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鉄オタ社長独り言

フラワー長井線「カリスマ?販売員」誕生物語(3)

「公募社長サミットは大盛況」山形鉄道がトップバッターでした(北から順番?)

 10月上旬から、九州、中国、四国、関西と旅行会社を営業してまわっておりました。気がつくともう10月中旬。ごめんなさい。またもや、ブログの更新が滞ってしまいました。

 「前回の続きを早く読みたい。野道君が、かわいそう。野村社長って冷たい人なんですね」と、多くの方々から反響?をいただきました。「はい、書きます。野道君の為にも、私への誤解を解く為にも」・・・それでは、前回の続きを始めます。

 翌日。野道君とは、朝の挨拶(あいさつ)を交わすこと以外、ほとんど会話をしませんでした。彼は「使うな!」と言ったはずのパソコンにかじりつき、1日中、何か考え事をしているようです。「東京に帰ります!」と啖呵を切ったくせに勝手なものです。

 6月11日。私は「公募社長サミット」(全国公募で選ばれたローカル鉄道の社長・副社長が一堂に会し、ローカル鉄道の再生について語り合おうというイベント)に出席する為、前日の準備を兼ねて東京へと旅立ちました。野道君も一緒です。彼を同行させたのは、「どうしても参加したい」と私に懇願して来たからです。しかし、それは「中華料理屋修羅場事件」以前の話。正直、野道君と行動を共にするのは気が重たかったのです(彼もそう思っていたに違いありません)。

 「新幹線つばさ号」にぎこちなく座る二人。会話は全くありません。野道君は「だんまり」を決め込んでいます。かみのやま温泉、赤湯、高畠、米沢を過ぎたころ、「お弁当にお茶・コーヒー、ビールにおつまみはいかがですか〜」と車内販売員がやって来ました。(弁当でも食べて、彼の話でも聞いてやるか〜)と私は、ワゴンを引き留めました。

 「やっぱり『牛肉どまん中弁当』だよね〜」と、野道君にお弁当をすすめます。

 「俺、米沢牛すきやき弁当」

 彼は、別の弁当をオーダーしてしまいます。本当に無愛想な野郎です。

 私はムッとしたのですが、ここは新幹線の車内。紳士的に話しかけることにしました。


 

「野道君はいいヤツです。絶対野道君を見捨てないでください」
野道君はいい仲間にたくさん囲まれて幸せなヤツです

 「ところで、野道君。これからどうしたいの?」

 「・・・・・・」

 「黙っていても分かんないよね〜」

 「・・・・・・」

 新幹線は、穏やかな田園地帯から、険しい山岳地帯を走っています。まさに、車窓は私の「心の鏡」。だんだん私の表情も険しく、イライラしてきました。

 「お前、このまんま東京で降りて千葉の実家にでも戻るか?」。私は、口調を強く話し続けました。

 「・・・・・・」

 「何とか言えよ! いいかげんにしろ!」

 同時に、新幹線の警笛音が山々にこだまします。

 「私・・・私は、もう、お先真っ暗です!」

 2時間ぶりに野道君が口を開きました。列車は、山形県と福島県境のトンネルを通過中。窓に野道君の暗い表情が映し出されています。

 「じゃ、本当にお前を東京に置いてくぞ!」と私。

 せっかく、歩み寄ったが逆効果。新幹線は、郡山、宇都宮と進んでいきます。その後も、無言のまま東京駅に到着。乗車時間が、いつもの10倍くらい長く感じました。

 「じゃぁ、俺、旅行会社まわりしてくるからな。明日の準備、絶対に遅れるなよ! 会場に11時までは来いよな。今後のことは、会議が終わったら話し合おうぜ」

 「わかりました」

 能面のような顔をして、野道君は「丸の内改札口」の方へ消えていきました。

 翌日。講演を依頼されていた私は、緊張感でいっぱい。野道君どころではありません。しかし、会場には、グッズ販売のブースも用意していただいています。「野道君は、きちんと対応できるのか?」。朝から、何度も彼の携帯に連絡を取っているのですが、音信不通。とても心配です。

 会場は、東武伊勢崎線浅草駅から3つ目の東向島駅に隣接する「東武博物館」。速足で山形鉄道のブースに向かいます。1時間前だというのに、人々で通路はごったがえしています。他の鉄道会社ブースは完璧にグッズやパンフレットなどが並べてあり、「のぼり旗」まで立っていて賑(にぎ)やかです。

 (ウチのブースがない! 野道の姿も見えない!)

 と、その時、奥の方から甲高い笑い声が聞こえてきました。そう、野道君の声です。こんなに、明るい彼を見たのは初めてです。そのことがかえって私の怒りに火をつけてしまいました。

 「ばかやろう! 何してんだ! ウチのブースがよその鉄道会社に陣取られちゃってるじゃんかよ!」。私は、汚い言葉を吐き、彼を殴りつけようとしました。

 「社長! 大丈夫です! ほらっ!」

 彼の指の先には確かに見覚えのあるグッズが並んでいます。なぜか、見慣れないスタッフが物売りをしていました。

 「あの方たちは、私の仲間です。今日は、ウチのグッズ販売のお手伝いに来てくれたんです。そうだ、社長をみなさんに紹介しましょう。みなさん、社長に会いたがっていますよ」

 野道君は、手際よく私を仲間に紹介してくれます。いつもと動きが全然違います。

 「野村社長は私の師匠です。運命の人です」

 くすぐったい話が彼の口から次々と出てきます。

 「ほら、僕の名前は『野道大(のみちだい)』ですよね。野村社長の『野』、鉄道の『道』それを『大』きくする。というのが私の使命なんです」

 いつもの野道君とは別人。生き生きしています。自分から積極的に来場者に話しかけています。

 主催者、スタッフの皆様のおかげで「公募社長サミット」は200人余りの方にご参加いただき、立ち見も出るほどの大盛況で終了しました。しかし、我々の本番はこれからです。いかに自社のグッズを買っていただけるのかに懸かっています。

 会場出口からどっと吐き出される人の波。とにかく、売って売って売りまくりました。

 「今回、特別にウチの社長が本にサインしますよ!」

 野道君は、声が嗄(か)れるほど私の書いた本やグッズをPRしています。山形鉄道のブースは黒山の人だかりです。私もサインしまくりました。この間15分。野道君は、滝のような汗を流して一生懸命です。

 「野道さんには、鉄道趣味の世界を教えていただきました。そのお陰で、私は、生きる元気を与えてもらえたんです」

 サインをしていると、鉄道マニアとおぼしき男性が声をかけて来ました。そして、カレンダーや鉛筆、マップセットなど、すべてのグッズを購入して下さいました。

 「野道君の為にも、フラワー長井線を応援しますね!」と、別の男性。

 「野村社長さん、野道さんをよろしく!」。またまた、別の方。

 「社長! 今度はフラワー長井線で『車内公募社長サミット』やりませんか? 野道君がんばっているから・・・」

 今回の「公募社長サミット」、主催者の方が本気で提案してくれています。

 (あいつは、何者なんだ。本当はすごいやつなのかな? いや、それは錯覚だ。いや・・・)

 何だか頭がおかしくなりかけたその時・・・。

 「社長! 社長! すごいです! なんと、本日の売り上げ10万円突破です」

 野道君の目がキラキラ輝いています。たったの15分で10万円。今回は、ほとんど野道君のお手柄です。

 「お前! いい気になるなよ。いつもこうじゃねぇだろ。いいか? 感謝の気持ちを忘れるなよ!」

 私は、素直に野道君を誉(ほ)めず、「調子にのってはいかん」とばかりに彼を諭しました。

 「社長さん。ちょっといいですか?」

 山形鉄道のブースのお手伝いをして頂いた女性が手招きしています。

 「野道さんの事なんですけど・・・彼、本当は一生懸命で、まじめで、純粋で、思いやりがあって・・・それから・・・・とにかく社長さん! 彼を見捨てないでください・・・」

 彼女の目が潤んでいます。

 「そうなんですよ。野道君は、山形鉄道に行くって決まった時、泣いて喜んでいたんです。野村社長と働けるって・・・、大好きな鉄道の為だったら何でもやります。とね」

 いつの間に居たのか、彼女の旦那だというその男性が会話に交ざっていました。

 「駄目サラリーマン野道君」。10年前の自分とそっくりです。

 「ダメな人間なんて本当はいない。だれでも、自分独自の持ち味や経験で光り輝くことができる!」

 青臭い話ですが、最近の私は本気でそう思っていました。

 しかし、野道君は私の考えを覆すほどの手ごわい人物。光るどころか、どんどん燻(くすぶ)ってしまっていました。土下座してまで山形鉄道の入社を懇願した彼。私は判断を誤ってしまったと思い込んでいました(この時までは・・・)。

 「こんなに、彼のことを慕ってくれる仲間がいるとは・・・。15分で10万円を売り上げる彼は、ひよっとして大物になるかもしれない・・・。よし! 山形に戻ったら、もう一度、あいつを鍛え直してやるか!」と私は思い直しました。

 ブースの方を振り返ると、粘ってグッズを販売している野道君の後ろ姿がちらっと見えました。(※次回は、「フラワー長井線『カリスマ?販売員』誕生物語シリーズの最終回」を書き込む予定です。野道君の運命やいかに・・・。乞うご期待!)

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山形鉄道株式会社社長 野村浩志
 1968年2月、埼玉県生まれ。駒沢大学文学部地理学科卒。元来の「鉄道オタク」。鉄道風景画の「移動美術館」をフラワー長井線の長井駅前で開く。街の活性化の手伝いをしているうちに、その鉄道会社の公募社長に選ばれた。 山形鉄道のURLは、http://www.flower-liner.jp/
 
2010年10月19日  読売新聞)

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