コラム
異彩を放つ種目、「中国将棋」って何?=アジア大会
中国・広州で行われている第16回アジア競技大会。全42競技476種目の中で、ひときわ異彩を放っているのが「中国将棋(シャンチー/中国語表記は象棋)」ではないだろうか。日本ではなじみが薄く、一般に行われる将棋とは異なるルールを持つこの「知能スポーツ」が、今回初めてアジア大会の正式種目として行われた。
今回は、独特の雰囲気を持ったシャンチー、チェス、囲碁の会場となる「広州チェス会館(Guangzhou Chess Institute)」に足を運び、試合の様子を取材をしてみた。
■7種類16枚の駒で戦うシャンチー 中国では一般的なゲーム
各国の記者が集まるメーンプレスセンターからバスで約1時間の場所にある、広州チェス会館。そこは体育館というよりも小さな博物館のようだ。シャンチー会場の入り口には、歴代の名選手の写真やクリスタル製の駒などが並べられ、中国伝統の遊戯の歴史を垣間見ることができる。
では、そもそもシャンチーとはどんな種目だろうか?
大まかに言うと、チェスや日本の将棋のように盤を使い、将(もしくは帥)を捕まえれば勝利するゲームで、7種類16枚の丸い駒を使う。
「中国将棋」と訳されるだけあり、シャンチーの中心は中国。国際大会で上位に名を連ねる選手のほとんどが中国人か帰化選手。または中国に隣接するベトナムの選手とのこと。中国では、国民の大半がルールを知っているポピュラーなゲームだ。
■携帯を鳴らしたら罰金!
連日、男女合わせて13試合が一斉に開始されると、大体3時間ほどですべての決着がつく。会場では監視員やギャラリーが動いたときに出るざわざわ音と、試合を取材するカメラマンのシャッター音が響くだけ。入り口の張り紙には、「携帯の音を鳴らしたら2000元(約2万8000円=執筆時点)の罰金」と書かれ、集中力が勝負の鍵となる知能ゲームに騒音は厳禁である。
この静かな会場で日本代表として戦っているのは男女各1人ずつ。男子はプロ棋士の所司和晴選手、女子は池田彩歌選手。池田選手は本格的にシャンチーを初めてまだ1年というが、これが2度目の国際舞台となる。19日で最終日程を終えたが、所司選手が1勝2分4敗の17位、池田選手は7戦全敗の最下位という結果になった。
この結果について日本代表の監督でもある日本シャンチー協会の山田光紀事務局長は「今大会に出場しているほとんどの選手がアジアンマスター、アジアグランドマスターという称号を持つ最精鋭の選手。実力が競っていれば番狂わせもありますが、なかなか厳しいですね」と話した。
■日本の取り組み
試合を終えた池田選手に話を聞くと、「やはりほかの選手は、最低でも5年以上シャンチーをやっているから強い。でも自分では変な負け方をしていないので、勝てない相手ではないと思っている」と、敗戦の中でも手応えをつかんだ様子だった。
実は池田選手は、日本シャンチー協会が行っているトップアスリート育成プログラムの第一号選手。長い歴史を持つ中国に対して、いかに合理的に競技を学び、強くなっていくかを実践している。
「どの時期に、どのように、何を学ぶかを合理的な方法でプログラムして、強くなるシステムを作ること」(山田監督)が、シャンチー後進国である日本が強くなる方法であり、世界における役割だと話す。そして、「日本の組織はまだまだ小さいながらも、アジア大会にはちゃんと男女1人ずつ派遣できた。これは他国から高い評価を受けている」とも。
今はまだ発展途上かもしれない。
それでも、試行錯誤を重ねながら、日本のシャンチーは着実に前進しているところなのだ。
<了>
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