たちも良く来てくれるかもしれんし、決断しなよ」

「シャーニッド先輩は又……。まあ仮という事でエド君を立ち入り許可をニーナに確認するか」

 シャーニッドの本音には呆れたが後輩から先輩と言われて尊敬を受けるのも悪くないと思いエドを受け入れる事にしたハーレイであった。そして、汚染獣に襲われたと聞いて今まで無関心を装っていたフェリが、秘かに注目をしていたのには誰も気が付いていなかった。


 次の日の放課後。

 レイフォンはグレンダンから持ってきたアイアンダイトとサファイアダイトを各一個持参してエドと共にクラスに迎えに来たハーレイの後を追って、装備管理室に着いた。
 そして、ハーレイが管理室の奥から持ってきた箱をレイフォンが持って今度は錬金科のハーレイの所属する共用の研究室へやってきた。

 部屋の中を見ると、典型的な男の部屋といった汚れ具合だった。
 レイフォンは部屋の様子を見て思わず一緒に来たエドに同情の視線を向けた。弟子入りならこの汚物の掃除が最初の仕事であろうと。

「昨日の試合を見ても思ったけれど、あの剣は君に合わず体が流されていた様に見えたから色々と測定して調整したいから協力してね」

 ニコニコと嬉しそうな顔をして準備した測定機器をレイフォンに取りつけ調整データを集め出した。

「いやあ、身体データも剄量も凄いね。昨日も本気でやり合ったのではないとしてもニーナに勝ったし地元でも強かった方?
 レイフォンの故郷のグレンダンって武芸が盛んなんでしょ何か習っていたの。第五小隊のゴルネオ隊長も同じ出身で小隊屈指の実力者なんだから。それで、何か武器で希望があるかな?」

「うん、このアイアンダイトだけど、グレンダンの道場での免許皆伝の証だから刃引きにしたくないから同じデータでもう一個別に調整してほしい。こちらのサファイアは直接刃引きして安全装置を掛けても問題ないです。あとは実際に使って微調整かな」

「グレンダンで免許皆伝てすごいんだね。汚染獣戦の経験もあるのかな?」

 グレンダンの実情を知らないから軽口を叩きながらレイフォンにまず二個の錬金鋼を復元してもらった。
 復元された二振りの刀を見てハーレイはその美しさと見ただけで判る切れ味のよさに、確かに刃引きは勿体ないと思った。
 その上でダイトの調整者として俄然燃えてきてより威力のある刀の調整を決意した。

 結果、レイフォンは持参したダイトの刃引きとパラメータのコピーだけで終わらせる予定がアイアン、サファイア以外にも剄の伝導率と放熱力が高い白金錬金鋼(プラチナダイト)、剄の収束力と貫きに適している碧宝錬金鋼(エメラルドダイト)での剄の変化や出力を調査するのだけで、日が暮れかかっていた。
 その間にエドも測定機器の操作法をメモし、数値の意味とどう変化すべきか、違う反応が出ればどこに問題があるのか調べる順序といった実践的な知識を得て有意義であった。

 慌てて、寮に戻るレイフォンと違いエドはそのまま部屋の片付けを行なう事になり、ハーレイは次に日の練習の為にダイトの製作を始めていた。二人はいつ帰れるのかは誰も知らない。


  あとがき

 リーリン壊れる。原作と違い、付き合い未満でもレイフォンがハッキリと意思表示していますから少し嫉妬してもらいました。



[24536] 07
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/05 08:09
  第七話


 ツェルニ機関室。

 寮に急ぎ戻ったレイフォンは急いで仮眠を取り、夜に目覚ましで起きて機関室へ向かった。
 今日はレイフォンのアルバイトである機関室清掃の初日であって、深夜業務であり重労働の為に早く帰りたかったので普段と違いエドを置いていったのである。

 こうして、警備のチェックを受けて漸く機関室の本体へと入ったレイフォンは、先輩就労生に出会って待合場所に案内して貰った。
 今日は初日という事で、同じ新人と二人で一番簡単な通路のモップ掛けを責任者から命じられ迷路の様な通路の掃除を始めたのである。

 一緒に始めた就労学生は、直ぐに根を上げ「金が必要だからと言って選んだが、こんなにも大変だとは思っていなかった」と座り込んでしまった。
 レイフォンはノルマ達成の為にも、初対面と言っても同じバイト仲間が初日で辞めてそのまま学園退学までもならない為にも「腕の力より身体全体を使ってモップ掛けをした方が負担は小さい」「一定時間でのノルマを決めるとやる気が出る」などといった助言を行ない挫折をしないように小まめに気を使っていた。
 この辺は道場での後輩の指導のも通じている為に何とか指導らしきものは出来た。
 ある程度コツを掴んだ様だと判断すると、あとは甘えないように自主性にまかせ指導を減らしていった。
 そしてレイフォン本人はこの様な単純な力仕事を苦手とせず、剄息を行ない全身が剄になる感じが好きで時間が経つのを忘れれていくのであった。

 こうして、時間はあっという間に過ぎ去り休憩時間となり、相棒を先に売店に行かせ体力に余裕のある自分はバケツの水を交換に向かおうとしたところ突然に声を掛けられた。

「それならこの水も一緒に交換してくれ、代わりに夜食の準備をしよう」

「ニーナ先輩。どうしてここに?」

「うん? わたしもここでアルバイトをしているんだ、さあ早く行った行った。集合場所は場所はここで良いな」

 意外な人物の登場に混乱しながらも言われた通りにバケツの水を交換しに行ったレイフォンであった。

 戻ってくるとやはりニーナが居て夢ではなかったようだ。

「いつもは、ここで配達されている一番人気のサンドイッチを買っているんだが、今晩はリーリンがお前もバイトの初日だからと一緒に準備してくれたんだ。だから遠慮する必要はないぞ。ほら、早く座れ」

 レイフォンも慌てて近くの手ごろな高さのパイプに腰かけ、バスケットを受け取った。そして、食事を始めると。

「リーリンから、学園に来た事情やその出身から仕送りが無いという事は聞いた」

 レイフォンは思わずその言葉に緊張したがニーナは構わず言葉を続けていった。

「わたしも、親の反対を押し切って学園に来たから仕送りが無いから就労と学業の両立が大変なのは判るから頑張れ。
 学園には半ば家出に近い形で留学をしたから、着いてからもう一度、自分の気持ちを素直に書いた手紙を出したら父親からは援助はしないという返事が放浪バスの切符と一緒に返ってきただけだった。
 きっと、お嬢様育ちだったわたしは直ぐに帰ると思ったのだろうな。
 それでも、わたしは一度は外の世界を見たかった。籠の鳥ではなく自力で飛んでみたかったんだ。たとえそれが汚染獣の脅威にさらされてもだ」

 そのあと、苦笑して更に言葉を続けた。

「それでも、わたしにとって“武芸はこれしかない”というものだ。だから武芸科に入ったし、苦しくとも機関清掃のバイトで生活費を稼いでこうしている」

 そう言い切った横顔は油や触媒が付いて汚れていていかにも就労学生といった感じだが、同時に自信に輝き良い所の育ちとも納得する雰囲気であった。

「うん? どうしたわたしの顔に何か付いているのか? お前はリーリンから聞いたが何か失敗して、その為に勉強し直すようにと留学したと聞いたが。
 失敗の内容は知らないが本当は武芸者としては強いんだろ。
 わたしと戦った時もまだ余裕が有るようだったし、むしろわたしの力を引き出すような戦い方だった風に感じたが」

 今度は探るような目つきとなって問いかけてきた。

「ぼくは、一度武芸で失敗したのです。先輩の仰ると通り、自惚れでは無く強い方だとおもいます。その為に全て自分の力で解決しようとして大きな失敗をして、それでも皆に許してもらえたのです。
 そして、そんなぼくに女王陛下は社会常識と仲間を信じて戦う事を覚え、単なる使い捨ての兵ではなく将になれと命じられたのです。
 尤も園の経済状況から奨学金で合格したのはここだけだし、都市に残っていても良かったのにリーリンまで一緒に来てくれて、苦労を掛け続けてしまっているんです」

「そうか、やはり強いのは確かか。どうしてそれを会長が知っていたのかは謎だがな」

 そのまま後はリーリンの作ったサンドイッチとフルーツを食べ。

「食べ終わったのなら、茶を飲むか? これはリーリンではなくてわたしが淹れたものだが食事と違って少しは自信があるぞ。
 それから、助言だがこれからは飲み物は持参した方が良い。ここの飲み水はまずいからな」

 リーリンとはまた違った、甘みを控えめにした上質の紅茶を飲み、やはり良いとこのお嬢様だったんだと思ったら。
 その表情を見て、「どうだ美味いだろう。ここに来て料理はダメでも、茶を淹れる事だけは覚えたんだ」と嬉しそうに話していた。

 そんな中、疲れた様子で夜食から戻った相棒が思わず「おれを追い出して、夜食デートかコンチクショウ」などとエドの様な事を呟いていた。

「何、こいつの彼女から弁当を預かったから、ご相伴に与かっただけだ。お前が思っているような関係ではない」

「彼女付きで学園に来たのか。何だか残りの掃除を一人でやらせても許される気がした」

 ニーナが照れもせずに答え、レイフォンが手作り弁当を貰ったと知った男は嫉妬マスクをかぶりそうな勢いで吠え、疲れが吹き飛んだようだ。どうやらバイトに挫折する心配は無くなったみたいだ。

 さて、再開するかと立ち上がった時、カンカンと足音と共に上級生と思しき無精ひげをたっぷりと生やした作業着に爪の間に油の染み込んだいかにも機械科といった雰囲気の年長者が彼らの前に駆け寄ってきた。

「おい、この辺りで見なかったか?」

 レイフォン達が疑問を問い質す前に、ニーナが無精ひげに返事をした。

「またか?」

「まただ、悪い、頼む!」

 男はまた走り出した。

 ニーナはやれやれと首を振って事態を認識出来ていない新人二人の男に声を掛けた。

「二人とも手伝え。今日はもう掃除はいいはずだ」

 状況が判らずに不思議な顔をしている二人に、ニーナは楽しそうな笑みを作った。

「都市の意識が逃げだしたのさ」

「「はっ?」」

 二人がまたも声を合わせて疑問を浮かべると、ニーナは声を上げて笑った。

「まあいいから、ついて来い」

 歯車の回る音に、無数の足が通路の鉄板を蹴る音が混じる空間を悠々とニーナが歩き、そのあとを周囲を見回しながら二人は付いていった。

 レイフォンも現在の人類では作りだすこの出来ない“自律”型移動都市とその都市の意識という言葉は知っていた。そして、養父と陛下により“廃貴族”という存在を知らされてはいるが、正常な都市のそれが逃げ出すという状況が理解出来ていなかった。
 そして、迷いなく通路を歩くニーナにも疑問を抱き。

「捜しているのではないのですか?」

「捜す必要など無いさ」

 更に不思議な返答が返った来た。

「都市の意識とは好奇心が旺盛らしい。
 だから、都市は大地を動き回るのであって、汚染獣から逃げる理由もあるが好奇心の方が大きいと。
 これは、ハーレイが言った事だがな。
 そして、この時期には自らの中の新しいものに興味を持つ。お前ら新入生とかな」

 ニーナが立ち止り、通路の行き止まりの向こうにある正体不明の機械の天辺に何かが居た。
 金色に近い色で発光しているなにかを三人は見た。

「ツェルニ!」ニーナの叫びに発行体は飛び出し上空を飛びまわっていた。

 そして、発行体は真っ直ぐにニーナの胸元に飛び込み、甘える様な気配を感じさせた。
 二人はニーナに近づき、確認をするとその発行体は赤ん坊の様な大きさの、それでも頭身は子供の姿をした少女だった。
 それが都市の意識。電子精霊の姿だった。

「この子が、ツェルニ。学園都市そのものだ」

 そして、ニーナはツェルニに今年の新入生だと二人を紹介し、握手を求めたレイフォンに飛び込んだツェルニを見て珍しく気に入られたようだと、感心していた。

「わたしが、ここに来て始めて出来た友人でもあり、この出会いが都市を守りたいと思った理由だ。
 二人ともそれぞれの立場でこの都市を守ってほしい。特に機関掃除は大変だが、この様な子供の世話をすると思うと無機質な通路と違いやる気も出るだろう」

「いや、俺は大人の色気の方が好みです」

 空気を読まない相棒の言葉にニーナはじろっと睨むが特に何も言わなかった。

「都市の旗の紋章の少女はもしかして?」

「そう、ツェルニの姿を表している」

「なら、色っぽい紋章の都市を探して移住すれば……」

 レイフォンの疑問にニーナが答えると、またもや相棒が妄想を発揮。本当にコイツは数えで15歳以上か? 感性がオッサンすぎる。

「リーリンにも見せたいけれど、こんな機関室の奥までは来れないし残念だな。今から地上に連れていくと大変だろうし、喜ぶと判っても会わせられないのは悔しいな」

 レイフォンも少しずれた感想をしていた。

 ニーナももう充分に観たし、これ以上は機関科の連中も困るから戻ろうと、ツェルニに話しかけていた。
 それからお前らはあと清掃道具を片付けてくれとと伝言し、レイフォンには明日は連携訓練を行なうから疲れを残すなと言って真っ直ぐな姿勢で疲れを感じさない歩みで立ち去っていった。

 連携訓練?と疑問に思った相棒に小隊訓練の事を説明すると驚いたような表情で。

「何か、武芸者のイメージとお前は違うな。さっきのひとは、どこか怖さもあって武芸者と言われて納得出来る。でも、お前は入学早々に小隊入りする様な凄みが感じられないから、一般人の俺でも話しやすくて武芸者と気付かなかったな」

 まあ、ニーナ先輩は熱血だから差が目立つのかなと返答をして片付け後は責任者に報告をして、寮の帰宅で入学二日目も新たな出会いを最後に無事に終了した。



  あとがき

 ネーミングセンスが無いから原作の名無しのチョイキャラの名前が作れずに相棒としか呼ばれませんでした。
 登場予定も今後ないからよいかなと。

 サリンバン教導傭兵団の事をデルクから免許皆伝の刀の箱に同封の手紙に説明と同時に裏の理由も一緒に聞いたと独自設定。



[24536] 08
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/05 19:41
  第八話


 錬武館。第十七小隊室。

 放課後、エドと共にやってきたレイフォンの前には準備の終えたニーナと複数の錬金鋼を持ったハーレイの二人が居ただけであった。

「「遅くなりました」」

 既に先輩がいた為に慌てて挨拶をする二人。

「あとの二人はまだ来ないのか?」

 ニーナは漸く正式に小隊が発足して、訓練が出来る初日の今日の集まりの悪さにイラついているようだ。トバッチリを避ける為にニーナの目を避ける様にハーレイの呼び掛けに応じて近づく二人。

「これが、昨日のレイフォン君の身体データと預かった錬金鋼のパラメータを元に調整したアイアンとサファイアダイトだ。復元して感覚を確認して欲しい。
 エド君も昨日は助かったよ。そして、これが昨日の調整した時のパラメータの変化とダイトの効果予測値のレポート。
 こちらは、剄測定具のマニュアル。今後は君に測定や調整補助を受け持ってもらうから、良く読んでおくように」

 渡された二つの錬金鋼を復元すると、柄の形状、大きさが今までの物よりも手に馴染む感触になっていた。
 10歳の頃や半ば投げ遣りな時期に剣として調整したパラメータを元にしたのから、刀として現在の身体データに合うように入念に設定した現在のダイトの感触が違うのも当然である。それは、同時にハーレイが年齢に似合わぬ能力を持っている証であった。
 弟子入りしたエドは優れた師を得たという事であって幸運と言えたであろう。

 復元された二振りの刀を共に数度素振りを行ない感触を確かめていると。

「レイフォン君の剄量だと、伝導率を第一に白金錬金鋼(プラチナダイト)の方が良いと思うんだけれど、一度試してみない?」

「そうですか? でもプラチナですと耐久性や修復性に少し不安があると思いますけれど」

 ハーレイの言葉にレイフォンが答えながらも、そういえば天剣も一応あれもプラチナかと思いだした。
 ハーレイとレイフォンの認識の違いとして長くても一日位で複数の人数で休憩も出来る戦闘と雄性体後期や老生体相手の全力で数日も掛けて行なう単独戦闘という一般都市の常識とグレンダンでの天剣授受者の戦闘の認識の違いがこの発言になった。

 レイフォンはサファイアを手にして内力系活剄で身体強化は行なっても、旋剄などによる高速移動や衝剄による外部放出は行なわずにサイハーデンの型の幾つかを、そのまま特に何も考えずに行ない始めた。

 八双からの構えから神速の踏み込みによる打ち込み。そのまま、斜め後方への退避から再び突進しての逆螺子。ただし型のみで剄の放出は当然なし。そのまま、横殴りに切り裂きながらの移動と、想定上の汚染獣の注意を惹きつける。そこへ架空の味方が衝剄を放って汚染獣を攻撃、注意が逸れたと判断。再び正面を避けて側面へ、焔切りから焔重ねのコンビネーション。
 汚染獣が尾にようる反撃を左手に復元したアイアンの刀で受けそのまま衝剄を放った反動で退避したと仮定した移動と姿勢。
 再び味方の援護による攻撃からその隙に竜旋剄を放ち動きを止めた相手に味方との同時攻撃に止めを行なう。この一連の演武を新たに調整し直された刀の使いやすさに自然に流れる様に動けて感謝の言葉をハーレイに投げかけようとした。

 そこへ、レイフォンの言葉を遮る様に何時の間にか来たシャーニッドが凄まじい動きで感心したと言ってそして。

「そうですね。もっと周囲に注意を向ける事が出来たらもっと素晴らしいでしょう」

 フェリが衝剄を放たず、活剄も最低限とはいっても、それでも発生した剣戟の暴風によって乱れた髪を押さえながら淡々と静かな口調で話しかけてきた。

「え~と。もしかして怒っています?」

「なぜ、そう思うのです。何か心当たりがあるのですか」

 淡々と答えるフェリがとっても怒りを堪えているようで余計に怖い。けれどもそれを正直に言えずに固まっていると。

「いい加減にしろ!! そもそも、先輩であるお前達が集合時間に遅れたのが原因ではないか。ちゃんと時間通りに集まる事が出来ないのか?」

「そうですね。努力はしてみましょう」

 ニーナの怒りにどこ吹く風と受け流すフェリ。いつもの事と平気なハーレイとシャーニッドに対し始めて見るエドとレイフォンは呆気に取られていた。特にエドはフェリへの幻想が砕かれた瞬間であった。『女は皆嘘つきだーッ!!』。

「それはそうと、レイフォン。今の演武はどういう意味だ? 随分と大げさな動きで退避も攻撃も大きが、見せる為の動きとも思えなかったが」

「これは、グレンダンで習っていた道場での型の一つで攻め手と囮が交互に入れ替わって汚染獣と戦う事を想定したものです。
 だから対人と違って動きが大きく、受けがほとんど無かったのです。連携訓練を行なうという事ですので、勘を取り戻すためにも体を温めるついでに思い出して動いたのですが、衝剄を放たなくても活剄による動きだけで予想以上に剣風が出た様でロス先輩失礼しました」

「ふむ、汚染獣との戦いか。ツェルニでは余り考慮されてはいないな」

 ニーナが感心したように呟きそれでは訓練を行なうかと今日の訓練が本格的に始まった。

 ニーナとの交互の打ち込みと後方からのシャーニッドの模擬弾の射撃による身体でそれぞれの癖を覚えるだけで訓練時間があっという間に過ぎ去ってしまった。
 その間のフェリは念威操者として情報処理を行ない、三人の位置関係を念威端子からそれぞれに各人の位置から見た場所を連絡し次の動きや仲間の動きの予測に役立てていた。

 訓練終了後のミーティング。

 シャーニッドやフェリはいつもならそのまま真っ直ぐ帰るのだが今日は新人二人が参加したせいなのか、珍しく最後まで残っていた。

「明日にでもゴルネオ先輩に会いませんか?」

 その時に突然レイフォンは提案をしてきた。

「連携訓練にも模擬戦を行なうのにも人数が少なすぎるから、知人のゴルネオ先輩の第五小隊と共同訓練を行なったら効率的ではないでしょうか」

 ノホホンと提案を行なうレイフォンに二人の「それは無茶だろ。仮にも勝敗を争う小隊同士で慣れ合いは無理に決まっている」という反応に「学園都市対抗戦が最優目標だから、協力して当然では?」と学生武芸者と個人戦闘専門と自身の戦闘能力強化にしか関心の無かった天剣の認識の違いが出てくる発言であった。

 フェリはその時も無関心に口を挿んでいなかった。

「確かに最終目標は学園を守ることだったな。目的と手段を違えてはいけないのも確かか、よし、明日の放課後に五年の校舎にレイフォンも一緒に交渉に行くぞ。シャーニッドは……交渉決裂になりそうだから来なくて良いぞ」

 ニーナの発言にレイフォンはナッキもだが軍人思考の女性は色気のない台詞だなと場違いな事を思っていたりして。

「レイフォン。話が終わったのなら、兄が生徒会長室で待っていますので向かって下さい」

「兄?」という疑問にフェリはカリアン・ロスはわたしの兄ですとの返答に、レイフォンとエドは髪や瞳の色や顔の雰囲気に共通があると納得していた。更に性格のきつさも同じだと。
 リーリンは既に寮に帰っているはずだし、バイトは毎晩では無い為に問題はないと、解散後生徒会室に向かうレイフォン。

 生徒会室。

 レイフォンが着くとそこには、以前と同じカリアン、ヴァンゼ、ゴルネオの三人と第五小隊のダイトメカニック他、今回初めて会う二人の上級生がいた。

「この二人は、建築科と錬金科の責任者だ。一応錬金鋼の調整担当者と共に説明したのだけれど信用してもらえなくて、今からもう一度野戦グラウンドで訓練をしてもらいたい。問題はないだろうか」

 予定の無いレイフォンはそのまま、ゴルネオと共に二人で今度は試合形式ではなく個別の技の発動を行なう形で剄の発揮を見せ、その剄量と衝剄の衝撃を確認した二人は興奮しどのような構造で耐衝撃、防音を実施するかといった議論を訓練の途中で周囲を無視して始めるほどだった。
 一方武芸者二人も久しぶりに周囲を気にしないで力を発揮できると、思う存分に技を繰り出していた。
 レイフォンはそれでも、錬金鋼が全開した時の剄に耐えられないので力は押さえていたけれど。

 その後、レイフォンは満足のいく鍛錬を終えて、手加減の参考資料として前年度の小隊対抗戦の映像を会長より預かり帰宅の道についた。予習、復習?何それ美味しいの?となっており次の日の授業では早くも地獄を見る事であろう。


 次の日の放課後。

 早くもリーリンから授業の課題の提出と復習を命じられてやつれてしまったレイフォンはゴルネオの教室の前にニーナと何故かリーリンと一緒に居た。

『ただでさえ、昼は弁当屋のバイト、放課後は夕食の準備にレフォンは訓練と機関清掃のバイト。と会う時間が減っているのにニーナ先輩にフェリ先輩。その上ミィからの情報では小隊にはファンクラブまであると聞いたわ。出来るだけ監視は必要よ』リーリンさん性格が変わっていません?

 今はゴルネオにニーナが合同訓練を持ちかけ、同一チーム内の紅白戦や自動機械による演習より実践的で細かな訓練が出来るなどのメリットを上げて説得中であった。

「確かにメリットはあるが、それでも新造の十七小隊の方が有利でおれたちのメリットは薄いな」

 ゴルネオの言葉に肩に乗っているシャンテもそうだ、そうだと叫んでいる。

「先輩よろしいでしょうか」

 そこへレイフォンがゴルネオに話しかけてきた。(グレンダンでは天剣のレイフォンの方が格上だが、学園ではあくまでもゴルネオを上級生として敬って扱っていた)

「千人衝。咆剄殺」

「何?!」

「憶えたくありませんか?」

「なぜ、それを」

「サヴァリスさんが実戦で使っていたのを見ましたから、それで憶えました。
 あれは化錬剄の正当な使い方の技ではないから、ぼくでも覚える事ができました。先輩はルッケンスの秘伝書を閲覧しているとサヴァリスさんから聞いています。
 その上でむしろ、化錬剄を正当に学ぶと修得が難しいとも。
 ですから、教える事が出来なくても秘伝書の説明だけでなく技の発動を見る事で修得のヒントにはなりますよ。
 それで、使えるようになって、黙ってグレンダンに戻ったら驚かす事が出来るかも知れませんよ『実際に知ったら殺り合おうとサヴァリスさんなら言うと思うけれど』」

 心の中では無情な事を思っても、おだててその気にさせようとするレイフォン。意外と腹黒かもしれない。

「知ってはいたが、相変わらずデタラメな男だ。だが……」

 悩んだがルッケンスの秘奥を習得できる可能性の損得を考えて最終的には反対するシャンテ(リーリンに脅えているから)を説得してゴルネオも共同訓練を行なう事に同意した。何よりそれによって野戦グラウンドの使用回数が増えるのも魅力的であった。


 深夜、機関室。

「今日はスマン。おかげでゴルネオ先輩の説得に成功して訓練にも幅が出来てわたしたちはこれからもっと強くなれる。
 ところで、千人衝。咆剄殺とサヴァリスさんについて差障りが無ければ教えて欲しい」

 深夜のバイト。又リーリンの夜食を食べている二人は放課後の交渉について話していた。相変わらず色気のない二人である。

「最初の二つは、ゴルネオ先輩の実家。ルッケンスの武門に伝わる奥義です。
 そしてサヴァリスさんは先輩のお兄さんでルッケンス最強の天才武芸者と言われるグレンダンでも最強の一人です」

 余りにも突拍子も無さ過ぎて信用されないと思い天剣についてやその危険な性格には黙っていた。

「その奥義をお前は見ただけで再現できるのか? いや、ゴルネオ先輩が信じたのだから出来るのだろう」

「ニーナ先輩にも、今度剄の流れの見方を教えましょう。そうすれば、その流れから相手がどんな技を使おうとしているのか判るし再現も出来る様になります」

「信じられん男だな。まてよ、するとわたしと打ち合った時も衝剄を放つ時や活剄で移動しようとしたタイミングは読まれたということか」

 ニーナの疑問に対するレイフォンの更に斜め上の回答に呆れるしかなかったが思わず出た疑問にたいする答えには声も出なかった。

「大技なら発動前に潰せますけれど、連携訓練にはならないから行ないませんでした。ただシャーニッド先輩の殺剄は上手なので攻撃の癖や好みのタイミングをまだ理解出来ないので背後に居ると怖いですね」

 この男は、学園の上位武芸者である小隊長の動きに合わせることが出来るというのである。そして、自分の行動途中でも修正して問題が無いとも言っているのであった。
 ニーナは気が付いていなかったが、これが一般武芸者。そしてグレンダンよりはるかにレベルの低い学園武芸者と天剣授受者の違いであった。

 元々学園に来る武芸者は一般生徒と違い都市防衛に支障のない低レベルの者が来るのが一般的であって親の反対を押し切るニーナや名門のゴルネオが来るというのは珍しいのである。
 なによりも、成長の最も著しい六年間を師が居ない状態で過ごさせるのは自立心を芽生えさせる以外はレイフォンの様にある意味完成された武芸者以外には冒険すぎると考えられより一層学園のレベルが下がってしまう状態であった。



  あとがき

 前衛二人、後衛一人での連携訓練ってどうやるの?

 せめて2対2や3対2、1対3といった複数での攻撃をしないと阿吽の呼吸もつかめないかなと、その為にゴルネオ君の第五小隊との合同訓練となりました。

 グレンダン出身で学園にも長い常識人故の苦労人。ゴルネオ君は動かしやすいですね。
 特にサヴァリスからガハルドの計略の失敗の経緯を知らされると、必要以上に同情出来ないからレイフォンを恨めません。
 14巻の心境に既になっているとも言えます。

 あと、再生なったデルクでも道場の壁を震えさせます。剄の全力が可能な状態のゴルネオやレイフォンもそれぐらいは可能でも学園の生徒は信じられないと判断しもう一度力を振るってもらいました。



[24536] 09
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/08 20:36
  第九話


 放課後の一年生教室。

「レイとん、大丈夫? 小隊訓練と機関室清掃(バイト)の掛け持ちはやっぱり辛いんじゃないの」

 やつれ、疲れ切ったレイフォンを見て、心配をするメイシェン。

「いや~。訓練やバイトは平気なんだけれど。メイの心配してくれる優しさにぼくはうれしいよ」

 レイフォンの答えに赤くなるメイ。ミィフィとナルキは相変わらずの天然のタラシだと目で会話して、

「あら、レイフォンの勉強の心配をして放課後の図書館に付き合うわたしは優しくないの?」

 ニッコリとほほ笑むリーリン。でも目だけは笑っていなかった。

「ああ~っ。ツェルニの合格が決まって、もうあんなに勉強しなくて良くなると思ったのに~」

 まあまあ、となだめメイはそういえばエド君はどこと? さりげなく聞いてきた。

「そう言えば、エッドンは特定のバイトをやっていないのに放課後は何時もいなくなっているわね。これは、ミィの勘では何かネタになるかも」

「違うよ。エドはハーレイ先輩の許で修行中で、いつも研究所にいっているんだよ。そして今日の様な小隊訓練の日も先に行って色々準備をしているんだ」

 暴走しかかったミィを苦笑しながら訂正するレイフォン。

「そーなんだ。き、今日差し入れにい、行っても良いかな」

 真っ赤になってどもりながらレイフォンに聞くメイシェン。そんな様子に気が付かずに来ても問題ないよと答えるレイフォン。
 そして、残る三人はもしかしてエドとラヴ?と好奇心がそそられ、もとい応援しようと一緒に行く事にした。

 錬武館

 今日は小隊単独の訓練の日であった。

 最近は、ニーナからの相談によって、第十七小隊はサイハーデン流刀争術の鍛錬方法を取り入れていた。
 そのうちの一つ、日常での剄息による生活。これにより剄脈や剄路の発達を促し戦闘での剄の発動がスムーズになるといった利点があった。ただしこれは慣れないうちは疲労が早くなる為に慣れるまでが大変である。
 そして床に転がる硬球の上での鍛錬。
 地味で有りながら疲れたり、大変といった基礎を鍛える鍛錬法ばかりであった。
 意外な事にシャーニッドは軽薄な印象と違いこの様な鍛錬を真面目に続けていた。集合には相変わらずに不真面目では在ったけれど。

 そして、今日また新たな剄技の習得をニーナに提案した。

「金剛剄?」

「そうです、防御技で、小隊戦のルールで攻撃側なら隊長が倒れなければ負けでは無いから覚えれば有利になります」

 それでは、教えてもらおうかと言って、それでは見本をまず見せますねとなって。

「それでは、隊長全力でぼくを攻撃して下さい」

「本当に、いいんだな」

 念押しをするニーナに涼しい顔で錬金鋼を手にしない無手の状態のレイフォンに怒りを覚える。打撃に特化した鉄鞭相手では侮られていると思っても仕方が無い。
 内力系活剄で強化された身体能力で振りおろされる鉄鞭。動きもせずに受け止めたレイフォン。
 まるで、鋼鉄の壁を殴ったかのような衝撃に手首に痛みが走った。

「もっと、本気で来て下さい。避けるしかないという攻撃をしてくれないと、見せる価値がありません」

 いつもの、先輩としての立場を立てる穏やかな口調ではなく責める様な強い口調に、本気になっている事と、それだけ価値のある技であると悟って今度こそ本気で打ち込んだ。狙いは先ほどと同じ左肩。

 すると、打撃のインパクトの瞬間に衝剄を放ち部屋全体が衝撃で激しく揺れた。
 それでもレイフォンは何事も無く立ったままで、逆に攻撃したニーナが手首への痛みが再び走った。咄嗟に握りを緩めなかったらもっとひどい怪我になっていただろう。

「フェリちゃん、何を行なったか判る?」

「武芸者でも無いわたしが判るわけがないのに決まっているでしょう」

 シャーニッドの問いに返したフェリだが実際は念威操者としての能力に自信のある彼女でも何があったのか判らず、無表情な仮面の下では驚愕していた。

 剄の流れはニーナもシャーニッドも何とか見える様になったし、技を使う時の変化も判る様にはなってきた。
 それでも、レイフォンの様に相手の技の繰り出す時の剄の変化から何を出すのか、そしてその変化を再現して未知の技まで自分の物にするというのは理解できていないし、おそらく今後も出来ないだろう。

「簡単に言えば、内力系活剄による肉体強化と同時に衝剄による反射です。構造的にはすごく単純な物です」

「確かに単純な隊長に相応しい技だな」

 シャーニッドの茶々に睨みつけながらも、確かにわたしでも覚えれるだろうかとの呟きに対し。

「技その物は覚えられると思いますよ。ただし難しいのはその先で、対抗戦の刃引きされた武器の攻撃ならまだしも、真剣や汚染獣の攻撃にも真正面から受け止める精神の強さが必要です。
 隊長は、ツェルニに来る時に放浪バスから汚染獣を見たと聞きましたが生身をそこに晒せますか?」

 当時の状況を思い出して思わず震えるニーナを見てレイフォンは更に言葉を続ける。

「だから金剛剄を、余り過信せずに対抗戦で使えても汚染獣相手には無謀な突進は止めて下さい。
 汚染獣相手に使えるからグレンダンではこの技の使用者は尊敬を勝ち取っています」

 そう言うレイフォンの目にも尊敬の念が見えた。その後何度かニーナに打ち込みを行ない基礎は覚えたからあとは数だけですと言って金剛剄の習得は終了して、そのまま今日の練習時間は終了した。


 訓練終了後は何時もの様にフェリとシャーニッドは直ぐに帰ろうとした時にノックの音と共に入ってくる人物が現れた。

「エド君、レイとんいる?」

 控えめな声がしてメイシェンを先頭に何時もの四人が鍛錬所にやってきた。

「あの~。訓練の疲れを取る為にお菓子を持ってきました」

 メイシェンの言葉にニーナは直ぐ帰ろうとした二人を引き留め全員でお茶会となった。


「エド君とレイとんの好みを聞いて味を二種類にしたの、エド君この味付けで良かった?」

 レイフォンとシャーニッドが皆の分のジュースを買ってきたら話しが既に弾んでいて皆馴染んでいた。

「へ~。金剛剄というと、リヴァース様の技よね。ニーナ先輩も凄いわね」

「そうか、やはりこの技の使用者は有名なのか」

「ええ、グレンダンの誇る武芸者でナッキたちと同じヨルテム出身なの。そして、レイフォンが懐いていた数少ない人ね」

「懐いていた何て、子供扱いはやめて欲しいな」

 リーリンの言葉に苦笑するレイフォン。そして。

「なぬ。そんな優れた武芸者を放逐したなんて聞いていないぞ。ナッキはどうだ?」

「いや、そんな話は聞いていないし、武芸の盛んなグレンダンでも通用するような武芸者を手放すとは思えないが」

「リヴァースさんは強すぎたんです。そして、汚染獣との戦いを目にしなければその強さを理解出来ません。だから、グレンダンにたどり着いたのです」

 ミィフィ達の疑問にレイフォンが答え、彼は臆病な勇者という他の都市なら侮蔑と取られかねない名で呼ばれる事もあると。
 武器を持たずに巨大な盾だけで汚染獣に立ち向かう姿とその勇気をグレンダン以外では理解できないだろうとも。
 人を傷付けたり、汚染獣と戦う事には何時も脅えるが、それでも決して逃げずに都市を守る姿にグレンダンの武芸者は皆尊敬していると締めくくった。

 その後、話が変わりニーナがフェリにもっと真面目に出来ないのかと、念威操者として情報収集と伝達を早く出来ないのかと問い詰めた回答は。

「わたしは今でも全力を出しています。これ以上何を望むのですか?」

「嘘ですね。もっと実力が有るでしょう」

 ニーナとフェリの間で険悪な空気が流れかかった所でレイフォンが更に爆弾を投げ込んだ。

「何故そう言い切れるのですか?」

「ロス先輩は去年は一般教養科で途中編入されたと聞きました」

 睨むような視線を無視してのんびりと答え、その発言に情報源のミィフィは思わず首をすくめた。

「そして、あの腹黒会長が身贔屓で能力を過信して無理矢理に小隊に編入させるはずがありませんよ。
 理由は知りませんが都市を本気で守ろうとしているんだし、特に今年は都市の命運がかかっているのなら、無駄な事は絶対にしないと思います」

「どうして、兄と言いあなたと言い、わたしの進路を勝手に決め付けるのですか。念威操者に好きで生まれたのではないのに、わたしだけどうして自分の進む道を選ぶ事が出来ないのよ!」

 フェリの怒りに皆が息をのむ。いや違う。今彼女はその念威の力を見せつけるかのように腰まで伸びた髪全体があふれた念威に光り輝きその美しさと念威の能力に皆が驚いていた。

「失礼。制御に甘くなって少し念威が漏れたようです」

 念威操者の情報処理能力と引き換えの無表情さのままに始めてその実力を小隊員たちに見せたフェリであった。
 それは普通の念威操者には絶対に出来ない念威の量であった。

 それだけの実力があって、何故都市の為に役立てないと興奮するニーナを同じ寮で生活し扱いの慣れたリーリンがなだめ、そのままフェリに穏やかに理由を聞く。

 その時には、既に週刊ルックンの記者になっているミィフィにこの話はオフレコで記事にしないでね。と注意を怠らないリーリン。その様な気遣いが無ければスクープとしてツェルニ中に話しが流れるかも知れなかった。

 そして、フェリは自分の力に疑問を持ち他の生き方を模索する為に兄のいるこの学園に無理を言ってやってきた事。
 それなのに、自分の力を利用しようとする兄に不信を抱いた事を何時の間にか聞き出されていた。

 それから、自分でも無意識に逸らしていた本音。兄が学園に出て行ってから母都市に始めて襲ってきた汚染獣。
 参加する義務が無かったがそれでもと請われて参加し、その時の汚染獣の死骸と多数の被害を出した武芸者を認識して、始めて戦いの恐ろしさを自覚して兄を頼ろうとした事を。

「確かに、わたしたち一般人はあなたたち武芸者に戦いを任せてシェルターに退避するしかないから、強い事は言えないわね」

「エド君。あなたは、自分の都市が襲われたから錬金鋼を学びたいと言ったけれど、自分が武芸者の死地に向かわせると言う事を理解していますか?」

 フェリの問いに普段と違った真剣さでエドは答えた。

「確かにおれは、覚悟は甘いかも知れない。しかしそれで少しでも仲間の、武芸者の危険が減るのなら努力はしてみたい」

 恐怖を覚え逃げようと思ったのと、レイフォンの協力によって最小の損害に抑えられた都市とは言え前に進もうとする者の違いがこの様な発言になったのであろう。

「それでも、一般人としては少しでも助けると思って力を貸して欲しいとも正直思っているわ。都市が滅びる時は一般人も武芸者も区別なく死が襲ってくるのですし。
 何よりも襲われた時もフェリ先輩の支援がなかったら、もっと被害が大きかったかも知れないのだから誇るべき事だったと思うわよ。
 もっと重要なのは、協力してくれてそれでもレイフォンが怪我をしたのならわたしは許せるけれど、もしボイコットをして怪我をしたのならきっとフェリ先輩を許せなくなるわ」

 リーリンの言葉に考え込むフェリ。それでも念威操者としての生き方に疑問を感じているフェリには躊躇いが残っていた。
 その様子のフェリに言葉続けるリーリン。

「まずは、念威の仕事をしてから文句を言えば、会長も反対出来ないはずよ。
 グレンダンでもリンテンス様という武芸者は戦闘以外なにもしなくても文句言われていませんし。フェリ先輩も逆に普段は他の仕事をしても良いと思うけれど」

 そうですか、新たな生き方を見つける事は念威操者を続けながらでも可能と言う事でしょうか。グレンダンには既に実例があるのですね。
 でも、あの戦いの恐怖は忘れられませんし、結局は念威操者からは逃げられないのですか。

 そんな事を思っていた時にレイフォンが背中を後押しした。

「戦いの恐怖を知らない人より、知っている人の方が誘導する時でも信頼できるものです。何より天才とうぬぼれる方がパニックになりやすい物でロス先輩なら本気を出せば皆信頼してくれます『本当の天才は災厄しかないけれどね。サヴァリスさんとか、先生とかバーメリンさんとか周囲を気にしないのが多いし』。それに、早く脅威を発見出来ると言う事はそれだけ余裕を持てると言う事ですから危険も減るから怖くなくなりますよ。
 グレンダンでは一週間も前から警報が出て準備をする事も珍しくありません」

 後日、フェリはリーリンとレイフォンの言葉に何か感じたのか、態度は変わらずとも情報の確度と速度が向上し第五小隊との模擬戦での勝率にも良い方に変化が出てきた。そして、バイト情報誌を手にする姿も良く見る様にもなっていた。



  あとがき

 フェリの反発は素直に育った子供が急に起きた第二反抗期だと思うんです。
 その上でいきなりの汚染獣戦の経験が念威を棄てようと思っただけで、本心はレイフォンの武芸同様に念威その物は好きなんではと解釈しました。
 本当は政務も放っておく陛下もいるんですけどね、グレンダンにはリーリンが知らないだけで。

 剄息。最初は剄量も少しは増える様な描写もあったんですよね。

 原作と違って共同訓練やレイフォンもやる気があるから原作の第三小隊の勧誘はありませんでした。



[24536] 10
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/10 19:09
  第十話


 休日の野戦グラウンド。

 今日は学園主催の小隊対抗戦のある日であった。
 そして四試合のうち、第三試合が新設された第十七小隊の初陣で今、観客席にはリーリンをはじめとする何時もの四人娘がいた。

 小隊戦の解説をするのは、やはり武芸者のナルキが担当だった。

 小隊人数は最低四人から最大七人までの戦闘要員が規定されていて、支援要員としてのダイトメカニックは員数外である。
 だから第十七小隊は最低人数で構成されていてる。今日の対戦相手の十六小隊も五人と少ない方だが、それでも少数というのはそれだけで不利である。
 あとメカニックは人数制限に関係ない為に今はエドもこの席には来られないで小隊の方に詰めていると言わずもながの事をミィは言ってメイシェンを赤らめさせてもいる。
 そしてルールとして攻撃側は防御側の陣地のフラッグの破壊又は全員の戦闘力の無効化。対して防御側は、攻撃側の司令官の撃破、又は時間内のフラッグの防御。その上で防御側は念威操者の操作による爆雷から足元の草を結わえたものや落とし穴まで罠の設置が認められていた。

 結論として今日の様に攻撃側になっている方が防御側になるよりは人数の少ない第十七小隊は有利であろう。しかし、十六小隊に対しては有利とかは言えない。と結論にならない結論を下していた。
 そしてもう一つ。

「通常小隊長は四年生以上で、ニーナ隊長は小隊員を一年から始めているが副隊長の経験も無くいきなり隊長になったんだ。
 その上にシャーニッド先輩が別の小隊で対抗戦の経験があるけれどロス先輩もレイとんも今日が初陣だから下馬評では8対2で十六小隊が有利と都市警の先輩も言っていた」

「そっかー。皆注目の新鋭小隊と機動力の第十六小隊。それでも賭けは手堅くて、第十七小隊は大穴扱いだもんね」

「賭けを行なっているのか」

 ミィフィの言葉に視線を鋭くするナルキ。更に周囲にも他にも行っているのが居ないのかと目を向けようとしていた。

「ナッキは武芸者だから、お固いねえ。大丈夫わたしも情報が集まるまでは賭けはしないわよ。それにこれは、公認では無いけれど生徒会も黙認状態だから、都市警も動かないわよ。第一あなたの先輩も言っている下馬評もオッズでしょう、気が付かなかったの?」

 ムッとうなったナルキの腰には錬金鋼の収まった剣帯があった。一年は例外以外は半年の間錬金鋼の所持が禁じられていて、まだ半年も経っていないのに所持しているのは、彼女がその例外の一つ都市警のマークを剣帯に印されているからだ。

「ゴメン。わたしはレイフォンの勝ちで一口買ったの」

 意外な人物からの告白に皆が驚く中。

「レイフォンのデビュー戦だから、どうしても記念に一枚買ったの。でもやっぱり、グレンダン以外でも武芸大会などの賭け事は禁止されているのね」

「当たり前だ。武芸者の力は天からの恩賜だ。それを賭け事の様な私欲に使う事は許されるわけが無い」

「全く、武芸者は真面目すぎる。そんなに興奮するとリンちゃんもメイっちも困っているじゃない。
 それに皆が楽しんでいる大会のお遊びなんだから難しく考えない」

 微妙な空気を払拭するためにわざと大きな声でナルキに注意をするミィフィ。

「うむ……すまない。だがリンちゃんが賭け事とは意外だ。
 で、グレンダンと比べてどう思う? 十七小隊の勝ちは堅いと思うか?」

「わたしが見ていたのは普段は道場でのお養父さんとレイフォンや他の門下生との鍛錬か、公式戦として行なわれる対抗戦位でどちらも基本は一対一だからチーム戦はほとんど見ていないの。だから何とも言えないわ」

 まあ、それでもあの笑顔を見ると勝つと思っているのだろうなと三人は共通に思い、ミィフィは自分も賭ければ良かったかもとさえ思っていた。

 リーリン自身は養父から武芸者の力による賭け事は好ましくないというう事を感じとっていたが、それでもレイフォンを許していた為にその証として敢えて賭けを行なってレイフォンの負い目を減らそうと考えていたのであった。
 王室からの情報操作による裏社会叩きの為に賭けそのものの罪よりも関係者への目が厳しく学園の黙認程度は大目に見られるレベルとも言えた。


 野戦グラウンド控室。

 遂にここまで来た。昨年度まだ早いと言われながらも小隊を立ち上げる事を決意し最低限でも規定人数を揃える事が出来た。
 新入生のレイフォンの助けもあり、考えてもいなかったゴルネオ先輩達との模擬戦が出来て経験不足も補えた。
 リーリンの説得もあって、フェリが実力を発揮するようになって探査能力も向上して戦力が高まった。

 いかん。考えてきたら新入生に助けてもらってばかりだ、何だか落ち込んできた。

「緊張しているのか、レイフォンはもっと青くなっている様だぞ。第一負けても死ぬわけでないから気楽にいこうや」

 ニーナの様子を見ていたシャーニッドが肩に手を当てて話しかけてきた。
 その気楽な態度に反論しようとして、落ち込む気分が無くなったのに気が付いた。
 意外と真面目なのか? 練習に出た時の態度も真面目だし。と思った瞬間に早く終わらせようぜ。この後デートの約束もあるしと言ってきて気のせいかと思いなおした。

「レイフォン大丈夫か? 今日の相手の第十六小隊は機動力が売りで、わたし達より一人多く戦力的には不利だ。
 だが向こうが防御側だからな、わたしが倒されないのなら負けは無い。お前に教えてくれた金剛剄も試合レベルなら使えるから安心しろ」

「大丈夫ですよ。ただ手加減を上手くできるかな~って」

 ハハッと気弱に笑っていた。そう全力なら瞬殺になってしまう為に、会長と武芸長。それにニーナと話し合って剄を押さえて普段共同訓練をしているゴルネオに準じた力を試合では出す事に決まっていた。
 その上で、負けそうな時にも抑えたままでいられるのかが不安であった。(負けたらリーリンが心配する)

「とにかく時間だ。グラウンドに出るぞ。フェリは開始と同時に罠の探知と敵の割り出しだ。出来るな」

「さあ。相手の念威操者の妨害能力しだいですけれど、やってみましょう」

「もし、妨害が強力ならば罠の探知を優先するように」

 フェリも真面目に練習に参加するようになると、今度は能力が高くても対人戦闘の経験不足による妨害や欺瞞行動に引っかかったりして模擬戦で敗北した事もあった。その結果、第五小隊の念威操者に対抗意識を持ち、真剣に能力を鍛え始めていたのである。
 そして今も、念威操者専用の錬金鋼である重晶錬金鋼(バーライトダイト)を握りしめていた。


「おお、久しぶりの感触。こういった雰囲気の中こそ俺には合っている。普段の三倍は実力が出る」

 グラウンドに出て観客の視線と上空の撮影機に手を振るシャーニッド。
 以前は別の小隊に居て既に何度も小隊戦の経験があったという事で、今も銀白の軽金錬金鋼(リチウムダイト)で出来た長銃身の狙撃銃を復元し肩に預けた形でリラックスしていたのは流石であった。

「本当なら、そう願いたいな」

 シャーニッドの態度に慣れてきたニーナは彼の発言にも怒らずに流していた。

「事前の打ち合わせ通りに、わたしとレイフォンがアタッカーを引きずりだす。シャーニッドはその間に移動してフラッグの破壊を担当。とにかく数が少ないから複雑な作戦は無理だ。力技でいくぞ」

 ノリのよい司会のアナウンスがスピーカーから流れてきた。さあ戦闘開始だ、レイフォンも錬金鋼を復元し青く透明な輝きを煌めかせて走り出した。

 鱗を重ね合わせた様なバーライトダイトから鱗が剥がれるように飛んでいき花弁のように変形した念威端子がフェリの意思によって会場全体を監視するように飛んでいった。

 障害物が幾つか作られ、樹木や藪で視界が遮られている中で前衛は突撃し、後衛は殺剄を駆使して射撃ポイントを求めて行く。

 すぐさま情報が小隊員に耳元の花弁のような端子から流れてきた。

「罠は……陣地手前まで目立つ物は発見出来ません。陣内に二名、陣外に三名。特に動きはありません」

「消耗もさせずに、わたし達を迎え撃つつもりか。舐められているのか」

 ニーナの疑念は外れていた。彼らは既に小隊上位の実力に謳われている第五小隊との共同訓練を繰り返し勝率を上げている事を聞いており油断出来ない存在だと知っていた。
 それ故に全力で後方支援の長距離射剄担当も会わせて各個撃破を目指し、安定した足場で自らの得意とする高速移動による戦闘を計画した。
 だからこそ、罠を仕掛けなかったのである。

「こちら、シャーニッド。ポイントに着いたがフラッグを破壊するのに二射は必要だ。攻撃するか?」

「暫く待て。向こうの注意を惹きつけて、チャンスを作る」

 シャーニッドに連絡を返しながらニーナはレイフォンの背後から敵陣へ接近していた。

 陣地直前までにレイフォンを先頭に前後に侵攻してきたが、相手側は横に並んだ三人が土がむき出しグラウンドに待ち構えていた。
 レイフォン達を確認すると同時に練り上げていた剄を剣身から振りおろしながら放出を行なった。三人の武器は全員が高速移動の時に当てやすい剣であった。

 衝剄によって、グラウンドの土が巻き上げられ目隠しとなり二人の動きが止まった。
 彼らも罠は仕掛けていなくても、作戦を考えていなかった訳ではない。乾いた土そのものを罠として煙幕に利用、動きの止まった所を内力系活剄の応用、旋剄による連続した一撃離脱により一人を倒し残りを三人で包囲殲滅する予定であった。

 しかし、相手が悪かった。既に土煙の向こうからの剄の高まりを感じ取られ、更に旋剄を使う事までも予測されていた。
 ここで、フェリから自分達の位置から三人がどの位置かも詳細な情報が送られ万全な態勢で迎撃準備がなされていた。

「来る」レイフォンの警告と共に土煙の向こうから良く練られた剄と共に襲いかかってきた第一陣。レイフォンは軽く横に避けるだけで直線移動しかできない旋剄では目標を失ってしまった。そのまま、速度を失った所でニーナと足を止めての打ち合いに移行していった。
 そして、続けて襲いかかってきた二人目は衝剄で迎え撃って足止めとして、三人目は二人目とレイフォンの位置関係から旋剄を中止せざるを得なくなり、普通の斬撃なってしまった。

 得意とする、高速戦闘を封じられ正面から切り結んだが二対一、しかも一年生ならば直ぐにでも勝負は付くと思ったが認識を改めなければならなかった。


「おおっと!! 期待のルーキー。レイフォン・アルセイフ、ベテラン第十六小隊の前衛二人と互角の勝負を繰り広げている。
 これは凄い。小隊長同士の戦いも不動の十七小隊対旋風の十六小隊。最早勝敗は不明です」

 司会の調子のよい台詞にリーリンとメイシェンは不安そうな顔となり、ナルキは活剄で強化した視力でも隊長戦は動きを捉えるのがやっとであった。
 そして、ミィフィはアルバイト先での週刊ルックンの原稿の練習として戦闘描写の草稿を口述していた。


「不安か? だが安心しろまだ二人とも余裕がある」

 突然彼女達の横にゴルネオの巨大な影が現れた。

「レイフォンは二人相手でまだ刀は一振りだし、旋剄の発動を防いでいる。それに二人ともまだ相手の剣を身体に当てていない。
 無論衝剄のダメージはゼロでは無いが、かすり傷程度だ。おれとシャンテの同時攻撃から比べると二人とも余裕だろう」

「レイフォン・アルセイフ、二刀流となりました。逆襲の時か?」

 ゴルネオの会話にかぶせる様な司会の言葉。それに対し、「あれは、後方からの射撃の麻痺弾を撃ち落としている。十六小隊の余裕は無くなったな」慌てることなく状況を説明するゴルネオ。

 アイアンダイトの刀を復元し見もせずに衝剄を放ち麻痺弾を撃ち落とすレイフォンを見て第十六小隊の面々は一瞬固まってしまった。それはレイフォンに対しては致命的な隙であった。

「隊長。敵念威操者の念威端子が念威爆雷として、近づいています」

 更にフェリからの情報。一挙に状況は流動的になってきた。
 ニーナは決断を下すとシャーニッドへの攻撃を指示。狙撃手も念威操者も既に注意がこちらに集中している今がチャンスと。

 固まった二人にサファイアダイトからの衝剄、円礫で弾き飛ばし、姿勢が崩れた所をアイアンダイトから細く固まった衝剄、針剄を連続で叩きこみ二人を戦闘不能とした。

 一方ニーナはほとんどその位置から動かなかったのが、忍びよった念威爆雷が近づくと一挙に旋剄でかわして油断していた相手小隊長を打ち倒した。

「勝者!! 第十七小隊。フラッグを破壊しました」

 それは二つの銃声が響きフラッグを破壊したのと同時だった。

「はっはぁ! 見たか、約束通りの二射だ!」

 興奮したシャーニッドの声が通信機が聞こえ、観客席の興奮した叫びが被さってきた。

 そして、仰向けに倒れこみ、あの時の試合以来良く見ていなかった青空を綺麗だなと思っていたレイフォン。

「おい、さっさと起き上がれ、次の試合もあるから早くグラウンドを空けるぞ」

 情緒も無いニーナの発言にがっかりしながら立ち上がって出て行く事になった。

 これが第十七小隊の初陣であった。


「ゴメンね。先にレイフォンを迎えに行くから」

「あ~、行ってらっしゃい。わたし達は最後まで見ているから気にしなくて良いわよ」

 リーリンを見送ったミィは次にゴルネオに視線を向けた。

「共同訓練を行なっているという事ですけれど、ゴルネオ先輩は第五小隊との勝率はどれくらいと思っています」

「レイフォンと一対一の実戦なら勝ち目はないが小隊対抗戦のルールならまだ有利だな。
 人数の差は大きい上に、これでもおれは二年から副隊長を務め小隊長としても二年目の経験に自信はある。
 副隊長の経験も無く授業での集団戦の指揮もほとんど学ばずに小隊長になった者と作戦能力の違いは試合では結構大きい。
 今後他の小隊も色々と作戦を考えてくるだろうから、次の試合が正念場だな」

「そうですか、ありがとうございます。今後の記事の参考にさせていただきます」

 残りの試合は順当な結果となり波乱があったのは十七小隊戦のみで本日の対抗戦は終了した。


  あとがき

 レイフォンは都市対抗戦の時のわざと剄量を落として戦った原作の様にゴルネオ+αの剄量を標準にしました。
 そしてニーナのピンチも無いから盛り上がりが欠けた試合内容になってしまい反省します。



[24536] 11
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/12 09:19
  第十一話


 喫茶店。貸切ルーム。

 第十七小隊の勝利を確信しきれずにいた上に、ニーナやレイフォンはその様な事に気を向ける性格では無かった為に、戦勝祝賀会を行なうといった考えを持っていなかったのだ。

 そこで、お祭り好きのミィフィが立案、ノリのよいシャーニッドが計画、交渉。苦笑いしながらリーリンが準備、流されて荷物持ちのレイフォンとなった。

 特にリーリンは寮の同居人の内、寮長が実験で帰りが遅いので夕食の準備と朝に焼くパン生地を捏ねてからやってくるという活躍であった。
 そして場所は学園に来てから自立心が芽生えたのか、メイシェンがケーキの味に惚れこんで学ぶ為にバイトを始めた喫茶店。
 時間は次の日の夕方。軽い打撲も治りあざや汚れも消えているからその日のうちに開くより怪我の功名でかえって良かった様だ。

 急な計画と予算の関係で料理の半分は持ち込みとなったが、夕方には準備が終わり第十七小隊とその友人達がそろいパーティーが始まった。

 アルコールが無しでも結構皆楽しんで騒いでいるようだ。ミィフィの陰謀でメイシェンは店でのメイド風ウェイトレス姿にさせられて涙目なのは気にしない。エドは喜んでいるし、ハーレイも女の子に話しかけシャーニッドに錬金鋼以外に話しかけていると驚かれてもいたから問題は無かったんだ。

 やや離れた席ではニーナとナルキが話していた。

「いえ、だから、あたしは都市警だけで小隊員になるつもりも、能力もありません」

「そんなことは無い。動きを見た所外力系はまだだが、内力系は充分練れている様子が判る上に、都市警に所属なら実践的な格闘技を学ぶのに小隊所属が有利になる筈だ」

「とにかく、あたしは小隊員になるのは断ります」

 その様子はやや離れた所でジュースを飲んでいるレイフォン、リーリンそしてミィフィが聞いていた。

「ねえ、どうしてナッキはあんなに小隊入りを嫌がっているの?」

「うん? ナッキはヨルテムに居たころから武芸者に疑問を持っていて、治安維持はまだしも縄張り争いである都市の戦争には迷っていたわ。そんなナッキを心配した親から留学を薦められたけれど、まだ力の使い道に迷いがあるみたいね」

「戦争か、ぼく達の都市であったのは、ぼくが憶えているだけで二回ぐらいかな? グレンダンの武芸者も戦争について真面目に考えていなかったな。ゴルネオ先輩もだから力を発揮できなかったのかな」

「何それ? グレンダンてそんなに平和なの」

「多い時は毎週のように汚染獣が襲ってくる都市の放浪ルートに普通の都市は近づかないから戦争は起きないよ」

 ミィフィの疑問に対しレイフォンは苦笑して答え、その凄まじさに改めて強いはずよねとミィフィは呆れかえっていた。

「自分の力に迷うのはフェリ先輩といい、学園に来る生徒には多いのかな」

「グレンダンの様にとにかく目の前の敵を倒していけば良いというのと違って考える時間があれば皆自分の道を迷うわよ。
 レイフォンだってもっと勉強してたら進路を迷ったはずよ」

「どちらにせよ、進路はリーリンの側にいる事が出来たら問題ないから武芸者でも何でも関係ないかな」

「ハイハイ、ごちそうさま。くそう、アルコールが欲しい」

 色々と会話が脱線した所、ニーナの方も一端は話しは中断となってナルキは夜間のパトロールに出る為に抜ける事になった。


 夜間、野戦グラウンド。

 都市警に所属しているナルキは祝賀会から抜けて、先輩の女性武芸家と一緒にパトロールを行なっていた。
 二日目の武芸大会も無事に終えた無人の野戦グラウンドでも若い男女が青い欲望に暴走して不埒な真似を狙ったり、マッドな工業科や錬金科の灰色の欲望が暴走して怪しげな実験を行なう輩が現れる恐れがある為に警戒は怠れないのがパトロールを行なっている理由であった。
 それでも、無人のグラウンドでは注意が減って無駄話がどうしても始まってしまう。そして、当然のようにこの二日の対抗戦が話題になる。

「昨日の第十七小隊の一年生は君のクラスメイトなの?」

「はい」

 苦笑してナルキは返事を返したが、先輩の目が興味に輝いているのが見えた。

「すごいねぇ。武芸科でもあれだけ綺麗な剄を練れる人は少ないわよ。単純な剄の量なら匹敵するのはヴァンゼ武芸長やゴルネオ隊長がいるけれど一年生であれほどとは何者かしら」

「余りハッキリとは言いませんが、グレンダン出身でゴルネオ隊長とは知り合いの様でした」

「ふーん、グレンダンは武芸が盛んというのは本当のようね。去年来た、グレンダン出身と言って威張っていた人は基礎も碌に出来ていなくて、半年くらいで辞めて居なくなったから、皆もグレンダンと言っても噂だけかと思われているわ」

 そうレイフォンは強い。普段は気が抜けた表情をしていて騙されるが、歩く姿や座っている姿勢は重心がぶれず武芸者として理想であろう。
 ただ、勉強に苦戦をしリーリンに叱られている姿からは武芸者に見えないのも確かだ。
 それでも、二人の会話からただの強いだけの武芸者ではなく何か秘密があると窺わせるものがあるのも確かだ。ミィは聞きたくてうずうずしているが、友人の秘密と言う事で今は控えているがいつまで持つ事か?

 その様な考えに沈んでいると突然大地が揺れた。
 咄嗟に近くの街灯に掴み転倒をナルキは防いだが、先輩はこの様な事態に慣れていなかった為か地面に座り込んで脅えていた。

 都震。多くの住民は忘れているが、レギオスは本物の大地の上を無数の足で移動していて、足を踏み外す危険が常にある。
 幼いころ経験していたナルキは、直ぐに都震と気が付き繁華街や居住区で火災や転倒などによるけが人が出るかも? と心配して様子を確認すると、火事や緊急車両の動きが無く安心した瞬間。それを裏切るかのようにサイレンが鳴り響いた。


 時を戻して、喫茶店内。

 そろそろ解散の時間となって、「二次会に行く人~」「明日は授業だ~」と会話が飛び交わっている時に揺れが起きた。

 レイフォンはその時、落下するような衝撃の後斜め下にずり落ちる感覚と共に戦場の気配を覚えた。
「これは!!」レイフォンは店内に居たマスターに通信端末を持ってくるように頼んだ、そして。

「ハーレイ先輩、エド。直ぐに研究所に戻ってダイトコントローラを持ちだして錬金鋼の安全装置の解除を行なう準備をして下さい」

「レイフォン君。端末だが気になる事でもあるのか?」

 マスターに軽く礼を言って、通信端末を受け取り通話を始めた。

「会長、レイフォンです。至急念威操者に都市外の探査を。ええ、そうです。間違いなく汚染獣です、一般生徒の避難準備もお願いします。それから、外部装備も一着で良いですから用意しておいて下さい。
 それでは一度話をして出撃をします。場所は? はい、判りました」

 人が変わったかのような鋭い声を出したレイフォンと会長との会話から流れた汚染獣という言葉に皆、固まったままレイフォンに視線が集中していた。

「皆さん、マニュアル通りにシェルターに退避して下さい。ロス先輩だけは申し訳ありませんが都市の外。地下にいる汚染獣、おそらく大きさは30メルトル以上の昆虫の様な姿をしています。それの発見と侵入ルートの探索をお願いします」

「レイフォン、これはどういう事だ」

「ニーナ先輩。汚染獣の繁殖形態の雌性体は地下深くに潜って卵を産み、共食いさせて育てます。ただし他に栄養素があれば共食いの必要がありません。今の衝撃は地下の空洞に落下し斜め奥に足が入り込んだ感触です。落ちたのは恐らくは雌性体の巣穴でしょう。
 直ぐにでも都市に襲ってきます、先輩も皆を誘導してそのままシェルターへ避難して下さい」

「何を馬鹿なこと言っている。武芸者が都市の危機に逃げる事などあるわけが無い。避難誘導は都市警が行なうから余計な心配をするな」

 レイフォンの返答に胸ぐらを掴む様な勢いで怒りの声を上げるニーナ。その様子に脅え始めた一般女生徒の中に啜り泣きを始めた者も出始めた。

「しかし……」


 ……グレンダン王宮。王家と天剣授受者が揃っていた。
 その広間にレイフォンは陛下の前に跪いていた。

「レイフォン・ヴォルフシュテイン・アルセイフ。お前は一人では何もできない。武芸者として天剣授受者に相応しい技量を持っているが、所詮は子供だ。勘違いをするな。
 金が必要なら、ここにいるミンス・ユートノールに頼むなり投資の専門家に相談すれば、安全な電子情報の貿易の投資を教えてくれただろう。天剣授受者、曳いては王家に詐欺を働く様な者はそう多くは無い。むしろ、王家に伝手を得る為に信用を無くさないように無謀な投資は行なう事も無く資金が増えたであろう」

 (ミンス・ユートノール。グレンダン三王家の一つユートノール家の当主。天剣になれるだけのだけの実力が無い事は最近自覚しているが、それでも最後の天剣を手にしたレイフォンには思うものがある。
 ユートノール家として過去に起こした幾つかのスキャンダルの対処で財政が逼迫していた。それを解決する為に放浪バスが来ることの少ない孤立しかけているグレンダンで電子情報の貿易を積極的に行ないユートノール家だけではなく汚染獣との戦いが多いグレンダンの王家と都市全体の財政を陰から支えていた事は一部の者には知られていた。
 他には都市防衛の要の武芸者と違い、他の都市の若い才能との接触による才能の開花と人材交流によるコネクションと引き抜きを期待し多くの留学生の支援も行なっていた)

「それにデルボネの念威の監視からこの都市の何所であっても逃れるわけが無い事を忘れている。
 そうだよ、わたしやデルボネは初めから闇試合の事は知っていたのだよ。そして、問題視にもしていなかったのだ。
 本当は、「闇試合なら本気で殺っても問題がない筈」と言ってサヴァリスが参加しようとするのを止めるのに苦労していた位だよ」

 その言葉を肯定するようにサヴァリスは笑っていた。ミンスはレイフォンを嫌っていたが、それでも依頼があったら協力した事は確実で陛下の言葉に苦笑を浮かべていた。

「そこでレイフォン。貴様は学園都市に行き、自らの未熟を自覚し他の多くの未熟者達の中で他人を信頼し共に闘う事を憶えよ。そして、便利な使い捨ての駒から脱却して人の上に立つ将に成長するように」


 ……陛下の忠告を思い出したレイフォンは一旦言葉を切り、考え直した。

「判りました、それではニーナ先輩はヴァンゼ武芸長の指揮下で迎撃に向かって下さい。それからゴルネオ先輩が汚染獣戦の経験がありますから意見を聞いて置くと良いです」

 そして、周囲の一般生徒に不安を与えないように小声でニーナに更に情報を伝えた。

「幼生体が全滅すると、母体は子供達の栄養にならない位なら他の仲間の栄養にさせる為にと最短で三十分で仲間を呼びます。
 それを防ぐためにぼくが都市の外に出て母体を潰します。そのせいで小隊の前衛はニーナ先輩だけになりますが、絶対に単独で戦わないで下さい」

 一瞬、顔を青褪めさせたニーナは直ぐに無理矢理に平静を装い、一般生徒はクラスメイトで同じ寮のレウに任せ、自分はシャーニッドにも声を掛け一緒に現地で情報収集をする為に武芸科校舎に向かうことにした。

 一方レイフォンはリーリンにカリアンと打ち合わせしてから出撃すると告げ、「無理をして怪我をしないように」などと心配を受けていた。又、生徒会長の許には念威端子による情報の共有化の為にフェリも同時に向かう事になっていた。
 そして時間短縮を図るのに身体能力は一般人と変わらない念威操者のフェリをレイフォンが連れていくことになり、フェリの手がレイフォンの首に回し高速移動による風の勢いで息が出来なくなるのを防ぐのに胸元に顔を向け抱きかかえられるという、俗に言うお姫様抱っこをリーリンの目の前でレイフォンは遣りやがった。

 近くでその遣り取りを見ていた、ミィフィとメイシェンは最初はむず痒く暑苦しく感じていたのに急に温度が下がったのを感じて「あぁ、温度が下がる空気というのは小説の話だけでないんだ」と現実逃避をしかかっていた。

 一方、レイフォンはハッキリ言ってリーリン以外は対象外の為に、逆にリーリン相手には出来ないこの様な行動を平気で取れたのだ。その結果、なぜ急に機嫌が悪くなったのが理解出来なかったりする。(既に出発しているエドなら滅びよと叫んでいただろう)
 リーリンはそれでもこれから危険に立ち向かう事は理解している為に、地面を見つめ心を落ち着かせてから今一度「気を付けてね」と言って送り出す事ができた。
 グレンダンで天剣授受者相手にこの様な事。特に幼生体相手に言う事は考えられず逆に笑われるが、それでもリーリンは願わざるを得なかった。
 皆が笑顔で戻ってくる事を。

 リーリンの祈りの言葉にレイフォンは笑顔で答えて先ほどの連絡で何時もの会長室ではなくカリアンが今いる武芸科校舎中央部の会議室へと飛んだ。
 フェリの安全を考え活剄による全力を行なわずに鋼糸による直線移動を行うことにしたのだ。
 そして、建物の屋根を伝わって最短距離かつ、直接会議室の窓へ飛び込む事により予想以上に早い到着でカリアンを驚かせた。

 会議室には、カリアンの他に武芸長のヴァンゼが着いており情報収集と避難対策が始まろうとしていた。
 そこへ窓から入ってきた二人にギョッとしていたがそれを無視してフェリは部屋のモニターに念威端子を取りつけて都市内外の映像を映し出した。
 その頃に漸く錬金科、機械、機関科に生徒会のスタッフが集まり現状把握と対策が動き出した。

 ツェルニの長い夜が始まった。夜明けはまだ誰も判らない。


  あとがき

 レギオス世界では携帯も固定電話も特に表現されていないから通信手段が不明だから固定電話がメインと勝手に判断しました。



[24536] 12(第一巻終了) (改定)
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/14 03:08
  第十二話


 武芸者校舎塔、会議室。

 ツェルニの最高責任者のカリアン・ロスの前に各科の責任者とスタッフが揃い現状把握が日待った。

「状況は?」

 カリアンの短い問いに、ひょろりとした長身の男の青白い顔からの答えは絶望的だった。

「ツェルニは陥没した地面に足の三割を取られて脱出が不可能な状況です。
 通常なら抜け出す事が可能なのですが、現状は……取りつかれていますので」

 そこへ、フェリからの念威端子の映像が送られ何人かは「ヒッ!」と小さな悲鳴を上げる者もいた。
 次にヴァンゼへ顔を向ける。

「生徒たちの誘導は?」

「幸い、お前からの連絡が早く、初動が間に合って都市警を中心にシェルターへの誘導を行なっているが、それでも現状は混乱を抑え切れていない」

「仕方がないでしょう。実戦の経験者は学園では希少な存在なうえに、わたしの責任でもあるが汚染獣に対しての訓練はほとんど行なっていませんでしたら無理もありません。それでも、速やかにお願いします」

 次に錬金科の代表を見る。

「全武芸科の錬金鋼の安全装置の解除を。都市の防衛システムの起動も急いで下さい」

「ただいま、行なっています」

「それから依頼した、都市外戦用の装備の準備をしてくれましたか?」

「確かに、これですが一着持ってきましたが、しかし一着くらいでどうするのですか?」

 ゴツイ姿の汚染物質遮断スーツを代表の後ろに居た生徒に合図をして前に持ってこさせた。

「アルセイフ君、この戦闘用スーツだが大丈夫か?」

 カリアンの台詞で、ほとんどの人間がこの場に責任者では無いただの一年生が会議室にいる事に気が付いた。
 そして、不法侵入者として文句を付けるより早くにレイフォンが口を開いた。

「ダメですね。これでは、ほとんど鉱山などの作業用の都市外装備と差がありません。
 今回の産卵直後の弱った雌性体ならこれでも何とかなりますが、雄性体と戦うのなら強度、機動性共に不合格です。
 今後の用心の為にも改善をお願いします」

「き、君はいったい何を……」

「雌性体とはどういう意味だ?」

 不躾なレイフォンの言葉に下級生が何を言っていると怒りに震える錬金科科長の言葉を遮りヴァンゼは雌性体という聞きなれない言葉に反応をし、問い質した。

「今ツェルニを襲っているのは、最弱の汚染獣、幼生体です。これが脱皮をして雄性体、更に脱皮を繰り返して繁殖する為の姿が雌性体です。幼生体を全滅させると最短で三十分で母体が自身の子孫の滋養にならないのなら仲間の滋養になれと他の汚染獣を呼びよせるのです。その為に先にぼくが都市の外に出て母体。雌性体を倒します」

 今、目の前の存在の脅威に対処するだけで精一杯なのに更により大きな脅威の存在を知らされ多くの者が絶望を覚えていた。
 しかし、それでもカリアンは挫けていなかった。

「各小隊の隊員を直ぐに集めて下さい。彼らには中心になってもらわねば」

「できると思うか?」

 青い顔をしたヴァンゼの問いは会議室にいるほとんどの生徒の問いでもあった。
 学園都市という学生だけで運営されている事での最大の弱点であるプロがいないことが今、カリアンの肩に重圧として圧し掛かってきた。

「できなければ、死ぬだけです。武芸科生徒だけではなく、わたしたち全てが」

「小隊員だけで百名近い人数です。これは実力を抜きにすれば平和な弱小都市の武芸者の総数に匹敵します。その上で数の多い幼生体相手なら、学園都市の武芸科全体の数が多い事は現状では有利な点です。
 とにかく、飛行中の相手を落としてから地上で一匹に対し複数でかかるようにして下さい。そして、小隊戦のように攻撃は受け止めずに確実に避けて、一撃では倒せないから連続攻撃を実施する事を徹底すれば戦線を維持できます」

 カリアンの揺るぎない覚悟の言葉の後にレイフォンの有効な対策の発言に死の影に脅えていた皆に希望が見えてきた。

「なんとしてでも、我々は生き残らなければならないのです。全ての人の、いいや自分自身の未来の為にも。各人自分の立場にそった行動を取って下さい」

 そして、カリアンの冷たく迫力のある発言に対し全員が起立し動き出した。


 都市外縁部最前線。

 念威端子から全員に伝えられたヴァンゼ武芸長の檄文。

「現在侵攻中の汚染獣は幼生体と呼ばれる最弱の存在。だが、我々はそれよりも遥かに弱き生き物だ、決して油断はするな。しかし、本能だけで行動する存在に必要以上に恐れるな、弱点を甲殻の隙間を確実に攻めて汚染獣にはできない連携攻撃で倒すのだ。
 現在の判明している数は千匹以上、しかし連中は一度には攻めて来れない我々は勝てる。もう一度言う、恐れるな総員の勇気と奮起に期待する。以上」


 ギチギチギチギチギチ……大地の地下奥深くから音が聞こえてきた。
 赤い丸みを帯びた甲殻にまとわれ、小さな頭部に赤く光る二つの複眼が地下の洞穴から無数に見えてきた。
 母体が生みだしたばかりのわが子たちに伝える。頭上の光には栄養がある、さあ捕食し強くなっておくれ。その為には飛んで向かうんだ。
 大地に降り注ぐ汚染物質を養分に出来る成体と違い、幼生体は共食いによって栄養を取るがそこにより容易く捕食できる存在があると母体より知らされ、ひたすら目指していった。
 昆虫の翅によく似た透明な翅を広げ光に向かって飛んでいく。ヴウウウウウウウウ……不気味な羽音が響く。


 都市外縁の前線のすぐ後方。仮設テント。

 負傷者が出た時に対処する為の医療科。戦闘中に破損した武器の代替を準備する為の錬金科。
 今はハーレイも小隊以外の一般武芸科の分の錬金鋼の安全装置の解除も終わらせ熱を持った機器を冷やしているところだった。
 そこへ、遮断スーツを着込みヘルメットを小脇に抱えたレイフォンがやってきた。音も気配も感じさせずにハーレイの傍らに気がつけば立っていた。その顔は普段のお人よしな笑顔とは全く違いハーレイは戸惑いながらも声を掛けた。

「君、どうしてここにいるんだい?」

 てっきり準備が終わり既に前線に向かっていると思っていたレイフォンが現れた事に驚きを隠せなかった。
 レイフォンは腰の剣帯から錬金鋼を取りだした。

「お願いがあります」

「もしかして、安全装置の解除はまだなの?」

「それもですけど、もう一つお願いが……今から寮に戻って取りに行くのは間に合いません」

「もう一つ?」

 慌てて機材のスイッチを入れながらハーレイは疑問を口にする。

「設定を二つ作れますか?」

「二つ?」

 ハーレイは再び驚き、レイフォンに向き直った。

「二つです」

 差し出された錬金鋼を前に、真面目な顔をして頷くレイフォンの意図に理解を出来ずにいた。
 錬金鋼の安全解除を行なう機材は設定の変更も出来なければ錬金鋼を破損した武芸者に新しい武器を与えらなくなる為に当然可能であった。

「無理ですか?」

「いや、無理じゃないよ。設定するだけなら簡単だけど、使いこなせるの?」

 錬金鋼を復元するのには、使用者の剄を走らせて、起動鍵語を発することによって設定された形状になるのだ。
 この剄が問題で、起動鍵語が二つにしても同じ質の剄では二つの設定が活かせず、個人で二つの質の剄を発生させて使いこなすのは滅多におらず使い勝手が悪くなるのであった。

「使い分けられるのかい?」

「いえ、でもその問題は解決できます。起動条件に剄の発生量を設定すれば問題ありません」

「今からなら微調整は出来ないよ。それなら、錬金鋼を二つ用意した方がいいじゃないか?」

「微調整が出来ない今では、使いなれた状態の方が良いのです。
 それでは、憶えています設定数値をそのままにサファイアの方に入力を」

 ハーレイの当然の疑問に答えて、もう一つの復元状態のパラメーター数値を告げた。
 機材の前で設定を入力していたハーレイの指が途中で止まった。

「へっ?こんな細かなもの、使いこなせるの?」

「使いこなせます」

 ハーレイの疑問に簡潔に答えその自信のある声に促され再び入力を始めた。
 安全装置を解除し新たな設定を追加したサファイアと刀だけのアイアンを手渡したハーレイはレイフォンに小さな震える声で問いかけた。

「僕たちは生き残れるよね。ニーナも僕も君も他のみんなも……」

「戦いに絶対という言葉はありませんが、必ず守って見せます。リーリンの為にも皆の笑顔を守って見せます」


 ツェルニ都市外縁部。第十七小隊担当区。

 現在、第十七小隊は小隊員が二名しかいなかった。残りは一般武芸者による増援の補強で対応していた。

「明日はデートの約束があるんでね。死ぬわけにいかない」

「残念だが、明日、明後日は一般教養科は都市の修復や整備に武芸科は警備と仕事が有ってデートはキャンセルだ」

 地上から飛んできた幼生体の群れを前に、軽口を叩くシャーニッドにニーナも軽く返した。周囲もシャーニッドの言葉に緊張が解けて、ニーナは感謝をするとともに扱いを覚えたようだ。

 長距離射剄兵器、剄羅砲。大型で移動、照準が難しい砲。今幼生体の群れにその威力を見せようとした。
 入学式で問題が発生したように、一年生はレイフォンや都市警の様な例外を除き半年間錬金鋼の所持を禁止されているが、外力系衝剄が得意な者が中心にこの砲に剄を込めていた。

「発射ーッ!!」

 射撃系剄技が得意な生徒達が遂にそれを発射した。
 緊張に訓練通りの命中率とはいかないがそれでも飛来する幼生体を都市外縁部に堕とし、都市内への侵入を防ぐ事が出来た。
 落下した幼生体は山の様に折り重なり体勢を立て直すのに時間がかかった為に一度に襲いかかって来れず、ニーナ達地上部隊の近接戦闘班でも戦えたのであるが。

「か、硬い。皆、気をつけろ!」

 ニーナに付いた同じクラスの武芸者二人に警告を発する。安全装置を解除し剄の流れのスムーズになった、クロムダイトの鉄鞭であっても僅かにへこむだけであった。始めての人以外の戦闘で無意識に踏み込みが遠いのも原因の一つだが、剄の扱いがまだ未熟であった証である。

 時間がどれほど経ったのか? ニーナも汚染獣戦の緊張と数の多さに対人戦では正確な体内時計も狂ってきていた。

 同時刻。生徒会校舎、尖塔上。

 レイフォンはどこに母体への進入コースがあっても大丈夫な様に都市中央部のこの場所に待機していた。

「発見しました。」

 レイフォンのヘルメットに取りつけられていた念威端子からフェリの声が聞こえた。

「方位一三0五の方向。距離三キルメル。地下十二メル。……侵入路発見。誘導します」

「レストレーション02」

 起動鍵語と共にサファイアダイトが柄だけに復元された。いや、肉眼では捉えられないほど細い鋼糸に無数に分離していた。
 そして、鋼糸を都市外縁まで伸ばし、そのまま引っ張られるように飛んでいった。

「少々の汚染獣とぶつかるコースでも構いません。幼生体の百や二百位は移動速度に影響はありませんから時間を優先で誘導をお願いします」

 エアフィルターから直接都市を飛び出し汚染物質の満ちる大地に立ち誘導された大地の亀裂に飛び込む時に次いでとばかりに更に現れてきた幼生体を鋼糸で切り裂いていったレイフォン。その切り裂かれた姿を念威端子で確認したフェリは過去を思い出し息を呑んでしまったがすぐさま誘導を再開した。これも、訓練の成果か?


 ほどなく三キルメルの距離を踏破して雌性体の前にレイフォンは出た。
 その姿は幼生体によく似ていたが、腹部が無数の卵を溜めこんでいた為に巨大に膨れ上がっていた。そしてその腹部は産卵し這い出た幼生体の為醜く切り裂けていて弱っていたのが判るが、それでもいまだに巨大な圧力を発していた。
 その圧力はフェリを通しての会議室のモニター画像越しにも伝わり、カリアン以外の残っていたスタッフは本当に倒せるのかと動揺が走った。

 その弱った雌性体を前にレイフォンは。

「レストレーション01」

 サファイアダイトを刀に戻して。

「生きたいという気持ちは同じなのかも知れない。死にたくないという気持ちも同じかも知れない。
 それだけで満足できない人間は、贅沢なのかもしれない」

 言葉を紡ぐレイフォン。そして。

「でも、生きたいんだ。我が儘かも知れないが、その上で、ぼくはリーリンの笑顔を守りたいんだ。だから詫びるつもりはない」

 刀に剄を込め刀身を巨大化させて正面から振りおろした。唯の一撃で縦に両断され更に断面に多数の斬線が走り無数に引き裂かれていった。

「母体の死亡を確認。レイフォン、現在防衛線が苦戦中です。至急都市に戻ってください」

 フェリの感情の消えた声が会議室とレイフォンに届いた。それは、戦いが最終局面に移った事を知らせた。


「お、多い」

 念威操者からの情報によると確かに減ってはいたが、ニーナは倒した数より現れる汚染獣の方が多く減った実感がなく焦り始めていた。
 何より始めての人間以外との戦闘による緊張で感覚が狂って来ていた。

 その時、横で戦う都市警の分隊を見た。
 囮役のナルキが内力系の使いが上手く確実に打棒を打ち込み注意を引きつけ、その隙に仲間の都市警が攻撃を重ね確実に倒しているのを見て、小隊に勧誘した自分の目は確かだったと気分を落ち着かせた。
 ニーナ自身は不慣れな連携の為に既に一人が負傷し退場。今一人は武器を破損し予備を取りに行き一時的に一人という危険な状態でも自分を取り戻し、まだまだ戦えると気合を入れ直した時にフェリより連絡が入った。

「レイフォンが母体を殲滅したのを、確認しました。現在都市へ帰還中。今後小隊の情報支援にわたしが入ります」

 一方レイフォンは幼生体の群れの中を鋼糸で切り裂きながら都市へ向けて突っ切っていった。
 微調整が終わらずにいた鋼糸を実戦でその感覚のずれを直していたのである。
 これは同時にレイフォンは知らなかったが、後方からひっきりなしに増援が来る防衛側の圧力を減らし態勢を立て直すチャンスでもあった。


 レイフォンが雌性体を殲滅、帰還中という情報はヴァンゼの耳にも届きここが転機と悟った。

 今まで倒すよりも襲撃数が増えて徒労感が溜まっていたのが理由が不明だが襲撃の空白が生まれ武芸員の士気が高まりニーナも「これは、イケる」と思った時にそれは起こった。
 最初に気が付いたのはフェリだった。

「そこの剄羅砲発射中止をして下さいっ!!」

 悲鳴のような警告。一部剄羅砲部隊が戦果に焦り、本来は墜落して山になっている幼生体の群れの上部から順に崩していたのを水平射しようとしていた。だが、警告も遅く発射され、幼生体の山が前面に崩れなだれ込んできた。

「またか。またもや、わたしは何もできずに都市をツェルニを守れないのか」

 二年前の学園対抗戦の時の無残な敗北を思い出したニーナはそれでも勇気を奮い起した。

「いや、わたしはまだ戦える。ツェルニとの誓いを、守ると言った言葉に偽りはない」

 もはや、避ける隙間も無い数の幼生体を前に怯まずに構えたニーナの前に再び事態が急変した。

 突如動きが止まり、縦に横に無数の汚染獣が切り裂かれていった。
 最弱の幼生体といっても、今まで一撃では破壊できない強靭な甲殻が熱したナイフでバターを切るかのように容易く切断する様子に助かったと思う事も無く驚いていた。

「ニーナ先輩。無事ですか?」

「レイフォンか?」

 フェリの念威端子から声が聞こえ、今の攻撃が手段は判らずにもレイフォンが行なったのかと悟った。

「今到着しました。これから、殲滅します」

 次の瞬間いまだに生きている多数の幼生体がその場で次々と切断され生命反応が消えて行った。

「これは?」

「鋼糸です。うかつに近づかないで下さい。簡単に人体も切断します」

 目を凝らして漸くわかる光が判った。これほどの実力があったのかと驚くニーナ。
 その間に都市に張り付いた幼生体が全滅し、淡々とフェリからその事実が告げられてもニーナの耳には届かなかった。

 最後にツェルニに向かう途中で討ち漏らした数十匹の幼生体も遅れて現れたが最早敵ではなかった。

 士気が回復し一匹当たり一個分隊ではなく、複数のチームが襲いかかれる今では十数分で殲滅させろ事も容易だった。
 その後武芸者達は勝利の雄たけびを上げていた。

 カリアンとヴァンゼも全滅を確認し、戦闘終結の宣言がなされ都市全体が歓喜に沸いた。

 ツェルニの長い夜もここに明けた。



 あとがき

 今回は長かった。複合錬金鋼のフラグの為にハーレイの会話が必要と思い入れたら、くどくなってしまった。
 単純距離、往復60キロを五分で走破って無理じゃねと思い変更。
 ついでに先に雌性体を潰してもらいました。
 そしてゴルネオ君の百人衝&咆剄殺デビュー。レイフォンの悪目立ち防止です。

 ロイの都市で百人と言っているから小隊員がエリートと呼ばれる位だから全校で千人くらいはいるだろうから被害を無視したら対抗は出来るとは個人的には思う。

 アニメの幼生体。王蟲というより日本BMを思い出し背中から分裂しないかと思って観ていました。

 皆さまの感想により無理があると思い直しゴルネオ君の奥義デビュー中止とします。



[24536] 13(幕間)
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/14 22:27
  第十三話


 建築科実習区域女子寮。

 ニーナを始めリーリン達が住んでいる寮も昨夜遅くに汚染獣撃退の報を受けシェルターから戻り皆が仮眠を取っていた。
 戦闘要員であったニーナは帰るのが最も遅く、又興奮していた為に眠りが遅かったが、習慣と朝のパンの焼けるバターの匂いに目が覚めた。

「おはよう」

 既にリーリンは起き出して朝食の準備をしていた。
 何時もの卵料理にスープ。昨夜のパーティー前に生地を捏ねていたパンが焼きあがっていた。

 「ああ、おはよう」

 昨夜の事を何も聞かれずにいた事に拍子抜けすると共に安心もしていた。
 食卓はニーナの食事量が武芸者の為に多いから、パンだけはたっぷりとあり、それを挟むハムとチーズも用意され自分でサンドウィッチを作れとなっていた。
『レイフォンもグレンダン時代はそうだったのかな?』などと取りとめない事を考えていると他の寮生も起きてきた。

 彼女達の顔を見て漸く日常を守れる事が出来たのだと実感が沸き、勝利への確信を得る事を噛みしめた。


 喫茶店ベランダ。

 モーニングをナルキとミィフィが採っていた。今日は勝利記念として特別サービスを行なっていて、バイトのメイシェンも大忙しだった。

「昨夜はご苦労様」

「ああ、ありがとう」

「ニーナ隊長と同じ所で戦ったというけれど、無事でよかったわ」

「ああ、武芸者全体でもけが人だけで死者が出なかったのは後から思うと奇跡と言えるかもしれない」


 先輩と共同で何匹も倒しても一向に減る気配の無い汚染獣。むしろ、目の前の敵は増えて行くほどだった。
 先頭で戦っているニーナ先輩を見ていなければとっくに挫けていたかも知れない。
 その時念威端子の声が変わり、フェリ先輩の声がしたと思うと。

「レイフォンが母体を殲滅したのを確認しました。現在都市へ帰還中。今後小隊の情報支援にわたしが入ります」

 今まで、所在不明だったレイフォンが一人別行動を取っていて今戻ってくると。そして、フェリ先輩の情報支援は文字通り見えない所にも手が届くと言った風に死角から意識の外からの襲撃を警告してくれた。
 
 その時、射撃部隊のミスで雪崩れこむ汚染獣。誰もが死を覚悟した時、冗談のようにバラバラになる汚染獣。
 そして、都市外縁部の端に一人立っているレイフォンが柄だけの錬金鋼を持っていて剄を込めたと思うと、更に数百も残っていた汚染獣が呆気なくその命を消していった。ニーナやシャーニッドは鋼糸と言われて視力を強化して始めて見えたがナルキには全く視認できずに剄の気配だけが僅かにあった。


 同じ頃。
 ニーナは一人食事が終わった時レイフォンの鋼糸攻撃を思い出し震えていた。
 同じ人間、否武芸者であるのだろうかと。自分には追い付く事出来るのか?
 そしてバイトの時に話していたグレンダンにはまだレイフォンを上回る武芸者が居り彼らが複数で戦っても敵わない陛下が頂点に君臨していると。
 信じられないが、だからレイフォンが都市を出る事が許されたと。
 一体どれほど強い都市なのだろうか?


「あっ。レイとんとリンちゃんだ。珍しく朝から二人でいるんだ」

 ナルキとミィフィに食後のデザートを持ってきたメイシェンは道路の二人を見かけて声を出していた。

「おやっ 珍しくこれはデートかな?」

 ミィフィはメイシェンの言葉に反応したがナルキは苦笑しながらも止めていた。

「ナッキは知らないけれど、シェルターの中のリンちゃんは格好よかったよ。ねえ、メイっち」

「う、うん。上級生の男子を一喝して不平を黙らせたの」

「前回の都市対抗戦の惨敗を見て判る様にツェルニの武芸者は弱い。だから早く逃げろ。みたいな事を言っていたら、命を掛けている武芸者に失礼だ。そしてわたし達が信ずる心が武芸者の力になるの。って言葉で一喝したら他の皆も含めて不平も不安も消えたわ。で、編集長も今回の特集の見出しに使おうかと言っていたわ」

「そうか、そんな言葉を。信じてくれていたのなら、名誉な事だ。何割がレイとんの部分かは不明だがそれでも嬉しいな」


 生徒会棟。会長室。

 各代表からの報告書を読みため息をつくカリアン。

「剄羅砲の移動による道路の破損の修復。外縁部の防御柵も一部は汚染獣の体当たりによる、破損と電撃網の断線。外壁の有機プレートの損傷は自然修復するとは言え、直す必要があるな。
 避難の時の一般生徒にもけが人は出たが、武芸科も含め死者が出なかったのは不幸中の幸いか。
 人手も費用もかかるし、明日までは休校だが都市対抗戦を含め防衛態勢を皆に考え直してもらうか。
 武芸科の諸君の安全装置も明日には全員かけ直している事の確認も頼む」

「レイフォン君の活躍で被害は最小になったのは確かだ。
 グレンダン出身は強いと聞いてはいたが、あの決闘を見た後でもその実力は理解していなかったようだ」

「私もグレンダンでは試合しか見ていなかったからね。あれほどとは、思わなかったよ。
 ただ、噂で一人で汚染獣を圧倒する武芸者の存在を聞き、試合を見てアルセイフ君に賭けてみてそれに勝ったということだ」

 レイフォンについてまだ何か隠しているのでは?と疑っているヴァンゼに何でもないとカリアンは笑って答えた。

「アルセイフ君の鋼糸は危険すぎるから試合での使用は禁止にしましょう。グレンダンは本当に実戦的な技が多すぎます。
 とにかく、皆が生き延びた事には感謝をしましょう」

「うむ、そうだな。明後日から戻る日常では武芸科は皆新たな気持ちで鍛え始めるだろうし、今日は褒美としてゆっくりとさせよう。
 けが人以外では初めての命の遣り取りでペースを狂わせて剄脈疲労を起こしたのがいるだけだが安心して良い」

「大丈夫なのかね?」

「問題無い。数日寝れば皆治る程度だ。ただ、第十小隊のディン・ディー小隊長が普段の武器では汚染獣に役に立たないと慣れない剣を使った為か一番酷いが彼も後遺症はない」

「ならば良い。戦力の低下にはならず皆貴重な経験を積んだと前向きに考えよう」

『フェリも念威操者としての生き方に前向きにもなったし、努力することも覚えたから今年の大会の後、私が卒業しても大丈夫だろう』


 繁華街。

 日頃バイトに訓練。又は勉強で図書館とほとんど二人は遊びをしていない為に復興で学業が中止となった今日ぐらいしかゆっくりと散策することが出来なかったのである。


 リーリンは学園に来る時にスカートを穿いていたが、グレンダンの時もツェルニに来てからも動きやすい格好と言う事でスカート姿になる事は制服以外にはほとんど無かったのである。

 そこでレイフォンは今回の汚染獣戦で母体を斃した事で危険手当の割り増しもあるだろうとプレゼントを考えて店に入ったのが間違いであった。

 店内の第一印象は二人とも共通。“ピンク”の一言。

 壁にショーウィンド。店内にディスプレーされた服はピンク、どピンク、蛍光ピンク。語彙の乏しいレイフォンにはそれしか言えない色で学園の生徒に体形を合わせていてもどう見てもグレンダンの園の妹達向けの様な可愛いというよりも幼いデザインであった。

 店員がやってきて何か声を掛けてきたようだが、リーリンもレイフォンもほとんど応答せずに気が付いたら店から出ていた。

「あんなデザインの服がツェルニにあるとは思わなかったよ」

「ほんとうに、誰が着るのかしらね~」

 公園のベンチで座って落ち付いたら先ほどの衝撃の店について二人が話し、同時に思い浮かんだのは。

 不機嫌な顔でカリアンに手を惹かれた幼くなったフェリと動きにくいと暴れて泥だられけになったシャンテ。

『うわっ! 似合いすぎている』

「「失礼な事を考えるのはやめよう(ね)」」

 発言も重なってしまった。

 その時、殺気は無くても何か視線を感じたレイフォンが振り返るとナルキに止められていたはずのミィフィがカメラを持ってこちらを覗いていた。

「何をしているのかな~?」

「いやー、戦後の武芸者の日常を…… ゴメンなさい」

 レイフォンの視線に負けて降参するミィフィ。そして差し出す手に渡すメモリーチップ。
 下手にダミーを渡すとレイフォンよりリーリンの方が怖いので見つかった段階で素直に渡すことにしたのだ。

「ついでに情報通のミィに聞きたいけれど、リーリンに似合う様な服を置いている店を知らない?
 さっき入った店は大失敗だから教えてくれたら許すし、大感謝するよ」

 で、どこに行ったのと聞いて、店内の様子からジェイミスの店と見当を付けて「うわーっ。ご愁傷様」という感想しか沸かなかった。
 そこで、いつもと違い値段よりも品質優先の服を置いている店を何店か紹介してもらって出かける事になった。

『ふーん、リーリンにプレゼントねえ。あの朴念仁がそんな事に気を使うとは天変地異が起きなければ良いけれどね。
 今回は友情に免じてこれ以上の追跡は止めましょう』


 買い物の後はメイシェンと合流しレイフォンやエドの住んでいる第一男子寮に女性が訪問という快挙をなしとげた。
 これは、二人の他にもいる生存祝いで彼女と一緒に祝う事の出来ない悲しい男達の為に二人が手料理を振る舞う為であった。

 料理完成後に二人が帰る時にそれぞれレイフォンとエドが送っていったのである。


 
 メイ達三人が住んでいる寮のリビング。

「それで、わざわざ料理を作ってその後送ってもらったけれど、野郎同士で宴会してメイっちを除け者?
 考えられないわー。あのデブは何を考えているのかしら」

「い、いや、ミィ。あのね、後でエド君はダイトの調整で研究所に戻るし、レイとんは今晩バイトを行なえば割増料金が貰えるからバイトに行くからと二人とも直ぐに留守にするからそんなに一緒にいられないから良いの」

「ホントにもう。あのレイフォンですらリーリンにプレゼントをするのに、欲が無いわね。
 これはバンアレン・デイに期待するしかないわよ」

「「バンアレン・デイ?」」

 ナルキとメイシェンの二人の疑問にミィフィは勿体ぶって言った。

「数ヵ月後に判るからそれまで楽しみにしていなさい」


 第一男子寮

「それでは仕事に行くから片付けを頼むよ」

「応、任せとけ。手料理を食わせてくれたんだ、それ位は容易い」

 男達は酒が無くても可愛い女の子の手料理を食べられたので皆機嫌が良かったのだ。
 エドは一時間ほど前に既に出かけていたのだ。
 出かける前にあのエドに女の子からの手料理と嬲られてはいたのはお約束。


  あとがき

 後日譚的、蛇足話しです。構成が下手ですから不要かもしれませんかな。
 甘々な話の勉強にしようとして、全然出来なかった。反省です。
 黒いと言われるここのリーリンの汚名を返上しようとしたのに。

 戦場心理としてはいきなり日常生活に戻る法がストレスが増えるらしいですけれど、ここはフィクションとして日常に戻って喜んでもらっています。



[24536] 14
Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/19 14:57
  第十四話


 野戦グラウンド。小隊対抗戦。

 終了のサイレンが騒々しく鳴り響いていた。
 試合の結果の判定。二つの小隊の優劣を無情に報せる合図であった。

「お、お、お、……おーっと!! これは、これは~!!」

 我に返った司会の興奮した声がグラウンド内にやかましいほど響き、観客席のざわめきを拡大していった。

「まさかの大逆転っ!! 前回の圧倒的勝利を演出した驚異の新小隊。第十七小隊がまさかの敗北。ベテラン十四小隊のチームワークの前に逆転負けかーッ!!」

 呆然としたニーナは思わず振り返ると、内力系活剄で強化した視力の前には自分達の陣のフラッグが見事に撃ち抜かれているのを確認した。

 第十四小隊員の二人に引きずられてか、陣から離れた位置でレイフォンがサファイアダイトの刀を下げたままこちらを見ていた。
 一方の第十四小隊員は二人とも打ち倒されていたが、その顔はレイフォンとは反対に痛みの中にしてやったりと満足気の笑顔だった。

 もう一人シャーニッドはフラッグの横でお手上げとばかりに肩をすくめている。そんな仕草にまで他人の視線を意識していると思うと、ニーナは腹が立ってくる。

「ま、そいうことだ。一対一の決闘ではないからな」

 第十四小隊隊長、シン・カイハーンに肩を叩かれニーナははっと我に返った。

「あいつは確かに強いが……それだけならなんとかなっちまうんだ」

 シンの顔は先ほどまでの互いに武技を尽くした戦う顔ではなく、先輩の顔に戻っていた。

「はい……」

 ニーナは肩の力を意識して弛め、後輩として礼儀を払った。

「あ、ありがとうございました」

 下げた視線は地面をじっと見つめたままであった。

『チームワーク……』



 一年校舎棟教室。レイフォン所属教室。

 レイフォンは朝のクラスの教室のざわめきの中、机に突っ伏して睡魔の誘惑に身を委ねようとしていた。

「おっはよう~」

 突然の大声と共にレイフォンの背中に衝撃が襲いかかった。「ぐほっ」思わずむせ返っていると。

「なんだいなんだい、元気がないぞう~?」

「ミィやりすぎだぞ。レイとんは試合の疲れが抜けていないだろうに」

「え~、そんなの一昨日のことじゃん。レイとんがそんなの残しているわけないじゃん」

 後からやってきたナルキの言葉に反論するミィフィ。

「……いや、試合の疲れはほとんどないから大丈夫だから」

「でも、眠そう……」

 レイフォンの返事にそれでもメイシェンは心配そうに見つめられ、ナルキからは。

「疲れているのは確かみたいだが。なんだ昨夜もバイトか?」

 ナルキからの詰問に曖昧に肯くと。

「機関掃除のバイトは連続だといくら武芸者でもきついだろう。
 本腰で対抗戦とかをやるつもりなら、機関掃除のバイトはやめた方がよいだろう」

 ナルキの武芸者らしい断定する口調にレイフォンは苦笑し、

「いや……機関掃除の仕事はもう慣れたよ。それより、ナッキは隊長からの勧誘はどうなった? 汚染獣戦の時の活躍を見て益々惚れ込んだと言っていたけれど」

 ナルキの方へ話題をそらした。

「そういえば、試合の後からは言ってこないな」

「勧誘の作戦を練っているのか、油断を誘っていたりして。いしし……」

 ミィフィも乗ってきて追及からのがれホッとしていると、今度はメイシェンからリーリンとエドがどこにいるか聞かれ。

「リーリンはバイトの弁当屋の朝の仕込みを毎日ではないけれど手伝う事になって今日がそうだと。エドもハーレイに朝に呼び出されて錬金科の研究所だから二人ともそろそろ来るかな」

「……あのね」

 そこで、メイシェンからの提案がなされた。


 錬武館。第十七小隊分室。

「ふーん、それで昼はエドと一緒に弁当だけでは栄養が偏るからと、果物やサラダを追加であの三人と一緒に食べる時に分けてくれると。羨ましい話だね~」

「いや、メイシェンは料理が趣味で喫茶店のバイトもしているしスキルアップも兼ねて三人分作るなら少しくらい増えても負担にならないと言っていたし、リーリンも賛成してくれたから」

「それだけではないと思うけれど『エドには少し仕事を増やしてやるか』」

 ハーレイが計器を覗きこみ、レイフォンがその計器からの伸びたコードが繋がったサファイアダイトの刀に剄を送り続けながら会話を行なっていた。
 レイフォンはグレンダンの時と違い機関掃除の為に少しでも睡眠を取りたいと料理を行なわずに朝昼は弁当。夜は余裕がある時だけ自炊に変わっていた。エドも料理は不得手で弁当生活であった。

「ところで、これの目的は?」

「ああ、ちょっと確かめたい事があってさ」

 送られ続ける剄によって刀身が淡く光り計器を観測するハーレイは感心していた。

「剄の収束が凄いなぁ。これならやはりプラチナの方がよかったかな? 耐久性に問題があるとはいえ伝導率が違うから試してみない?」

『そういえば、天剣もプラチナだっけ? レベルが違いすぎるけど』

 レイフォンがその様な事を思っているとハーレイが言葉を続け。

「この間のあれを扱えるのも、これだけ剄を出せるからだね」

 あれとは、先日襲われた汚染獣との戦いの時にハーレイに急に調整してもらった鋼糸の事であり、先日危険すぎると寮の真剣状態の予備は残して試合中の刀のデータからは封印されていた。

「あれが封印されたのは残念だね。あっ、もう剄はいいよ」

「どちらにせよ、試合では使うつもりはありませんから」

「そうなのかい? あれがあれば楽勝でしょう」

「そんな勝ち方をうちのニーナ隊長が認めるわけがないだろう。幼なじみなのに性格を把握していないのか?」

 今まで部屋にはレイフォンとハーレイだけだったのが、何時の間にかシャーニッドが入ってきてハーレイの頭に手を当てて会話に参加していた。

「シャーニッド先輩、人を子供扱いをしないで下さい一つしか違わないんですから。それと、ニーナに関しては確かにそうですね」

 頭を振って手をほどきながら抗議をするハーレイに気にするなと笑いながら問いかけていた。

「ところで頼んでいたあれは出来たか?」

「ああ……はいはい出来ています。エドの親が一般人の治安関係者ということで、意外と銃器に詳しくて結構自信作ですよ」

 傍らのケースから取り出した二個の錬金鋼をシャーニッドが受け取り復元すると。

「ごつい銃ですね」

 銃身部分が縦に分厚く上下に尖っており、銃口周辺も突起が施されていて材質も普段シャーニッドが使っているリチウムダイトではなく、ニーナの鉄鞭と同じクロムダイトで出来ていた。まさしく、射撃よりも打撃を前提とした造りをした拳銃であった。

「注文通りにクロムダイトにしましたから、剄の伝導率からいって射程はやっぱり落ちていますよ」

「かまわないね。これで狙撃するつもりは初めから考えていないしな。周囲十メルの敵に当たれば問題はない」

 そのまま二丁の銃を振りまわしているを見てレイフォンは、

「銃衝術ですか?」

 つい訊ね、シャーニッドは口笛を吹く。

「さすがはグレンダン。良く知ってんな」

「いや、グレンダンでも知っている人は少ないと思いますけど…… 自分は一度その使い手にあしらわれた事がありますから」

「レイフォンをあしらうって、グレンダンはどんだけ凄いんだ。ところで銃衝術ってなんだい?」

 ハーレイの問いに簡単に説明すると、懐に入られた銃使いがナイフや短剣の取り回しの不利を克服する為の格闘術で剄のほとんどを内力系活剄に回して攻撃は銃に込める僅かな衝剄で済むから意外と強力な格闘術だとレイフォンが説明すると。

「こんなのを使うのはかっこつけたがりの馬鹿か、相当の達人のどっちかだけだろうけどな。グレンダンのは達人だが……俺は馬鹿の方だけどな」

 にやりと笑うシャーニッドに、では本当に馬鹿どうか確かめさせて貰いますと剄を出して身体が熱くなっているレイフォンがゆらりと立ち上がった。
 その時に再び扉が開きエドが息を切らせながら模擬刀を載せたカートを押しながらやってきた。

「お待たせ~」

「おっ!! 待っていたよ」

 ハーレイが嬉しそうに駆け寄りレイフォンを呼び寄せた。

「レイフォン、ちょっと重いけれど試してもらえる?」

 それは木刀だった。大きさは非常識で柄を含めるとレイフォンの身長に近かった。更に刀身には鉛の錘が幾つも巻きつかれていた。真剣であれば野太刀とか胴太貫と呼ばれそうな代物でほとんど使う者を学園では見た事がなかった。
 見ているだけで思わず笑いそうになる木刀をどうするんだ? という目でハーレイをシャーニッドは見た。

「これは、今まで理論はあったけれど使えなかった新型錬金鋼のテストだよ。複数の錬金鋼を使い分けれてなおかつ複数の種類の性質を併せ持つはずだったんけれど。実際にはレイフォン君が来るまでは剄を使い分けれる人はいなかったし、これだけ大きくなるから使い手を選ぶから。でも完成したら有効だと思うから試してみる価値はある。例えばプラチナの伝導率にクロムの頑丈さやアイアンの刀の斬撃が両立するのが目標なんだ」

 活剄で強化した身体能力で刀を片手で振りまわすと「少し重いかな?」と呟き、両手で振りまわすと「何とかなるかな?」と言って素振りを繰り返し身体に馴染ませてきた。

「あれだけでかいのが少し重いだけとは、呆れるね」

「さあ、銃衝術の腕前の確認をしてみようか?」

 シャーニッドの言葉を無視して打ち合おうと誘ってくるが、

「そんな大刀と拳銃タイプでまともに遣り合えるか~」

 ずずいっと迫るレイフォンにシャーニッドは必死に断っていた。

「……遅れました」

 天の助けとばかりにフェリが部屋に入ってきた。

「よっ、フェリちゃん今日もかわいいねぇ」

 そのままフェリの方へ会話を持ちこんで模擬戦から逃れようとしているが、

「それはどうも」

 レイフォンの刀とシャーニッドの銃を見たが直ぐに興味を無くし、そのままいつものベンチに腰をおろしてレイフォンはニッコリとシャーニッドに笑顔を向けた。

「あ、あとはニーナだけか。ニーナが遅れるとは珍しいな」

「なら先に練習しましょう」

 なんとか避けようとしても今日のレイフォンはいつもと違い執拗だった。
 その時救いの女神としてニーナが現れた。

「すまん、待たせた……」

 いつもの鋭さを感じさせずに入ってくると続けて発言をした。

 「今日の訓練は中止にする。訓練メニューの変更を考えていてな、悪いが今日はそれを詰めたい。個人訓練は自由にしてくれても良いから。それでは、解散」

 ニーナの退出する姿を追っていると、腰の剣帯の錬金鋼のぶつかる音がレイフォンには気になった。
 そして、ニーナが退出すると空気が弛緩してそのまま全員が解散となった。

「まあ、次の第五小隊との共同訓練までに調子を取り戻してくれれば良いけどな」

 シャーニッドの言葉にレイフォンは昨夜のバイトを思い出していた。
 最近は同じ武芸者同士ということで組んで仕事をしていたが、昨夜は一晩中不機嫌な様子でピリピリした空気の為にろくに言葉をかわせずに時間が過ぎ去っていった。これが今朝の疲れた様子の原因であり、シャーニッドへの執拗な模擬戦の誘いであった。
 リーリンともすれ違いが増えてストレスの溜まったレイフォンの八つ当たりに狙われただけであって、もしあのまま試合を行なっていたら武器の違いで酷い目に会っていたのは確実であろう。シャーニッドも運が良かったのである。

 そのまま解散となったが、もう少し木刀の感触を確かめる為にハーレイとエドに残ってもらって演武を続けることにしていた。

 正眼の構えから上段へ、下段から打ち上げと簡単な打ち込みをゆっくりと行なっていった。

「柄をあと握り一つ分長くして下さい。刃もですが柄から二十センチほどの部分は潰して手で握れるように錬金鋼の方は調整をお願いします」

「判った。錬金鋼の調整と木刀の準備が終わったらまた確認を願うから。さあエド戻るぞ」

 またもやエドはヒイコラ言いながらカートを押して二人は出て行った。

「ナッキ達に誘われた会食の時間も近いし一旦シャワーだけでも浴びておくか。リーリンとも久しぶりの食事だし早く終わって良かった」

 レイフォンが最後に戸締りをして出て行った。錬武館の他の扉からはまだまだ鍛錬の音が響いていた。



  あとがき

 複合錬金鋼フラグオン。エドという肉体労働担当が出来たので完成が早まります。



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Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/21 20:08
  第十五話


 養殖科付近の食堂。

 レイフォンは同じ寮のエドと図書館で調べ物をしていたリーリンと一緒に三人娘が待っている食堂にやって来た。
 一般教養科上級生校舎と養殖科の付近にあるこの食堂は各種マップ作りを趣味にするミィフィが女生徒に人気があると調べ上げて見つけた店であった。ただし、一年校舎から遠くて行く機会が無かったのを普通はミィフィが提案するにをナルキが放課後に誘って実現した会食である。
 エドは意外と緊張していた。ミィフィはうるさく、ナルキは漢っぽく、メイシェンはオドオドしていると三人とも好みでないはずと言い訳をしているのに無自覚に緊張していた。

 食事は女の子向けの甘い物や軽い物が人気だが、武芸者のナルキやレイフォン、男のエドにも満足する量のメニューが揃っているのがポイントが高かった。

 会話は何時もの様にミィフィが暴走しメイシェンが「あうあう」と戸惑い、リーリンとナルキが苦笑しつつ宥め、男二人が見守るという形で推移していった。

「そういえばさ~、なんで今晩はここにした訳? いつかは行こうと思っていたけれどナッキが急に誘うって珍しいね」

 ミィフィが話題を変えてナルキに話題を振ったのは最近の記事でミィフィの名で出たのはこの店を始めとする人気ランキングであったから何故かな~と、もしかしてデートの予行演習?と疑っていたからカマを掛けてみたからであった。

「いや、実はな……レイとんに頼みごとがあってな」

「ナッキらしくもない歯切れが悪い言い方ね、ここでなければいけなかったの」

 リーリンが言葉を挟んできた。

「そうだな。こんなのはあたしらしくないな」

「……もしかして、ナッキのお手伝い?」

 ため息をつくナルキにメイシェンが訊いてきた。

「ああ、そうだ。別に小隊から引き抜くという話ではない。武芸科には都市警への臨時出動員枠というのがあって、今その定員が空いているらしい。それで、上司にレイとんと知り合いというのが知られてしまってな一度話をしてくれと言われてしまってな。
 もし、承諾したら話をしたいということで近くのこの食堂にしたんだ。すまん」

「いや、でもぼくは機関掃除の仕事があるけれど?」

「そこは考慮すると言っている。あと少ないが給料も出るが、自分で言うのも何だが良く考えてから答えて欲しい」

 自身もニーナからの小隊入りを固辞している為に後ろめたさを感じていて躊躇いが見えていた。

「わかった。条件を煮詰めてからだけど手伝うよ」

 意外な返答に驚くナルキだが、レイフォンとしてはグレンダンでの経験から当然であった。

「わたしも一緒に付いていって良いかしら?」

「帰る時に送るから一緒に来てほしいな。ミィとメイっちはエドが責任を持って送ってくれ」

 こうして、食事は解散となってレイフォン達は別れてそのまま養殖科の研究室にいるナルキの上司に会いに向かった。

 ナルキの上司。五年のフォーメッド・ガレンは小柄だがしっかりとした体つきでとっつきにくそうな顔をしていた。
 その交渉の時に顔と違って根は悪くなさそうとレイフォンは思ったが、バイトと小隊訓練のスケジュールともしバイトと重なった出動の時は都市警が責任を持って話を付けてレイフォン、機関室共に迷惑にならないようにするといった内容の条件決めはリーリンが主体に行なっていた。
 これは、グレンダンでの孤児院の経営の手伝いの経験が役に立っていて年上の五年生相手にも引けを取っていなかった。そして、リーリンの感想は会長とは別の意味で底が見えないし何か企んでいそうという物だった。
 途中でナルキが小隊員の様なエリートは本来臨時出動員に参加しない物だと言って恐縮してレイフォンらに謝っていた。

「どうして? エリートならむしろ力の使い道に選り好みしないはずだし。ガレンさんは五年だからゴルネオ先輩と顔見知りではありませんでしたか?」

「わりと早めに小隊員になったし、シャンテもいたから有名だったけれど校舎から違っていて話はしたことも無かったな」

「そうですか。今は小隊長だから忙しくて無理でしょうけれどグレンダンでは武芸者が治安維持活動に協力するのが当たり前だから頼めば手伝ってくれたと思いますよ。」

「レイフォンも現役の頃のお養父さんも何度か手伝っていましたわ。グレンダンでは武芸者に逆らうほどの犯罪者は少なかったけれど」

 他の都市ではどうしても警察活動が格下に見られる事が多く意識の違いにナルキ達は驚いていた。

「あたしの所のヨルテムは裕福だから余裕があって都市防衛と警察活動の武芸者は分けられていたけど、交叉騎士団から見て警察関係は格下に見られているし他の都市も似た物なのに武芸の盛んなグレンダンが拘っていないとは意外かな」

 むしろ、天からの恩寵と言われている力を使うのに選り好みする感覚の方が理解できなかったのは、常時戦闘で実戦にさらされて特別視されないグレンダンの特性の所為であろう。

 必要になったら協力するという事で今日は解散になった帰り道。

「リーリン。昨夜の機関掃除の時のニーナは機嫌が悪くて気が休まらなかった上に、今日の訓練も中止と対抗戦の敗北で落ち込んでいるみたいだから様子を見ていて欲しい。ぼくでは何を言って良いのか判らないから」

「確かに今朝の食事時にも考え込んでいたみたいだからわたしも気を付けてみるわ」


 次の日。武芸科共同授業。

 この日は三年生が指導員として一年生が挑みかかっている形で格闘技の授業が繰り広げられていた。
 格闘技ということは、内力系活剄の訓練であり身体能力の強化を行なうのだが、幼生体戦の活躍はほとんど知られていなくても小隊員という事で皆が敬遠して組み手の相手がナルキ以外になってくれなかった。友人を作るのは相変わらず下手なままなレイフォンである。
 一般教養科の男子生徒はエドの繋がりで軽い付き合いは出来ていたが武芸科には浮いたままであった。

 何度目かの組み手でもあっさりとかわされて逆に投げ飛ばされたナルキは呆れたように呟いた。

「全く歯が立たないな、自信を無くすよ」

「え~。そうでもないよ、今も危なかったし」

「良く言うよ、今も余裕があった筈だし……レイとんの隊長殿は、どこか悪いのか?」

 会話中にふとニーナの方に視線が向いたナルキが問いかけてきた。

「心ここにあらずという感じだな」

 二人の視線の先にはニーナが一年生二人を同時に相手にして冷静にあしらっているようには見えてはいた。

「何か、心当たりでもあるのか?」

「この前の試合くらいしかないんだけどな。でも、第五小隊との模擬戦で負けたりしていたから、そんなにショックになるのかな~?」

「ミィの情報だと、十四小隊は元々ニーナ隊長の所属していた小隊で今の小隊長には結構世話になっていたという話だ。結構良い所を見せたかったのかな?」

「ぼくは先輩後輩という感覚は正直良く判らないんだよな。弱小道場出身だったから先輩もいなかったし、大手道場の連中には絡まれる事くらいしか経験は無かったな」

「グレンダンって弱小道場でそれだけ強いのか。一体どれだけ化け物ぞろいなんだ」

 会話を続けながらレイフォンはもう一組みの練習風景を見て一言、

「いつもの隊長なら見逃さないのにな。らしくない」

 そして、そのまま歩いて行った。一年生男子一人に三年生三人が嬲るように突き蹴りを繰り返していたところを、特に殺剄を行なっていないのに気配を感じさせずに近寄りそのまま蹴りを片手で簡単に受け止めて見せた。

「これはこれは。十七小隊のエース君が何の用ですか?」

 油断をしていていたとはいえ本気の蹴りを簡単に受け止めたレイフォンに虚勢を張って上級生としてのプライドを保とうとしていたが、そんな虚勢をアッサリとレイフォンは打ち砕いて見せた。

「いえいえ先輩方、今日は格闘技をぼく達に指導してくれる日とお聞きしてましたから是非指導をお願いします。どうも人が余って遊んでいるようですから可能でしょう」

 普段の茫洋とした捉えどころのない雰囲気と違いどこか馬鹿にした表情で見下しているように見えて、ナルキでさえ始めて見る挑発的態度であった。

「君、剣を持っていないけど、いいかな?」

「かまいません。いまは格闘技の授業ですし、不安なら先輩方は使ってもよろしいですよ」

 ひきつった顔で答える三年生に止めを刺すレイフォン。

「舐めるなーッ!!」

 中央の遣り取りを行なっていた三年が我を忘れ殴りかかってくると同時に左右の二人が横に回り込んでいった。
 流石に三年生と言ったところか、内力系活剄の巧みさで高速移動、攻撃速度共に一年の比では無かったが相手が悪かった。

「連携がまだまだですね」

 緊張もせず中央の三年生のストレートの腕を掴んで力を入れた様子も無く転がす様に投げ飛ばしレイフォンの右手側にいたもう一人にぶつけて動きを止めた所を掌底突きの要領で鳩尾に当ててそのまま衝剄を放ち二人まとめて気を失わせた。
 移動途中の残りの一人が驚きに動きが止まったが、その様な隙を見逃すレイフォンでは無い。そのまま正面に立ち額に人差し指を当てて一言、

「チェックメイト」

 本来ならそのまま額を吹き飛ばされた事を理解した三年は腰を抜かし戦意を失ってしまった。

『ガハルドもこれぐらい簡単に戦意を失ってくれたら良かったのに。あれ?それなら、あの詐欺師がまだいたのかうーん悩むな』

 レイフォンの内心は別として、周囲の一年生はその活躍にわっと歓声を上げた。
 そして、ニーナはこちらの喧騒に気が付かずに鍛錬を続けていたのを見てレイフォンとナルキは思わず眉をひそめた。

「一年でも、せめて一対一で相手して下さいと主張したり、周囲に助けを求めなさい。他の三年生でも気が付いて止めてくれる事もあるのに、黙っていたら誰も助けが無いと覚悟すべきだ」

 嬲られていた小柄な一年男子にも厳しいことを言うレイフォン。本来はニーナの様子が気になった為の対応であって、助けたのはついでであったレイフォンには一年生の事は実際はどうでもよかったのである。



  あとがき

 時系列が変わっています。
 レギオスの移動速度や蛇行していると思うから直線距離での移動速度は遅いと思うけれど設定はどれくらいかクグっても判らなかった。ランドローバーだと150キロで汚染獣の反応距離みたいですけれど。
 原作では後の先と言った感じですが、ここのレイフォンは先の先と積極的に戦っています。



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Name: くろしお◆d914af62 ID:4d4b87dd
Date: 2010/12/25 08:22
  第十六話


 昼食時、公園。

 今日はリーリンの弁当屋でのバイトが無い為に久しぶりに六人での食事となり校舎前の公園での食事となった。

「あれは、少し感心しないな」

「え?」

「体育での三年生への態度だ。確かに非は向こうにあるが少しは相手の立場を思いやる必要があっただったろうな」

「ええ? 別にいいじゃん。どう見ても訓練じゃなくていじめだったし、逆ギレだったんでしょう。ボコられて当然でしょう」

 ナルキとレイフォンの会話にミィフィが割り込んできた。

「ミィ、な、何故それを?」

「この情報屋、ミィフィ・ロッテンに午前中の出来事など知るのは容易いことよ~ん」

 レイフォンの驚愕にミィフィは自慢げに答えていた。

「レイフォン~。あなた、又やったの」

 今度はリーリンの怒りの声が聞こえてきた。

「あっ、でも、ああいう連中は話しても判らないから、倒した方が早いと思って……」

「今回は他の人を救うのにも一方的に倒したら、かえって倒された恨みがその虐められていた人に向かったらどうするのよ。逆効果でしょうが」

 がおーっとばかりに叱るリーリン。

「グレンダンでは、レイフォンくらいしか弟子はいなかったし、後はなぜうちの道場にいたのか分からない名家のシャリオさんだけだから良かったけれど、もっと周囲の事に気を配ってね」

 レイフォンが天剣授受者になる前はサイハーデン流は目立たなかったがその実力の高さと年齢の低さのギャップから良く妬みと侮りから絡まれては実力で排除していたのをリーリンも知っていたしデルクとルシャが後片付けに走り回ったのも知っている故の怒りであった。

「ま、まあ。レイフォンも反省しているようだし、ニーナ隊長の事も気になっていたから荒っぽい対応になったんだよ。許してやってくれ」

 レイフォンが可哀そうになり最初に抗議をしたナルキが今度は逆に庇っていた。

「ねえ、レイフォンは強いほうだと思ったけれど、グレンダンだと無名だったの? 道場も弱小とか言っているし」

「いやミィ、今では有名な方だけど、養父さんは道場経営も下手で門下生は入っても長続きしないんだ」

 だから弱小道場のままさとミィの疑問に答えながらも実際は武芸者の建前。特に実戦経験の乏しい者にはサイハーデンの流儀が受け入れにくいのが原因で名家のシャリオが納得している方がレイフォンには不思議だった。

「ふむふむ、実力と人気は一致しないと。ニーナ先輩の悩みも逆方向で同じなのかな?」

「ニーナ先輩は今朝も普通を装っていたけれど、考え込んでいたし寮でも注意した方が良いかもね」

 ミィフィに余計な情報を与えたかと不安になったりもしたがニーナにはやはり注意が必要とグレンダン時代のレイフォンには考えられない気配りが出来ているのは成長か。


 放課後、宿泊施設。

 都市警への協力依頼の直後に出動があるとは思ってもいなかったので戸惑ったが、今夜の機関掃除のバイトの中止から特別手当までフォーメッドが素早く手続きが終えてからの出動依頼に、初めから計画的かとレイフォンが疑うほどの鮮やかさであった。

 それでもフォーメッドは学生、研究者としてもその成果である開発データの違法収集に本気で怒っており、都市警の責任者の正義感だけで無かったがその怒りによるレイフォンの協力依頼ならまだ理解出来るとだまし討ちに近い協力要請でもレイフォンは許せる気がした。

 そして、今宿泊施設の周囲に都市警の機動隊が配備されていた。

「連中、キャラバンの貿易商は正規の情報貿易だけではなく農業科のまだ未発表の遺伝子情報を盗み出したんだ。監視カメラは殺されていたが学生の目撃者がいて犯人を特定出来たんだが……」

 都市は閉鎖された空間であり犯人は一般に無駄な抵抗をしなければ放浪バスに乗せられて追放となるが、抵抗をすれば犯罪者を収監する設備が少なく他の都市の人間を長く置きたくない都市では死刑や都市外への強制退去。かつてのグレンダンでの詐欺師の様に実質死刑であるむき出しの大地への追放になるために、普通は交渉人による説得で解決するのだが。

「最悪のタイミングで放浪バスがやってきて、犯人特定が遅れて出発が明日というギリギリの期限だったんだ」

「なるほど、強行突破の可能性が高いですね」

「そうだ、化け物相手では先日の汚染獣戦で経験を積んだが生身の武芸者相手では機動隊員の経験者は希少で本気でやるとなると小隊員の方がいいからな。期待しているぞルーキー」

 そのまま肩に手を当てて他の機動隊員達に指示を出しに行く途中に聞こえた呟きは。

「グレンダンでは治安維持の参加は義務か。今度ゴルネオの弱みを掴んで第五小隊員を協力させるか」

 色々台無しだった。

 レイフォン達が見守っている中、二人の学園側の交渉人がまずは平和的に説得しようと施設に入っていった。
 ほどなくして激しい音が宿泊施設からおきてドアが吹き飛びそのまま交渉人も転がり出ていった。その時に血が舞うのをレイフォンは見た。

 破壊されたドアから出てきた男が五人。書類にあったキャラバンの社員と同数、あれで全員だ。一人が古びたトランクケースを持っていた。そしてレイフォンの目には五人の身体から剄の輝きが見えた。

「五人ともだ」

「全員か?」

「まずいな。機動隊員の中で武芸者は五人と数は同じだが……レイフォン君頼む」

 ナルキも目を凝らしていたようだが判らないようだった。それでもフォーメッドは信用しすぐさまレイフォンに頼んでいた。
 レイフォンが監視していたビルから飛び降りてキャラバンに向かう間に機動隊員達が警棒を構えて包囲を始めていた。
 その間に隊長らしい生徒が警告を発しながら学園側の武芸者五人が前に出る。
 対して、キャラバンの五人は悠然とした様子で機動隊員達を眺めていて、その手には錬金鋼が握られていた。

 レイフォンが地面に着く数瞬の間にキャラバンの五人が動いた。錬金鋼に剄が走り近接用の武器に全員が復元されていた。
 学園の武器が全て刃引きされ、安全を考慮されている上に機動隊員の武器は打棒であるのに対して、キャラバンの全員が触れれば切れてしまう刃という事が対人戦に慣れてない学園側には動揺が走った。
 その隙を見逃さずゆったりと動いた様に見えながら生徒達を切り裂いていった。

 それでも、レイフォンが着地した時にはまだ抵抗する生徒が残っていた。
 サファイアダイトの刀を復元させ入れ違いにキャラバンの前に立つレイフォン。刀を構えていなくて一見隙だらけの様に見えてもそれなりに荒事の経験のある五人は学生とは一線を画す実力を見抜き警戒を高めた。

「泥棒は感心しない」

 レイフォンの言葉に無視をして放浪バスの停留所へ走り抜こうとしたが、先頭の二人へ機先を制し横薙ぎに切りかかって来たレイフォンを飛びあがって避けようとしただけで進む事が出来なかった。
 レイフォンの狙いは二人では無かった。先頭の男の手にあったトランクケースの取っ手が切れて落ちていた。そのトランクケースをレイフォンが後ろに蹴り飛ばしてほかの機動隊員の足元に渡した。

「このっ」

 トランクケースを奪われた事に気が付き怒りを表すとレイフォンを突破し奪い返そうと剄を高めた時に後方の二人が動かないのに不審を抱き振り返ると既に倒れて動けずにいた。
 外力系衝剄が変化、九乃(くない)左手の指の間に針の様に固めた剄を斬撃と同時に放ち既に後方の二人の虚を突きを打ち倒していたのである。

「なんで学園都市にお前みたいのがいるのだ?」

 レイフォンの実力を察しても強行突破しかないと突っ込んでいく残りの三人。
 その男達の剄によってかき乱された空気を、落ち着かせるかのように刀の切先で撫で回しながらレイフォンは一閃した。
 外力系衝剄が変化、渦剄。以前ニーナに見せた竜旋剄程ではないがその発生した空気の渦に巻き込まれた三人は宙に浮き内部で荒れ狂う衝剄に全身を撃たれ続ける。
 武芸者達はそれを見て『刃引きの意味があるのか?』と疑問に思う程の威力であった。
 誰もが息を呑んでその光景を見上げる中で、レイフォンは再び刀を上段に持ちあげ振りおろす。
 空気がピタリと止んだ。
 渦剄が止まり周囲の騒音が消えた中気を失った三人の落下する音だけが響いた。

 そのまま唖然としている周囲を置いてフォーメッドが喜んでいた。
 既にトランクケースの中身を確認をし、機動隊員達に指示を出して倒された五人のキャラバンの服を剥がしていた。
 データチップは爪の先位の小ささの為にどこに隠しているか判らない為とはいえ、流石に経験の浅いナルキをはじめとする女性隊員は顔を赤らめていた。

「これだけのデータチップ。はたしてどれだけの値が付くかな?」

 トランクケース内にぎっしりとデータチップが保護ケースに入れられておりツェルニで盗まれたもの以外のデータもあるのは確実だった。
 それらのデータも利益になるとその開き直りと言っても良い潔さにレイフォンも呆れと感心の混じった視線を投げかけた。

「なんだその目は? これらはあいつらが正規に入手したかわからない上に、元の持ち主に返却なんて不可能だからな。ならばせいぜい、ツェルニの利益に貢献してもらうのが正しい形というものだろう?」

「確かにそうだけど、課長の個人的利益にならないからそんなに喜ぶ事もないのでは?」

「何を言うか。富なんていくらあっても足りないぞ。このツェルニの学生を食わせていく事を考えればな。奨学金にせよ、研究成果その他の報奨金にせよ、おれたちにも関係があるさ」

「はあ」

 その自信にあふれる返答にレイフォンは曖昧に答えるしかなかった。

「すまんな、ああいう人なんだ」

「いや、ナッキ気にしなくても良いよ。悪い人ではないと思うし、ぼくもグレンダンの時には汚染獣を一匹幾らの報奨金に見えていたから」

「あたし達が死を覚悟した汚染獣を賞金にしか見えないとは自信を無くすよ」

「あ、ゴメン……」

「いや、冗談だから気にするな」

 ナルキとの会話の間にもフォーメッドの指示で水と食料以外全てを没収され囚人服に罪科印を付けられた五人は放浪バスに押し込まれていた。
 その後の実地検分の手配と残っている荷物の探索中暴れ出さなように放浪バスの方をレイフォンは警戒している時に近づいてきたフォーメッドが声を掛けてきた。

「ご苦労様。今日はもう解散してよい。アルセイフ君も今日はお手柄だからな。報酬には多少は色を付けさせてもらうぞ」

 あれだけの力を見せても態度が変わらないのに新鮮な気持ちを抱くが、金の執着にはかつて闇の賭け試合にも参加したレイフォンにはむしろ清々しさを感じていた。

 その後、ナルキやレイフォンら一年生は先輩を残して先に帰る時にナルキとレイフォンは寮まで鍛錬を兼ねて歩いて帰る事にした。
 その帰る途中に都市外縁部に向かうニーナを二人は発見した。
 その思い込んだ表情のニーナに不安を感じ後を付けたが、やはりレイフォンならまだしもナルキの未熟な殺剄にも気が付かないのはやはり異状事態だとレイフォンは思いながらも深夜の道を進んでいった。


  あとがき

 永久追放では無い上に金が必要な事には変わりが無い為に、金儲けにも躊躇わないレイフォンです。


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