石破氏「自衛隊のあり方を変える」
- 提供:BLOGOS編集部
「防衛、外交、自民党のこれから」石破茂・自民党政務調査会長が緊急生出演2010年は、普天間基地移転問題、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件、北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃事件など、我が国の防衛・外交面に大きな影響を与える問題が頻発し、政権交代を実現した民主党政権への対応にも注目が集まりました。また、小沢一郎氏の国会招致議決を巡って民主党内の対立が深まる中、自民党との"大連立"も取り沙汰されるなど、来年の統一地方選挙を前に混乱が広がっています。
「防衛、外交、自民党のこれから」石破茂・自民党政務調査会長が緊急生出演
2010年は、普天間基地移転問題、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件、北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃事件など、我が国の防衛・外交面に大きな影響を与える問題が頻発し、政権交代を実現した民主党政権への対応にも注目が集まりました。
また、小沢一郎氏の国会招致議決を巡って民主党内の対立が深まる中、自民党との"大連立"も取り沙汰されるなど、来年の統一地方選挙を前に混乱が広がっています。
今回のBLOGOS対談は、ゲストに防衛・外交政策に精通している衆議院議員の石破茂・自民党政務調査会長を迎え、日本が直面している諸問題への対応、憲法と自衛隊のあり方、さらに自民党の2011年の取り組みを伺いました。
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「民主党、もういい加減にしてよ」
池田:こんばんは。毎月一回お送りしているUstream対談。今日は自由民主党政調会長の石破茂さんにお話を伺います。石破さん、今日も民主党でいろいろな動きがあったりして(笑)、政局の関心はその辺のゴタゴタに集中しているかと思うんですが、まあ、僕らから見ると、もういい加減にして欲しいなぁ……と言った感じなんです。石破さんから見て、この一連のゴタゴタした動きをどうご覧になってますか?
石破:もういい加減にしてよ、ってことですよね。
池田:(笑)
石破:それはねー、国民の皆様もそう思っている、自民党の議員もそう思っている、実は民主党の議員だって「もういい加減にしてよ!」って思っている人は、いっぱいいるはずですよ。もう小沢か小沢じゃないかってことをやってる暇は日本にはない。よく分からないけど、小沢さんにはやりたいことがあるのかもしれない。(だけど)あの人は、「これをやりたい」って言ったことが一度もないのでね。実はないでしょ。「こういう国家を作りたい」って。
池田:でも、90年代には(そういう主張が)ありましたよね。
石破:今は全然違うでしょ。あの頃は、私も自民党を飛び出して小沢さんと一緒にやったことはありました。あのときは、(小沢さんも)「日本国はきちんと憲法を改正し、集団的自衛権を認めて、国民が自分でやるべきことをやり、なお足らざるところを国がサポートするのだ、そういう国家にならねばならないのだ」(と言ってました)。
池田:非常に分かりやすかったですよね
石破:ですね。「自民党が変わっていくためには、例えば政策を間違えたり、スキャンダルを起こしたりしたら、『政権が変わるよ』って仕組みを作っていかなければならない」というのは、私たち当選1〜2回の若い議員たちには、ものすごく新鮮だったんですよ」
池田:石破さんは新生党に参加なさった?
石破:うん、そうですね。自民党が失った「真の保守」という物を「この人ならやってくれる!」と思っていましたから。(でも)今、小沢さんは何か言ってますか。「社民党を大事にしよう」「消費税を上げない」「自衛隊をISAF(国際治安支援部隊)に参加させる、国連に出せばそれでいい」とかね。そういう考え方は、もとの小沢さんが言っていたことと全然違う。「これをやりたい」っていう物が、そのときそのときで変わる。要は、自己保身という物であって。それに付き合ってる程、日本政治は暇じゃないよ、っていうのが、すごい真実味があります。
池田:うーん、手厳しいですね。2ヶ月くらい前の代表選挙のときに、私もニコニコ動画でお話したことがありました。今、石破さんがおっしゃったような90年代の小沢さんと今の小沢さんの違いが非常に気になったものですから、「(小沢さんの)『日本改造計画』の序文にある「グランドキャニオンの柵の話」ってのは、今でも同じ考えですか?」って聞いたら、間髪を入れずに「全く変わってない」って、おっしゃったんですよ。
石破:小沢さんは説明しないわけよ。小沢さんにとっては「ユナイテッド・ネーションズは世界政府なのだ」と。「世界政府であるからして、そこへ自衛隊を出すということは、もう日本国憲法第9条が禁ずるところの”国権の発動”ではないのだ」と、小沢さんの世界観は、そういう考え方なんですよ。
(でも、)そんな馬鹿なことがあるわけない。ユナイテッド・ネーションズは、飽くまでユナイテッド・ネーションズであって世界政府でも何でもない。国連がダメだって言ったら、どんなに日本のために必要であっても自衛隊を動かせない。「そんな考え方は間違いじゃないですか?」って、私はずーっと前から聞いてるんだけど、説明は一切ない。「分からないのはお前の志が低いか、お前の理解が足りないか、どっちかだ。説明する必要はない(バーン)」で終わり。てなことですよね。今回の政倫審だってそうでしょ。
池田:そうですよねー。
石破:裁判と倫理は違うでしょ。「裁判所で説明するんだから、国会で説明する必要はない」。それっておかしくないですか。裁判所と国会って別の物ですよ。仮に法に違反しなくても倫理が問われているのなら、ましてや裁判で「シロだ」って言う自信があるのなら、倫理的にも「シロだ」ってことを国会で説明したって、ちっともおかしくないじゃないですか。大体、政倫審作ったのって小沢さんでしょ。
池田:ほほぉ、そうなんですか?
石破:そうなんですよ。ロッキード事件のときに政倫審を作ったのは小沢さん。「自らが疑惑を持たれたと思ったときは、進んでそれを解明する義務を国会議員は負うのだ」という政治倫理綱領を決めたのは小沢さん。あなたでしょう、政倫審を作ったのは!疑惑を持たれたときは、進んで解明しなくてはならない、って決めたのはあなたでしょう。何でそれに反するようなことをして平気なんですかって(ことですよ)。何で誰も(そのことを)問わないのか。おかしいですよ。
池田:その程度のことができない民主党執行部の力のなさを、ある意味で小沢さんが試しているような感じも見ててしますけどね。
石破:菅さんがどうするか知りません。今ごろは役員会をやってるんじゃないですか。だからもう、「政治倫理審査会を開くまでもなく出ないというのであれば、国会議員の政治倫理にもとるものであって、そういう人は我が党にいてもらわなくて結構です」という決断が(菅さんに)できるかできないか、ですよ。それをやればね、それは民主党の中で小沢さんを信奉する人達は怒るでしょう。党内も混乱するでしょう。でも、国民が見ていて「そうだな」って思うことをする。それが今の菅さんには必要なんじゃないですか」
「仮免許」と総理が言っちゃうのがすごいですよね
池田:今日の動きとしてはもう一つ、韓国のヨンピョン島の訓練がありましたよね。その前には例の砲撃事件があったりしたわけですけども、あのときにも民主党政権が非常に混乱した対応で批判を浴びましたよね。小沢さんをめぐるゴタゴタは民主党が勝手にやってくれという思いはあるんだけど、人命に関わることでゴタゴタしているのは、国民としても非常に心配ですよね。
石破:危機管理というのは想像力の世界でしてね。起こるであろう非常に困った事態を、常に頭に置いておく。こういうことが起こったら、どう対処するのかっていうことですよね。ましてや、北朝鮮というのは、代替わりをするたびに何か起こしているわけでしょ。金日成が金正日に切り替わるときに、金賢姫が引き起こした大韓航空機爆破事件。あるいはミャンマーの首都、ラングーンで韓国の大統領一行が数分間違えれば全員殺されたかもしれないラングーン事件。あんなことを引き起こす国。今度、金正日から三男に代わる。何かが起こるに違いない……。天安という船を沈めたのもそうですよね。
砲撃するかは別にして、何かが起こるに違いない、そのときにどう対処するのかってのは、常に頭に置いておかなくてはいけなかった。もう民主党内の権力争いに精一杯で、そんなことまでは頭が行かなかったってことですよね。だから、起こるべくして、ああいう混乱が起こった。危機管理に対する基本的な認識がなってないということですよ。
で、仮免許発言に代表されるように……。「一人で路上に出ちゃいけませんよ」ってのが仮免許でしょ。横に教官がついてないと路上に出られない。普通に自動車運転免許を取って3年以上たった人が横に乗っていないといけないのが、仮免許で。総理がそれを堂々と言っちゃうのがすごいですよね!
池田:はははははは
石破:(菅さんには)「仮免許だから許してもらえる」って甘えがすごいあるわけですよ。総理になったその日から、免許皆伝でなければおかしいんですよ。だって、そのために野党を長くやってるんでしょ。「自分達が政権を取ったら、これをやるぞー!」っていうのをずっと考えている。そういう期間が野党ですよね。今の我々がまさしくそうならなければいけないと思っています。
(でも民主党の場合は)「政権を取っちゃいました、さぁどうしたらいいんでしょう」ってことであって、それを「仮免許から許してね」っていう甘えの体質がすごくありますよね。私達は「今度政権に戻らせて頂いたら、その日からベストな政府を作りたい、そのための期間だ」と。そう自分に言い聞かせてるつもりです。
若者の負担をどうする?
池田:民主党がああいう状態なので、早ければ来年にも総選挙があるかもしれない。そういう話もありますよね。自民党がまた政権に戻る可能性も、かなり強まってきています。
今日は政局の話よりも、むしろ、自民党に政権に戻られたときに、どういうことをされるかということを聞きたいと思っているんです。普段、テレビ番組などであまり質問されないような問題をお聞きしようと思いまして、今朝、ツイッターで質問を募集したんですね。ツイッターのユーザーって若者が多いので、彼らが関心を持っているのは、雇用問題なんです。今年の大卒の就職内定率が6割を切ったとかですね。非常にひどい雇用状況があります。失業率自体は5%程度で、そんなに悪くないんですが、若者に非常に負担がかかっている。
民主党の場合は、菅さんは「雇用、雇用」とおっしゃるけども、具体策はほとんどなくて、どちらかというと派遣労働の規制を強化するとか、むしろ労働組合寄りの姿勢が目立っています。僕は今年の参院選の自民党の公約に関心を持ったんですが、自民党は「解雇規制の緩和」「雇用規制の緩和」にチラっと踏み込んでいた。今度、政権に戻られたときに労働市場の問題に対してどのように取り組もうとお考えでしょうか?
石破:たとえば、「派遣労働という物を認めません」って問題ですが、そういうライフスタイルを選ぶ方もいるわけですよね。で、その「派遣労働を全部認めませんよ」という考え方は、そもそも間違いなのだ、と(思っています)。そういうライフスタイルを選びたい人には、そういう機会があってもいい。
でも、それをいいことに、派遣労働者に対して過酷な労働環境を課すということは、規制されなきゃいかんです。でも、そのことをもってして「派遣労働一切ダメ」って言っちゃったら、そういうライフスタイルを志向する人の雇用が認められなくなります。そうすると何が起こるかというと、非正規労働者の負担がものすごく増えてくるわけですよ。どっちにしてもいいことは全くありませんから、まずそういう政策には反対します。
じゃあ、「政府が雇用を作りましょう」と、介護などの雇用の場を作り出すことは悪いことではない。でも、それが日本経済を成長させる原動力になるかというと、それはない。やはりGDPを増やしていくことによって、いろんな人に雇用の機会を与えることになるわけですよね。
たとえば、人間には「あれは苦手だけど、これは得意」と様々な適性があるわけです。大勢の人達に雇用の場を確保しようとするのであれば、GDPを上げていくのが一番の近道なわけですよ。で、GDPを上げるためにはどうすればいいか?っていう具体的な政策が、今の民主党さんには「国に集まってきた金を分配する」ってことしかない。右にあるお金を左に移してるだけでは、経済は絶対に上がらないんですよ。どうやって経済を成長させるかっていう基本的な考え方が恐ろしく欠落してる。これで雇用が良くなるわけないでしょ?実に当たり前な話だと、私は思いますがね。
「こんなに借金を作ったのは自民党でしょ?」「その通りです」
池田:いわゆる「失われた20年」って言われるように、ずっと日本経済の低迷が続いているわけですが、率直に申し上げて、自民党政権にも責任があると思うんですね。ちょっと心配なのは、今度、自民党が政権に戻られたとしても、ここまで10何年間か長期低迷してきた経済が続いてきたので、それとは違うことを自民党はお考えなのだろうか、と。そこが気になるのですが。
石破:はい。一つは「こんなに借金を作ったのは自民党でしょ?」と、それは「その通りです」。だけども、小渕内閣のときにあらゆる財政出動を行って、何とか景気が失速しないで済んだわけですよね。でも、お金は誰かが使わないと経済は回らない。犬や猫はお金を使わないので、誰が使うことで経済は上昇していくんです。
だけども、個人も企業もお金を使わないのであれば、公(の組織)、つまり「国や自治体が使うしかないでしょ」ってことで、経済の失速を防いできたわけです。それで借金が積み重なっていったんだけど、今度は「老後が不安だ」と、「こんなに借金が積み重なってこの国は大丈夫か?」と。そういう不安が出てきた。実際に財政破綻はいつ起こっても不思議じゃない状況になっている。
そして、「年金が不安だ」と(いう声)。民主党がバタバタ煽りましたからね。「このままだと年金は破綻するぞ!」って。私達は「破綻するわけない」って言ったんだけど、長妻さんの言い方がすごい説得力があったのか、あるいは未納問題が響いたのか、あるいは”消えた年金”が響いたのか。破綻するはずのない年金の破綻をすごい煽って、高齢者の方々がお金を使わなくなっちゃった。医療が不安だ、年金が不安だ、と。消費税を上げることによって、「医療、介護、年金は大丈夫です。だからお金を使ってちょうだいな」という風に持っていかなくてはいけません。
今、個人の金融資産1600兆円のうちの6割は、60歳以上が持っています。2割は我々50代が持っているわけで、20〜40代なんてほとんどお金がないわけですよ。70〜80代はほとんどお金を使わないですよ。こういう世代が安心して、若い人達にお金を移転する仕組みを作ること……そして、団塊の世代が退職していくわけで、企業の給与負担は減っていくわけですよね。そういう部分を若い人達に回していくような税制を作っていかなくてはなりません。
若者にも「いい車に乗りたいな」って思いはあるはずです。
池田:具体的にはどうやるんですか?
石破:ですから、その部分をですね、若い世代に給与として分配する場合に、何か優遇税制なんかを仕組んでいかないと、会社ってのは株主に配当しちゃったり、内部留保するよりも若い人達の所得を増やし、雇用を増やしていかなきゃってことですよね。
だけども、需要が高まっていかないと需給ギャップで解消しないですよね。どうやって需要を増やしていくかといえば、やっぱり若い人達に所得が移転することですよ。
今、「若者が車に乗らない」って言いますけども、できれば「いい車に乗りたいな」って思いはやっぱりあるはずです。それは「ユニクロもいいけども、ブランドの物の服を着たいな」と思っている子もたくさんいるんですよ。吉野屋もすき家も美味しいです。でも、「もうちょっとご馳走を食べたいな」と思っているわけで、みんながどんどん低価格競争することによって、経済がどんどん縮小していくわけですよね。でも、「高くてもいい物を」って社会にしないと、需要は上がっていかないんですよ。そのためには若い人達にお金が行くような政策を税制でも取っていかなければいかんと思います。
池田:今おっしゃった若い世代の所得の問題ってのも、彼らが特に気にしている問題でしてね。年金の問題も、これまでは受け取る側のお年寄りの問題として考えていたんですけども、最近は、私が竹中平蔵さんとお話をしたときも経済学者の方がみんな心配しているのは、将来世代の負担がものすごく大きくなると。例えば、経済財政白書の計算でも、今の60代と今の20代で生涯の需給と負担の差が7000万円くらいあると。これはやっぱり若い世代にとっては、「年金払うの馬鹿馬鹿しくてやってられないな」っていう感じになりつつある。その辺の年金・財政も含めて、若い世代の不公平感ってものすごく大きいんですよ
石破:そこはねー、その年金の設計ってのは、詳細にご存知の方も多いのではないかと思いますが、誰が一番得をしたのかというと、一番最初にもらった人に決まってるんですよね(笑)。自分は一円も払わないで、もらっているわけだからね。そもそも、そういう仕組みになっているのですが、お年寄りが増えて若い人が減るってのは、小学生が考えても分かる話であって、(でも)「このまま行けば年金は破綻する」ってことはありえない。
池田:破綻ではないけども……
石破:自分が払ったよりも余計な物がもらえるってのは、制度設計上きちんと仕組んであるわけですよ。年金ってのは半分が税金から出ているわけですから。自分が払った物をもらうわけじゃないんだからね。世代間を越えて、若い人達がお年寄りを支えるって仕組みだから、お年寄りが増えて若い人達が減ればもらう分も少なくなるよな〜ってのは、それはそうなんですが。そこは民間の金融商品と違うので、だから税金が半分って仕組みを組んであるわけですよ。
だから、「年金は安心です」っていうことをきちんと言うこと。「年金制度は破綻しません。払ったよりも多くの物がもらえます」っていうアナウンスを、もっとちゃんとしなきゃいかんでしょう。でも、世代がそうなっている以上は、お年寄りは損しちゃうね、っていうのは事実なんですが」
池田:でもそれは税金を乗っけた場合の話であって……。税負担を考えると、さっきも申し上げたように経済財政白書でも若い世代はマイナス5000万円という計算をしているわけですね。いわゆる世代間格差で
石破:そうするとね、年金制度設計を全部変えようとすると、それはなかなか難しい。今だって経済成長率を相当低く見積もって計算をしてますし、出生率もそんなに上がらないという前提で計算してますので、年金の仕組みを全部変えることは無理だろうと。
だとすれば、高齢者の方々がどうやって若い世代に資産を移転するかという仕組みを取るかということと、若い世代の雇用をどうやって増やすかということに、もっと政府としては力を入れるべきなんでしょう。集まった金をただ移転するという、今の民主党の経済政策では、若い人達の職場なんか増えやしません。
池田:民主党の所得再分配だけではダメだ、っていうことは、多くの方が同意なさることだと思います。難しいのは、世代間の問題を補正で何とか凌いでいくと考えていくのか、それとも年金制度を今の賦課方式から積立方式に段々変えていくという風な提案も財政学者からあるんですが、自民党としてはそこまでの制度変更は考えていない?
石破:うーん、やっぱり、基本的には今の賦課方式だと思いますね。もう(負担)ゼロの税方式っていうのは、これは無理でしょう。では、積立方式にするかといっても、基本的もどの国も年金の仕組みっていうのは賦課方式という形を取っています。要はそこに、どれだけ税金を投入していくのかっていう制度の安定性だと思いますよ。その財源を所得税とか法人税とか、景気によって2倍も3倍も変動するような物に求めてはダメです。消費税というのはあらゆる世代に公平に頂くものですからね、「消費税を財源として年金制度の安定を図るのだ」ということは、もっと強調すべきだと思いますよね。
とにかく「集団的自衛権を認めなくてはならない」。
池田:あのー、石破さんの得意分野である外交防衛について言うと、皆さんから疑問があるのは、かつて自民党は憲法改正を党是にしていたわけですね。でー、最近はそれほど正面切って言い出さない印象があるんですけど、石破さん個人としてはどのようにお考えになってますか。
石破:自民党の党是は憲法改正です。冒頭の話でも出たように、私が一時期、自民党を離党して新生党に参加したのは、あのときは河野洋平さんが総裁でした。憲法改正を自民党から下げましたからね、「何でこんな党にいなきゃいかんのだ!」っていうので辞めました。単純だって言われるかもしれないけど、新生党が新進党になって一回だけ総選挙をやったことがあります。で、そのときに「公約」ってのが解散当日になって、バーンとファックスで送られてきた。で、そこに書いてあったのは「集団的自衛権、これを認めず」。
池田:ほぉおー。
石破:そこまで延々と新進党の中で、石破・岡田の大激論というのがありましてね。私が「手段的自衛権を行使するのは当然だ!」と言い、岡田さんが「そんな物は認められない」って言って。石破・岡田という理屈っぽい二人がやってるわけで、他の人は唖然としてそれを聞いてるみたいな半年間がありましたが、結局、その議論は集約されることなく、新進党の選挙公約は「集団的自衛権、この行使を認めず」とファックスで来て、私はそれを読んで「誰がこんな党から(選挙)に出るか」と。それで無所属で選挙やったんです」
池田:はははははは。
石破:私の考え方は非常にシンプルで、とにかく「集団的自衛権を認めなくてはならない」。「私が困ったら助けに来てね、あなた方が困っても知らないよ、っていう国が何で信頼されるんだ?」という。非常に簡単に言っちゃうと、そういう話でね。
で、自民党はそのことを正面から言ってこなかった。私は小泉内閣で防衛庁長官を2年務めて、それから福田内閣で防衛大臣になるまで3年空いているんです。で、その間に「集団的自衛権を行使するための法律はこういうものだ」「日米安全保障条約がこう変わるのだ」「自衛隊法はこう変わるのだ」ということを全部書きました。で、自民党内で2年かけて議論して、ペーパーにもまとめた。
でも、自民党は党議決定しなかったんですよね。「そんなことを言っちゃいかん!」っていう人が自民党の主流にいました。で、私は自民党のいけなかったことは2つあって、1つは「財政再建のために消費税を上げるんじゃない」(と言わなかった)ということ。だって、5%上げたくらいで財政再建できるほど生易しい状態じゃないんでね。「まず福祉目的に使います。借金はこれ以上、増やしません。消費税だけじゃなくて税制全体を改正することによって、若い世代に活力を」っていうね。そういう税制をきちんと言ってこなかった。「消費税上げます」と言った途端に殴られるから。もう一つは「集団的自衛権を認める」という憲法解釈の変更、このことを正面から訴えてこなかった。
この二つが一番いけなかったと思ってます。憲法改正というのは、衆議院も参議院も3分の2が賛成しないといけない。そんなこと自民党でも一度もなかったわけですけど……。そして国民投票にかけて2分の1ですよ。まず無理です。その前に解釈改憲でいい、ただ、「解釈を変えますよ」ってだけだと法的安定性がないので、法律をきちんと書くということで、私が政調会長になって今、このことをきちんと党内でコンセンサスをまとめて国民に問いたいと思っております」
池田:集団的自衛権についてですか?
石破:はい。
池田:それは自民党としてそういう物を出されるということですか?
石破:そこは自民党は独裁政党ではないので、参議院選挙のときは消費税10%と言ったほかに、「集団的自衛権を正面に据えた安全保障法を制定します」ということが公約でした。その後でしょ、尖閣の事件が起きて、(ロシアの)メドベージェフ大統領が北方領土を訪れて、あるいは北朝鮮の砲撃事件があったと。鳩山さんが「学べば学ぶほど」と言ったり、菅さんが「ごめんなさい」と言ったり……。私は鳩山さんっていう人を全然認めてないけども、唯一の功績はお茶の間に安全保障を持ち込んだことだと思っているんですよ。
安保外交っていうのは選挙のときに、なかなか受けない。下手すると「あいつ、戦争が好きなんじゃないか」と言われたりするわけですけどね、そのことをきちんと語ろうということで、私は私なりに3年前に石破私案というのをまとめました。自民党のホームページにも載っております。それから、自民党の議員にも大分入れ替わりがあるので、「これでいいですか?」というの問うた上で、党として決められれば、それを掲げて総選挙に望むべきだと思います。
普天間問題、ベターなどという言い方をしてはいかん
池田:今お話に出ていた普天間基地の問題に関しては、石破さんはどのようにお考えですか?
石破:これはねぇ、ベターなどという言い方をしてはいかんので、これは菅さんの失言だと思います。私が言ってきたのは、それは状況が許せば沖縄よりも外に出す、それがベストに決まっていると。だけども、一番ワーストなのは「普天間がそのまま残ること」だと。
だから、その間、何か解決策はないのか。ベターだってことではなくて、何かできることがないかってことなんですよね。「何で沖縄に、何で海兵隊がいるのか」ということは、ほとんどの国民がまだ理解してないんじゃないですか。
沖縄は、朝鮮半島と台湾海峡、どちらにも3時間以内に到達できる位置なんですよ。北朝鮮だけ睨むのであれば、西日本の日本海側という選択肢もあるでしょう。だけど、そうすると台湾がものすごく遠くなる。海兵隊の真骨頂という物は、陸軍や海軍が出るには時間がかかると、まず真っ先に駆けつけて陸軍が出てくるまでの補給基地や陣地、あるいは海軍が活動するための港、空軍が活動するための滑走路、そういう物をまず確保すると。そして、真っ先に駆けつけて、その国にいる自分の国民を救出すると。そのためには、「近い」ってことが命なんです。1〜2時間遅れたことによって、取り返しがつかない事態が起こりうるんで、そこは今考えられる限り、沖縄しかないと。だけど、普天間に置いておく限り、街のど真ん中にヘリがバンバン飛ぶわけ、まして有事になれば何倍も飛んでくるわけです。そうすると当然、事故が起きる。
私が(防衛庁)長官のときにもヘリが落ちましたが、奇跡的に犠牲者はなかった。でも、今度落ちて何十人、何百人が犠牲になったらそこで終わりですよ。まず、比較的安全な所に移すと。ヘリコプターも今は進化して、はるかに高スピードで航続距離が長い物が出てきた。そうなると、「何が何でも沖縄」って事態は変わって、別の所があるかもしれない。あるいは、アメリカの海兵隊のやってることで、本当は日本の自衛隊で肩代わりできるところがあるかもしれない。
だって、菅さんはちょっと言いかけて引っ込めちゃったけど、仮に「朝鮮半島で動乱が起きました。釜山にもソウルにも。たくさん日本人がいます」。誰が助けに行くんですか?自衛隊は行けないですよね。だって安全確保されないと行けないんだから。危険だから逃げてくるわけで。自衛隊が行かないのなら、日本人を助けるのだってアメリカの海兵隊なんです。だったら、日本の自衛隊がせめて、台湾でも香港でも朝鮮半島でも、「世界中にいる日本人が危難に遭遇すれば、日本の自衛隊が助けに行きます」っていうだけで、アメリカの海兵隊の負担は、それだけ減りますよね。その分、日本から「(沖縄ではなく)別のところに行ってください」って初めて言えますよ。
池田:それはさっきの集団的自衛権の話と絡んでくるんですか?
石破:絡みません。自国民救出と集団的自衛権は、何の関係もありません。つまり、「日本の自衛隊にできることはありませんか?」と、「その部分は沖縄から除く」ということがあっていいでしょう。本当に新しいヘリコプターのスピードが上がり、航続距離が伸びたのであれば、「他に場所はありませんか」という議論があるでしょう。
だけど、ヘリコプター部隊だけ移ったってダメで、ヘリコプター部隊と歩兵・砲兵、これが一緒にいなければ意味ないですよね。ヘリだけ飛ぶわけじゃないんだから、ヘリが遠くから迎えに来て、ピックアップしてまた行きますってことじゃなくて、ヘリ部隊と歩兵・砲兵がいつも一緒にいないといかん。それを満たす場所があるかどうかは、まだ分からない……でしょ、だって。実際にリサーチしたわけじゃないんだから、まだ分かりませんよね。そして兵士と比べて有事は何倍もの飛行機が飛んでくる、それを受け入れる場所がどこにあるのか。このことだって真剣に調査しなければ分からない。
そして、海兵隊というのは、常に100%の練度、すなわち訓練が必要とされるんです。だって真っ先に行って、陣地と港を確保するわけだから、それは一番精強な部隊が海兵隊ですよね。そうすると常に常に、練度を保つ訓練場が近くになきゃいかん。そういうのを満たす場所が本当にあるかってことを、日本政府が真剣に探さなきゃダメですよ。
池田:それはあるんですか?
石破:探さなきゃ、ないでしょう。ただ口でだけ「ベターだ」「甘受してくれ」って言われたって、沖縄の人は怒るに決まってるじゃないですか。
「海兵隊を作る」ということもやるべき
池田:今おっしゃったのは、自衛隊の運用を変えることと一体で考えていくということですよね
石破:はい、そうです
池田:それは自衛隊法を改正するとか?
石破:改正なんか必要ないですよ。それはこないだ閣議決定された大綱ですよ。そこに、そんな話はほとんど出てこないでしょ。だから私は、8年前に防衛庁長官になったときに、「何で日本に海兵隊は、いらないんだ」って話をしたことがありますよ。みんな黙っちゃったけど……。それは「アメリカがやるんです」って話で、だから日本は持たなくていいんです。だけど、「嫌なことはアメリカにお任せよ」っていうのが、日本にありゃしませんか。そのツケが沖縄に行ってませんか?アメリカがやってることで、憲法にも触れないで自衛隊ができることはないか。それが沖縄の負担を減らすってことじゃないでしょうか。
池田:それが日米安保体制とか憲法とか大枠を見直さないで運用を変えていく?
石破:運用でできることはあります。
池田:今のお話とも少し関連するんですが、民主党が苦手とする分野が、軍事・外交だと思うんですね。尖閣諸島の一連の問題も含めて、率直に申し上げて、民主党がどういう原則でこういう問題に対応しているのかが全然分からない(苦笑)その場、その場でいろんな話が出てくるって印象があるんですね。その意味では、外交・防衛の分野ではある意味、自民党がやって来られた伝統的な政策の方が一貫してるし分かりやすいですよね。その点では、自民党に政権が戻っても今の自民党の方針の延長上でしょうか?
石破:いえ、それは変えますよ。今までとは変わります。自衛隊のあり方だって根底から変える。そして、インド洋であれイラクであれ、そのときに応じて特別な法律を作って、その事にしか対応できない、期限が来たら退かなきゃいかん、そんなことではダメなんであって。
いざというときに、アメリカが日本のために戦おうとするためには、アメリカが困っているときに手を差し伸べるということがなきゃダメでしょう。自分が困ったときには知らん顔する者を、助ける気になるかって話ですよね。日米安全保障条約って、「アメリカが自動的に日本を助けてくれる」みたいに思っている人がいますけど、アメリカには戦争権限法って法律があって、「軍を出すか出さないか」「それを継続するかしないか」は議会が決めるんですよ。大統領が決めるわけじゃないですからね。
議会って国民の世論を代表するのであって、アメリカの世論がどうなのかで大きく変わってきますよ。何も世界中に自衛隊を出したいわけじゃないが、日本でできないことはいっぱいあるのであって、その時にアメリカが日本を守るためには、日本もやるべきことをやらないといかんでしょ。
だとすれば、自民党は「特措法によらずして、常に議会の承認があれば自衛隊が出せる」という法律を作っておくべきでしょう。あるいは「海兵隊を作る」ということもやるべきでしょう。「海外に日本人を助けに行く」ということもやるべき。今までとは違う、自民党の外交・防衛政策というのは、正面からやっていかないと時代には対応できないと思ってます。
9条改正、表に出てちゃんと議論しましょう
池田:自民党の憲法改正案で一時期取りざたされた中には、「自衛軍」といった表現もあったと思いますが、石破さんはそこまでは考えてない?
石破:いやいや、それ(を作るのは)は当然のことです。
池田:では、将来はそうすべきだと
石破:そうなんですけど、衆参両院で3分の2、国民投票2分の1なんてやってたら何年かかることやら。「それまで待ってる」ってことはできないんです!それで「集団的自衛権の行使なんぞということは、憲法の解釈改憲であればできるのであって、憲法そのものを改正しなくてもいいのだ」と言うと、「何という危険な思想だ!憲法第9条を何と思っているのだ!」と言う人がいますから、じゃあ、表に出てちゃんと議論しましょうってことなんですよ。
池田:自民党の中でも、まだそういう人はいらっしゃるんですか?
石破:まだいましたねー。これは舛添さんと私で、新憲法草案を作るときにすごい論争がありました。憲法9条が第1項、第2項に分かれているのはご存知の通りで、
第1項は「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」。
第2項は「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」
と。自民党の憲法改正の議論の中で「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」ってのはおかしいよねって。「これはやめだ」というのが党内のコンセンサスだったんです。で、私は9条第1項は、「国権の発動たる戦争」「武力の行使」って何が違うのよ、「国際紛争を解決する手段」は何なのよって。誰が聞いても何のことだか全然分からない。
だから、新憲法草案では「日本国民は侵略の手段として武力の行使、武力による威嚇は今後一切行えないことを厳粛に宣言する」。そう書けばいいじゃない。簡単なことでしょって、言ったら舛添さんと大論争になったんです。舛添さんは「今の1項のままでいいんだ!」という説だった。私は先ほどの説だった。私は舛添さんに「あんたはそれでも学者か!」って言って、舛添さんは私に「お前はそれでも政治家か!」って言って、訳の分からない論争があったんです。
だけど、憲法の改正なぞという話をする前に、今申し上げた憲法9条のどこから、集団的自衛権、すなわち、「自分の国にとって重要な国が攻撃されたらば、それを自分の国に対する攻撃とみなして、共にそれを排除する権利」が認められないというのは、論理的にどう出てくるかということを説明した人は誰もいない。
池田:法制局が一貫して、そういう解釈を取っているというだけなんですね?
石破:それは法制局が苦し紛れに作った理屈であって、論理的に正しくないですよ。
池田:でも、伝統的に法制局はそういう解釈なんですよね?
石破:法制局は政治のオーダーでやってるわけだから
池田:一般には法制局が勝手に決めてるような印象があるんですが?
石破:そんなことはありません!法制局はそんなことはしません。それは、まだ日本国憲法ができる前に、これまた有名な吉田茂・野坂参三論争というのがありまして、吉田首相と、共産党議長の野坂参三の間で、野坂参三が国会で質問した。「せめて個別的自衛権を認めなければ独立国家ではない」と、吉田茂はそれに対して「個別的自衛権であれ何であれ、そのような権利を認めること自体が有害だ!」と。どっちがどっちだって話だけど。
池田:はははははは
石破:そんな時代があって、「個別的自衛権すら認められない」って言ってた時代に「いくら何でもそれはひどかろう」と、「個別的自衛権くらい認めねば」っていう時代に移るわけですよ。そのときに便法として、「集団的自衛権は認めないけど、せめて個別的自衛権だけは認めてね」と。
池田:それは政治からの要請だったんですか?
石破:そうです。そうとしか思えない。私は全部の議事録を読みましたから。
池田:一般的には法制局が悪者になってるけど、小沢さんも一時期「法制局が国会に出すなと言ってる」みたいにおっしゃってましたけど、法制局の問題ではないわけですね?
石破:法制局は「何も知らない政治家が思いつきで物を言うな」と。だって、国会議員になって24年目なんですけど、総理大臣は17人目ですよ。24年で17人も政権が変わってるわけですよ。「そのたびに憲法解釈を変えられてたまるか」ってことですよ。「憲法解釈というのは、もっと重い物なのだ」というのが法制局の立場。だけども、ロジカルに導かれた結論かというと、それは違う。もし(この放送を)ご覧の方で興味のある方は、今、絶版になっているけど素晴らしい本があります。もう絶版だけど、アマゾンで求めることができます。私が一番尊敬する先生の一人、佐瀬昌盛先生の『集団的自衛権―論争のために』という本がPHP新書であります。この本に全部書いてあります。
暴力装置発言、それはTPOなんだ。
池田:この話はマニアックな問題になりがちだけど、もうちょっと広く考えることができる問題だと思ってまして、最近問題になった例の(仙谷官房長官の)「暴力装置」発言があったじゃないですか。僕も自分のブログで「自衛隊は暴力装置に決まっているじゃないか。石破さんも、こういう風に書いている」って石破さんを擁護したんだけど、僕は「自衛隊は暴力装置であり、軍隊である」ということを事実としてちゃんと認めないと、まともな防衛論議ってできないと思うんです。
石破:どうしてもネガティブな感じになっちゃうんですな。私も、去年の冬ごろに、(民主党の)岡田さんと私が朝日新聞に呼ばれてシンポジウムに出たときに、「国家の定義の一つに、警察と軍隊という暴力装置を合法的に独占する主体が国家の定義です」と。
池田:普通の定義ですよね(笑)
石破:そうなんですよ。だから、仙谷さんがああ言ったときに、「ああ、この人はちゃんとマックス・ウェーバーを読んでるなぁ」と」
池田:あの人の場合はレーニンかもしれない(笑)
石破:レーニンかもしれないけどね。ただ、あの場合はTPOというのがあるのでね。あの場でああいうべきじゃなかったってことはあるかもしれません。でも、そういう実力集団……その国において誰もかなうことができない実力集団だから、文民統制が必要なんでしょ、と。こういう論理になるわけですよね。いきなりあの場で言うと、それは驚きますよ。それはTPOなんだと思うけどね。
誰も正面から向きあってこなかった「軍隊」
池田:やっぱり、この問題は「憲法改正することが難しい」というのは、おっしゃる通りですけど、僕はある意味でやっぱり、憲法の問題をずーっと避けてきたことが、戦後60年以上も人々の中で外交・防衛については真面目に考えないことが平和主義者で、リベラルな人なんだっていう印象があって、「戦争について考えないことが平和主義だ」っていう勘違いがずーっとある気がします。そういう意味では、あの「暴力装置」議論のときに、もういっぺん、「自衛隊って何なのか」ってことを、きちんと議論すれば良かったんじゃないかと思うんですけどね。
石破:そうだと思いますよ。大体ですね、軍隊ってのは誰がやったってかなわないんだから、その国において最も規律が厳しくなきゃいかんので。いろんな刑罰ってのは、一般の社会よりもはるかに重くないと、怖くてたまらんのですよね。であるがゆえに、その国において与えられる最高の栄誉が与えられないとおかしいですよね。最高の栄誉が与えられ、最も厳しい規律が課せられる。それが軍隊という物でしょう。そのことに、誰も正面から向き合ってこなかった。
池田:だから、僕の印象はですね。占領軍に政治的な意図で作られた「平和憲法」という物に、ずーっと引っ張られてきて、「本来、自分達の国をどういう風に守るのか」って問題を、自民党も野党も避けてきたように思うんです。それが、ああいう非常に変てこな論争に結びついている気がするんです。
この問題が結局、危機管理がおかしいとか、尖閣諸島の情報公開の問題にしても、どういう立場でこの問題を考えるのか……肝心の立場が固まってないもんだから、その場その場で違うことを民主党の方々がおっしゃる。率直に申し上げて、日本国憲法という物をもういっぺんきちっと再検討するというのは、自民党が政権に戻られたらやってみてもいいんじゃないかと思うんですけどね。
石破:これねー。私は今でも、「オタクだ」「マニアだ」「戦争好きだ」「目つきが怖い」とか言われてですね、決して広くあまねくウケているわけではないわけですよ。こういうことを語ると、何となく「石破の仲間みたいに思われちゃたまらん」という人も(党内に)いっぱい居てですね。実際、その日その日の暮らしにはあまり関係ないし。
でも、「これが揺らいだら国家そのものが揺らぐのよ」ってことを国民が関心がないから語らないというのは、政治家のエクスキューズだと思うの。「憲法は分かりにくい」って言われるけど、そこを分かりやすく話すのが、政治家の仕事じゃないですか。難しいことを難しく話すんだったら、学者か官僚がやればいいわけですよ。
私達は「国家の本質とは何なのか」ということを、いかに分かりやすく語り、共感を得るかということのために政治家をやってるんだよ。それができないんだったら、もう(政治家を)辞めた方がいいと、私は思っているんですけどね。
池田:おっしゃるように、この問題は必ずしも選挙に結びつく問題ではないので、政治家の先生方はあまり興味のない問題かもしれないけど、僕の印象で言うと、憲法っていうある種のドサクサに紛れて出来た物が、ずーっと今まで残っていて、非常に無理のある作りになっている憲法に、集団的自衛権を合わせていくというのは、相当無理が来ているというのが、尖閣諸島以降、フラフラしている議論の元にあるような気がするんですよね。で、ある意味で言うと、韓国で起きているような事態を見ると、自分達の生命に関わるような問題なんですから、自民党が政権に戻られたら、正面から議論をして欲しいんです。
石破:っていうより、もう議論、議論って話では遅いんだな。「これをやりたい」「だから自民党に政権を与えてください」と言うべきなんです。私は「民主党がダメだから自民党」という政権選択を国民の皆様にお願いしたくないんですね。「経済を活性化させる。財政破綻を起こさせない。若い人達に職場を与える。そのために税制改正をやらせてくださいな」ということを言う。そして「集団的自衛権を行使しなければ、これからの日本はやっていけない。日米同盟は機能しない。だから自民党に政権を与えてください」と言うべきであって……。言葉尻を捕らえて申し訳ないのだが、「なってからやるんじゃない」と。「これをやるために一票ください」という選挙をやるべきだと思いますけどね……。
自民党は総選挙までに「これをやります」という立場を明らかにする。
池田:これから政界再編があったときに、何を軸にして政策論争していくのかってときに、憲法をどう考えるのかっていうのは一つの軸だと思うんですよ。かつての小沢さんのように「普通の憲法に戻した方がいいんじゃないか」って議論はずーっとあるわけですよね。そういう議論と、今の民主党の一部の方のように「平和憲法を守りましょう」という議論。その辺が政策論争として買わされるんだったらいいんだけど、それは民主党にも自民党の中でも全然なくて……。
経済政策としても「小さな政府」と「再分配志向」の人が混在していると。僕らから見ると、政策論争と政界の境界が一致してなくて、みんな政局絡みのゴタゴタで政権が動いてるという印象が強いんで、その辺は政策の軸がシャッフルされてスッキリ整理されればいいのかなって気はするんです。
石破:そうなんですよね……。確かに意見の違う人は党内にいるわけですよ。ただ、同じ自民党であり、民主党であるからして、さっきの新進党時代の石破・岡田論争みたいに徹底して議論を詰めるってことを、あんまり日本の風土としてしませんよね。政党も一緒なんですよ。でも、政党ってのは国家国民のためにあるものであって、お互いを思いやって、「これ以上、議論を詰めるのをやめておこう」みたいなカルチャーは脱却しないとダメだと思ってるんですね。
だから経済財政政策でも、「まだ国民貯蓄いっぱいあるんだし、日本がギリシャになるわけがないんだから、バンバン国債を出すべきだ」みたいなことを言う人もいますよ。「もっと金融を緩和すれば」って人もいますよ。私はどっちも間違いだと思ってるんだけど、さりとて「財政再建のために消費税を上げましょう」というのもナンセンスだと思っていて、もっとこの議論を詰めましょうということ。それと、「集団的自衛権を認めなければ国はダメになる」という人と、「集団的自衛権を認めたら、いつか来た道でまた戦争だ」という人が、交わらない物がお互いが自分の立場をエンジョイしているわけです。エンジョイって言っちゃいけないかもしれないけどね……。
ここを本当に国民が「そうだな!」って思うフィールドに持っていかないと、それは政治の自己満足でしかないと思ってましてね。政調会長という立場は、自分の立場を押し付けることじゃなくて、そういう議論をきちんと詰める、そういう党。我が党は、どっかの党と違って政策議論をしなかったり、突然えらい人が出てきて、それまでの議論を全部ひっくり返すような党じゃないんで、自民党は総選挙までに「これをやります」という立場を明らかにする。そして、「あっちの意見もこっちの意見も取り入れて、ワケの分からない政策を出すのはもうやめよう」と。
で、どうしても政策で一致できないんであれば、自民党にいる必要はないんだから。新党を作るなり、どっかに行くなりは、自由なんだから。そうしないとまずいんじゃないかな、と思うと、またご批判が来ますがね。でも、新生自民党は、そうあるべきなんじゃないかと思いますよ。
政界再編は国民がやるものであって、政党が自分達の都合でやるものじゃないんですよ。
池田:こないだは(石破さんが)大連立に言及したってこともありましたけども、選挙以外で大連立は邪道なんでしょうけども、逆に選挙で今おっしゃったように政策をそれぞれが出してもう一回、政界がガラガラポンで再編するというのは、選挙民の立場としてはやって欲しいですね。
石破:政界再編は国民がやるものであって、政党が自分達の都合でやるものじゃないんですよ。ましてや、それぞれの議員の生き残りのためにやるものじゃないんですよ。
ただ、解散権は向こうが持っているので、こっちが持っているわけじゃない。政府与党の側がTPPなのか、普天間なのかあるいは財政なのか、「これをやるために連立を組みたい」と、よって「民主党の中をこれでまとめる」と、「民主党のマニフェストの中で、ここが間違っていたので改める。だから自民党と連立を組みたい」というのは向こうの仕事でしょ。これをやるために民主党は一本化し、自民党と組みたいので「国民の皆様、これでよろしいでしょうか」と(選挙に)なるのが筋であって、何をやりたいかワケも分からず、民主党の中で意見もまとまっておらず、ましてや選挙はしたくないっていうのであれば、「もともとそんな話はなし」ってことだと思いますよ。
農協の議論から目を逸らしてはいかん。
池田:あと一つだけ。TPPの話が先ほど出てきたんですが、石破さんは農政族としても知られてらっしゃいますが、TPPと農政の問題についてはどうなんですか?
石破:TPPに入ろうが入るまいが、今の日本の農業を支えている人達は、着実に高齢化しつつあるのであって、このままいったら何年かたつと、日本で農業をやる人は、ほとんどいなくなります。何でその人達に跡継ぎができないか、やる気のある人にお金も土地もまとまるようにできてないからです。やる気のある人にお金も土地も集まる政策を採らない限り、跡継ぎなんてできません。そのために政策は集中すべきです。
だけども、私も農水大臣時代に自民党とものすごい論争をしたけれども、大勢の農業者の方々は農業だけで食べてない人が多いんで、その人達にいいような政策を出してきたんですね。そのことによって、基幹的農業従事者の跡継ぎがいなくなっちゃったんですね。このことが問題で、でも、その方々を無視したら政権そのものが倒れるから、そういう人達には経済政策ではなく社会政策としてお応えしましょうと。それであれば、税金を使ったっていいですよね。「農村を維持する」「中山間地を維持する」。そのための対価として税金は使いましょうと。
だけど、産業政策の農水に税金を投入することは基本的にしない。税金を使おうとするならば、たとえば日本の農産物は世界で一番高品質なので、それを世界のどこに売れるかというマーケティングは国がやったらいいでしょう。それで損した部分の保険みたいな物を国が(面倒を)見たらいいでしょう。だけども、民主党がやってるみたいに、「損したら国が全部お金を払ってあげる」というので、誰が真面目に農業をやりますか。それは農業政策としてのお金の使い方と産業政策としてのお金の使い方を分けて考えなくてはいけないし、農業協同組合という物を今後どうあるべきか?っていう議論から目を逸らしてはいかんと思いますよ。
池田:それと一体になってるTPPとかFTAとか農業の自由化に関してはどうお考えですか?
石破:これは、アメリカだってものすごい輸出補助金をつけているわけですよね。本当に「アメリカの貿易歪曲的な輸出補助金のような物を改めよ」ということが言えるシステムだとするなら……。
あるいは「中国みたいに輸出はバンバンするが、輸入はほとんどしないで国を閉ざしている」そういう国に対して「もっと世界に市場を開け」ということが言えるのであれば、地域政策と産業政策としてのお金の使い方をきちんと分化することによって、TPPに入ることを否定すべきだとは思いません。ただし!アメリカが本当にルールを変えるか変えないか、中国を開かせるか開かせないか、そんな情報もないままで「とにかくTPPに入ろう。(理屈は)後から考えればいいや」みたいな無謀なことはすべきじゃなくて、本当にTPPに入ることによって我が国がどういうメリットを得るのかということを、まずきちんと明らかにすることが先決でしょう。
池田:今度のTPPの騒動で、僕が民主党に一番がっかりしたのは、率直に申し上げて自民党は「多分ダメだろうな」と思ってたんですが、民主党は今までそういうシガラミがないんだから、TPPに参加することを前提に話を進めるのかと思ったら、そこでこんがらがってるでしょ。
逆に思ったのは、自民党がそこを変えられれば、選挙民もみんな自民党を見直すと思うんですよ。自民党の政見を細かくみんな知っているわけじゃない、みんなが思っているのは業界団体とか、そういう既得権を守ることに一生懸命な党が強いわけで。
農業政策でも、今、石破さんがおっしゃったような論理的な政策を出して、ちゃんと国民全体の利益のために、一部の業界には泣いてもらう……なんてことも自民党がお出しになれば、「民主党よりも自民党の方が任せられるね」となると思うんですよ。「既得権を守る政党」というイメージを払拭するのが自民党にとって一番大きいんじゃないでしょうか。
石破:そうですね。ただ、「後は野となれ山となれ、お前達は犠牲になって死んでしまえ」みたいな話にはならないわけで、繊維交渉のときもそうだったですよね。繊維産業に対して、当時の田中通産大臣は十分な補償をして、市場から退出をしてもらったということでしたよね。
じゃあ、「農業が犠牲になれ」とは私は全く思ってないです。日本の農業は未だに生産額は、世界第5位ですからね。日本農業の潜在的な成長力は、ものすごくある。でも、みんな小さな農家に分かれて土地を保有しているわけで、その結果としてコミュニティも維持される。その中心が農業協同組合なのであって、それは存在理由を持っているわけです。
それに対して、どうするんだという対案を出さずにカッコいいことを言うと、返って倒れる。この問題に対する答えをちゃんと出すというのが、今の私がやんなきゃいけないことだと思っております。
池田:そういう意味では、今までの「既得権を守る政党」という自民党のイメージから「政策を実行していく政党」へと変身していくことが、選挙民と自民党にとって大きな選挙対策ではないかと思います。今日はどうも有難うございました。
石破:有難うございました。
出演者プロフィール
石破茂(いしば しげる)
衆議院議員。自由民主党政務調査会長。防衛大臣、農林水産大臣などを歴任。著書に、「日本の戦争と平和」(小川和久氏との共著、ビジネス社)、「国防の論点―日本人が知らない本当の国家危機」(森本敏氏、長島昭久氏との共著、PHP研究所)などがある。
・鳥取 1区衆議院議員 - 石破しげるオフィシャルサイト
・石破茂(いしばしげる)ブログ
池田信夫(いけだ のぶお)
経済学者。上武大学教授、SBI大学院大学客員教授、株式会社アゴラブックス代表取締役。言論プラットフォーム「アゴラ」編集長。著書に、「電波利権」(新潮新書)、「希望を捨てる勇気-停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド)などがある。
・アゴラ|池田信夫 blog
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