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2010年12月22日(水)付

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玄葉さんへ―これでは無責任すぎる

選挙に不利だからと、負担増の問題を避けて通る。そうしたやり方では、いつになっても財源を確保できず、国民生活に責任を負う政権政党とは言えないのではないか。失望感を誘うほど[記事全文]

JR前社長公判―再発防止につなげるには

107人が亡くなった大惨事から5年8カ月。JR宝塚線の脱線事故で、業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の前社長、山崎正夫被告の公判が神戸地裁で始まった。鉄道事故で経営[記事全文]

玄葉さんへ―これでは無責任すぎる

 選挙に不利だからと、負担増の問題を避けて通る。そうしたやり方では、いつになっても財源を確保できず、国民生活に責任を負う政権政党とは言えないのではないか。

 失望感を誘うほど、社会保障に関する菅政権と民主党の政策の迷走ぶりはひどい。このところ特に目立つのは、医療や介護の財源に関する先送りの姿勢である。

 民主党が政権公約に掲げていた後期高齢者医療制度の廃止は、その典型例だ。新制度に移行するための法案の成立を先送りする方向で検討が進んでいる。新制度は小手先の対策にすぎないが、それすらも踏み切れない。

 主な理由は、民主党内の反対である。厚生労働省がまとめた新制度案には、医療費の窓口負担を引き上げたり、保険料の軽減措置を縮小したりする内容が含まれている。これに対し、党内には、来春の統一地方選を心配して、反対の声が強い。

 介護保険も同じような構図が見える。厚労省は、審議会が提案した利用者負担増の法案化をすべて先送りする方針だ。これも民主党内の反対を踏まえた動きで、やはり選挙を意識したためというのだから、驚くというよりもあきれ返ってしまう。

 高齢者医療制度を放置し続ければ、暫定措置として実施している高齢者の負担軽減策もそのまま延長される。高齢者にとってはありがたいが、財政はますます悪化し、若い世代の負担が増えることになる。

 介護保険では、保険料の上昇を抑えようとして、都道府県にある積立金の取り崩しのみに依存する方針だ。これも負担の先送りであり、恒久財源の確保とは言えない。

 政府はさきに、税と社会保障の一体改革案を来年6月までに示す方針を閣議決定している。その基本姿勢はよいとしても、当面の負担増に反対したり、先送りを正当化したりする言い訳に一体改革を使うのでは、本末転倒もはなはだしい。

 医療や介護を支えるのは、保険料と自己負担、そして税金しかない。前の二つを増やせないから公費投入のかさ上げが必要だというのなら、増税の覚悟を国民に説明して回るのが政府と与党の仕事のはずだ。

 とりわけ重いのは、党の政調会長を兼ねる玄葉光一郎国家戦略相の責任だ。これ以上、選挙目当てで政策決定をゆがめないためには、ただちに党内で増税など財源の確保に向けた真摯(しんし)な議論を始めなければならない。

 野党に協議を呼びかけるにも、まず政府・与党が案を示す必要がある。それすらもなく「国民の安心のため、利用料の引き上げを回避しました」などと説明するとしたら、財源なき政権公約の愚かな繰り返しでしかない。

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JR前社長公判―再発防止につなげるには

 107人が亡くなった大惨事から5年8カ月。JR宝塚線の脱線事故で、業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の前社長、山崎正夫被告の公判が神戸地裁で始まった。

 鉄道事故で経営幹部が刑事責任を問われるのは異例だ。この事故では、検察審査会の起訴議決を受けて井手正敬(まさたか)元会長ら歴代社長3人も同じ罪で強制起訴されている。

 山崎前社長が指摘されたのは、取締役鉄道本部長だった14年前に安全対策上の過失があったという点だ。

 事故現場は急カーブに変更され、通過する列車の数も増えた。危険性が高まったのに、自動列車停止装置(ATS)を設置しなかったのは過失にあたる。それが検察側の主張だ。

 山崎前社長は「私の立場で危険性に気づくことはできなかった。潔白を明らかにしたい」と無罪を主張し、検察との全面対決になった。

 遺族や被害者からは刑事責任の追及だけでなく、公判を通じて「事故の真相を明らかにし、再発防止につなげてほしい」という期待の声も聞かれる。自然な気持ちだろう。

 今後、JR西日本の運転士や前社長の元部下、航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)の元委員ら30人が証人として法廷に立つ。この人たちの証言から、再発防止や被害者側がのぞむ真相究明につながる手がかりが得られるかも知れない。

 とはいえ、ATSの未設置と事故の因果関係に絞って検察が立証を進める以上、事故の背景として指摘された日勤教育などJR西日本の労働管理態勢は、公判の争点にはならない。

 広い意味での事故原因や背景を究明するうえで、刑事裁判にはおのずと限界がある。

 こうした大事故が起きた際、事故調査を優先するべきか、刑事責任を徹底追及するのか。刑事責任を免じてでも原因究明を尽くした方がいい、いや刑法が個人の過失しか問えないなら、むしろ組織の過失も問えるように改正すべきだ。そうした議論が続く。

 昨年、事故調査委員会がまとめた宝塚線事故の報告書の内容が山崎前社長らに漏れていた事実が明らかになり、報告書に対する信頼が失墜した。

 これを受けて国土交通省が設けた検証チームが、事故調査のあり方を検討している。報告書が遺族や被害者、国民の信頼を得るために、いまの調査機関に欠けているのは何か。捜査との関係をどうするか。かりに刑事責任を問わないなら、処罰感情を踏まえた仕組みをどうやってつくるのか。

 裁判は、この大惨事で浮き彫りとなったJR西日本の安全態勢を改めて問うことにもなるだろう。同時に、再発防止をめぐる捜査と調査のあり方を考える契機になればと思う。

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