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【社説】

裁判員の負担 参加しやすい環境を

2010年12月24日

 難事件の裁判員裁判が増えている。死刑か否か迫られたり、長期間に及ぶ裁判もある。裁判員の負担が心配だが、厳正な裁判には避けられぬことでもある。周囲はもちろん、社会全体で支えたい。

 「本当はどうか考えてしまい、早く寝たくて酒の力を借りた」

 今月二日、大津地裁で開かれた女性殺害事件の判決公判。その後の記者会見で裁判員の男性が重圧の日々を振り返った。

 女性が頭を鈍器のようなもので殴られ、汚泥タンクに落とされた事件。被告は無罪を主張し二十九日間の長期裁判となった。この間に十一日間の公判と、非公開の五日間ほどの評議に参加した。そうでない日も事件が頭をよぎっただろう。求刑は無期懲役、判決は懲役十七年だった。

 裁判員制度が始まって一年半。死刑求刑は五件あり、三件は死刑、一件は無期懲役、一件は無罪判決だった。

 初の死刑判決だった二人殺害事件の横浜地裁の裁判では「何度も涙を流した」と裁判員の男性が述べた。そんな思いを代弁してか、裁判長は被告に控訴を勧めた。

 無罪判決だった鹿児島地裁の老夫婦殺害事件の裁判では、今までで最長の四十日間。通常の五倍ほどの四百五十人を裁判員候補に選び、約九割が辞退をした。裁判員の選任手続きに臨んだのは三十四人だけだった。

 難しい裁判は続くだろうが、裁判員制度は単なる司法改革にとどまらず市民参加型社会、支え合う社会の形の一つである。参加しやすい環境や周囲の理解が必要だ。

 国には臨床心理士による二十四時間の電話相談や無料カウンセリング制度はある。九千人ほどが裁判員を経験し、十月までの電話相談は五十五件、カウンセリングは六件にすぎない。「電話では心を開けない」という指摘もあるし、カウンセリングも五回までに限られる。裁判員を有給休暇扱いにする職場は増え、カウンセリング制度を設ける企業もある。

 「会社で『前向きにやりなさい』と励まされ、一生懸命やれた」「主人が家事をやってくれ、助かった」。大津地裁の裁判員からはこんな声も上がった。職場や家庭の理解は励みにもなる。

 評議内容を口外できない守秘義務制度はぜひ見直したい。情報の一定の共有は制度のためであるし、話せないでは一生の負担になる。二年後の制度見直しに向け、裁判員たちの率直な声に耳を傾けたい。

 

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