ブライアン・ウィルソンの新作で2人の巨匠が出会う
ブライアン・ウィルソンの新作で2人の巨匠が出会う2010/08/20 | タグ:Brian Wilson George Gershwin
ブライアン・ウィルソンが、アメリカン・ポップスの先人ジョージ・ガーシュウィンの楽曲に取り組んだ新作『Brian Wilson Reimagines Gershwin』を発表。新旧の巨匠が時を越えて出会った作品の内容とは?
20年~30年代にアメリカのポピュラー・ミュージックの礎を築いた音楽家ジョージ・ガーシュウィン、そして60年代からビーチ・ボーイズ~ソロとしてアメリカン・ポップスを追求してきたブライアン・ウィルソン。共にアメリカの音楽史に欠かせない巨匠2人の才能が出会ったこの『Brian Wilson Reimagines Gershwin』は、長らくそのプロジェクトが話題となっていたものですが、ついに8月17日にアメリカでのリリース日を迎え、全世界のポップス・ファンのもとへアルバムが届けられることになりました。その内容も気になりますが、まずはその2人の偉大な音楽家の経歴を簡単にご紹介しましょう。
George Gershwin
まず1人目ジョージ・ガーシュウィンは、1898年生まれのアメリカのポピュラー作曲家です。ロシア系ユダヤ人の移民の息子として、ニューヨークに生まれたガーシュウィンは、1920~30年代を中心に、作詞家となった兄アイラ・ガーシュウィンと組み、オペラ、ミュージカル、映画音楽、管弦楽曲、協奏曲など幅広い分野で活躍し、アメリカのポピュラー音楽そのものを作り上げた〈完璧な音楽家〉として知られています。37年に38歳という若さで亡くなるまでに、彼が残した楽曲は500曲以上にものぼり、その多くが現在もスタンダードとして歌い継がれていて、それらの楽曲はアメリカ人の心のメロディーそのものと言えるかもしれません。2007年から始まり、ポール・サイモンとスティービー・ワンダー、ポール・マッカートニーが順に受賞しているポピュラー音楽の優れた音楽家を表彰する音楽賞〈Gershwin Prize〉にもその名を冠していることからもアメリカ音楽界での彼の偉大さが分かります。彼の代表曲のひとつ、1924年発表の“Rhapsody in Blue”をお聴きください。
Gershwin plays Gershwin: Rhapsody in Blue
Brian Wilson
そしてもう一人、ガーシュウィンから44年遅れの1942年に生まれたブライアン・ウィルソンは、兄弟のデニス・ウィルソン、カール・ウィルソン、従兄のマイク・ラヴ、同級生のアル・ジャーディンと共にビーチ・ボーイズを結成し61年にデビュー。言わずと知れた大ヒット曲“Surfin' USA”をはじめとした陽気なサーフ・チューンの数々で60年のアメリカのポップ・ミュージックの黄金時代を築き、また今でこそ名作として評価の高い『Pet Sounds』などをセルフ・プロデュースで作り上げた繊細で完全主義者的な天才作曲家/プロデューサーとしても知られています。近年は主にソロとして活動していて、2004年にはビーチ・ボーイズの未完の大作『SMiLE』をついに完成させ発表、2005年の『What I Really Want for Christmas』、2008年の『That Lucky Old Sun』とソロ作を発売し、デヴューから50年経った今もアメリカの音楽シーンにおける重要なアーティストのひとりとして活躍しています。ビーチ・ボーイズの66年のヒット曲“Good Vibrations”がこちらです。
The beach boys -good vibrations
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『Brian Wilson Reimagines Gershwin』
そして今回発売されたアルバム『Brian Wilson Reimagines Gershwin』で2人は時を越えて出会うこととなります。子供の頃からガーシュウィンの曲に慣れ親しみ、長年アイデアをあたためていたというこのコンセプト・アルバムの制作を、新たに契約したディズニーのレーベル〈Walt Disney Records〉で実現にこぎ着けたブライアンは、ブライアン・ウィルソン・バンドのメンバーらと共に行なったレコーディングで、ガーシュウィン・クラッシックとなる“Summertime”や"They Can't Take That Away From Me"、"Someone to Watch Over Me"、"I Loves You Porgy"などを独自の解釈で再構築。さらにガーシュウィン財団から許可を受けて提供されたガーシュインの100曲以上ある未完成の楽曲のうちの2曲"The Like in I Love You"と"Nothing But Love"をブライアン独自のアレンジで完成させてしまうという快挙も成し遂げ、アルバムを特別な作品に仕上げています。
アルバムのプレスリリースで「ガーシュウィンはポピュラー音楽を発明し、それ以上のことを成し遂げた。タイムレスな彼の音楽に近づけたものはまだ誰もいないが、これは僕が関わってきたプロジェクトの中でも一番精神的なものだ」と語っているブライアンですが、その言葉通りプロジェクトの成果となったアルバムには、まさに2人の作曲家の精神が融合し音楽として形を成したスタンダード・ミュージックが詰まっていて、その完成度の高さに驚かされます。これはもう、どちらの音楽ということではなく「ガーシュウィン-ブライアン」印の新たな作品だと言えるでしょう。以下、アルバムの予告編映像と、その未発表曲のひとつ"The Like in I Love You"をお聴きください。
Brian Wilson Reimagines Gershwin
The Like In I Love You - Brian Wilson
アルバム・タイトルが〈Cover〉ではなく〈Reimagine〉となっていることからも分かるように、単なるカヴァー・プロジェクトとは違い、ブライアンの想像力で時を越えた巨匠2人のコラボレーションが実現したこのアルバム。彼らが追い求めてきた輝けるアメリカン・ポップスの新たな歴史はここから始まるのかもしれません。このアルバムで、その輝きを感じ取ってみてはいかがでしょうか。
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